偽りオメガの虚構世界

黄金 

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47 生徒会長

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 夜は九時からゲーム、十二時にログアウトして、次の日は学校。光風はゲームの中では仲良い。学校では割と塩。
 オレに対する対応おかしくないか?

「光風ってちょっと頭の中歪んでるから。」

「青海君は鳳蝶のこと分かってない!」
 
 今日は識月が仕事で午前中休みと言うので、一緒に朝からオメガ男子会をしている。
 オレがオメガというのはあまり知られていない。
 識月と付き合いだした仁彩はオメガと認識され、楓は元々オメガと知られている。
 だけど一緒にいるからといって、友達がオメガとは限らない。デブのベータだから識月も許してるんだろうくらいの扱いだ。
 まぁ、オメガと思われて、小学生時代のようにアルファ共に絡まれるのも嫌なので、これでいいと思っている。
 この学校の生徒でオレの事をオメガと知っているのは、仁彩、識月、史人、楓、そして生徒会長くらいだ。光風は……、言ったっけ?ま、知らないなら知らなくていいと思う。
 担任が入って来てオメガ男子会は終了する。

「お、鳳蝶、修学旅行班分け表は生徒会長に提出しとけよ。すまんが今日は学校システムの保守点検なんだ。個人で直接やっといてくれ。」

 担任に言われてそうだったと思い出す。
 本来は学校のサーバーを通して送れるが、保守点検日はサーバーが停止する。授業自体はフィブシステムで受けれるが、学校のアドレスが使えないので個人でフィブシステムのアドレスで送るか、アドレス無しで送る為に近くでデータ送信するかになる。生徒会長の個人アドレスなんて知らない。
 オレのフィブシステムのアドレスも教えたく無いので、直接生徒会長の所へ行って送るしか無かった。
 正直生徒会長には会いたくないのに…。
 
「へーい。」

 イヤイヤながら返事すると、楓が不思議そうな顔をした。

「鳳蝶にしては嫌そうだね。」

 基本オレは何でもさっさとやる派なのを知っているから、行きたそうにしていないのが不思議なのだろう。

「あー、生徒会長に会いたくないと言うか…。」

「ふぅん?一緒にいってやろうか?」

 楓が気を利かせて提案してくれた。これには喜んでお願いした。一人でアイツに会いたくないのだ。
 楓はいいよ~と笑顔で請け負う。その顔は何か面白そう~という野次馬根性がありありと見えた。






 

 昼休みにやって来た識月に仁彩を引き渡し、オレと楓でお弁当をさっさと食べて生徒会長のいる教室に向かった。
 生徒会長は史人と同じ教室になる。

「生徒会長の事知ってるの?」

 待ってましたとばかりに楓が尋ねてきた。気になっていたのだろう。

「ああ、うん。小学生の時一緒だった。」

「そうなの?生徒会長って他県の出身だよね?」

「うん、オレが元々向こうの出身で、五年の時にこっちに引っ越してきたんだ。」

「そうなんだ。生徒会長は中学校は向こうで高校受験でこっちに来たもんね。」

 詳しいな。
 そうこう話しながら歩くうちに直ぐに目的の教室に辿り着く。
 楓が呼び出してくれた。
 
「たのもぉ~、生徒会長~!陽臣生徒会長~!」

 でっかい声で遠慮なく他クラスで叫んだ。
 ほんと楓の心臓強いな。
 何人かと話してたらしい生徒会長がこちらを向く。オレを見咎めて目を見開いた。
 小学生の時、執念く構ってきてイジメの原因を作った元凶だ。
 入学式の時話しかけられて驚いた。 
 それからずっと視界に入らないよう避けていたのに、面倒な修学旅行委員会の所為で顔を合わせる羽目になった。
 倉田陽臣、それがこの学校の生徒会長だ。
 



