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5 ガゼボの中の日々

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 最近、俺はよくガゼボで過ごしている。
 日本で言うところの東屋で、でっかい庭の途中にある休憩所だ。
 本当にガゼボって言われてるか知らんけど。
 よく座って本を読むのでサヤラーテが寛げるようにとクッションを敷き詰めてくれて、外から少し見えにくい様にと白いレースのカーテンを窓に掛けてくれた。
 広さもそこそこあるので、外にある小部屋のようだ。
 ちなみに何故か言葉も分かるし字も読めた。異世界あるあるかな?
 今日は特別にお茶を用意してもらった。
 お茶っ葉も今は貴重で贅沢品だ。

「おー!茶だー!貴族だ貴族っ!」

「おいおい典哉、ここ宰相の家で貴族だぜっ。静かにしろよ!」

 今日は久しぶりに典哉と肇に会った。
 二人も別々の所に預けられて、自分達の能力を使う練習をしていたらしい。

 典哉は魔塔とか呼ばれるとこで、そこの長官をしているトレビーという三十歳くらいの男に補助魔法を一通り習ったらしい。典哉の能力はかなり性能が良く、本人が知識として認識し、使用時にちゃんとコレを使うと思えば使えるらしい。
 魔塔長トレビーは白いサラサラ長髪に細い目の人だ。

 肇は無限収納という能力だった。要はアイテムボックスだけど、収納容量を上げる為に旅に出された。この世界にはギルドがあり、そこの特級冒険者を雇い、肇を連れて他国を渡り歩き、色んな物を大量に仕入れさせてきたとか。その国で安い物を仕入れて持ってきたので、搬送費もタダになりかなり資金が浮いたと喜ばれたみたいだ。
 肇を連れてった特級冒険者は黒髪に黄色い眼の少し怖そうなお兄さんだった。

 この国の人は基本美形だ。彫りが深いからだろうか。ぺらっとした日本人顔には羨ましい限りだ。

「俺すっげー色んな国行ったけど、ラヴディーデリア王国はやっぱ暗いんだなぁ。」

 肇は召喚されてから数日で国外に行った為、実感無かったそうだが、外の国は普通に雨も降るし晴れ間もある。嵐だってきたと言っていた。

「船乗ったけど、なんか海賊船みたいなの!ちゃんとした部屋無くて雑魚寝で最初慣れないし船酔いするし大変だったよー。」

 肇の話ではこの世界はイメージ中世ヨーロッパのもろにファンタジーって感じらしい。向こうの世界なら三ヶ月もあればかなりの外国に行けるが、この世界では三ヶ月で回れるところはかなり限られたそうだ。それでも行けるとこまで行って仕入れたと誇らしげで、素直な性格の肇はドヤ顔していた。

 典哉はいいなぁと羨ましそうだ。

「オレはずっと魔塔に缶詰だぜー。ずっと補助魔法教えられんの。覚えんとこえーよ。ここの人達身体も大きいからさぁ。オレも肇と旅行行きたかった!」

 俺も缶詰は無理だなぁと肇は自分の境遇に満足気だ。

「あとさぁ、ギィレンさんとよく抜きあいっこした!」

 ぶーーーーーーーーーっ!!!

