いじめっ子といじめられっ子が異世界召喚されたけどいじめっ子の俺だけ無能だった

黄金 

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8 俺の能力って

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 魔王の元へは役二ヶ月かかるらしい。
 魔王のいる地はソリアーディと言うそうだが、元々はソリアーディ国という一つの国だったらしい。
 何故ラヴディーデリア王国だけが魔王に対抗しようとしているかと言うと、大陸から半島のように飛び出したソリアーディ国に面してるのが、ラヴディーデリア王国だけなのらしい。
 ラヴディーデリア王国が滅亡すれば、次に面した国がどうにかするしか無い。
 なのに手を貸そうとする国はいないと言っていた。
 ラヴディーデリア王国は元々は気候の良い豊かな土地を持つ大きな国だった。
 その土地を手に入れたい隣国は手を拱いてラヴディーデリア王家が潰えるのを待っている。

 俺からしたら次に魔王と戦うくらいなら、一緒に戦って平和を取るのが一番だと思うけどな。

 大広間に向かう大きな廊下に飾られた一枚の絵画を眺めながら、遠く離れたアフィーナギ達のことを思った。
 絵は大きな絵だった。
 口髭生やしたお爺さんの王様と上品そうなお婆さんと言った感じの王妃様。囲うように四人の美麗な息子達が描かれた家族の肖像画だった。
 四人とも金髪碧眼でよく似ていたが、真面目って感じの長男、身体を鍛えてそうな次男、優しそうな三男、そして遊んでそうな四男だった。
 ずっと側で護衛してくれる騎士に尋ねたら教えてくれた。

「アフィーナギ遊んでそーに見える。」

 護衛騎士は苦笑していた。
 アフィーナギが選んだ護衛は何人かいて交代で見張をしてくれるが、みんな優しそうな人ばかりだ。

「現王太子殿下は四男でした。そこまで堅苦しくなく育ちましたので。」

 でもなぁー聞いたらこの絵の年は十四歳って聞いた。最初の王太子が魔王討伐に行く前に描いたんだそうだ。仕上がる時は死んでしまったらしいけど。

 皆んなが討伐に出て、背中の火傷を治しながら、動けるようになったら体力を付ける為に散歩をするようにした。いちおうサヤラーテと護衛騎士が許可した場所しか行かないようにしてる。

 夜になったらたまにアフィーナギから通信が入る。
 最初の頃は毎日だったけど、山を越えてソリアーディに入ると3日に一回くらいになった。
 通信の時はアフィーナギの近くに清彦達がいると、一緒に会話に入ってくる。
 アフィーナギはあまり現地の惨状を言わないけど、現代高校生だった皆んな、と言うか主に典哉は怖い怖いとよく喋ってくれた。
 魔王城と言ってるとこは元々ソリアーディの王城で、近づくにつれて黒い霧が発生しているらしい。
 近づけは近づくほど霧の濃さは増していき、一ヶ月ちょいで近づいた今はマスク代わりの布を巻いとかないと息苦しいと言っていた。


 俺は焦っていた。
 自分にも出来ることがないかと。
 王宮の大広場に次々と送られてくる怪我人達を見て。
 出立前、アフィーナギは血を一滴大広場に垂らして行った。
 ここに怪我人を送るからと。
 最初は戦闘に参加できない程負傷した兵達がチラホラと送られて来た。
 山を越えてソリアーディ国に入ると一気に怪我人が増えてきた。
 彼等の話では、ソリアーディは黒い霧に包まれ瘴気の国と化してるらしい。
 怪我人の怪我も酷くなる一方だった。
 サヤラーテが言うには、怪我や病気に瘴気が触れると治らなくなる。これを治せるのは聖属性魔法の治癒のみだが、世界的に見ても聖属性使いは少ないのらしい。
 本当は聖属性使いの召喚者を呼びたかったが、なかなか現れず今に至っていた。
 それでも今回の召喚は人数も多く、特殊な能力持ちが多数現れた。
 期待が大きかった。
 一番期待されたのは咲夜だった。
 聖者と言われていたのは一番期待したから。
 今も咲夜が先頭に立ち、瘴気から生まれる魔物を屠っているのだとか。

 帰ってきた兵士たちは咲夜の勇姿を褒め称えた。
 彼がいれば勝利出来ると。
 魔王を討伐し凱旋すれば、周辺諸国に知らしめる為に婚姻式を挙げるのだとか。
 戦いにも行かない貴族達は喜色満面で婚姻式の準備を勝手にやっているらしい。…………と、サヤラーテは苦々しい顔で教えてくれた。
 大臣達まで既に勝った気分でいるが、次々と送られてくる怪我人の数を考えろと、目を座らせて言っていた。
 サヤラーテは忙しすぎて顔色が悪い。
 
 俺も怪我人多さに焦燥感が募った。
 向こうには後何人兵力があるのだろうか。
 皆んなは大丈夫なのか?
 アフィーナギは?
 最近めっきり通信が入らなくなってきた。


 六日空いて通信が入ってきた。
 いつもはざわついている周囲の音が聞こえるのに、やたらと静かで不気味な感じがした。

「…………アフィーナギ?」

 通信が入る感じはなんとなくもう掴めていた。自分の周りの音の他に、もう一つ違う音があるような、そんな違和感が耳元から発生する。
 電話の向こうの音が聞こえてくるような感覚で通信が入ったと分かるのだ。
 なかなか喋り出さない向こう側に、此方から呼びかける。

