精霊の愛の歌

黄金 

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15 『精霊達の鎮魂曲』

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 後半イベント『精霊達の鎮魂曲』が始まった。
 寿命を迎えた精霊は一つ処に集まる。
 それは樹の樹洞だったり、水の流れない沼だったり、集まって固まって眠りについていく。放って置けば一つの精霊になる。
 精霊力を持たない空っぽの精霊。
 そのまま空(から)の精霊と言っている。
 空の精霊が産まれると銀泰家が鎮魂曲で精霊の心を満たして浄化させる。
 しかし今銀泰家は無い。
 替わりに他の泰家が浄化を行い補っている。
 
 イベントでは黒の巫女が攻略者を指定して一緒に浄化に向かう。
 一番好感度の高い攻略者と行って更に好感度をMAXにしてもいいし、好感度を上げておきたい攻略者と行ってもいい。
 このゲームにハーレムルートは無いので普通は好感度上げたメイン攻略者を連れて行く。
 普通は。

「有難うございます!皆んなで行けば安心ですよね!」

 翼は四人とも声を掛けた。
 精霊殿の司祭フーヘイル様も困り顔で誰か一人でいいと言っていたが、翼に押し切られてしまった。

「だったら巫女も四人にしましょうよ!」

 と立ち上がったのはジェセーゼ兄上。
 何故か私の腕を持って。
 これで巫女三人です!とキラキラと猫目を輝かせている。
 後一人は?となり、ちょうど隣にいた女性に目が行く。
 偶然を装って彼女の手を掴む。

「えと、じゃあサフリ様を入れて四人にしましょう!」

 私が手を掴んだ女性を見て翼が思いっきり嫌な顔をした。

「え!?あたしですか!?」

 手を持たれて狼狽えるサフリ。
 サフリは一般住人の灰色色から産まれた白の巫女だった。
 瞳の色は黒から赤に変わる。
 黒の巫女が友情エンドで終わると赤の泰子の隣に立っている子だ。
 細かい設定は忘れたが、これはゲーム知識だった。
 翼もそれは知っているので思いっきり嫌な顔をした。
 
 これはイベントだが、現実問題として空の精霊が発生した場合はどこかの泰家の関係者が対応するだけで、泰子が行く事も、白の巫女が行く事もない。
 黒の巫女が行くと言い張るので今回こんな形になった。
 ゲームでも黒の巫女が正義感を出して行くので、シナリオに沿っているとも言える。

 いきなり一緒に行く事になったサフリはジェセーゼ兄上に捕まった。

「よし!決定だ!」

「ひょえ!?」

 これも赤の泰子の為。
 青の泰子はおかしい。目が虚で翼しか見ていない。
 赤の泰子は翼の近くにいるが、まだ平気そうだ。今なら離せるかもしれない。

 ただ問題は………。

 ペアを組む事になり私が金の泰子と組むしかなかった事だ。
 緑の泰子は勿論ジェセーゼ兄上だし、赤の泰子はせっかく引き入れたサフリを組ませなきゃだし、青の泰子は翼から離れない。
 と言う事で金の泰子はジオーネルね!と兄上がキラキラと言い放った。

「あ、兄上………。」

 この前からの事でかなり気不味い。
 金の泰子は銀玲にやった事でジオーネルにやったつもりは無いので、平然としているが、私が居た堪れない。
 そんな事は知らないジェセーゼ兄上は、頑張れと声援を送って来た。

「正直、私は金の泰子は嫌いだが、お前が落人になるなど許せないのだ。仕事とは言え協力関係を持てば、ジオーネルに対する捉え方も変わるのでは無いかと思っている。金の泰子がもう嫌いと言うなら緑の泰子に変わってもらうが……。」

