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32 浅木君ちに訪問
しおりを挟む「ほほーーう、それでオレのバース性バレちゃったと?」
「う、うん、ごめんね?ほら、麻津君も謝ってるよ?」
「うんうん、ごめんねー。」
麻津君は軽く謝った。
もっと真剣に謝って欲しい!僕の為にも!
今日は日曜日。
予定通り浅木楓君の家に遊びに行くのだが、それを麻津君に言うと一緒に行きたいと言い出した。
フリフィアに学生の内から入れるなんて滅多にない事らしい。
で、僕達は浅木君が手配してくれた無人自家用車に乗っている。
態々迎えの車を手配してくれたのだ。
朝から麻津君が「おはよう御座いますー。」とウチの離れに繋がる門の前にやって来て、皓月伯父さんの顔がピシリと固まった。
僕は友達思いなので庇うしかなかった。
秘密裏に動くのを諦めた伯父さんは、堂々と開き直って、身を呈して僕を守れと命令していた。
伯父さんの圧に負けじとにこにこしている麻津君はなかなかのもので、雫父さんが感心していた。
「あの人、君のお父さんだっだんだ?ジンに似てるなぁって思ってたけど、君ベースのサブ垢だから似てたのか。なんで気づかなかったんだろ?」
どこかで雫父さんを見た事があるらしい。
「学校じゃ下ばっか向いてるしな。」
「勿体無いね。」
だって人の多いところは苦手だし。
そうこうしているうちに車は町の奥へ奥へと走って行く。
あまり来たことのない地域だった。
通りは暗くなり、ビルの合間を走って行く。高いビルに囲まれた二車線の路地は空が白く遠く見える。
「そろそろかな?」
麻津君がそう言うと、一気に視界が開けてきた。
車が一旦止まり、また走り出す。
「検問だよ。」
麻津君が説明してくれた。
フリフィアは独自自治区のようなもので、浅木家を筆頭にいくつかの家が統治している。基本は国の法律に則ってはいるが、ここでは何が起きるか分からない。
人が一人消えても当たり前。
一種の治外法権なのだという。
だから絶対一人で彷徨くなと言われた。
皓月伯父さんは最初、護衛をつけると言っていたけど、麻津君がついて行くと言ったら三人で行く事を許可してくれた。
訪問先も浅木家の同級生と聞いて、そこならまぁ…と言う感じだった。その代わり絶対外を一人で歩くなと何度も言い含められた。
フリフィアの中はまるで異世界のようだった。
壁も電灯も全てがチカチカと多彩色に明るい。店の一押しらしい人の映像が歩道にひしめき合っており、歩く人々はそこから好みの人がいる店に入るのだとか。
「ほえー。みんな綺麗な人達だねぇ。」
「仁彩、顔出すんじゃねぇ。あと、だいぶ盛ってるから。」
もってるとは何だろう?
車は奥の奥まで進み、大きな屋敷の前に来た。木の門が開いて車ごと中へ入って行く。
ゆっくり進んだ車は玄関の前に到着し、ドアが開いた。
「いらっしゃい~、ってなんで史君がいるの?」
「護衛アルバイト中だから。」
二人出てくるはずがもう一人いた事に、浅木君は驚いた。
家は白い壁の飾り気のないシンプルな立方体が、幾つも重なり合ったオシャレな家だった。ただ大きい。
奥に案内され廊下を進み、部屋へ案内される。
「どうぞ。」
中には大きなテーブルに所狭しとお菓子と飲み物がならべられていた。
僕と鳳蝶の瞳が輝く。
「何が好きか分からなかったから色々揃えたんだ。」
「いや、揃え過ぎでは?」
得意気に言う浅木君に麻津君がつっこんでいた。
「こ、このチョコは某国有名店本店でしか買えない限定品!こ、これはあの旅館の栗アイスーー!はっこれは………!」
鳳蝶はお菓子しか見てなかった。
僕はよく分からないけど美味しそうなお菓子の列に夢中になった。
「とりあえず食べながら話を聞くよ。何かあるんでしょ?」
僕達は浅木君にサブ垢を盗られた事について話した。
勿論お菓子を食べながら。
鳳蝶は食べながら説明するという器用な事をしていた。僕は基本口に物を入れながら喋れないので、僕の事なのに僕も聞くという変な状況になる。
「ふーーーん、じゃあ一つどーしても言いたいけど、君がアゲハじゃん!?絶対アルファと思っておとしたのにぃ~!」
鳳蝶はまーな、と平然と肯定した。
浅木君はまじでぇと騒いでいる。
そういえばこの二人『another stairs』でセックスしちゃったとか言ってたっけ?
