精霊の愛の歌

黄金 

文字の大きさ
上 下
18 / 31

18 最後のイベント

しおりを挟む

 夕食を摂る為にジェセーゼ兄上と緑の泰子と食堂へ向かっていた。
 イベント開始時、欄干から落とされて落ちた池の向こうは紫色に染まっていた。
 このゲームは二ヶ月程度のシナリオしか無いのに、食事に霊薬紫の腐花が入り体調不良者が多かった所為か、選霊の儀自体が延長されていた。
 赤の泰子はサフリと上手くいっている様で、翼の毒牙に掛からず安心した。
 サフリの話では、赤の泰子も暫く黒の巫女を探しているそぶりが有り、見えないと不安がっていたらしい。
 日数が経つにつれそれも薄れ、黒の巫女に合わない様に体調不良を理由に赤泰家へ戻るようにしていた。
 サフリは此処から赤泰家へ通っているらしい。
 いつの間にかサフリの眼が赤色と知られており、赤泰家では歓迎されているとか。
 赤泰家は長らく色合わせが上手くいかず、髪と眼の赤色が濁り掛けていた。
 ゲームでの赤の泰子の悩みも赤眼の白の巫女を娶る様にと圧力が掛かっていて、それが悩みだったはずだ。
 色が鮮やかで単色である程精霊力が増す。
 サフリは願ってもない伴侶だろう。
 というか赤の泰子とサフリはそういう仲になったのだろうか………。泰子っていう人種は手が早いのかな?


 食事を終え、珍しく今日は翼達を見なかった。
 いつもはこれ見よがしに目立つところで食事を摂りながらいちゃついている。
 あれを見せつけられる度に、胸が苦しくなる。
 青の泰子は最近見ないが大丈夫だろうか?
 ジェセーゼ兄上は心配して日中ずっと一緒に居ようとする。
 兄上にだけは黒の巫女との勝負を教えているので、いつ招霊門に落とされるか心配しているのだろう。
 夜に歌っているのも本当はついて行きたいと言われた。招霊門は精霊殿にあるのに、毎日そこに行くのは危険だと言って。
 兄上には緑の精霊王と約束をしたから、もし落人になっても心配しないで見守って欲しいと頼んだ。
 精霊王が関わるならと渋々承諾してくれた。
 知らない間にいなくならないでと言って。
 こんなに仲良くなれるとは思っていなかった。
 鈴屋弓弦に戻ってもジオーネルの記憶がちゃんと残ってるといいんだけど………。



 愁寧湖に向かいながら此処を忘れない様にと景色を眼に焼き付ける。
 人気の無くなった住宅街を進み、途中からいつもの様に湖へ足を進める。
 向かう時に誰にも会わない様、緑の精霊王が空間を作ってやると言ってくれているので、安心して湖の敷地に入った。

 だから、驚いた。

 金色の光に。
 
「金の泰子?」

 と、黒い翼がいた。
 金の泰子は緩やかに微笑んだまま。
 ジオーネルとして会う時は仏頂面で機嫌悪そうにしていたのに、今の泰子からは人間味が無くなっていた。

「こんばんは。」

 翼は機嫌良さそうに挨拶をした。
 答えない私へふふふと含み笑いをする。
 翼は桃色の液体の入った瓶を、金の泰子へ渡した。霊薬虹色の恋花だ。
 懐からもう一つ紫の液体が入った瓶を取り出す。
 一本、二本、三本………。

「うーん、これくらい?ゲームじゃ何本入れたとか分かんないよね。」

 霊薬紫の腐花を湖へ入れるつもりなのだろう。
 今からシナリオを進めるつもりなのだと察した。
 でもそれはジオーネルが嫉妬に駆られて湖に霊薬を落とす。
 霊薬紫の腐花を入れて銀の精霊王を狂わせ黒の巫女を追い詰めようと考える。
 正直何故そう考えたのかは分からないが、金の泰子に選ばれないと嫉妬したジオーネルは、黒の巫女を消したかったのだろう。
 狂った銀の精霊王に黒の巫女の精霊力を取り込ませ様とでも考えたのか…。

 翼はトコトコと近付いてきて瓶を三本渡してきた。

「はい、コレ。湖に入れてね?」

 は?
 当たり前の様に手に握らされる。

「な、………入れるわけないだろう?」

 翼はニコニコと無邪気に笑う。

「入れないと金の泰子に虹色の恋花飲ませちゃうよ?」

 金の泰子は翼に渡された桃色の霊薬を大事そうに持っていた。

「今すこーしずつ飲ませてるんだ。でも一本一気に飲ませると強過ぎるのかバカになっちゃうんだよね~。そんな事ゲームに書いてないからさ、青の泰子はダメになっちゃった。」