「どうしたんだ?なんかあった?」

 再度呼びかけると漸く『うん。』と返事を返してきた。

『そろそろねソリアーディの王城に着くと思うんだ。その前に声を聞こうと思って…………。』

 アフィーナギの声は覇気は無かったが、笑っているような気がした。

「アフィーナギ、死ぬ前に戻ってこいよ。」

 たぶん最後まで残って怪我人を転送するつもりだろうけど、願うように言った。

『ふふ、私は王太子で最後の王の子供で国の命運が掛かってるから頑張らなければならない。』

 それはまるで呪文のようだった。
 ずっとそう言い聞かせながら頑張っているのだろう。
 年上で、王子様で、カッコよくて、国民から勝利を期待されて…………、全ての不安を隠すように笑っているアフィーナギ。
 たまに俺を揶揄って楽しそうに笑うアフィーナギ。
 きっと負けた時、死んだ後に国が瘴気に飲まれ滅んだらアフィーナギのせいにされるのだ。
 全ての責任がアフィーナギに掛かっていた。
 アイツはそれが分かってて全てを押し隠して笑っていた。
 それが分かったから、最初牢に入れられたことも許せた。きっとアフィーナギは聖者と思った咲夜に期待したはずだ。
 咲夜がこの悪い状況を助けてくれると思ったはずだ。聖者を傷つける者に制裁を加えて遠ざけようとしたのだと理解した。
 それだけ不安なのかもしれないと思った。
 助けてあげたかったけど、ちっぽけな俺には何も出来ない。

「なぁ…………、不安な時や自信がない時は言ったほうがいいぞ。」

 せめて本心を吐き出して欲しい。
 俺には言って欲しい。
 無理して貼り付けたような笑顔を外して欲しかった。
 
「聞いてやる事しか出来ないけど……。」

 今日のアフィーナギは静かだ。これで最後じゃないだろうかと不安になる程に。

『………………私は四番目だったからね、こんなに責任が乗って来るって思わずに生きてきたんだ。割と自由に遊んでた。長兄が死んでも次兄がいると思ってたんだ。三男までいなくなって、頭が真っ白になった。長兄の真似をして王太子という仮面を被って、次兄のように強くあろうとした。直ぐ上の兄のように民のために優しくあろうとした。でも…………………。』

 でもの後が続かなかった。
 凄く凄く頑張ってると思う。誰も今アフィーナギを悪くいう奴はいない。
 でも負けたら…………。いや、勝ったとしても今度は隣国との戦争が始まるのか。どっちに転んでも苦しい立場か…。

「アフィーナギのナギって部分さ、俺の世界では言葉があるんだ。無風で静かで穏やかなって感じの、凪って言葉。アンタと話してるとそうであればいいなって、よく思ってて………、そんな世界だったら良かったのにって…………。そしたらきっと、アンタは元々のアンタで喋るんだろうなって……。今みたいに無理してなくて………。俺とも面白いこといっぱい喋って…。いや、何言ってんだろ?何言ってんだか分からんくなった!!」

 気の利いた言葉を掛けようとして支離滅裂じゃねーか!
 うーん、うーん、といい言葉を考えようとしている俺に、アフィーナギは可笑しそうに笑った。

『ミヤビは私といっぱいお喋りしたいんだね。ミヤビはいつも私に元気をくれるんだ。それで充分だよ。』

「いや、俺何もしてねーし。今も王宮で三食昼寝付きで申し訳ねーし。」

『そこにミヤビがいてくれた方が私の心は平安なんだよ。それにしても私の名前にそんな穏やかな言葉が入ってるとは思わなかったよ………。是非ミヤビにはナギと読んで欲しいな。』

「気に入ったの?ナギの方が呼びやすそうだから、いーぜ。」

『うん、ずっと私の名前を呼んでね。』

 ずっととはどういう意味だろう?
 聞き返そうとしたが、もう直ぐだからと通信を切られてしまった。
 最後に気をつけてなと言った言葉は耳に届いただろうか。



 俺は自分にも何か魔法が使えないかと調べていた。
 まず剣技が無いのは分かっていた。清彦みたいに剣を持ち上げれないし、どうみても体力もない。
 典哉みたいに補助魔法も出来なかった。異世界あるあるの鑑定も出来ないし……。
 肇のアイテム収納もさっぱり分からない。どうやってるんだろ?
 なんとなく想像出来るのが咲夜の魔法だが、四属性ともうんともすんとも発生しなかった。
 自分に何が出来るのか謎だった。
 本当に無能だったのかなと思い、ガッカリしていた。

「回復か………。」

 攻撃系ばっかり考えてたので、そーいえば魔法と言えば白魔法的な回復があるのかと、サヤラーテのぼやきから気付いた。
 部屋に戻り鏡の前に立って服を脱ぐ。
 背中はケロイドの跡が広範囲に残ってしまっていた。この世界の回復薬の性能が意外と良いのか早く治ったが、引き攣った跡が残ったのだ。皮膚がつるし、やや痒みがある。

「治るのかな…?」

 典哉の話じゃ想うだけで魔法は使えたと言っていた。適性が有ればいいらしい。
 呪文とか厨二病的な言葉も無いんだ~と笑って話をしたのを思い出した。

「うーん、治れー……とか?」

 ヒールとか叫べばと思って笑って鏡の中の自分の背中を眺めていると、

「あっなんか……!………あっ、あっ!」

 亀の甲羅?
 カクカク六角形が入った半円形の白い膜のようなものが背中に浮き上がった。
 そして消えていくケロイド。
 なんだ!回復じゃん!!!
 もっと早く試せば良かった!
 サヤラーテが本当は聖魔法使いが来て欲しかったと言っていた。これって聖魔法じゃね?いや、白魔法??
 とにかく急いでサヤラーテに確認してみねーと!!!
 さっき喋ったアフィーナギの様子が気になった。
 急がないと取り返しがつかなくなりそうで、とにかくサヤラーテを探しに部屋の外に飛び出した!







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