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しおりを挟む父さんが作ったPVが世間に流れ出した。
フィブシステムのスクリーンでは様々な配信が流れているが、その合間合間に各社商品の宣伝が流れている。
『another stairs』の宣伝も様々な物を流しているが、父さんが作るPVはなかなかの反響が有る。
季節イベントのみの制作だけど、父さんはこれでお小遣い稼ぎをしていた。
父さんに甘い伯父さんが家の中でもやれる仕事として与えた物だ。
その反響のお陰で、今ギルド銀聖剣の加入者が後を絶たない。
加入申請は毎日発生するし、ギルドに入った人には町の中に居住スペースを与える事になっている。
ギルド銀聖剣は町を所有している。
今まで僕達が使っていた喫茶店のある場所から少し離れているのだが、『another stairs』の世界は移動に関しては地図上にポイントをつけておけば、ポイントからポイントへ瞬時に移動可能なので困る事はない。
僕とアゲハはログイン場所の喫茶店から入り、ギルドへ移動するようにしている。
喫茶店営業もたまにやっているし、アゲハと一緒に経験値集めもやっている。
基本以前とやる事は変わってない。
「僕ギルマスらしいんだけど、何もしなくていいのかな?」
「いいんじゃね?下僕1号が楽しそうにしてるし。」
下僕って本人の前で言っちゃダメだよと注意しながら、僕達は目の前の植物型モンスターを倒して行く。
下僕1号とは識月君の事だ。
ギルマス業務は町の運営とイベント管理が主になる。
ギルド銀聖剣は廃課金ギルドとして有名だが、実際に課金しまくってるのは一部の上層部で、その他大勢の人達は生産職が多かった。
主にやっている町運営は、採れた素材や生産職が作った製造品を全て買取、ギルドメンバーには適正価格より安く売却、ギルド外にはなるべく高く売るよう交渉しながら売買を行っていた。
人数が多い分集まる素材も製造品も多くなる。それを強みに他の町に売り込んでいくのだが、直接他の町に売る場合もあれば、オークションを利用したりもする。
ギルドメンバーにもギルド自体にも利益が出るように回していかなければならない。
そしてでた利益でイベントをこなし、課金交えて報酬を受け取り、それをまたギルド運営に換金していく。
廃課金ギルドとして有名だったギルドは、課金ばかりで存続しているわけではなかった。
それを管理しているのがギルマスだった。
「ハヤミさん頭いいんだね。」
「下僕2号も嬉しそうにこき使われてるよな~。マゾ?」
僕達は今日、経験値集めに行くと報告すると、ちょうどいいからこの素材集めてきてと頼まれた。
植物モンスターを倒すと、そこに巣食う蜘蛛型モンスターがワラワラと出てくる。
「この糸でいいんだっけ?」
「あーそうそう。やっつける五匹中一匹は落とすらしい。」
アゲハの雷神の槍がサクサクと蜘蛛を貫いていく。レベルを上げる事によって槍からは雷が発生する様になっていた。
パリパリと音を立てて周りにいた蜘蛛十匹程度を一緒に屠って行く。
僕はポトポトと落ちたアイテムを回収した。
「下僕とか言っちゃダメだよ。ハヤミさんの話聞いて僕は凄い人だなって思ったんだから。」
伯父さんの秘書と識月君が言ってたので、僕は伯父さんに速水重成さんを知っているか聞いてみた。
速水重成さん。男性オメガで高学歴を買われて秘書課に就職。他のアルファやベータに混じり優秀な仕事ぶり。
ただ入社して早々、既婚者の伯父さんに失恋覚悟で告白したという猛者。
そのまま秘書課に在籍存続にはなったが、伯父さんから一番遠い仕事ばかりをやる羽目になる。
なんとか伯父さんの近くにいたくて『another stairs』をやり始める。何事も猪突猛進。やり出したら止まらない人だった。
「まぁ、やるからには全力でっていう意気込みはオレも理解できるけど、何事も空回ってて哀れとしか言いようがない。」
