精霊の愛の歌

黄金 

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12 金の泰子の暴走

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 翼は笑顔で拍手をしながら心の中で歯軋りをしていた。
 例え顔の見えないベールの中でも演技は崩さない。それが翼のモットーだ。

 歌を終え、降りてくる銀玲を金の泰子が手を引いて降りてくる。
 最後を飾る銀玲の衣装は、薄い白地に銀と金の刺繍を施された長い長衣だった。引きずるように長いので金の泰子が介添えを申し出ているらしい。
 その役は黒の巫女である自分のはずだったのに……。
 
 金の泰子にはジオーネルが悪く思われるよう色んな事を吹き込んではいるが、ジオーネルが嫌われても銀玲の存在が未だに邪魔をしていた。
 霊薬紫の腐花を使って一気に招霊門行きにしてやろうと思ったのに、ジェセーゼと緑の泰子にまで邪魔されてしまった。
 感謝祭のイベントをやる為にも霊薬虹色の恋花を使って精霊力を上げた。上げて最後のトリにならなければイベントが発生しない。
 霊薬虹色の恋花は精霊力を上げる薬だ。アイテムとしては好感度を上げる秘薬になる。
 それを飲んでも銀玲に精霊力で負けてしまった。
 どこまでも続く幻視の世界に圧倒され、翼までもが言葉を失った。
 目の前で精霊殿に向けて去って行く二人を追いかけた。
 白の巫女は自分の歌舞音曲が終われば戻って巫女服を脱いで、後は祭りに参加する。
 泰子は四人しかいないので諦めて他の参加した候補者と仲良くなる者は多い。
 参加した候補者も厳選されているので良い家の出ばかりだ。

 金の泰子が大事そうに銀玲の手を繋ぎ歩いている。向かっているのは精霊殿だろう。
 ジオーネルが銀玲だと気付かれるのはよろしくない。
 二人きりという状況にさせたく無く後を追うが、無言で歩いてる割には割り込みにくく、様子を窺いながら付いて行く。
 精霊殿に入ってしまうと捕まえられない。何故か精霊殿の中では誰にも会わないのだ。使用人にも他の巫女にも。

「金の泰子か銀玲に用事があるのか?」

 赤の泰子に呼び止められてしまった。
 振り向けは青の泰子と二人、追いかけて来たようだ。
 口を開けて喋ろうとして声が出ない事に気付く。白巫女装束では精霊王の力で話せなくなってしまう。
 ゲームにない細かい設定に苛立つが、仕方がない。
 サラリとベールを取って二人に笑いかけた。

「先程の歌と幻視に感動して、つい追いかけてしまいました。」

「そうか、私達もいつも銀玲の歌声には驚かされるんだ。」

「あそこまで精霊達が手伝って幻視を見せてくれる巫女はいませんからね。」

 泰子二人の言葉に、そうですね、と微笑む。
 なんて緩やかな世界だろう。
 同じ巫女に、ほかの巫女を褒めるのだ。皆が同じ幸せを感じていると信じている。僕が嫉妬しているとは考えないのか。
 精霊王達に管理された世界はなんて平和な事か。
 向こうで生きてきた翼には、この天霊花綾はぬるかった。
 だからこそ簡単に落とせると思っていたのに……。
 既に精霊殿へ消えた二人を確認し、声を掛けてきた赤の泰子と青の泰子に心の中で毒付いた。
 
 早くジオーネルを招霊門へ落とさなければならない。
 間違っても金の泰子とジオーネルがくっ付いてしまえば、自分は元の世界に戻されてしまう。
 せっかくゲームの世界に来たのだ。
 楽しまなくては。
 もし誰か泰子と上手くいき、ジオーネルを招霊門へ落としたとして、その後に別れたくなったら招霊門から帰れば良いのだ。
 それは翼の中の常識。
 
「僕も着替えてお祭りに行こうかな。」

 二人に貢ぐという幸福を与える為に、僕は餌を撒く。
 嬉しそうに一緒に行こうと言う言葉を当たり前のように受け取って、僕は微笑んだ。




 ジオーネルはずっと手を引かれて精霊殿に着いた。
 長い廊下を歩き、相変わらず誰ともすれ違わず控えの間に進む。
 誰にも会わないのは精霊王が空間を歪めているからと聞いていた。
 声が出せないので手を引かれるままに一緒に来てしまったが、どこまで行くつもりか………。
 基本、ジオーネルとして合うことの方が多い為、どうしていいのか分からなかった。
 銀玲の時はとても優しい金の泰子。
 この優しさがずっと続けば良いのに……。
 もし銀玲がジオーネルと分かればどんな顔をするのか。
 同一人物と分かっても先日のように招霊門から落ちろと言われれば、ジオーネルは立ち直れない気がした。
 
