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女王が歌う神仙国
64 アオガは怒る
しおりを挟む仙の誕生を見届けてから、コーリィンエの神殿に戻ると上空に巨大な飛行船がやってきた。
「おおーーー、でっけぇ~~。」
「わぁーー、すっごいねぇ~~~!」
イツズと二人でポカーンと上を見上げる。
飛行船にも用途に合わせて様々な形や大きさがあるが、イリダナルが所有する飛行船は巨大だった。大型飛行船というより巨大飛行船だ。
着地は場所がなくて不可能なので、そのまま上空待機となり、小型飛行船に乗ってイリダナル達が降りてきた。
降りてきたのは持ち主のイリダナルとワクワクとついてきたリョギエン、神聖軍主アゼディムも来たようだ。後はトステニロスとテトゥーミもついてきていた。
「ちょっと!護衛を置いていなくならないでよ!」
アオガも来ていた。明日から任務よろしく~という状態で対象がいなくなって怒っている。俺に言われてもね?
「しょーがねーじゃん。無理矢理連れてこられたんだから。」
「私がいる時に問題起こしてくれないと、臨時手当がつかないんだよ!?」
「……………俺はアオガの手当てのために問題を起こす気はないからな?」
アオガは相変わらずだった。
アゼディムがまずクオラジュから現状を確認し出したので、俺とイツズはリョギエンと話し出した。
「リョギエン様!ほら、図鑑で言ってたやつですよ!燻製にしてみました。」
イツズは出来立てホヤホヤの芋虫燻製をリョギエンに渡した。
「薬材にしたいと言っていたやつだな。一日しかなかったのにもう手に入れるとは、イツズは大したものだな。」
リョギエンは有り難く受け取っていた。リョギエン分と言って布に包んで小箱に入れていたので、その小箱ごと大事に懐にしまっている。
しかも他の植物も見たいとイリダナルにねだりだした。
「港町に行けば色々あるはずだが…、流石に森の中に取りに行く時間はないぞ?」
キラキラと目を輝かせる二人にイリダナルもタジタジになっている。
二人に引っ張られるようにイリダナルとサティーカジィは連れて行かれてしまった。物々交換でしか買えないだろうが、イリダナルは何度も神仙国と交渉してきてるので知っているだろう。
「ツビィロランは怪我はなかったか?聖王陛下が心配していた。」
アゼディムが話しかけてきた。
「ああ、うん。平気だった。それよりフィーサーラ閉じ込めてんだけど。」
「聞いている。」
「一旦天空白露に持ち帰りですね。」
フィーサーラは物みたいに言われている。
赤の翼主であり、仙に操られていたことを考慮して謹慎処分程度になるだろうと言われた。未遂だし俺も男なのでそこまで騒ぎ立てたくもないので、それでいいと了解した。
神聖軍の兵士に連れてこられたフィーサーラは、意外にも元気だった。一応食事はサティーカジィが運んであげていたので、ゆっくり休んでいたのだろう。
「……賠償金取らなきゃ。」
後ろからツンツンしながらアオガが囁いてきた。お前がめついな。
「でもさー、騒げば人に知られるし恥ずかしいじゃん。」
「示談で交渉しましょう。」
クオラジュまで混ざってきた。
いくらにする?と二人が話し合いだし、俺は呆れてしまった。
フィーサーラ本人が兵士に連れられ神殿から出てきたのでここで一旦会話が途切れた。
アゼディムが前へ出てフィーサーラに天空白露へ戻る旨を伝えているのを黙って見ていると、フィーサーラがこちらへ向かって来た。
身構えるとクオラジュが間に立ってくれたのでちょっと隠れる。
「何用でしょうか。」
クオラジュが和かに尋ねると、フィーサーラも口角を上げて言葉を返す。
「神子に一度謝らせて下さい。」
謝る……。まぁそれくらいは受けとこうかとクオラジュの前へ俺が出ると、クオラジュも身体を横に引いてくれた。
フィーサーラは俺の前へ近寄り跪く。
胸に手を当て頭を下げた。
「この度の神子への不誠実な対応にお詫び申し上げます。赤の翼主としての責任の足りなさに、深く反省しております。予言の神子ツビィロラン様へのより一層の忠誠を誓いますので、どうかお許し願えませんでしょうか。」
今までのベタベタとした馴れ馴れしさはなりを顰め、真剣に謝ってきた。この世界には土下座はないので、この姿勢が上位身分に対する敬う姿勢になる。
なんかちょっと前にもクオラジュにされた気がするなぁと思いつつ、未遂だしクオラジュとの方がよっぽどやってしまった感があるので謝罪を受けることにした。
「あーー、まぁいいよ。次はないからな!」
フィーサーラは顔を上げてニコリと笑った。今までどこか人を下に見ていた節があったが、今それはない。
立ち上がり俺の左手を取られる。
「神子の寛大な心に感謝致します。」
そう言って手の甲にチュッと口付けを落とされた。その手の甲にチュッとするやつフリでいいはずだよな?本当に唇つけるとか、この世界では常識なのか?