 大きい声で元気よく言う肇に、俺と清彦は飲んでいた紅茶を吹いた。

「なんかこっちの人って男が多いらしくてさ、コレくらい友達なら皆んなしてるとか言われてやったら凄く気持ち良かった!」

「おま、雅の前でなんちゅう事を……。」

 清彦が目をむいて震えていた。吹いた紅茶が口の横に垂れていても気にしていない。

「それなーー、こっち男が七割か八割からしいよ。女少ないから男同士で結婚するし、詳しく知らんけど男同士で子供も作るらしいよ。」

 そーいえば女性見ない。

「清彦は相変わらず雅のお母さんしてるんだなぁ。少し過保護だぜー。」

 震える清彦の口を拭いてやりながら、俺はとりあえず聞いてみた。

「抜いた後もやったのか?」

「後って何だよ?」

 これはやってないのか。ピュアすぎてやれなかったのか?
 ギルドの特級冒険者とかやりまくってそうだしなぁ~手ェ出しにくいか?
 見た感じ自信ありそうで遊んでそう見にえたけど。
 それよりも典哉と清彦が黙ってしまった。
 清彦は知ってる。サヤラーテが最初から推してるからな。
 清彦のガードが固くて進んでないが、段々スキンシップが激しくなってきている。
 清彦は俺の世話してたせいで男女交際すらした事がない。
 見た目が180の高身長にスッキリとした和風顔立ちでモテてたのに、全く交際とか考えてなかった。ある意味肇と一緒でピュアだ。
 典哉は………赤い顔で目が泳いでいる。
 意外だ!
 トレビーって倍くらい年齢あるよな。
 まぁいいか。
 人の好みなんて千差万別。
 俺は…………おれはぁ……………。
 やたらと綺麗な金髪碧眼が出てきてパパパっと消した。





 久しぶり四人で会って話した日は本当に楽しかった。
 思わず思い出し笑いが出てしまった。
 相変わらずの会話に異世界に来てることも忘れて、いつもの様に話しまくった。
 テーブルに置いた水をコクリと飲む。
 流石に喉が渇くので水差しとコップだけ貰って、いつものようにガゼボに篭った。
 少し離れた場所では、いつものように清彦が剣の型を教えて貰っていた。
 これで青空なら爽やかな日なんだろうが、相変わらず空はどんより曇っている。

「ミヤビ」

 ボンヤリと過ごしているとアフィーナギがやってきた。
 白いカーテンをめくって入ってくる姿は絵画のようだ。

「今日は来れたんだな。」

 最近のアフィーナギは多忙のようで、週に一回来れればいいようになっていた。
 魔王討伐の準備が忙しいらしい。
 アフィーナギは詳しく話さない。
 ただここに来て他愛のない話をして帰る。

「肇のおかげで備蓄の準備が捗ったよ。かなり助かった。」

 肇が帰ってきたことで、出兵の準備も整い後一ヶ月もすれば出陣するのだという。
 アフィーナギは総指揮を取ると言っていた。先頭に立ち魔王討伐に挑まなければならないと。
 それに付き添うのが召喚者で、その保護者になったメンバーも着いて行くのだとか。宰相のサヤラーテだけ残るのらしい。まぁ、見た目からしても戦えるようには見えないし、宰相まで国からいなくなればどうしようもないよな。
 清彦も肇も典哉も、あのいじめられっ子だった咲夜ですら戦争に行くのだ。
 俺もあの石を握れば良かった。
 そしたら何か能力があったかもしれない。
 一緒に行けないもどかしさが押し寄せてくる。

 黙って見つめる俺の横にアフィーナギは座った。

「ミヤビ、私が出て行った後はサヤラーテと専任の護衛騎士と一緒に必ずいるんだよ。」

「わかってるよ。何度も聞いてるし。あんたこそちゃんと帰ってこいよ。」

 いつものように俺がそう返すと、アフィーナギはいつも同じような笑う。
 優しいのに心がないような、穏やかそうに見えて辛そうな、そんな笑顔だ。
 この笑顔を見ると兄を思い出してならない。
 今ならなんとなく想像出来る。
 アフィーナギは帰って来れない可能性が高いと思ってる。
 死ににいくような戦争の為に、寝る間も惜しんで戦争の準備をしている。
 王太子としての仕事もしている。

 心が疲れているんだ。

 今ならそう思える。

「俺さ、黙っとこうと思ったんだけど、ホントは召喚された時、石ちゃんと握らなかったんだ。」
 
「そう、なのか?だから反応が……。」
 
「そ、だから反応なくて当たり前。でもさ、今から石握ってなんか反応あったら皆んなと一緒に行けるのかなって。」 

 黙ってたのが怖くてアフィーナギの顔が見れない。
 怒られたり、呆れられたりすんのかな。
 なんの反応もない。
 そろそろとアフィーナギを覗き込むと、アフィーナギは俺の顔をじっと見て固まっていた。

