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52 鳳蝶の中へ
しおりを挟む光風の父親はアルファだ。母はオメガ。
父には五人の番がいる。母はそのうちの一人だ。
優秀な血を残す為と代々当主は複数のオメガを番にしてきた。
正妻は一人。残りは愛人、妾と色々言われる。
光風の母も例に漏れず女オメガの妾扱い。
ただ唯一産んだのが男性アルファの光風だった。
これでオメガやベータしか産めなかったら肩身は狭く、一昔前なら番解消も平気でしていた。
「光風、お前がこのまま雲井家と懇意ならばお前が当主だ。」
父親は平然とそう言っている。
識月と会うまでは、反抗的だった光風の立場なんて風前の灯だった。
花を生ける為には青海家にいるしか無い。
しかしこんな腐った家にも居たくない。
当主になったら何人のオメガに引き合わされるのか。醜いお家騒動などごめんだ。
光風の悩みを識月は知っている。
もし当主になるなら光風が家の風習を変えればいいと、後押しは惜しまないと言ってくれた。
光風は識月の事は好きだ。
アルファ同士だと何かと対抗しがちなのに、圧倒的に強いばかりか此方を労る事も出来る。
今迄光風に噛み付いてきたアルファは捩じ伏せてきたが、識月に逆らおうという気持ちは全く湧かなかった。
噛み付いてきたアルファは気に入れば組み敷いてもみた。その憎悪を花に例えてもみた。それはそれで良い作品が出来た。
浅木楓はそれを見て爆笑していた。良い趣味してると仲間意識を持たれてしまった。
流石仲間意識を持つだけあって、好みの人間が同じになるとは思わなかった。
「鳳蝶を傷付ける為に存在するなら消すよ?」
平然とそう言われた。
光風は側に置くのは一人と決めている。
絶対に飽きない人。
ずっと生涯愛でていたいと思える人を探している。
いつか会うのか、それとも一生会えないのか。
それはきっと運だ。
会えたら絶対に手に入れないと………。
誰にも取られないように、ずっと捕まえないと。
美しい花を、握り潰してはいけない。
そっと飾って水を与えて生かさないと。
「鳳蝶は『生きている花』だったから、取り戻したいんだぁ。」
「………………………はぁ?本気?」
何言ってるんだと楓は冷笑した。
「うん、だから方法教えて?」
「…………はぁ、鳳蝶ほんと変なのに好かれるな。高くつくからね。」
「うん、よろしく~。」
いつもの様に軽い言葉遣いなのに、目がおかしい。それに気付いたが、楓はフリフィアの統括を担っている。
コイツは客だ。
光風という人間は知ってか知らずかあらゆる人間と繋がりを持っている。
本人は花を生けているだけのつもりだが、それに魅了された人々が、光に引き寄せられた虫の様に群がっている。
光に集まる虫達は、光風の側で何かを得られると思っている。そう、思わせられる。
この人間をフリフィアの手の内に入れておくに越した事はない。
楓と光風の話が終わったところで、パァンと引き戸が勢いよく開いた。
「青海君!鳳蝶を泣かしたらダメなんだからね!」
部屋に入ってきたのは仁彩だ。
キュッと猫目を吊り上げて光風に詰め寄った。
「あ、こらっ!」
困った顔で識月も入ってくる。
此処は浅木家。以前仁彩達が遊びに来た楓の家だ。
「やっぱり識月達だった~。誰かいるなぁって思ったんだ~。」
楓がもうっと言いながら立ち上がる。
「ダメだよ、話が済むまで待っててって言ったでしょ?」
「済んだもんっ。」
仁彩達も楓のフリフィアの力を借りに来ていた。
鳳蝶は今、病院用の仮想空間にいる。
もう体調も落ち着いたのに、鳳蝶は起きない。
病院の診断では本人が起きるのを拒否しているのだという。
『起こしてあげたいって思うのは理解出来るけど、無理矢理やると壊れるんだよ。』
最初は同じ病院に入院する父である識に頼みに行った。だがそれは危ない行為なのだと教えられた。
