偽りオメガの虚構世界

黄金 

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27 サブ垢ジンがいなくなった

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 今日は僕の家へ鳳蝶が泊まりに来てくれた。父さんの説得に付き合ってくれる為だ。
 鳳蝶の説得によりなんとか父さんの機嫌は治った。
 鳳蝶も父さんも料理上手なので、気が合うのだ。
 僕は晴れてゲーム解禁となった。

 
 夜九時。僕達は客間に並んで布団を敷いて寝る事にした。

「よし、潜るか。」

 鳳蝶が早速ゴロリと布団に寝転がる。
 僕も鳳蝶に習って隣に寝転んだ。
 暫くツキ君に会えていなかったので楽しみだ。学校でも『another  stairs』の話を一緒にしたいとは思うけど、僕がジンだとはまだ言う自信が無い。

 僕は目を瞑り、いつもの酩酊感を待った。






 ダカダカダカッ!バーーーーン!!!

「伯父さあぁぁぁん!!!」

 台所へ続く座敷の部屋の扉を、僕はバーンと勢いよく開いた。

「ぴゃっ!」

「どうした?」

 驚いてたのは父さんで、伯父さんは普通に返事した。
 父さんは伯父さんに押し倒されていた。
 友達が泊まりに来ている日に何やってんだ!
 いや、そんな事よりも!

「どぉしよ!?ジンに繋がらない!!」



 僕はいつものようにサブ垢のジンに入ろうとしたのだ。
 だけど入れなかった。
 あれ?あれ?と目を開けて、スクリーンを出して『another  stairs』の開始画面を開く。
 あるはずのアカウントが無かった。

「…………うそ。」

 ぽちぽちぽちぽち………!
 何度閉じて開いてを繰り返しても出てこない。

「………………な、い。」

 なかなか入ってこない僕を不審に思ったのか、先に入っていた鳳蝶がログアウトしてきた。

「どーしたん?」

「無いんだよ!?ジンの……、サブのアカウントがない!!」

 そんなバカなと鳳蝶も僕のスクリーンを覗き込む。

「ねーな?」

 と言う事で僕は伯父さんに助けを求めるべく走ったのだ。
 涙を浮かべて、と言うよりもう泣いている僕に呆れながらも、伯父さんは僕のスクリーンを見てくれた。
 鳳蝶がお前だけだぞ、番との逢瀬を邪魔してキレられないの、とボヤいていた。
 その言葉に雫父さんが「何で知ってるの!?」と驚いていたが無視だ。
 今はそれどころではない。

「アカウントを盗まれてるな。」

 僕はショックを受けた。
 本垢とサブ垢はそれぞれ別のアカウントコードとパスワードが設定されている。
 そのコードとパスワード認証でフィブシステムに入り込むのだが、これは個人が誰にも教えずに秘密にしなければならない。
 もし他人にこのコードとパスワードを知られると、勝手にアカウントを使われてしまう可能性があるからだ。
 最悪他人が勝手にアカウントを使い、コードとパスワードを変更されてしまうと、本人は自分のアカウントに入れなくなる。
 サブ垢は本垢よりも制限が緩い。
 本垢はかなり強力な鍵が付いていて、まず盗まれることはないのだが、サブ垢の方はコードとパスワードのみなので、盗られる可能性もあるのだ。

「自分でも覚えていないコードとパスワードをどうやって盗むの!?」

「そこは覚えておこうか。」

 僕の悲鳴に伯父さんは冷静にツッコんできた。
 ほぼ毎日ログインしていたので『another  stairs』に繋がりっぱなしで、今までコードとパスワードが必要なかったのだ。最悪忘れても伯父さんに頼めば復活出来るかなと、安易に考えていた。