そう、入った目的は伯父さんがたまにログインして管理している『another stairs』の中で会いたい、と言う目的だったのに、やり出したら課金しまくっていたらしい。
伯父さんはフレンドにならなくても全プレイヤーの位置を特定出来る権限があるので、『another stairs』に入ったからと言って、伯父さんが会おうと思わない限り会えないのだと教えなかったのかと言ってみた。
伯父さんはいつもの笑顔で、課金するから放置した、と言っていた。
ハヤミさんが可哀想に思えた。
現実の速水重成さんは男性のオメガだ。優秀なアルファである皓月伯父さんに一目惚れしたらしく、その息子である識月君をみて感動したらしい。
そっくりだしね。
なんとか仲良くなりたかったとハヤミ氏は語る。
漸くフレンドになれて、今はウキウキと識月君にこき使われている。
親子で扱いが酷い気がする。
ハヤミ氏はジンが皓月伯父さんの甥っ子の雲井仁彩とは知らない。
なので現実で面識はないが、知らないふりをしている。
僕は嘘をつくのが下手なので、基本笑顔であまり喋らないようにしている。アゲハの忠告なのでちゃんと従っている。
二人でお喋りをしながら素材集めをしていると、ツキ君が現れた。
「ジン、どのくらい集まった?」
先日学校の階段で話した時とは違い、今の表情は優しく微笑んでいる。
僕はイベントリを開いて、これくらいだよ、と見せた。
「ん、これだけあればいいよ。」
覗き込んだツキ君が頷いた。
「ギルドの方はもういいのか?」
本来ギルマスのジンがやるべき事を、ツキが自主的にやっている。ツキがギルマスになっ方がいいんじゃないかと提案したが、何故か全員に却下された。
アゲハは奴に逆らおうとする人間はいないと言っていた。
学校でもそうだけど、ここでも雲井識月は王様だった。
まだツキ君がギルド銀聖剣にいた時間はそう無いはずなんだけど、何があったんだろう?
僕はあまりギルド運営には興味無いんだけど、アゲハは喫茶店経営の方を一人でやっているので興味があるみたい。
「ああ、大まかな事業方針は立ててきた。前回ギルドに加入していた時にも少し手を加えてたから、今回はやる事も少ない。」
「……既に手を付けた後なんだ。」
つい三ヶ月ほど前に始めたばかりのくせに、新人プレイヤーがギルド経営に手を付けたらしい。
しかも古参の人間から一切意義が出ない。
アゲハとしても識月が何をやらかしてるのか気になるところだった。
「後一時間くらい残ってるけど、どうする?」
ジンの問い掛けに、ツキはにこにこ笑っている。
「ミツカゼ達がログインしてきたから宝箱を開けよう。」
「もう用事終わったの?」
ツキくんはコクリと頷いた。
宝箱を五人揃った時に開けようと言っていたのだが、なかなか揃うことがなく、まだ開けていなかった。
ミツカゼ君とフミ君の用事は政府公認のお見合いパーティーに出席しなきゃというものだった。政府はアルファとオメガの番結婚を奨励している。なるべく番で結婚してアルファ性やオメガ性を産んで欲しいからだ。
その用意や移動、パーティー自体も三日開催されるので、二人はここのところログインしていなかった。
僕達はギルドの本部へと移動した。
既に部屋に来ていたミツカゼとフミはのんびりとソファに座って僕達を待っていた。
「誰が開ける~?」
ミツカゼ君が楽しそうに一つ開けてみたいと申し出ている。
なので一つはミツカゼ君、オークション交換したのをツキ君、僕が最後に取ったのを僕が開ける事になった。
開けると言ってもスクリーン顔面をポチッと押すだけだけど。
必ずレア装備が出てくるのでキラキラと輝きながら宝箱が開く。
まずミツカゼ君が出したのは帽子装備の森の精霊の花冠、ツキ君が森の精霊のローブ、僕が森の精霊のサンダルだった。
何気に僕のが一番貧相だ。
これがアルファとオメガの運の差か。
「………ローブ!…ジンにあげる。」