横に立つクオラジュを見ると、長衣の中に潜む剣の鞘に手が乗っている。
今にも剣を抜きそうなクオラジュの前に、アゼディムが手を出して止めていた。
「地守護長と事を構えるわけにはいかない。天空白露で公式に罪状を出す必要がある。」
おお!クオラジュが剣の鞘から手を離した。
フィーサーラは地守護長の息子であり、現赤の翼主だ。簡単に切るわけにはいかないんだな。
フィーサーラが人をくった顔でクオラジュを笑っているのが見えて呆れてしまった。
それにしても手の甲チュッはありなのか?
クオラジュの沸点がわからないので後で誰かに確認しよう。
フィーサーラは先に神聖軍に連れられて巨大飛行船に連れられて行き、俺達はイツズ達が戻るのを待った。
待つ間、クオラジュはトステニロスと何か二人で話し込んでいた。
「なーなー、クオラジュとトステニロスって仲良いよな?」
俺は一緒に待っていたアゼディムとその様子を眺めながら尋ねてみた。前々から気になっていた。トステニロスだけクオラジュに引っ付いて動き回ってるんだよなぁ。今も二人で何やらコソコソと相談しあっている。
「………………。」
何故かアゼディムが俺の顔をマジマジと見てくる。そして口を手で覆い何か考え出した。
「………なに?」
「いや…………。」
アゼディムが何か言いたげにこちらを見たが、結局何も言わなかった。
「あのー。」
「うおっ!?」
背後から声をかけられ驚く。
テトゥーミが立っているのに気づかなかった。
「トステニロスはクオラジュ殿の、」
言いかけて何故かテトゥーミも口を閉じてしまった。目線がアゼディムを見ている。そして首を傾げている。
アゼディムが首を振っていた。
「え?なに?まさか秘密なのか?」
俺だけ部外者?なんだか面白くない!
「本人に聞くといい。」
アゼディムがそれだけ言った。
えー?なに?秘密なの?
ムカムカムカ。なんだか面白くないな!
「俺イツズ達に合流しよーっと。アオガ行くぞー。」
「了解~。」
護衛兼従者のアオガを連れて俺も港町に行くことにした。
クオラジュとトステニロスはまだ話し込んでいるので、テトゥーミもアゼディムと並んで待っていた。
「何故教えてはいけないんでしょうか?」
「………ロアが、いや聖王陛下があの二人をくっつけたがっている。協力すると言った手前やらないわけにはいかない。」
「それとトステニロスがクオラジュ殿の叔父だということを秘密にするのは何か関係があるのでしょうか?」
「秘密は多い方が恋路が進む物じゃないのか?」
「え!?」
テトゥーミは驚いた。
そうだったのか!テトゥーミは秘密を持つのが苦手だという自己認識があったので、自分の恋が発展しない理由を再認識した。
でもこれ以上秘密にするようなことがない。
なぁーんもない。話し過ぎた。
立ち去り際、そんな二人の会話を聞いたアオガがシラッと白い目で二人を見る。
なんの苦労もなく番を手に入れたアゼディムと、トンチンカンな努力しかしておらず番を手に入れていないテトゥーミに、恋路の何が分かるんだろうかとしらけてくる。
「私はああはならない!」
自分も港町で神仙国ならではの贈り物を選ぼーっと、と先に行くツビィロランを追いかけた。
「アゼディム、少しいいか?」
トステニロスだけ戻ってきた。
「ああ、クオラジュは?」
「ツビィロラン達を追いかけていった。」
そうか、とやはり二人の仲が深まっているのかとアゼディムは確信した。
「それで?」
「神聖軍は小型船を持ってきただろう?一台貸してくれないか?」
クオラジュから竜が住まう山まで行って欲しいと頼まれたらしい。一番早いのを貸してくれと頼まれたので了承した。近くにいた部下へ用意しておくよう命じる。
「先程ツビィロランからお前達の関係性を聞かれたんだが、直接聞くように言っておいた。」
トステニロスはちょっと目を見張り、軽く笑った。
「分かった。あの二人は大分仲良くなったようだよ。後はクオラジュがどうにかするだろう。」
叔父としては嬉しいらしい。
「説明するにしても聞かれて困ることとかもあると思ってな。」
「そうだな……。とりあえず今は祖国の様子がおかしい。黙っててもらえると助かる。」
会話を進める二人にテトゥーミがむすぅと頬を膨らませていた。
「また僕抜きで情報交換があったんですね……。」
テトゥーミはお喋りで周りの空気を読まずに話してしまう為、伝えられる情報に制限があった。そして本人もそれを承知してはいる。してはいるが納得は出来ていない。
なのでまたかと思った。
アゼディムは濁して伝えたのだがトステニロスによってなんとなくテトゥーミに黙っていたことがバレて顔を背けた。
「………ごめんな。」
「そしてまたトステニロスは出るんですね。」
「今回は直ぐに帰ってくるから。」
「うう…………、トステニロスのばぁかぁ~~~!!」
うわーーーーんとテトゥーミは翡翠の羽を広げて空に浮かぶ巨大飛行船へ飛んでいってしまった。
「ああ……、すまん、先に帰っておく。」
慌てたトステニロスはアゼディムに断りを入れてテトゥーミを追いかけていった。
残されたアゼディムも周囲にいた部下達を見回し乗船の合図を出す。次々に羽を広げて空に舞う天上人達を、ツビィロランを追いかけていたクオラジュやアオガは確認していた。
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