 いや、そんな恐ろしい提案飲めません。
 すっごく後ろの方で緑の泰子がニコニコと笑っている。
 頑張ります………、そう言うしかなかった。
 
 金の泰子に近付いて、宜しくお願いしますと頭を下げる。
 金の泰子は森に入る入り口で待っていてくれた。

「こちらこそ。さあ、何ヶ所か空の精霊がいるらしいから、散開して早めに終わらせてしまうぞ。」

 金の泰子は仏頂面でそう言って先に歩き出した。
 泰子は基本が真面目な性格なので、仕事と思えば感情抜きで会話をしてくれる様だ。
 二人きり。
 緊張するが、真面目に取り組む姿勢を見せれば少しは見直してくれるかも知れない。
 そしたら霊薬紫の腐花を食事に入れたのは自分では無いともう一度言ってみよう。
 ジオーネルを好きにはならずとも、普通くらいになれば、なんとか銀玲と伝えてみればいい。
 それでもダメなら………。


 
 翼はイライラとしながら歩いていた。
 獣道を歩いて後ろに付いてくる青の泰子を振り返る。
 目が合えば青の瞳がフワリと笑った。
 苛立って頬を叩く。
 泰子の身体は倒れはしなかったがよろけた。
 手がジンとくるくらい思いっきり叩いたのに青の泰子は恍惚とした顔で翼を見つめるばかり。
 霊薬虹色の恋花を使いすぎた。
 精霊力を上げる為に使い続けた。
 ゲームの様にゲージが無いのをいい事に、銀玲の精霊力を超える為に使い続けた。
 常に一緒にいた青の泰子は、今は翼の言いなりになる人形だった。
 顔は良いけど好みじゃない。
 身体を繋げても楽しくない。
 全てがいいなり。
 たった一人を選ぶ天霊花綾の常識は翼にはない。
 金の泰子か赤の泰子を落としたかった。
 泰子達を連れ出し霊薬虹色の恋花を使って好感度を一気に上げて、落とすつもりだった。
 青の泰子の様に廃人まがいにならない様に、上手にやるつもりだった。
 それがジェセーゼによって邪魔された。
 ジオーネルを手伝っているつもり?
 モブのくせに余計な真似を!

 金の泰子がジオーネルと一緒に行ってしまった。
 赤の泰子も友情エンドで出てくる女だった。
 たまたま隣にはいたが都合が良すぎる。
 ジオーネルはゲームの内容を知っているのかも知れない。

 思案していると近くからカサカサと音が近付いて来た。
 灰色の髪に灰色の眼。
 見た目は子供の様な小さな存在。
 一般住人と同じ色合いなのに、その灰色に精霊力が漂っている。
 金や赤、青、緑がフワリと浮いては消える色。
 力を失った精霊達の塊。
 最後の足掻きに寄り添い合い、精霊力を求めて彷徨い出す可哀想な存在。
 浄化して自然に戻さないと生まれ変われない精霊達。
 
 翼は首を傾げて笑った。
 とてもいい事を思いついた様に。
 取り出したのは紫色の液体が入った瓶。
 蓋を外して空の精霊の口に突っ込んだ。
 ゴポゴポと落ちて流れ込む液体に、空の精霊は訳もわからずそれを飲み込む。
 
「ただでさえ無い精霊力を無くしたらどうなるのかな?」

 翼は知っている。
 銀の精霊王は霊薬紫の腐花を取り込んで狂うのを。
 瓶を捨てて青の泰子に抱きついた。
 青の泰子は翼の思う様に動く。
 抱き上げて空の精霊から離れて行く。
 向かう先は金の泰子。


 
 少し離れた場所を金の泰子とジオーネルは歩いていた。
 ザワザワと草木が揺れ動いた。
 精霊達が緊張している。
 精霊は喋らない。だけど感情はある。
 楽しいことが好き。
 美味しいものが好き。
 今のこれは、なんだろうか?

「ざわめいてるな?」

「そうですね。何かが近付いている?」

 空の精霊にしてはおかしい。
 空の精霊は本来無くなっていく精霊力を補おうと自然の中で静かに過ごし、悲しみながら消滅する。
 消滅すればまた精霊として蘇れない為、浄化して自然の中に返すのだ。
 こんな緊張を伴う気配は持っていない。

 歩いて来たのは灰色の子供。
 目は見開き涎を垂らしてブルブルと震えている。
 限りなく死にそうなほどに低い精霊力。
 空の精霊の様だが様子がおかしい。
 ゴポリと灰色の液体を吐き出した。
 ドロドロと流れ、地に水溜りを作って行く。