識は最近筋トレと言語聴覚士による声帯訓練で話せる様になってきた。
その時に皓月伯父さんとの過去の話も聞き、雫父さんが記憶がおかしい事も説明を受けた。
識お父さんの事を話さないのは辛い記憶でもあるのかと思い尋ねなかったのだが、単純に記憶が消えちゃってたんだぁ~と呑気に納得した仁彩に、お父さんは驚いていた。
大丈夫なのかな?この子、とはっきり言われてしまったが、仁彩にとってはその反応は毎度の事なので、もういいと思っている。
何でか識月君にごめんね?よろしくね?と頭を下げて頼んでいた。
過去に皓月伯父さんも、お父さん達を何度も迎えに入ってきたらしいけど、それは精神力の強いアルファの伯父さんだから出来た事で、もし鳳蝶が来るのを拒んだ時、入った人間はいきなり弾かれたりするので精神に傷がついて危ないのだという。
『鳳蝶君の中に連れて行くのは簡単だし、なんなら無理矢理引き摺り出す事も出来るけど、鳳蝶君の事を思うなら出てくる気になるのを待つか、アイツみたいに何度も説得を試みるかになるよ。』
ごめんねと謝られた。
鳳蝶が現実に戻るのを拒否している状況では、僕も入らない方がいいとも言われてしまった。
そのやり取りの後、識月君がフリフィアに行こうと言ったので此処に来た。
多分青海君か生徒会長が楓君の所に行く可能性が高いと言うのだ。アルファ性のあの二人なら入っても多少は大丈夫だろうと言うけど、生徒会長と青海君ならどうなってもいいと言うことなのかと、ちょっと疑問が湧いた。
で、本当に二人共来ていた。
「元凶はお前だろうが。お前が迎えに行っても説得出来ないだろう?」
識月君の後ろから生徒会長も出てくる。
光風は生徒会長を嘲笑った。
「俺だから行くんでしょ~。馬鹿だなぁ~生徒会長のくせに。」
「何だと!?」
「まぁまぁまぁまぁ、鳳蝶の仮想空間に入るのは簡単だから、あとは生き残った方が勝ちってだけだよ。鳳蝶が迎え入れた方が奥へ進めるんだから。」
喧嘩になりそうな二人を楓が止めた。
どうする?直ぐに行く?という質問に、二人共直ぐに入ると即答する。
「身体の安全は僕が保証するから安心してね。」
既に仁彩達が出てきた部屋にはベットが二つ用意されていた。
二人に寝るよう促し、楓は二つのベットの間に立つ。
「八尋。」
呼ばれて出てきたのは人形のように美しい男性のホログラム。
「二人を指定の場所に案内して。危なくなったら即退避。」
主人の命令に八尋は恭しく首を垂れる。
錠剤を渡され二人は迷わず飲み込んだ。
暫くするとうつらうつらと眠りに落ちる。
「………鳳蝶………。」
大切な友人の名を呟く仁彩を慰めるように、識月が大丈夫だと手を握った。
眠る二人のアルファへ、楓は嫣然と微笑み言い放つ。
「もし、これ以上鳳蝶を傷付けた時は、君達起きれないからね………。」
太陽が昇り陽が入り出すと眩しいからと、史人はカーテンを半分だけ閉めた。
学校が休みの日はほぼ一日中識の元へやってきては、あれこれと世話を焼いて日々を過ごしている。
先程までストレッチを強制的にやらされていた識は、グッタリとベットに寝転がっていた。
今日は少し暖かい。陽が出ている所為だろうが、汗が出て髪がじっとりとしてきて気持ち悪い。
だかそれは言わない事にしている。
酷い目に遭う。
「あ、入った。」
突然呟いた識に、史人は怪訝な顔をした。
「何が入ったんですか?」
「あの子だよ。仁彩の友達の精神に誰か入った。ふーん、アルファの子達だ。二人。態々入って迎えに行こうって子達いるなら、そんな現実を拒否しなくてもいいんじゃないかな?」
識は現状を史人に説明した。識は意外とお喋りだ。内向的で人見知りなくせに、一度仲良くなると喋るのが好きなのだ。そんなところは仁彩と親子なのだなと感じる。
「そんな簡単な話ではないでしょう。アルファという事は光風と陽臣かな?どっちも癖がある性格してますから。」
「陽臣君も?履歴では品行方正って感じがするけど。」
