偽りオメガの虚構世界

黄金 

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69 そっくりな親子

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 それぞれが研究所施設を満喫し、皓月の計らいで食堂やカフェテリア、休憩所や隣接する息抜きの為の遊戯施設を楽しんだ生徒達は、将来の職場がこんな場所だったらと夢想した。
 成績上位者ならば一流大学に入り、優秀な成績を修めれば可能性はあるだろうが、ウチの高校からは普通無理だと皆涙を流した。

 帰り際の集合場所で、麻津史人が一緒に連れ立ってやってきた人物に、生徒達は騒ついていた。

 雲井皓月の登場に、一瞬騒ついたものの皆静かになる。その空間を掌握する存在感に、誰もがのまれてしまった。
 代表で挨拶をする先生も生徒会長である倉田陽臣も霞んで見える。
 バスに乗り込む前に時間があるのでと、識月と仁彩が皓月の下へ集まった。
 史人はついでの様について来た識と別れ難く話し込んでいる。

「識月はたまに来ているから面白みもないだろうが、仁彩は楽しかったか?」

「うん!伯父さんこんな大きな研究所持ってたんだねぇ!」

 ニコニコ笑いながら仁彩は凄かった、楽しかったと話し出す。
 こんな研究所はいくつもあるし、他にも楽しめる施設はあるのだが、甥を溺愛する皓月は笑って仁彩の話を聞いていた。
 仁彩の話から今日の識月との進展具合も分かるのだが、どうやら少し進展があったのだろうかと皓月は気付いた。
 チラリと識月を見ると、意図を察した識月がフイと顔を逸らす。

「仁彩は折角だから識と話して来なさい。」

 識月に確認すべく、仁彩を識の方へ送った。
 識月はやや嫌そうな顔をしたが、仕事の話も、浅木楓との契約内容についても情報を一致させる必要性がある。
 何も言わずとも渋々識月は皓月と話す為に寄って来た。そもそも最初フリフィアの後継問題について話をして来たのは識月なのだ。
 少し生徒達から離れつつ、識に視線を送ると意図を察した識が、周囲にあるフィブシステムに遮音を設置した。楓が八尋を使って盗み聞きしない様にだ。





「識月君は少し皓月さんと話があるから、私と話そうか。修学旅行は楽しい?」

 識が過去に行った修学旅行とは、かなり違う様な気がするのだが、生徒達は楽しんでいる。仁彩はどうだろうかと尋ねた。

「うん、楽しいよ!お父さんも来てたなら一緒に回りたかったなぁ。」

 仁彩の発言に周囲にいた生徒達がまた騒めく。
 お父さん?あの若々しい美人アルファはお父さん??
 識は見た目こそアルファと分かる容姿だが、おっとりとした顔つきと元々の造りが綺麗な為、男らしさより優美さが際立っている。

「仁彩っ。識さんもこんにちは。来てたんですね。」

 騒ぎを聞きつけ鳳蝶もやってきた。後ろから光風もついて来ている。

「こんにちは。うん、用があって来てたんだよ。あ、そーいえば鳳蝶君は既に番になってるんだった。」

 鳳蝶君にも聞いてみようかなぁ~、でも友達のお父さんにいきなり聞かれても迷惑かなぁと、流石に識も躊躇った。
 恥ずかしさもある。
 その様子に鳳蝶は何かオメガの自分達に聞きたい事があるのかと察した。
 光風の袖をちょいちょいと引っ張り、識の側に立つ史人を連れて行くよう頼む。
 光風は軽くいーよーと言って史人の首に腕を回すとズルズルと引っ張って行った。
 
「え!?ちょっ……、光風!?なんで!」

「まーまーまー、親子の会話を邪魔しちゃダメでしょ~?」

 近寄らず周りを囲んでいた女子の中に放り込まれ、光風と共に史人は生徒達に囲まれてしまった。

「なんか史人に聞かれたくなさそうだったから離しましたよ。」

 鳳蝶の機転の良さに感心する。

「お父さん何か話があったの?」

 仁彩は相変わらず鈍いが、そこがうちの子の良いところだよなと頭をヨシヨシした。

「うーん、実は聞いてみたい事があったんだけど、仁彩はまだみたいだし、鳳蝶君なら経験済みだろうし………。」

「………え、ちょっと待って下さい。識さん、あっちの隅で話しましょう。」

 鳳蝶は何かを察して識と仁彩を壁際に引っ張って行く。
 オメガ、番、経験ときて、何について聞くのか理解したからだ。

「なに?どうしたの?聞かれたらダメな事?お父さん何が聞きたいの?」

「それがねー、史君が、」

「し、識さんその話しあんまり人に聞かれたらダメじゃないですか!?」

 慌てて鳳蝶は止めに入る。この人は仁彩の父親なのだ。絶対おかしな事を言い出すと、鳳蝶の危機管理能力が訴えた。

「あ、そうだね!距離あるから声は聞こえないけど盗聴とかは困るもんね。」

 盗聴、映像記録関連のシステムを全て遮断する。
 そして皓月に最近悩み事相談をした内容を、仁彩と鳳蝶に聞いてみた。
 仁彩はへーと言う感じで聞いていたが、鳳蝶はポカンと口を開けている。
 帰って来た返答はそれぞれ。

