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竜が住まう山

36 黎明色の髪

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 ユッサユッサと揺さぶられる感覚に、目を回しながら俺は目覚めた。

「うおっ、起きた!………わっちょっ、起きたから!」

 揺さぶっていたのはヤイネだった。
 抹茶色の髪を乱しながら、俺を勢いよく揺さぶっていた。

「……はっ!よっ、良かったぁ~!泣きながらうなされているもので、もしかしたらまた悪夢を見ているのかと……!」

 涙……?夢では確かにクオラジュの前で大泣きしてしまったが、まさか現実でも泣いていたのか?
 俺は目に手を当て涙が出ているか確認した。

「うわ、ホントに出てる。」

「心配しました……!アオガ様に続いてツビィロラン様まで消えてしまうのかと……!」

「あーーーー、ごめん。悪夢ではないんだけど、変な夢見て。」

 ヤイネはそれならいいんですけど、と言って濡れた布を持ってくると言って出て行った。
 あ~、恥ずかしい。夢見て泣くとか初めてだ。
 起き上がると既に夕暮れの空だった。何かご飯を作っているのか、いい匂いがしてくる。
 ロジチェリが森の中へ迎えにきた時は、昼を過ぎてしばらく経った頃だった。そこから考えると寝ていた時間はそう大して経っていないことになる。
 向こうの世界のこともクオラジュのことも、まだ上手く理解しきれていない。もう少し考える時間が必要だった。
 ツビィロランはハァと溜息を吐いた。
 何で俺がこんな目に…………。
 立てた膝にオデコをつけて、もう一度深々と溜息を吐いた。






 俺達はトネフィトの説明を受けながら晩御飯を食べることになった。
 晩御飯は普通に焼き魚と粉を練って団子にしたものが入った汁物だった。
 白米欲しい。
 今まで地上をあちこち歩いて周りはしたが、未だに白米に出会っていない。主に粉を練った何かかパンが主食になる。

 トネフィトは説明の後に、クオラジュと炎竜ワントが戦った記録があると言って見せてくれた。
 空中に浮かび上がる戦闘シーン。

「ゔわぁ…。」
「エゲツナイ。」
「クオラジュ様って容赦ありませんね。」
「敵にしたくありません。」

 皆様々な意見が出たが、同一意見は「怖い。」だろうか。
 
「そうなんだよ。なので色々教えて場所まで提供していたのに、結局透金英の花は貰えないし、後から来る者達に貰うように言われて、私達も唯々諾々いいだくだくと……。」

 トネフィトはやさしーく圧を掛けられたのだと情に訴えてきた。
 俺達はアハハと笑うしかない。
 
「透金英の花を、ということは神聖力さえあれば作ることが出来るということですか?」

 ヤイネが尋ねた。

「道具は揃ってるんだ。幸い私達は寿命を迎えた老竜の身体を手に入れていたからね。生憎眼球はその竜の場合歳を取り過ぎていて使えなかったんだけど、クオラジュが炎竜のものを譲ってくれたから助かったよ。」

 道具はまた後日見たければ見せてくれると言った。

「自分達の神聖力じゃ足りないってことか?」

「足りないんじゃないかと思ってる。私は作らなきゃだから神聖力を使うわけにはいかないし、ロジチェリとカンリャリに神聖力を出してもらおうかと思ったんだけど、足りなかった場合材料が全部パァになるからね。もう一度集め直すには時間がかかるんだよ。」

 ザッと簡単に材料の名前を聞いてみても覚えきれない。竜の骨と鱗で器を作り、月冥魂の光で材料を煮詰める。透金英の花は大量に混ぜ合わせる材料を繋ぐための物で、魔狼の核、生命樹の葉、妖霊の生血、精霊魚の花肉とかいうのが大きな材料となる。後は薬草類が細かく数百種類いるんだとか。

「全部集めに行ったのか?」

 トネフィトはそんなバカなと笑いながら否定した。
 
「スペリトトの像がある山に遺跡のような場所があってね。そこに揃ってたんだ。ただ残りって感じで少しずつね。足りないのはすぐに大気に消えてしまう神聖力と薬草類が数十種類。後は器は作り直したよ。神仙国まで行くのは骨が折れたけどね。あそこはそよモノを嫌うから。」
 