 無邪気にそう嘯く。
 ダメに?最近見ない青の泰子はどうなっているんだろう……。
 人を駄目にして何も思わないのか。

「たから、はい、君がやるんだよ。金の泰子バカになっちゃうよ?」

 金の泰子を人質にするつもりで連れて来たのか。
 翼とはこんな怖い人間だったのか。
 血の気が引いてぐるぐると眼が回った。


 私は言われた通りに紫の液体を落とした。
 トポトポと落ちて紫に広がり湖の水に混じってしまう。
 この後がどうなるのか分からない。
 ゲームでは突然戦闘シーンが始まるだけで、ジオーネルが霊薬を入れた場面も銀の精霊王が暴れ出した場面もない。

 息を飲んで待っていると、ユラユラと水が揺れ出した。
 湖の底から何か大きな物が上がって来ている。
 白?銀?
 水面を激しく波立たせ上がって来たのは大きな蛇だった。
 口をあんぐりと開けて見上げる。
 銀の大蛇。
 あれ?銀の精霊王って魔王みたいな顔で描かれてたけど人型だったよな?

「な、なにこれ………。」

 蛇は頭を大きく上げた。空を見上げる様に。
 
 ピィィィィィィィィーーー!

 細く高く鳴く声は鼓膜を破る勢いで頭に響いた。
 緑の精霊王が作った空間が破れ、住宅街の方から喧騒が聞こえだす。
 なんだ?とか、銀の精霊王か?とか聞こえるので、人が集まり出しているのだろう。
 
「こっちです!」

 翼が何か言っていた。
 いつの間にか精霊殿の人達を呼んだ様だった。司祭フーヘイル様も来ていた。
 
「彼がまた霊薬を使っているところを見ました!愁寧湖に紫色の毒を入れてたんです!金の泰子と見ました!」

 なる、ほど?

 銀の精霊王が蛇だし暴れないしでゲームと違っても、翼の行動はブレないらしい。

「きっとあの鳴き声は銀の精霊王に攻撃したんですよ!」

 え?皆んな信じるの?
 いや、信じてる様だ………。
 翼の隣に金の泰子がいるのも信憑性を増しているのかも?

 そんな騒ぎの事などどうでも良さげに、銀の蛇はゆるゆると動き出した。
 巨大な身体を空に浮かし、移動しようとしている。
 シュルシュルと音を立てて飛んで行ってしまった。
 
「ジオーネル様、精霊殿へお越し下さい。」

 硬い司祭達の言葉に私は頷いた。
 ああ、今日が最後の日だと思って。
 逃げもしないのに周りを司祭達が取り囲む。
 それを見やる天霊花綾の人々は困惑と嫌悪に満ちていた。
 翼の言葉を信じるなら、私は銀の精霊王に霊薬紫の腐花という毒を盛った不届者。神にも近い存在に刃を向けた者だ。
 金の泰子は私に侮蔑の目を向けるばかり。
 ジオーネルとしてはついぞ好意的に見てくれる事が無かったなと悲しくなった。
 この視線が例え虹色の恋花のせいだとしても、元から好かれてはいなかった。
 精霊殿へ向かいながら、それでも緑の精霊王との最後の約束を果たそうと思った。

 助けたくないのか?
 聞かれた質問に、私は助けると答えた。

 じゃあ歌えと、精霊達に運ばせるから、歌えと言われた。
 私に出来るのは歌う事だけだ。
 













しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?

み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました! 志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。 父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。 あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない? 前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。 そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。 「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」 今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。 「おはようミーシャ、今日も元気だね」 あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない? 義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け 9/2以降不定期更新

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした

エウラ
BL
どうしてこうなったのか。 僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。 なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい? 孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。 僕、頑張って大きくなって恩返しするからね! 天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。 突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。 不定期投稿です。 本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

使い捨ての元神子ですが、二回目はのんびり暮らしたい

夜乃すてら
BL
 一度目、支倉翠は異世界人を使い捨ての電池扱いしていた国に召喚された。双子の妹と信頼していた騎士の死を聞いて激怒した翠は、命と引き換えにその国を水没させたはずだった。  しかし、日本に舞い戻ってしまう。そこでは妹は行方不明になっていた。  病院を退院した帰り、事故で再び異世界へ。  二度目の国では、親切な猫獣人夫婦のエドアとシュシュに助けられ、コフィ屋で雑用をしながら、のんびり暮らし始めるが……どうやらこの国では魔法士狩りをしているようで……?  ※なんかよくわからんな…と没にしてた小説なんですが、案外いいかも…?と思って、試しにのせてみますが、続きはちゃんと考えてないので、その時の雰囲気で書く予定。  ※主人公が受けです。   元々は騎士ヒーローもので考えてたけど、ちょっと迷ってるから決めないでおきます。  ※猫獣人がひどい目にもあいません。 (※R指定、後から付け足すかもしれません。まだわからん。)  ※試し置きなので、急に消したらすみません。

大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜

7ズ
BL
 異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。  攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。  そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。  しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。  彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。  どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。  ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。  異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。  果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──? ーーーーーーーーーーーー 狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛  

処理中です...