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番外編 空に天空白露が戻ったら

122 始まりの話

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 天空白露は元通りになった。
 シュネイシロは相変わらず自分勝手な存在で、長く生きたラワイリャンでも予想つかないことをする。
 輝く魂はジィレンが用意した身体に宿り、こんなもんかと簡単に終わらせていった。

 世界の壁の手前でラワイリャンは、帰ろうとするシュネイシロに話し掛けた。

「あはは、ラワイリャン小さくなってる。」

「むぐぅ、どうせなら我の身体も元に戻せばよいものを!」

「だって、知らなかったし。」

 もう帰るから出来ないよとシュネイシロはあっけらかんと言う。本当は知っていたが、ま、どうにかするだろうと放置した。

「ぐぬーーーっ!」

「いいんじゃない?玖恭はその小さい身体でもいいって言うよ。」

「我が嫌なのだ!」

 そうは言ってもねぇとシュネイシロは笑った。ご機嫌だ。腕にスペリトトを抱えている。愛しい者を連れ帰れる喜びに満ちていた。
 ラワイリャンの元の姿はボンキュボンの妖艶な美女だったのに!これでは美少女とも言えない!美幼女だ!

「あの髪の毛が青橙の人に頼めばいいんじゃない?えーと、クオラジュ?」

 ク、クオラジュ…………。
 ラワイリャンは嫌な顔をした。
 そんなラワイリャンの様子を見て、クオラジュが苦手なことを察した采茂は、ハタと思い出す。他の攻略対象者は割とゲームと性格が似ていた気がする。世界を見渡した時にちょっとだけ観察した。でもクオラジュは結構違った。寡黙で一匹狼だっただろうか?
 うーん。

「ラワイリャンはさ、こっち側の透金英にゲームの話しをした?」

「げえむ?」

「あー、違うか。そっちの天空白露のことを話した?」

 ラワイリャンはキョトンとした。

「…………じゃあさ、今からちょっと行ってきてよ。」

「え!?何のためにだの!?」

 今世界と世界はズレようとしている。しかも向こうにはもう透金英の魂はいないのだ。
 采茂はジッと世界の壁を見た。

「大丈夫。まだもう少し繋がってるよ。危なそうなら引き戻してやるから。行ってきてよ。」

 ラワイリャンは腕を取られポーイと壁の穴に放り投げられた。

「にゅおっ!?」

 そんな、横暴な!?にぎゃーーーーと叫びながらラワイリャンは向こう側へと落ちていった。





 そしてシクシクと泣く玖恭と会う。そこはいつも使っていた夢と現実の間の空間だった。
 玖恭はまだ小さい。今のラワイリャンと同じくらいに見える年頃だった。ラワイリャンはこの幼女の姿になってからまだ数える程度しか訪れていないが、同程度の年齢で会うのは初めてだった。
 玖恭が生まれてから幾度も通うこっちの世界だが、時間が定まらず訪れた時の玖恭の年齢はまちまちだった。時間のずれが数年程度だろうと思っていたのだが、もしや透金英の魂でこの世界に存在していたのが今の年齢だったからだろうかと、ふと思いついた。ラワイリャンは透金英の魂を追ってこっちの世界へやって来ていたので、中身がスペリトトになった後は来ていない。
 つまり透金英がお爺さんになってもこっちにいたとすれば、ラワイリャンは年老いた玖恭にも会っていたと言うことだ。
 分かってみればなぁんだという気持ちになる。
 とりあえず慰めなければ。透金英が泣いているのだ。

「な、何を泣いておるのだ?」

 話し掛けると玖恭はキョトン顔を上げた。

「…………あれ?綺麗なお姉さんじゃない。今日は子供だぁ!」

 無邪気に見つめられた。

「う、うむ。そーだの。」
 
 それからラワイリャンは玖恭になぜ泣いていたのかを尋ね、それが日常の友達と喧嘩したとかお菓子が食べられなかったとかいう小さな事に安堵した。

「ラーヤ、今日は何の話する?どーして小さくなったの?」
 
 玖恭に尋ねられ、ラワイリャンはこれが自分にとっては最後の訪問になるだろうと思い、天空白露の話をすることにした。
 どこから話せば分かりやすいだろうかと悩み、天空白露にホミィセナがやって来たところから話す。
 
「ふぅん、その人が予言の神子?」

「まだまだ話は続くのだ。」
 
 ツビィロランの話をし、関わる登場人物を教えていく。

「んーと、いっぱいだねぇ。」
 
 玖恭は全員の名前を覚えようと必死だ。

「クウヤは頭良いのだな。」

 玖恭はコクリと頷く。

「………うん。お勉強いっぱいしなさい言われる。面白くないのに。」

 玖恭の住む国は小さなうちから勉強をする。ほぼ全員の子供がやっていることにラワイリャンは最初驚いた。

「大丈夫なのだ!とう…、玖恭は頭が良いのだから!でも子供のうちは遊ぶのも大事だからの?」

 のちにこの言葉の所為で玖恭が軽い性格に変わっていくことをラワイリャンは気付いていない。
 続きをせがまれてラワイリャンはツビィロランが背中を切られたところまでを話した。