「じゃあクオラジュ達も集めるつもりなのかな?」

「炎竜の死体を持って行ったし、魂の核も時止まりの入れ物に入れて行ったから、万能薬を作るつもりはあると思うよ。まずは器を作ってもらう為に神仙国に行ったんじゃないかな?」

 どうやらトネフィト達はクオラジュが今どこにいるのか知らないようだ。俺の夢に出てきたから近くにいそうな気もするが、夢に距離は関係ないんだろうか。
 
「分かった。透金英の花は俺がいくらでも出してやれるから、先にアオガ救出を手伝ってくれないか?」

 やっぱりクオラジュについては後回しだ。何をしたいのかさっぱり分からない。

「そうだね。急がないと身体ごと持っていかれたってことは、深い悪夢に襲われた可能性があるね。」

「あ、そういえば、俺も悪夢見たのに何でアオガだけいなくなったんだ?」

 二人ともいなくなるならともかく、いなくなったのはアオガだけだった。

「夢にクオラジュが出てきたんなら、彼が連れ去られる前に目を覚まさせたんだと思うよ。」

 俺は夢の中で頭を鷲掴みされて目を覚ましたのを思い出した。あのまま悪夢を見続けたら俺も連れ去られていたってことか。ツビィロランだとは知らなかったからか態度は冷たかったけど、一応助けてくれたんだな。

「じゃあ、アオガはまだ悪夢を見てるってことか?」

 今は夜だ。丸一日悪夢の中にいることになる。

「私達もスペリトトの像の中の術にかかったことはないんだよね。おそらく身体はスペリトトの像の近くにあって、眠らされて悪夢を見ていると思うよ。」

 何度か竜が悪夢に襲われてスペリトトの像の近くで息絶えるのを見たことがあるらしい。
 大概が苦しみもがいて死ぬらしく、助けてあげるなら早い方がいいと言った。

 俺達は体力を回復させる為に少し仮眠を取ってから、一番高い山にあるというスペリトトの像へ向かうことにした。
 








 クオラジュの目がフッと開く。
 山々の合間に遠く街並みが見え、橙色の光がその向こうに隠れようとしていた。
 眩しいほどの太陽の光も、山の影に隠れると空を赤く染め、影を作る山々は陰影のない黒へと変わっていく。
 開いた瞼の間から、氷銀色の瞳が燃える炎の色を写すように揺らめいていた。
 人はクオラジュの髪を黎明色だという。
 青から紫、そして橙色へと変色していく髪は明け方の空のようだと比喩されることが多い。
 
「朝焼けも夕焼けも、たいして変わりありません。」

 ポツリと呟く。
 夜が終わり朝が来るのも、朝が終わり夜が来るのも、何に恐怖し、何に感動を覚えるのか。
 クオラジュの黎明色は決して良い意味ではない。
 夜の色は予言の神子の色。
 その夜色を消さんとする朝の太陽は、天空白露ではあまり好まれない。
 青の翼主最後の生き残りは、髪の色が混ざっている。本来なら赤色を思わせる橙色が毛先に入るのはおかしい。それは、クオラジュが青の翼主一族だけの血ではないことを意味していた。
 青も赤も緑も、何なら神聖軍主や予言の一族も、皆色味を重視している。
 本来ならクオラジュが青の翼主になることはなかった。
 どんなに強い神聖力を持って生まれても、他に候補がいたらクオラジュではなかった。
 クオラジュの神聖力は桁違いだった。その力が静かに眠る赤ん坊の中にあるのを見て、青の翼主一族はクオラジュを次期翼主と決定した。異例のことだった。
 青の翼主一族はその後直ぐに滅んだが、クオラジュが生かされたのは類稀な神聖力と、この髪の色のおかげ。
 黎明色は夜を侵食する色。
 忌避されるべき色だから、誰もクオラジュに手を貸すものなど現れないだろうと考えられた。
 今は聖王陛下ロアートシュエと神聖軍主アゼディムによって消されたが、当時の緑の翼主一族は、クオラジュを都合よく飼い殺そうとしていた。

