精霊の愛の歌

黄金 

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5 なんで転生したのかというと

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 精霊王からの召喚はいつも突然やってくる。
 ジオーネルを呼びつけるのはいつも金の精霊王だ。
 
 金の蝶がヒラヒラとやって来て、鼻に止まる。
 ここは鍛錬場だった。
 歌を歌うには体力と筋力もいる。
 歌自体は精霊殿で白巫女装束着て歌うか精霊王の前でしか歌えないので、それ以外を普段は鍛えている。
 それは体力だったり、勉学だったり、楽器だったり。人それぞれだ。

 金の蝶は人を小馬鹿にした様にクルクルストローを震わせて飛んでいった。
 この蝶は他の人間には見えていない。
 せっかく今身体が温まったところだったのに………仕方ない。
 精霊王の召喚は絶対だ。

 急いで精霊殿へ向かうと、裏口から入り奥まで進む。
 精霊殿で働く人がいるはずなのに、こういう時は一切人に会わない。
 これも精霊王の力なのだろう。
 通い慣れた道をひたすら進み、人二人分程高さのある木製の扉の前に来た。
 精霊殿の中央に位置する、招霊門のある大広間へ入る扉だ。
 祭事の際、白の巫女以外は表から入り正面の石の扉から入るが、白の巫女の入口は横にひっそりとあるここからだった。

「参りました。」

 扉を開けて頭を下げ、招霊門を見れば、門の前には大きなテーブルと椅子が一脚。そこには金の精霊王が座っていた。
 輝く金髪は地に広がり、長い金の睫毛と金の瞳が人外の美しさを醸し出していた。

「ようこそ、銀玲よ。」

 金の精霊王の雰囲気は金の泰子に似ている。いや、金泰家の血筋が似ているのだろうが、金の精霊王を見ると金の泰子を思い浮かべてしまう。
 
「まずは、いつもの様に歌って貰おうかのぅ。」

 いつも歌う歌は愛の歌。
 誰かが作った歌ではない。
 ただ思い浮かんで歌い出しただけだ。
 金の精霊王は殊更この歌を好んでくれる。だからいつもこの歌を歌う。

 日々に感謝を。
 思い出に感謝を。
 今ある事に感謝を。
 明日が来る事に感謝を。

 そして、愛する人に感謝を……。

 幻視が生まれ、樹々がざわめき風が起こる。雨の様に光が降り落ち弾けて消えていく。光の筋が雲の様に流れ揺蕩い、樹々の間に渦を巻いてまた流れていく。
 歌は感情。
 楽しければ楽しく、悲しければ悲しく歌う。
 
 歌い終わればまた、いつもの様にゆっくりと戻っていく。
 
「ふむ、今日の幻視はまた格別哀情を感じさせるの。もう一つの人格に左右されておるのか?」

 ジオーネルは驚いた。
 何故もう一つの人格を知っているのか?
 精霊王は転生について知っているのか。ゲームの事も理解しているのか?
 
「そう驚かずともよい。そもそもそなたをここに連れ込んだのは銀の所為だしの。」

「へ?銀?銀の精霊王の事ですか?」

「そうじゃ。我は弱った銀の精霊王の為に、銀の泰家を復活すべく黒の巫女を召喚したのじゃ。それが、それを覗いていた銀がそなたを此方へ引き入れてしまったのじゃ。」

 銀の精霊王が私を天霊花綾へ連れて来た?何の為に?

「月見しながら甘いものいっぱいやけ食いしたい等と考えるからじゃ。甘いもの好きの銀が連れて来た挙句に転生させて銀の眼まで与えてしもうた。」

 え?なんか責められてる感じだけど、それ俺のせい?

「本来は黒の巫女に誰か泰子に嫁いでもらい伴侶となる泰家の子と、銀の髪と眼を持つ銀泰家の子の双子を孕ってもらうつもりじゃっだが……、この際其方でも黒の巫女でもよい。どちらかが泰子と番い、番えなかった方は元の世界に帰そうではないか。」

「は………あ?元の世界に帰す?私はこの天霊花綾の人間ですよ?」

 金の精霊王はにんまりと笑った。

「そこは心配せずとも其方が帰った場合は死ぬ前に戻してやろう。時間も場所もそのままじゃ。そこから元通りに暮らすがいい。不安ならば世界へ制約として約束してやろうぞ。」

 どうじゃ粋な計らいであろう?
 と金の泰子はご満悦である。
 俺やっぱり死んでたんだなと納得。

「あの、それは翼……黒の巫女にも説明されたのですか?」

「まだじゃが、勿論平等に期す為説明するつもりじゃ。」

 ということは?
 翼は金の精霊王の求めに応じて泰子達を攻略しに来るよな?