「それ、戻せるの?」

 父さんは泣いている我が子をヨシヨシと撫でながら伯父さんに聞いてくれた。

「…………出来ないことはないが、誰が仁彩のサブを盗んだか調べようか。今日は諦めろ。」

 伯父さんがポンポンと頭を撫でてくる。

「ほら、今日はオレもやめておくから一緒に寝よーぜ。」

 鳳蝶はお邪魔しましたと丁寧に伯父さんに謝ってから、僕の手を引いて奥の客間に連れてってくれた。







 シクシクと泣く仁彩を寝かし付けてから、鳳蝶は『another  stairs』にログインした。
 いつものようにアゲハで階下に降りようとして、先にジンの部屋を覗く。
 案の定そこはもの抜けのからだった。
 おそらく仁彩のサブ垢を盗んだ奴はここに一回ログインした筈だ。
 
 階下に降りると誰もいない。
 ここはアゲハの店であり、店主はアゲハで登録されている。
 誰かいたり異常があると、アゲハに分かるようになっていた。
 犯人はこの喫茶店から出て行った筈だ。
 そして一度出たらここにはもう入れない。
 何故ならこの店はアゲハの許可なしには入れないからだ。
 喫茶店の鍵がロックになっている。
 鍵を開けている時は自由に誰でも出入りできるが、鍵が閉まっている時はアゲハが許可を出した人間しか開けることは出来ない。
 現実のキーシステムと同じ仕様だ。
 許可はログインする為のコードとパスワードに紐付けされているので、犯人はそのコードとパスワードを変更した為もうここには入って来れない。

「たた、アイツらと来た時は入れるか……。」

 ツキ、ミツカゼ、フミ、この三人はパーティーを組んだ時点で許可を出していた。
 
 スクリーンを出して誰にチャットするべきか悩む。

「……………。」

 いや、何と言うべきだろう?
 そもそもアイツらはジンに入った犯人と接触しているだろうか?
 そう考えてツキは必ずしているだろうと思い直した。
 フレンド登録によって位置情報を把握できる。きっとツキはジンの所へ毎日行っている筈だ。
 暗黙の了解で夜九時から示し合わせてログインしているが、時間内にジンが入ればツキは必ず会いに行っているだろう。

 アゲハはカウンターテーブルをトントンと指で叩いた。
 今回オレ達は用事があるので九月のイベントには途中参加すると伝えてある。
 秋イベの《夢みる卵》を進めているだろうか?パーティーリーダーはジンだ。卵の配布はジンにされている。
 
「思い切って行くか。」

 フレンド登録一覧を開き、三人を探した。
 前回の夏イベ同様、リーダーに配布されたモノをパーティー同士で奪い合う形式になっている。
 何の動物が孵化するか選択し、パーティー同士で卵の奪い合いをする。
 奪った卵は自分達の卵に吸収させる。吸収した数が卵の上にカウントされて行く。
 まず千個貯まったら羽化する。
 羽化しても他パーティーから卵なり羽化した獣なりを奪い吸収させる。
 それを月末まで繰り返すのだ。
 最終的にカウント数が多い獣が勝ち。
 ボスとの戦闘が無いし、特に欲しい獣人もないので今回はのんびりやろうと話してから前回別れた。
 アゲハはゲーム禁止になった仁彩に合わせて、ゲームにログインしていなかった。
 三人に会うのはアゲハも久しぶりだ。