「僕は、そのぉ~まだなんだけど、識月君がきっと痛くないようにしてくれるって思ってる!だから史人君がしてくれるよ!」

 という仁彩の花が咲いたような他力本願な返答。

「え………、史人と…?いや、人それぞれだし性別にこだわる事じゃねーよな。え?でも、オメガと違って濡れないし……。いや、そこは道具で?」

 真剣に悩み出す鳳蝶の返答に別れた。
 鳳蝶は識が番いを作るつもりなのかと思ったのだが、予想外の相談に目を白黒させる。
 とりあえず二人の共通している事は、史人との交際に違和感を持っていない事だった。
 アルファの男同士、しかも年齢もかなり離れているのに、そこには疑問が浮かばないらしい。
 仁彩に至っては実の父親の性事情なのに、抵抗感もない。
 ウチの子はなんて優しいんだと、識はニコニコと仁彩の頭を撫で続けた。
 その様子に鳳蝶はやっぱりこの二人親子だなと実感する。
 
「仁彩が言うように史人に任せて良いんじゃないですか?」

 多分識さんは仁彩と一緒でそっち方面に疎い。そして史人に任せた方が抜かりなくやる。
 こんな内容をこんな所で聞いてくる父親に、それに抵抗感もなく他力本願でいいと言い切る息子。
 もう正解は息子の意見で良いのではと鳳蝶は思った。

「そう……。そうかな?鳳蝶君はしっかりしてるねぇ。」

 明確な答えをもらって識は喜んでいる。
 ほぼ投げやりな解答をした事に、若干罪悪感を覚えたが、ここで答えを与えておかないと、次に誰に何を相談し出すか分からない。
 これで良いはずだと鳳蝶は頷いた。


「ゼィ……ハァ………!漸く抜け出せた!」

「いや~~~凄かったねぇ~。」

 人混みに揉みくちゃにされた史人と光風が逃げて来た。

「何で離したんだ?何話してた?」

 史人が鳳蝶に詰め寄る。
 光風がそれ以上近寄るなと鳳蝶を抱き込んだ。

「別に大した事じゃねーよ。無事解決。感謝しろよ?」

「……なにを?」

 史人は怪訝な顔をしている。

「識さんは仁彩の親!そこんとこ理解して攻めてけよ。」

 友達の親だから遠慮しろと言う意味ではなく、仁彩と同じ思考回路を持っているのだから、ちょっとは考えろと鳳蝶は注意する。
 史人も三人が何を話したかまでは分からないが、何となく識が鳳蝶を困らせたのは理解した。

「……………了解。」

 鳳蝶に若干怒られる史人の様子に、識と仁彩が同じ表情でぽややんとしながら、わぁ~珍しい光景だぁと笑っているのを見て、光風が吹き出していた。

 史人はにっこりと笑う。

「識さん、帰ったらちょっとお話ししましょうね。」

「え?お、怒ってる?なんで?」

 狼狽える識の手を史人は優しく取る。
 優しい笑顔に、識はホッとする。一瞬怒ったのかと思ったのだが、識には何かしたつもりはない。
 鳳蝶はニコニコ笑う史人を見て、識さんには史人が、仁彩には識月が教育係に必要なんだと言い聞かせる。決して、けっして手に余るから放り出したわけではない。

「鳳蝶がそんな心配しなくても大丈夫だよ~。」

 ずっとへばりついていた光風が鳳蝶に抱きついたままそう言う。
 あ、オレには既に光風という重たいのが乗っかってたんだと思い直し、これで良いんだと思い直した。





 何やかやと次の日は文化遺産を見て終わった修学旅行。
 果たして修学旅行と言うには何かおかしいが、生徒達は概ね満足していた。

 ピピッという電子音とガチャンというドアの閉まる音に、識はノソノソとソファから立ち上がった。
 トストスの玄関に歩いて行くと、史人が荷物を持って帰って来ていた。帰って早々汚れ物を片付けている。
 相変わらず几帳面だなと思いながら近寄った。

「おかえり。」

「識さん、ただいま戻りました。」

 本来史人の家は母が住むアパートなのだが、史人はほぼ識のマンションに転がり込んでいた。
 
 既に十九時を過ぎ、外は真っ暗だ。

「寒かった?何かとろうか?」

「いえ、簡単に作るので待ってて下さい。」

 識は家事が壊滅的に出来ない。史人がいない間はずっとテイクアウトしていた筈だ。
 冷蔵庫の在庫を確認して、白米を炊飯器にセットしサラダとスープを作る。味の付いた肉を冷凍していたので、解凍して焼いた。

「凄いねぇ~。」

 トントントンと並ぶご飯とオカズに、二十時前には食事にありつけた。少し遅いので量は少なめだ。

「いない間は大丈夫でしたか?」

 つい前日も研究所で会ったばかりなのに、識を心配する史人に笑いが漏れる。

「大丈夫だよ。適当に食べてたし、前もそうしてたんだからね?掃除とかは無理だったけど……。」

 サクサクと食べ終わり、食後のコーヒーを淹れてくれる史人にそう返事をする。
 片付けから洗い物まで、史人は殆ど一人でやってしまう。
 いない間の溜まった洗濯物も、何度かに分けてやるつもりだろう。
 何をすべきかは分かるのだが、識はどうにも思った通りに家事が出来ない。

「無理しなくて良いですよ。洗濯物も識さんは着替えないで着っぱなしだから少ないし、殆どゴロゴロしてるから部屋も汚れません。」

 それはそれでダメ人間なのだが、史人は識のやりたいようにやらせるようにしている。
 仮想空間で生きていた時間が長いのなら、現実に疎く思った通りに身体が動かないのも仕方ない事だと思っていた。
 識はやろうと思えばフィブシステムの一日三時間という制限を無視して、仮想空間に入る事が出来る。
 寧ろ史人が無理矢理約束させた、一日三時間を守ってくれていればそれで良かった。

「お風呂入りました?」

「ん?そーいえば入ってない。」

 昨日帰って来てからゴロゴロしっぱなしで忘れていた。
 ガシッと腕を取られてハッとする。

「食べたばかりですが行きましょうか。」

「…………え?」

 今日も識は史人に引きずられて行った。











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