「………何を検索してるんですか?まぁ、確かに生徒会長としての仕事は優秀です。ただ小学校の時から鳳蝶を起いかけている様な奴です。」
史人は陽臣から鳳蝶の話しを聞いていた。
態々高校受験を鳳蝶の進路を調べて合わせたのも聞いている。少しでも印象を良くする為に生徒会長もやっている。
そんなおかしなところで努力するから、ポッと出の光風に奪われそうになるのだ。
光風はアルファとしても実績としても群を抜いている。一高校の生徒会長くらいでは追い越せるものではない。
故意か無意識か分からないが、人心掌握に長けている。
鳳蝶も強い性格でちょっとやそっとじゃブレる性格でもないが、あんなのに目をつけられれば折れるのも時間の問題だと史人は思っていた。
「ふうーーん。ま、入ったのが仁彩じゃないなら別にいいけど。」
「やっぱり入るのは危険なんですか?」
識は仁彩に頼まれれば何でも聞いてやるのかと思っていたのに、今回のお願いは断ってしまった。
「入る精神世界によるかな?鳳蝶君のはお勧めしないかな?寒すぎる。猛吹雪だよ?本人は自分が作った世界だから全感覚遮断で平気だけど、他人には全感覚が普通にあるんだからねぇ。」
猛吹雪……。
何があったらそうなるのか。
病院が患者に与える仮想空間は、本人だけが好きに出来る、心を休める為の世界になるらしい。
その人独自の感覚で作られているので、平和な花畑もあれば、海の中、空の上なんかもあり、様々な様相になる。
「なるほど、吹雪は寒そうですね。」
「ね?精神だけとはいえ凍傷になったら本体も引き摺られて凍傷になる場合があるんだよ。」
それを過去、皓月に対して識も行っていただけに、仁彩に入って欲しくなかった。
精神世界で心臓が止まれば、本体も止まる可能性があるのだ。
「そうですね、ま、あの二人なら大丈夫でしょう。」
ゴソゴソと何やら用意しながら史人は話しを聞いている。
「……………………何してるの?」
手にはタオルと替の下着。
「今日は暖かいので汗かいたでしょ?」
識の病院は一等室。
トイレ風呂完備の警備万全な広い個室になっている。介護用の風呂は広い。
識はプルプルと首を振った。まだ上手く足が動かないので風呂もトイレも介助が必要なのだ。
「…………やだ。」
「何言ってるんですか。この前入ったの三日前ですよ。ほら、色々とやってあげますから。」
史人の色々は本当に色々で識は嫌だった。
これでも一応アルファなのだ。男なのだ。大人なのだ。
識より史人の方が背も高く体格もいい。若いので体力もある。がっしりと抱き上げて風呂場に連行された。
「え、いや、いいです。腕はだいぶ動くから椅子に座らせてくれれば一人でやります。」
はるか年下に敬語で下手に出ても動きは止まらない。
「俺がやった方が早いです。」
するりといらぬところを撫でられビクリと震える。今そこを触る必要無いよな?
「え?や、待って、待とう?君アルファだよね?こんなおじさんに毎度毎度何してんの?」
服を剥がされ介護用の椅子に座らせるかと思いきや、史人の膝に乗せられ識は慌てる。
「この前も気持ちよさそうにしてたじゃ無いですか。全身洗う前にスッキリしましょうね~。」
コスコスと扱かれ勃ち上がり出す自分のちんこを見て、ひえええと識は謎の悲鳴を上げる。
これをされると気持ちがいいのは確かだ。
でも何でか後ろの穴に指を入れられるのだ。しかも最近はそれも気持ちよかったりする。
「………ふぇ、はっ…………ちょ、ぁ、ん…………!」
寒いですねと言って暖かいシャワーを流しながら、コスコスクチュクチュと弄られ、識の意識は快感に持っていかれる。
おかしい、これが常識!?
そんなはずない、とは思いつつも毎度この高校生に流されている。
「指そろそろ増やしますかね。」
楽しそうな史人の声が後ろから聞こえるが、限界を迎えた識には届かなかった。
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