「鳳蝶、なに?」

 いや、でっかい声で呼んだのは楓だけど?とは思ったが、その楓は面白そうに目をキラキラさせてオレ達を見ていた。
 絶対面白がっている。

「これ。修学旅行班。」

 会話はなるべく簡潔に。スクリーンを出して待ち構えてると、察したのか陽臣もスクリーンを広げた。ピピッと送信する。

「そうか。ありがとう。鳳蝶達は自由日は何するか決めたのか?」

 最終日は1日自由時間になっている。好きに観光していいのだが、最近のゴタゴタで何も決まっていない。
 オレは決まってない事をいい事に、正直に首を振った。
 微妙に楓を陽臣との間に置いて防波堤にする。

「え?強気鳳蝶が微妙に弱気鳳蝶になってる!?」

 なんだその強気とか弱気とか。変な言い方すんな。
 後、陽臣も楓飛ばしてオレだけに話し掛けるな。

「じゃ、渡したからな。」

 オレは楓を引っ張ってその場を去った。
 引っ張られて歩く楓は面白そうに話し掛けてくる。

「くくくく、やばい、生徒会長まだ見てる。」

 お前、笑い方が悪人だから。

「見んな。話し掛ける隙を与えたらめんどくせー。」

 廊下の角を曲がったので楓の手を離す。

「鳳蝶って基本普通の奴にはベータって思われがちなのに、ヤバいのには執着されるタイプだねっ。」

 だねって超ご機嫌に嫌な事言うな!

「だいたい執着されてねーよ。」

「さてれるじゃん。陽臣生徒会長と光風に。」

 オレの嫌そうな顔を見て、楓はケラケラと笑っている。

 陽臣は入学式でオレとオレの両親に声を掛けてきて、態々小学生の時の事を謝ってきた。過度に接触した為に事態が悪くなり申し訳ないと頭を下げてきたので、オレも親も謝罪を受け取った。
 今後はあまり接触しないで欲しいと言うと、分かっと了解も取っているし、陽臣もそれから近付いて来ない。
 光風に至っては何考えてるか理解も出来ない。

「陽臣は昔の因縁を気にしてるだけだろうし、光風はサブ垢のアゲハの方が好きみたいだから執着されてねー。」

 最悪サブ垢なら消して作り直しも出来る。
 装備を一旦外して本垢に移しとけば問題ない。向こうがリアルで関わってこない姿勢でいるのだから、害はない。

「うーん、だといいね?」

「フラグ立つような事言うな!」

 楓が言うと本気で起こりそうで、鳳蝶はキュウっと身を縮こませた。







「ただいま~。」

「お帰りなさい。」

 パタパタと母さんが奥から出てきた。
 うちの親は飲食店経営をしている。
 オーナーになって店舗を幾つも持っているのだが、二人は基本仕事絡みで外に出ている事が多い。半分近くは家に居ない。
 こうやって出迎えてくれるのは稀だ。

「良かったぁ~そろそろまた出なきゃだったのよ。これ、渡しとこうと思って。」

 渡されたのは葉書サイズのカードが入った封筒。
 
「はぁ、お見合いパーティー?」

「そう、国営のやつね。そろそろちゃんと番を作らないと、また薬増えたでしょ?」

「…………わかった。」

 参加申し込みしとくわねと言って、母は出て行った。
 今の母親は小柄で痩せて薄茶色のふわっとした巻き毛は長く、睫毛の多い大きな薄茶色の瞳の愛らしいオメガだが、子供の頃は鳳蝶の様に薬と副作用、たまに起きる発情期まがいの苦しみがあったと言っていた。
 自分も辛い学生時代を送ったので、鳳蝶の事が心配な様だ。早く恋人を作って番を見つけて欲しいのだろう。
 
 国営パーティーはアルファと年頃のオメガを集めて結婚を促す集まりだ。年に数回あるが任意になっている。今までは不参加で行った事がない。
 正直自分が言っても場違いだと思うが、親が心配していると思えば断れない。