 スクリーンで探した三人の下へ飛ぶ。
 喫茶店の中から飛んだ先は戦場だった。
 崩れた何処かの村。焼けた家。抉れた土の道。

「何処かのギルドの村か?」

 疑問が口に出る。
 ギルド銀聖剣は大きな町に発展しているが、やり始めはこんな村の筈だ。
 家も10から20程度。
 
「アゲハぁ?」

 のんびりとした声が横から掛かった。
 そちらを見るとミツカゼが立ってこちらを見ていた。
 
「ミツカゼ、これはどういう状況?」

「ぅん?卵争奪戦でしょ?」

「はぁ?」

 アゲハは顔を顰めた。
 秋イベを進めたいなら他パーティーと卵を奪い合うのは分かるが、他人が折角作っているギルドの村を壊す必要は無い。

「秋イベ、ジンがやっぱりやろうって言い出して、ギルドの中ならパーティー組んでる奴何組か固まってるし、そこ落とせば早いって言うからさ。」

 不思議そうにミツカゼが教えてくれた。

「なんか変だなぁって思わねぇ?」

「うーーん、パーティー抜けたアゲハがここに居るのが不思議かな?」

 それを聞いてアゲハはギョッとした。
 パーティーを抜けてる?
 スクリーンを出して確認すると、確かにアゲハは現在ソロになっていた。

「なるほど?」

「ね、何で抜けたの?喧嘩したの?ジンは何にも教えてくれないし、ツキにべったりだしさぁ。」

「いやーオレにもわかんねー。そーか、分かった。あんがと。じゃーな。」

 ミツカゼに別れを告げて喫茶店に戻ろうとした時、慌てたように腕を掴まれた。

「えっ!?待ってよぉ。一緒に卵集めしないの?」

 ミツカゼに止められてふと思う。
 今のジンに会ってみよう。少なくとも人となりが見える筈だ。

「ジンに挨拶してから帰るか。」

 オレがそう言うとミツカゼはどこかホッとした顔をした。
 コイツがこんな人の顔色を窺うなんて珍しいなと思う。
 ミツカゼに案内されてジンの所へ向かった。

 ジンは弓を打っていた。
 狙う先には女性プレイヤーが逃げている。
 シュウンーーと言う音を立ててトスっと女性の後頭部に刺さると、そのプレイヤーは消えてしまった。
 コロリと卵が一つ転がる。
 ツキがそれを拾いジンに手渡していた。
 イベント内容としては合っている。しかし、ジンの性格ではこれは違う。
 ジンは嬉しそうに笑いながら卵を受け取っていた。

「ジン。」

 オレは遠慮なく二人から漂う甘い空気をぶった斬るつもりで名前を呼んだ。
 側で見ていたフミがオレに気付き、ひええと口を押さえている。
 ジンとツキがこちらを向いた。
 そこでオレは、おや?と思う。
 ツキの表情を見て違和感を覚えたからだ。
 それにオレがつけている真眼でジンの内容を確認すると、ゲッと思わせる部分がある。
 
 まあ、いい。
 ジンのアカウントを何の問題もなく仁彩に戻せれば良いのだ。
 必要になったら話せばいいと判断した。

「卵集めてるんだ?」

 オレが和かに話しかけると、奴は親しい間柄と思ったのか、フレンドリーに応えてきた。もしかしたら今まで本物と一緒に行動していたのを、何処かで見られているのかもしれない。

「うん、ツキに絶対獣人になって欲しいんだ!」

 うーん、違和感があると言えばある。仁彩はこんなにハキハキ喋らねーしな。ただ笑い方は真似しているのかよく似ていた。
 コチラの出方を伺っている目をしている。敵が味方か判断しているのだろう。

「へえ~何の獣人?」

「ライオンだよ!」

 百獣の王って事か?仁彩はツキは狼だと言ってたがな。あの雲井識月をワンコだと。
 偽物はツキの腕に自分の腕を絡め、寄りかかった。牽制か?

「そっか。ま、頑張れよ。」

 これは直接的に知らない人間だと判断した。
 じゃあ誰だ?何の目的で?
 たまたまとかはあり得ない。仁彩は自分のコードとパスワードどっちも忘れていたので、誰かに教えようが無い。
 フィブシステムのセキュリティはどんな侵入プログラムも弾くと言われている。例えサブ垢とは言え、簡単にハッキングなど出来ない。
 そこら辺は仁彩の伯父の管轄だ。

「あっ……。」

 喫茶店に飛ぶ瞬間、ミツカゼが何か言いたそうにしていたのが見えたが、偽物がいる場所で迂闊に喋れないので、オレは問答無用でその場から消えた。







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