 気付けば控えの間に到着していた。
 流石に中までは来れないだろうと手を離そうとすると、力強く引っ張られる。

「!?」

 今まで金の泰子がこんな強引な行動をする事がなかったので、困惑した。

「すまない。もう少し良いだろうか。」

 抱きしめられ耳元に金の泰子の息が掛かる。
 息を呑むジオーネルに金の泰子は落ち着けるよう背中を撫でた。

「今日の歌も素晴らしかった……。だが、何か悲しい事でもあったのだろうか?私には君が泣いているように感じたのだが。」

 悲しいのは金の泰子に誤解されたまま嫌われている事だが、この白巫女装束では話す事が出来ない。
 私はやってないと言いたくても、銀玲が実はジオーネルだと分かっても信じてくれるのか?

「話す事が出来ないのは理解している。ただ、私が君を気に掛けているのだと知っていて欲しかっただけだ。君が悲しい時は慰めてあげたい。困った時は助けてあげたい。ただ、それだけだ……。」

 金の泰子の言葉は嬉しかった。
 
 でも、それは銀玲にのみ向けられた言葉。
 ジオーネルでは貰えない言葉。
 じわじわと目頭が熱くなり、滲む涙をそっと指で拭った。
 手袋に涙の染みがついた。

「すまない、困らせているだろうか?私は君が誰だか知りたい。知れば全身全霊で貴方を守るから。」

 まるで愛の告白のような言葉に、ジオーネルはどうして良いか分からない。
 縋りついて私を、ジオーネルを伴侶に選んでと頼みたい。
 でも私は嫌われている。
 ジオーネルとして好かれたくて纏わり付いて嫌がられて、やってもいない罪で嫌われた。
 翼に嵌められたのだろうとは言え、自分の不甲斐なさが悲しくて堪らない。

 俯くジオーネルを更にキツく金の泰子は抱きしめた。
 自分の思考に没頭していたジオーネルは気付いていなかった。
 金の泰子の手がジオーネルの身体を撫でるように触っている事に。
 布越しとはいえ、白巫女装束は薄い布を重ねて作られている。たっぷりとした長衣は身体のラインを隠すが、抱き締めて押さえ付ければどんな体型をしているのか分かってしまう。

「銀玲……、君は男性体なんだな…。」

 そこで漸くジオーネルは気付いた。
 ジオーネルの歌声は高音で男性とも女性ともつかない。
 白の巫女は半数は男性、半数は女性だった。金の泰子は今まで銀玲がどちらの性別なのか知らなかったのだ。
 今まで触れて来なかった金の泰子が触れたのは、性別を確認する為?
 少なくとも性別の判断がつけば半数に絞れる。

 サワサワと動く手にジオーネルは固まった。
 どうしよう………。
 金の泰子がこんな事してくるとは夢にも思わなかった。

「はぁ……、もう少し。」

 え?なにが?もう少しとは……?
 尋ねたくとも声は出ない。
 動く手が際どいとこまで動いている。

「…?……………???」

 ジオーネルは頭が混乱していた。
 手がお尻を触ってる??
 何故?
 金の泰子の頭が肩に乗り、控えの間の扉に身体が押し付けられる。
 背の高い金の泰子が少し前屈みになって服の上から腰を抱き込み、片手が尻を、太腿を撫でていた。
 ど、ど、ど、どーしたら!?
 太腿の内側を撫でる手が気持ちよく感じてしまう。
 徐々に上に上がり、触れてはいけない部分を触れてきた。
 金の泰子が、ふっと息を吐いて笑ったのが分かった。
 顔は見えない。
 金の泰子の手が服越しに股の間に入っていた。
 下から陰嚢を揉み込まれ、ビクリと身体が飛び上がる。
 逃げようにも股の間に泰子の長い足が入り込み、動けないように拘束されていた。
 やわやわと動く手は、持ち上がりかけたジオーネルの陰茎を裏側から撫で上げた。