「アフィーナギ?」

「どうして?」

「え?」

「何故今それを言う?」

 あー、うん、今更だよなぁ。皆んな能力に合わせて練習してるのに、今からこれ出来ますって言われても困るよな。

「ごめん、今更言われても困るよな!俺だけ何もしてないし戦争にも参加しないし………………、それにアンタ大変そうだし、手伝った方が良いのかなと思ってさ。」

「………………。」

「アフィーナギ?」

 ちょくちょく黙るの勘弁して欲しい。
 どーしたらいいか分からん!

「あのさ、頑張ってるの知ってるけど、顔が、いつも笑ってて、笑ってるのに笑ってないというか、大変なのかなって……………。」

 言い訳のように喋らなくていい事まで喋るハメになるじゃねーか!
 言い過ぎたと思い顔が赤くなるのが自分でも分かった。

「ふ…………くくくっ、そうか私が大変そうだから手伝おうと思ったのか。」

「えっ!いや……………、まぁそうだけど………。」

 そうだけど、改めて言われると更に赤面してしまう。

「アンタがよくわかんない笑い方してると、兄貴を思い出すんだよっ!よくそうやって笑ってたし……!」

 兄は最後まで笑っていた。
 
「…………兄貴は最後は変な事しでかしたし、あんまり溜め込むのよくないよ。」

「そうかそうか。兄のようにならないか心配か。」

 アフィーナギは抱きしめてきた。
 今まであまり触ってくる事もなかったのに。とても大事そうに。

「鑑定石は触らなくていいし戦争にも来ては行けないよ。」

 アフィーナギはポンポンと背中を叩きながら、諭すように言った。

「…………。」

「君の友人達には申し訳ないが、ミヤビが来なくて良かったと思ってるんだ。」

「……なんで?」

「生きてて欲しいからかな?」

 分かった?と覗き込んできたアフィーナギの笑顔は泣き笑いのようだった。
 こんな時にずるい………。
 いつものよくわからない笑顔だったら、直ぐに否定するのに………!
 渋々頷く俺に、安心して笑ってた。

「ミヤビ、戦争に着いて来ない代わりに、お願いがあるんだ。」

「お願い?」

 これ、と言って小さな箱から出したのは青い石のついたピアスだった。

「俺、耳に穴空いてないぞ。」

「うん、知ってる。」

 アフィーナギは俺の両耳の耳朶を親指と人差し指でキュッと握った。
 グニグニグニグニグニグニ
 プシュン!

「いでぇ!!」

「ああ、ごめんごめん、痛かったよね。」

「なななな、おま、何した!」

 急に襲った耳の痛みにブルブルと震えているうちに、手早く消毒をしてピアスをつけられてしまった。
 あまりの手早さに手も足も出ない。

「肇達に仕入れてきてもらったんだ。
 出発した後に手紙で頼んだから手に入るか心配だったけど、無事に手に入ってね。」

 ワナワナと耳朶を触るとピアスの感触がある…………。普通勝手に開けるか!?

「私は風の属性も持っててね、風でプスッとねっ。これは通信機器なんだけど、私の魔力を通してるから、もし戦闘中に君の友人が危なくなったら、君の元へ転送するよ。場所が遠くなると地点が無いと送れないから、このピアスを地点にするから。」

 だったらそう説明してからにしろーーーーーーー!!!!!!

「お揃いだよーっ?」

 アフィーナギの両耳朶にも青いピアスがついていた。

 思い詰めたりしてないかって心配したのに損した気分だ!
 ………でも俺の俺が少し半立ちしてないか…?
「うううう…。」
 自分の身体が少し怖い…。
 涙目の赤い顔をした雅を、アフィーナギはまた抱きしめた。











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