「え?オメガ同士のセックス?とかどーなんの?興味ある。」
爽やかな笑顔で麻津君がゲスいことを言っている。
「はあぁ、もういい、てかアゲハって今光風に狙われてるよね?」
「……………まー……な?」
「ご愁傷様~。あれ僕でも手を出さないアルファだよ。」
「え?ミツカゼってやばい系?」
浅木君はうーんと考える。
「家は華道の家元でちゃんとしてるけど、拗らせてると言うか、運命信じてるというか………。とにかく運命の番探してる。」
「何だ、ロマンチストか。」
「ちょっと違うけど、リアルで本体見せて諦めさせる方が良いかもね。無茶苦茶見た目重視だから。」
「あー、それはちょっと…。オレがバレると仁彩もバレるんだよな。てか、そんな面食いなんか?オレは速攻振られる運命なわけね。」
浅木君と鳳蝶の会話がポンポン進んでいく。
「ま、バラすバラさないは兎も角、そのジンっていうサブ垢の状態見てみようか?雲井皓月はそれを本人に確認させる為に許可したんだろうし。表のシステムじゃ他人のアカウントに干渉するのも限度があるからね。」
浅木君は僕達に背を向けて自分のスクリーンを出した。
長方形の画面が僕達にも見え易い様に広げてくれる。
「雲井家とフリフィアは表裏一体。雲井は表、フリフィアは裏なんだよ。表の雲井はフィブシステムの管理を任されてるけど、違法な事は出来ない。フリフィアはフィブシムテムのセキュリティの網目を縫って闇の部分を片付ける。ま、教科書には反社会組織って書かれてるけどね。どっちも無いと困る存在だよ。」
そう話しつつも浅木君はスクリーンで何やら操作している。手はそんなに急いで打ち込みしている様に見えないのに、画面に流れる文字と映像が次々と移り変わっていって、何をやっているのか全く分からない。
「…………そうなんだ?」
僕がポカーンと口を開けて眺めながら返事をすると、浅木君は一旦手を止めて僕をチラリと見た。
「…………過保護に育てられてそうだなぁ。ここもどう言ったところか知らずに来たんでしょ?…………はい、出たよ。フリフィア経由で『another stairs』に侵入、権限乱入で生かすも殺すも可能だよ。」
んん?なんか最後の方物騒な事言われたけど、僕が貶められたのは理解出来た。
「おー凄いね。手慣れてる。犯罪に手慣れすぎてて惚れ惚れする。」
「でしょ?史君、僕に惚れていいよ。」
浅木君のスクリーンには確かに『another stairs』の世界が広がっていた。
ただそれは外側から景色を見ている様なもので、普段の五感全てを世界に入り込む仮想空間でも、学校の昼休みによくやっている平面型のゲームでも無い物だった。一番しっくりくるのは監視用カメラの映像かなという印象。
視点は全てジンに合わせられ、ジンがいるのはギルド銀聖剣の中だった。
ギルドメンバーは増え続け千人を超えている。それだけいれば日曜日の午前中でもそれなりの人数がログインしている。
生産職、戦闘職関係なく人を集め、一つのパーティーに攻撃を仕掛けていた。いや、そこがギルド銀聖剣の中という事は、向こうが仕掛けてきたのか。
「ツキがいない間にきたのか…。オレはギルドも追放されてんだよなぁ。フミは?」
「俺はまだいるね。あ、緊急招集かかってた。」
フミ君も自分のスクリーンを開くと、チャットに呼び出しが入っているという。
「識月君も行くのかな?」
「無理じゃ無い?識月は学校以外はほぼ仕事してるし。」
浅木君は否定する。麻津君も同意して同じ意見の様だ。
「識月が夜の九時に予定開けて『another stairs』に潜るのも結構無理してるから、今は無理なんじゃ無いかなあ。」
識月君、そんなに無理して入ってたんだ。
画面の中ではジンを守る様にギルドの人達が頑張っていた。ジンはギルマスになっている。ギルドから上位パーティーが出た方が人が集まるので、加勢する人も多いのだろう。
人が集まれば収入も増え敷地もアップデートされる。より過ごし易い町が出来ていく。
ハヤミさんもログインしたのか、陣頭を取って指示を出している。
ジンの装備は回復に特化している。
エフェクト神の癒しで金の粉を降らせ、パーティーメンバーなら完全回復に持っていける。
だがパーティーメンバーは月末と次月初めに切り替わる時のメンバーで固定される為、回復出来るのはジンだけになっていた。
「さっすが、他所のギルドに乗り込んでくるだけあって強パーティー。」
「あちゃー、生産職がサクサク消えてくね。」
鳳蝶と麻津君はワクワクと楽しそうに見ているが、ゲームに興味無い浅木君は欠伸していた。
ジンは周りのメンバーに攻撃に行って、少しでも相手の体力を削れと声を掛けていた。
割と冷静だなと思う。
そう観察していると、浅木君と目があった。
「ジンっていうサブ垢が元の通りだと思う?」
そう聞かれて、意味が分からなくて首を振った。
「かなりぐちゃぐちゃに弄られてるよ。見た目は識月の好みと判断してそのままにしてるけど、中身は全く違うのが入ってる。あの泉流歌がジンの皮を被ってる感じ。」
「皮を被る…………。」
言い方がスプラッタだ。想像がぐちゃぐちゃに血生臭さいものになる。
「仕草、話し方、笑い方、元の君を完璧にトレースする様にプログラムが掛けられている。例えば泉流歌が''早く自分を守れ''と命令しても、''一緒に戦おう''と健気に変換されるくらいには弄られてるよ。」
それって別人では?
「成程、ツキが別人と思わない様にか。でも普段言わない様な事を言い出せばオレは分かる。…………リアルで喋ることのない識月には分からないって事か。よく一緒にいる人間と判断されてオレは弾かれたしな。」
鳳蝶が言うことも何となく分かる。
でも気付いて欲しいと言う気持ちも出てくる。
お父さんはその人の持つ雰囲気で分かると言っていた。独特のものが有るから分かるって。
「僕としてはゲームのサブ垢なんて捨てていいと思うけどね?ここでバッサリ停止させても良いけど?」
「それ識月にバレたらお前んち大打撃喰らうかも。」
切り捨てろ意見の浅木君を麻津君は止めた。
「そうだぜ。サブ垢壊すにしても従兄弟どのにあれが別人だと納得させてからだ。」
そこで皆んなの視線が僕に集中した。
サブ垢取り戻したいってのは僕の我儘。
皆んなの意見としては諦めろって事なんだろうな。
「分かった………。僕、説明する。」
僕はしょんぼりと返事した。
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