 友情エンドの場合、黒の巫女は人界へ帰り、ジオーネルが金の泰子と伴侶になる。ゲームの通りならたぶん。
 ハッピーエンドルートでは、シナリオの最後ではジオーネルは狂った銀の精霊王と共に天霊花綾を滅ぼそうとするので、攻略対象者と黒の巫女は一緒に退治しに行く。
 退治後は黒の巫女と一番好感度の高い攻略者と伴侶になる。
 課金なしでは友情エンドが実質バッドエンドになる。
 課金有りでは金チケットを使ってルートを増やし、R18有りのハッピーエンド(バットエンド?)が増える。どっちにしろ黒の巫女と攻略対象者がくっつく。
 だから翼は誰か泰子とくっついて友情エンド以外のハッピーエンドを目指し、ジオーネルを潰しにくると予想する。出来れば金の泰子を狙ってくる。
 金の精霊王が言うにはどちらも伴侶を得た場合は、金の泰子と伴侶になった方を残す。他の泰子同士なら力関係の強い緑→青→赤の順で残す。片方は人界に帰す。何故なら銀の子供は二人も要らないから!
 なんて理不尽!
 勝手に連れてこられてこの仕打ち!
 元の世界に帰されると今のジオーネルはいない事になってしまう?帰すって事は招霊門から落ちるという事だろうから、まさか落人扱い!?
 ゲームの通りなら黒の巫女がハッピーエンドを迎える時は、ジオーネルは天霊花綾を混乱に貶めたとして落人となって招霊門から落とされる。
 出来る事なら、翼に友情エンドを迎えて招霊門から帰って、ゲームの結末通り夢オチからの日常に戻って欲しい。

 いや、絶対攻略しにかかるよなぁ。
 池にも落とされたし……。
 泰子達の誰も手助けしてくれなかった事が今でもショックである。
 私はやっぱり嫌われてる?
 とりあえず自分が鈴屋弓弦である事だけは黙ってて貰おうと思い、必死に頼み込んだ。






 同じ説明を黒の巫女こと村崎翼も、金の精霊王から呼び出されて聞いた。
 何故ジオーネルが銀眼になったのか教えてもらえなかったが、元々奴は悪役令息なのだ。問題ない。
 ゲームのジオーネルは元々は剣舞を舞うと金眼になるキャラクターだった。
 最後に銀の精霊王討伐の為に攻略者全員連れて行くという流れがある為、ジオーネルは最後まで邪魔をしてくる。
 金眼のジオーネルは本来、金繋(きんけい)という精霊名だった。
 だけど銀眼になっているということは、銀玲はジオーネルで間違い無かった。
 金繋だろうが銀玲だろうが、悪役令息に変わりは無い。
 ただ銀玲という存在の為に、色々と細かい齟齬が出て来ていた。
 まず最初の創世祭でジオーネルは剣舞を踊っていない。
 白の仮面に上半身裸という奇抜な格好の金繋に、全員が呆れるのだ。
 精霊名で瞳の色が分かるから、白巫女装束で隠してるのに、自分がジオーネルと分かりやすい状態にして金繋として剣舞を踊るのだ。
 白の巫女は男性と女性半々だ。
 このゲームはBLゲームなのに女性もちゃんといる。
 上半身で男性とわかるし、声も出せばジオーネルと分かる。
 精霊王からの信頼も泰子達や他の巫女からの信頼もあったもんじゃない。
 まさに悪役。
 というかバカ?
 それと、ゲームと違ってジオーネルは黒の巫女である自分にちょっかいを掛けてこない。
 だから態々此方から声をかけて、シナリオ通りに池に落としてあげた。
 ジオーネルの兄であるジェセーゼも邪魔だ。
 泰子達は銀玲が誰か分かっていない。
 だから最も可能性の有りそうな白家のジェセーゼが銀玲なのではと思われている。
 ゲームでは黒の巫女に引っ付いてくるはずの泰子達が、現実にはジェセーゼを囲んでいる。
 これにも頭が来た。
 あの場所は自分の物。
 ジオーネルが全く銀玲と思われていないのは笑えるが、銀玲という存在はムカつく。
 どうやって最後の戦いに持っていこうか…………。
 悪役令息ジオーネルを招霊門に落とす日が待ち遠しい。
 翼の心はどす黒いのに、その笑顔は可愛らしく微笑んでいた。
 

 













 
       
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