「………………!??!」

 久しぶりの感覚だった。
 この天霊花綾の住人は半精霊。
 性欲が薄く、繁殖にも性交が不要な世界だ。なんなら全く性交も行わず一生を全うしてもおかしくない。
 自慰という概念すら薄い。
 勿論、ジオーネルはこの世界に生を受けて自慰などした事がなかった。
 すっかり忘れていた。
 鈴屋弓弦としての記憶があるから理解したが、久しぶりすぎてどうやってたのか咄嗟に思い出せない。
 布越しに擦り上げられる気持ちのいい感覚に腰が抜けそうになる。

「……!……!?」

 やめてと言おうにも声が出ない。
 それ以上はやばい!
 この先がどうなるのか知っているだけに、逃げようと踠くが、腰を抱き込み泰子の足が股を割り開いているせいで逃げられない。
 柔らかい薄布が金の泰子の熱い手のひらの熱を通し、過敏な陰茎を上下に包み込んで、ジオーネルの快楽を引き上げていく。

「……………!!……!……!」

 声が出せないのが余計に苦しい。
 ダメ、ダメ、もう、もう………!
 顔を覆う布越しで見え難いが、泰子の眼が金の光に灯っている。
 ああ……自分の眼を見ているのか……。
 もしかしたら眼の色が銀色に変わっていて、自分も銀色に灯っているのかもしれない。
 先走りが混じった布でクチュクチュと擦り上げられ、ジオーネルはこの身体で初めて吐精した。
 金の眼に見つめられていると思うと、より一層興奮してくる。
 プルプルと震えて全てを吐き出す。
 布が薄いのでジワリと染みが出来る。
 
 何が起きたのか分からずジオーネルは涙が溢れた。

「はぁ、こんな服無ければいいのに……。見たい……見たい………。」

 金の泰子が何か言っているが、頭に入って来なかった。
 泰子がベールに手を掛けようと手を伸ばしてくる。

 ……やめて、まだ心の準備が出来ていない………。

 逃げようとして、急に背後の扉が開いた。

「……!!!?」

 控えの間に倒れながら入り込み、ドスンと尻餅をつく。
 見上げると金の泰子が驚いた顔をしていたが、泰子が入る間もなく扉は閉まってしまった。

 よく分からないが助かった……。
 ジオーネルはぱたりと床に倒れ込んだ。
 久しぶりの射精感に身体の脱力が半端ない。
 おそらく扉は精霊王が動かしたのだろう。これ以上は禁止という事だ。
 ノロノロと起き上がり、ベールを取って長い長衣をたくし上げる。
 長衣にも滲んだが、中に来ていたズボンの股間はドロドロに粘ついていた。

「あぁ~~~………。」

 置いておけばいつの間にか洗われているのだが、置いて行って良いだろうか………。
 とりあえずこの部屋には手洗い場がある。
 そこで洗う事にした。





 精霊殿、招霊門のある大広間。
 今は誰も居らず静かに静まり返っている。
 一人の人物が忽然と現れた。
 新緑の様な鮮やかな緑の髪を後ろで三つ編みにして、同じく深い緑の瞳を持つ少年の姿をした精霊王。
 緑の精霊王。

「おい、お前んとこの泰子が暴走してるじゃねーか!止めろよ!」

 何処ともなく怒鳴りつける。
 招霊門の前に金の髪を地面に流れされた金の精霊王が現れた。

「人の血が入ると面白い行動を起こすと思わぬか?」

「悪趣味。あと、金の泰子がどーこういうより、お前の血筋がおかしい。俺が助けなければ白の巫女泣いてたかも知れねーだろ?」

「そもそも先に泣いていたじゃろ。それはそれで面白いかと思ったのじゃが。」

 うえーと緑の精霊王は顔を顰めた。
 緑の泰子だって性に奔放では無いか、という金の精霊王の愚痴は緑の精霊王にスルーされる。

「あの巫女服いる?むしろ邪魔じゃね?」

「アレは色合わせを禁止する為じゃが、調整が難しいのう。銀泰家の二の舞を起こさせぬ為だったが………。」

 銀の精霊王に関する事になると金の精霊王は暴走する。
 愁寧湖で眠る銀の精霊王を起こしたい金の精霊王。
 黒の巫女を召喚したのも銀泰家復活の為。招霊門の向こうは様々な世界に通じている。その中から落ちた銀の泰子の血筋を探し、最も見目麗しい者を召喚した。それが黒の巫女である村崎翼だった。黒髪黒瞳の種族だった事も良かった様だ。
 それに反発して銀の精霊王は近くにいた魂を引っ張ってきた。自分の色を与え、金の意思に抗ってきた。
 なにしろ金も銀も我儘だ。
 緑の泰子は巻き込まれた二人の人間に同情した。

 














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