森の精霊のローブ。白く長いローブはたっぷりとした生地に緑色の草木をモチーフにした繊細な刺繍が入っている。フードが付いていて、ジンによく似合いそうだと思ったのだそうだ。
無理矢理渡されて装備させられる。ついでに花冠も渡される。R装備のゴミのような冒険者の服やただのゴムは捨てられた。
天使の羽は戦闘時しか出していないのだが、折角なのでそれも出してと頼まれる。
ジンの装備がかなり替わった。
サブ垢 職業 薬師 名前 ジン
装備 武器 弓矢 天の裁き課金SSR
アクセサリ 天使の憂翼
SSR効果 攻撃MAX売買不可
イベント報酬(希少)
エフェクト 神の癒し
SSR効果 回復MAX売買不可
イベント報酬(希少)
防具 森の精霊のローブ
パーティー限定支援MAX
靴 天使の靴 空間補正
帽子 森の精霊の花冠
魅了UP
手袋 R 革手袋
すごい事になった。
「後は手袋だけだね。」
ツキ君が満足気に笑っているけど、僕の顔は引き攣っている。
僕は微課金者なのにそこら辺の廃課金者より凄い事になっている。この貧乏そうな革手袋が唯一の防波堤かもしれない。これが無くなったら恥ずか死ぬ。
因みに僕が開いた森の精霊のサンダルは、効果が回復UPだったのでフミ君が装備する事になった。
七月の月間イベントはお休みする事になった。月間イベはギルドイベントだ。運用変更と加入者殺到で手が足りないので、個人的に討伐するのは構わないけど、ギルド的にはお休みして体制を整えるらしい。
喫茶店に戻ってログアウトする前に少しだけツキ君と喋った。
他の皆んなは気を利かせて先にログアウトしていった。
「ありがとう、ツキ君。次はツキ君が欲しいものを取りに行こうね。」
『another stairs』の世界でなら、僕はツキ君とこうやって目を見て話す事が出来る。
僕はベータで、アルファやオメガなんて特殊な性を感じずに、普通に話す事が出来る。
「俺のはいい。したいからしてるだけだし……。お礼なら俺はジンが欲しい。」
「……え?」
「ダメなら、リアルで会って。」
「………………。」
僕が答えれずにいると、ツキ君は目を伏せて悲し気になる。
そんな顔をさせるつもりはなかった。
でも……。
「でも、ぼくのリアルは今の姿とは全然違うんだ。きっと会えば幻滅するよ。」
僕はなるべく穏やかに話した。
どうやったら識月君が傷付かずに済むだろうか。
「幻滅しない。」
まるで幼子だなと思う。
僕より背の高いツキ君を引き寄せて抱き締めると、ツキ君は自分の頭を僕の肩に乗せた。
「半径30キロ圏内。」
「うん?」
「その範囲内にジンはいるんでしょ?毎日同じ時間にログインするという事は、割と近くに住んでる。だったら、もし俺が現実でジンを言い当てたら、俺のものになって?」
僕は目を見開いた。
ツキ君が僕の肩から頭を上げて、僕の目を覗き込んだ。今のツキ君の瞳は濃紺だ。その中に、僕の驚いて声を出せない顔が映り込んでいた。
「………それは。」
「約束。」
頬を両手で挟まれて、唇が近付く。
拒否しないでと、言葉ではなく彼の瞳が訴えていた。
「…………んぅ、………ふぁ。」
ツキ君の舌が深くまで入り、僕の口の中を動き回る。
これ以上喋らないでと、長く長く唇が合わさり息を吸い込むように覆い被さってくる。
どうしてこんなに僕に懐くのか……。
いや、これは懐くというレベルでは無い。
じゃあ、ツキ君の、識月君のこの行動はどういう事なんだろうか。
本当に幼子が愛情を求めるにしては、口付けが深く快感を与え過ぎていた。
薄くぼやけて開けた目に入り込む、懇願とも愛情とも、悲哀とも言えない複雑な眼差しにぶつかる。
どうしてそんな風に見つめるの?
そんな疑問すら押さえ込むように、ログアウトの時間までツキ君に唇を貪られていた。
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