「しょうがない、諦めて行っとくか。」

 それで親が少しは安心するなら行っとくしかない。
 11月2日土曜日 18時から
 あーこれ、雲井のとこの大型複合ホテル?
 正装かぁ~面倒い………。
 そーいえば前に光風達もこれに参加してたよな?来るのかな……。
 …………いやいや、関係ない。何考えてんだ。
 やたらと人の心に入り込んだ光風が恨めしい。
 あんな奴の印象を吹き飛ばすアルファがいるかなぁ…、と思いながら当日の面倒臭さにため息が出た。






 夜の九時。
 『another  stairs』も現実時間と同じ夜だ。季節も一緒なので外は大分寒い。
 去年の冬に使っていたフード付きコートを取り出す。フードにファーが付いていて生地も厚手であったかい。重用していたせいかちょっと擦り切れてボロボロだけど、その方が鳳蝶は使ってる感が出て好きだった。
 新品は汚れとか気になって戦闘に不向きだ。

 喫茶店から町の門に飛び、適当な場所に向けて歩き出す。
 仁彩と識月は今度は装備に課金するか否かで揉めていて、今日もログインしていない。
 仁彩の漆黒の大鎌と漆黒のローブ以外の装備を識月は揃えたいと言っているのだが、仁彩が課金は勿体無いとゴネている。
 
 暫く歩くと今日もミツカゼが飛んできた。

「お前、今暇なのな。」

 呆れてオレがそう言うと、ミツガゼは不思議そうにした。

「暇じゃ無いよ?アゲハに会いに来たんだもん。」

「…………………。」

 コイツの頭の中が理解出来ない。
 学校では挨拶程度の会話しかしないのに、何故ここではフレンドリーなのか…。

「あ、今日はさ、ちょっと行きたいところあるんだけど。」

 珍しくミツガゼが行く場所を指定してきた。
 スクリーンに写った場所は、平原?
 勝手に手を取られてその場所に飛んだ。
 
「!」

 飛んだ場所は小さな盆地だった。丘の真ん中に窪みがあって、そこには水が池の様に溜まっていた。
 水の色が青く澄んでいて綺麗だ。
 
「湧水なんだけどさ、綺麗でしょ?」

 ミツガゼはこれが見せたかったらしい。
 確かに綺麗だ。でも何でオレに見せたのか。

「綺麗だけど、見せるなら次の可愛い子に見せろよ。」

 ついつい憎まれ口を叩いてしまう。

「うーん、それが最近ピンとくる子がいなくてさぁ。やっぱ、アゲハが今は一番かなぁ?」

 人の頬を撫でながらキスをしてくる。
 ミツカゼが手を出してくるのは気分次第だ。全く何もなくお喋りだけで終わる日もあれば、人がどんなに嫌がろうと手を出してくる時もある。
 本当は拒否した方が良いのだろうが、アゲハも手酷く断る事も出来ずにズルズルと関係が続いていた。
 これは所謂セフレになるのだろうか?

 だいたいミツカゼが考えている事も、さっぱり意味が分からない。
 オレの本体見てガッカリして、でもやっぱりサブ垢のアゲハがいいと言って、だからと言ってリアルで鳳蝶と仲良くするわけでもない。何考えてるんだろう?
 アゲハの怪訝な顰めっ面に、何で分からないのかと言わんばかりにミツカゼが見返している。

「アゲハ見てるとイメージが湧くんだよねぇ。綺麗で強くて魂がある。」

「…………へぇ、じゃあ本体の方にはそれが無いけど、サブのアゲハは綺麗だから気に入ってると?」

 ムカついてきた。
 例え本垢とサブ垢で見た目が違おうと、同じ鳳蝶なのだ。コイツは見た目さえ良ければいいのか?

「んん?そう言うことになっちゃうかなぁ。」

 ムカついて槍で殴って今日は帰った。
 やる気が失せた。














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