「そこでツビィロランは……。」

 ハッとする。小さな子供に殺すの何のと話して良いのだろうか?ラワイリャンはむぅ~と考えた。

「どーしたの?」

 玖恭は話を止めたラワイリャンを不思議そうに見ていた。
 ここからツビィロランの魂が入れ替わるのだが、入れ替わりは玖恭の時間からいくとまだまだ先の話になる。どう説明する?話は長くなるのにラワイリャンは序盤から止まってしまった。

「ねぇ、ねぇ、どーしたの?」

「む、……むぅ~~。我にもこの説明は難しいのだと今知った。」

 悩み出したラワイリャンを玖恭はヨシヨシと撫でた。

「そっかぁ~、子供になっちゃったもんね。」

「むむ、そう、なのかの?もしや頭の中身も幼くなってしまっておるのかの?」

 自分の頭を抱えて悩み出したラワイリャンの髪を、ツンツンと引っ張る存在がいた。

「わわっ、もう時間か!短いのぅ~~~!」

 ラワイリャンは玖恭を改めて真っ直ぐ見た。

「もう帰るの?」

 悲しそうな顔の玖恭に別れを告げる。

「うむ。じゃが、我らはいつかまた会えるのだ。必ず、会えるから。」

「本当!?待ってるね!」

 今の玖恭には分からないだろう。この幼い玖恭は透金英の記憶が無い。
 まろやかな頬にチュッとキスをした。

「コレはお別れのキスでは無いぞ?また会おうと言っておるのだからな?」

 玖恭はキスをされた頬に手を当て、嬉しそうに笑った。

「うん、絶対ね!」


 徐々にラワイリャンは離れていく。
 今から以降のラワイリャンに会うことはもう無い。
 だがこちらに来た透金英には会える。

「まただの~。」

 


 ラワイリャンは世界の壁に戻された。

「コレがなくてはきっと始まらないからね。」

 采茂は笑ってそう言った。

「そうなのか?」

「そうだよ。純粋で好奇心旺盛な仙の女王よ、達者でね。」

「うむ。」

 これで本当に最後だ。もうシュネイシロとスペリトトには会えない。
 ラワイリャンは手を振った。

「…あ、ラワイリャンの従仙はそのままだから。」

 ついでのように采茂は言い残して消えていった。
 世界の壁に無理矢理穴を開け直し消えていく。出来た穴はスルスルと元通りになっていった。
 これで重なっていた世界と世界は離れていく。また重なる時があるのかも予測できないほどに遠くへ。

「……………っ!ついでに解除していかんかぁーー!」

 ラワイリャンの虚しい叫びが何も無い空間に響いた。







「………ーーーヤ、ラーヤ。」

 揺すられてラワイリャンは目が覚めた。

「んむ、む。」

「ラーヤ、涎が垂れてるよ。」

 なんたること!ラワイリャンはサッと目を開けて口元を拭った。嘘でも冗談でもなく本当に垂れていてカアッと顔が赤くなる。

「ほら、服の袖で拭かない。」

 玖恭は丁寧にラワイリャンの口元に布を押し当てながら拭いてくれた。
 玖恭は優しくラワイリャンを見ていた。ここで意識を飛ばしシュネイシロに別れを告げに行ったラワイリャンを探してくれたのだ。

 ラワイリャンは天空白露が浮き、シュネイシロらしき存在を感じた。そして透金英がこの世界に渡って来たのも感じた。
 きっと直ぐにラワイリャンを探してくれる。
 そうは思ったが、本当にそれで良いのかと心配になった。

「玖恭は良かったのか?向こうを捨てても大丈夫なのか?」

 向こうにいた透金英は楽しそうだった。友達と遊び、ふざけ合い、学びの場では同じ年頃の者達と固り学業に勤しむ。こちら側よりも平和で安全な世界。向こうのほうが幸せだったのではとラワイリャンは思っている。
 玖恭は微笑んだ。
 椅子に座って寝ていたラワイリャンの脇に手を入れ、軽々と持ち上げた。

「はは、軽っ!」

 玖恭はプランとぶら下がる足を見て、上に持ち上げたラワイリャンの顔を見た。
 目を細めて嬉しそうに語る。

「そんなに心配しなくてもいい。俺は望んでここに戻ったんだ。ラーヤと一緒にいたいからさ。」

 ラワイリャンは目を見開く。

「そうか………。」

 潤んだ瞳を見られたく無いのに、玖恭は下に下ろそうとしない。ラワイリャンの顔を覗き込んでずっと嬉しそうに笑っている。

「そうだよ。」

「……………我は嬉しぃ……。」

 ポロリと涙が流れる。薄い緑色をした肌を滑って、ポタポタと絨毯に染みを作っていった。

「うん、俺もだ……。」

 小さなラワイリャンを胸に抱きしめて、玖恭も目に涙を浮かべた。

「また、会えたね。」













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