「何だ?」

 灰色の水溜りをは草を溶かし近くの木を溶かした。

「精霊力を吸っているのかも知れません。」
 
 空の精霊の対処法は己の精霊力を分け与え、分けた精霊力で中から浄化してあげるだけ。
 でもこの空の精霊に精霊力を分け与えて大丈夫なのだろうか。
 無限に吸われてしまいそうで怖い。

 空の精霊はドロドロと溶けながら水溜りを増やして行く。

「私が精霊力を分け与えてみるから、何かあれば補助してくれ。」

 金の泰子の要望に頷いた。
 他に思いつかない。
 空の精霊に金の泰子が近付いて手を取った。祈りを込めて精霊力を与えていく。

「!!」

 ゴポンという音と共に灰色の水が泰子を飲み込んだ。

「金の泰子!」

 金の泰子の精霊力が急速に落ちている。空の精霊が吸い上げているのだろう。
 あまり精霊力が落ちてしまうと命に関わる。
 
「僕が助けようか?」

 現れたのは翼だった。
 ほら、これ。
 握った瓶をジオーネルに見せる。
 
「それは…………。」

「知ってるんだ?この霊薬。やっぱりこれがゲームって知ってて邪魔してる?お前、誰?」

 桃色の霊薬を振りながら翼は首を傾げた。

「答えたらコレを空の精霊に与えるよ。そしたら精霊力が増えて金の泰子を離すと思うけどな。」

 早くしないと金の泰子が死んじゃうよ?と飄々と翼は言う。
 もしかして空の精霊に霊薬紫の腐花を与えたんじゃないだろうなとの疑問が湧いた。
 なんで翼はどちらの霊薬も持っているのか……。霊薬虹色の恋花は主人公の黒の巫女が、霊薬紫の腐花は悪役令息のジオーネルが持つものだ。ジオーネルが霊薬を持とうとしなかった弊害があるのだろうか。

「お前と同じとこから来た人間だ。」

「あ、やっぱり?じゃあ誰?名前を言ってよ。」

「………………、鈴屋弓弦……。」

 翼は驚いて目を見開いた。
 そして弾けた様に笑い出す!

「ふふ、あはははっ!なんだ!弓弦君か!君落ちてここに来てたの?」

 翼にとって得体の知れない敵が、蹴落とした前の世界の男だったのだ。相手が弱者である事に安堵と侮蔑が生まれた。

「ふふ、心配して損しちゃった。じゃあ、金の泰子は問題なく僕の物になって貰わないと。」

 霊薬虹色の恋花を惜しげもなく灰色の水溜りに落としていく。
 一本、二本、三本目で水溜りは消え、虚な空の精霊と倒れた金の泰子が残った。
 四本目を空の精霊の口に突っ込み飲ませる。
 精霊はフルフルと震え消えてしまった。
 五本目を取り出し翼は瓶に口をつけると中の液体を口に含んだ。
 金の泰子の頭を持ち上げ、上向かせてから口付ける。
 金の泰子は霊薬虹色の恋花を飲み込んだ。
 ゆっくり目を開けると金の瞳が翼を見つめる。

「金の泰子の精霊力が無くなりそうだったので僕が精霊力を泰子に分けました。」

 翼が微笑むと、金の泰子も蕩ける様に微笑んだ。

「そうか、すまない。流石黒の巫女だな。」

 金の泰子はもう翼しか見ていなかった。
 真面目な泰子が空の精霊がどうなったかも、一緒にいたジオーネルがどうなったかも気にしない。
 青の泰子と一緒だ。

「コレって暫くは定期的に飲ませないと効果が持続しないんだよね~また作らなきゃ。」

 一体何本持っているのか。
 延々と霊薬を使い続けてるのか?
 だから青の泰子の様子がおかしかったのだろうか。
 金の泰子もそうなってしまう?
 ゾワリと背筋が凍った。

「漸く金の泰子に飲ませる事に成功~。なんでか用心深いんだもん。あ、弓弦君は遠慮なく向こうに落ちちゃってねぇ。」

 楽しそうに翼は笑った。



















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