 クオラジュは部屋に置かれたソファで眠っていた。スペリトトの動く気配を感じて後を追ったのだが、またあの青年が不思議な景色の中、立っていた。
 実際に現実としてある世界なのかどうか分からない。薄らぼんやりとした感覚から、もしかしたら幻なのかもしれないと思ったが、青年はその風景を見て泣いていた。
 その風景の中で笑顔で喋る男性を見て、あれは自分なのだと嘆いていた。
 確かにその男性と、泣いている青年は似ていたが、青年は二十代半ば頃に見えるので年齢が違うように感じた。
 あまり長居をするべきではないと感じ、無理矢理元の場所に帰ろうとしたが、青年の瞳から、後から後から涙が流れてきて本当に困ってしまった。
 クオラジュの前で泣いて見せる人間は意外と多い。
 孤独で真面目な青の翼主は、味方になってあげればいうことを聞くと思われがちだ。
 笑顔を振り撒き、涙を見せ、ありとあらゆる手で近寄られることもしばしば。
 
 だけど、この涙は………。

 慰めてみようと背を撫で涙を拭い頭を撫でても、黒い瞳から溢れる涙は止まらなかった。

 青年は突然クオラジュから逃げるように離れたのは、身体について話した時だ。
 あの幻を自分の身体と言い、その身体に別人が入っていると自分は言った。
 そして、今青年の身体はどうしているのかと聞くと、離れて行った。

「………………竜の住まう山にいて、自分の身体を失った魂?」

 濃く感じたスペリトトの気配。
 あの青年を追っていた?

「ツビィロラン?」

 微睡むように夕焼けを見ながら思考に耽っていたクオラジュは、ハッとして起き上がった。
 そんな条件に当てはまる人物なんてツビィロランしかいない。
 天空白露から人が来るよう仕向けたのはクオラジュだ。そして聖王陛下はここの特質を知っている為、寄越す人間は天上人しか出さないと思っていた。
 ツビィロランは年齢こそ二十五歳だが、背に傷がある為、開羽していない。
 だからスペリトトの悪夢の術に掛かったのか。
 気付かず邪魔をして良かったのか、それとも魂を殺した方が良かったのか……。
 何故ロアートシュエは態々ツビィロランを?危険だと知っているはずなのに。

「……………私か。」

 ロアートシュエは知っているはずだ。ツビィロランを殺そうとした人間が誰であるのかを。
 ツビィロランもツビィロランだ。何故自分が足を運んだのか!
 聖王陛下ロアートシュエはクオラジュに対して同情的だ。青の翼主一族に対して負い目があるからだが、天空白露を海に落としてもまだ、クオラジュに何か思うところがあるのだろうか。
 暫くロアートシュエが何を思ってツビィロランをこちらに寄越したのかを考えたが、何も思い浮かばなかった。

 それにクオラジュももしかしたらツビィロランが来るかもしれないと少しは思っていた。
 まさか中身があの青年だとは思わなかったが…。
 天空白露で会っていたツビィロランは強気な青年だった。自分が強いところも弱いところも受け入れて、常に強くあろうとしていた。
 そう思えば一度目の夢で、何度も高所から落ちながらも助かる手立てを考えていた姿はツビィロランだとも言える。
 先程のツビィロランはまた違ったが………。
 またあの泣き顔が脳裏を過ぎる。
 
「………………。」

 暫く考え込んでいると、ガチャリと扉が開いた。

「お、起きたのか?このまま空を飛んどくか?」

 飛行船は竜の結界に触れないギリギリの場所をずっと回っていた。
 入ってきたのは勿論トステニロスだ。

「ツビィロランが山に来ています。トネフィト達と合流しているかもしれません。」

「そうなのか?…………離れた方が良くないか?」

 何故だか天空白露を落としたクオラジュのことは、世間に知られていない。偽物だったホミィセナは本物の予言の神子として扱われ、地面に落ちるのを防いだことになっていた。
 天空白露の為を思えばそういう処置をしたのだろうが、そうなるのならばもっとホミィセナが偽物であるという場面を作れば良かったと思える。
 ロイソデ国出身のホミィセナが美談になるのは好ましくない。

「……少しツビィロランと話をしてみたいです。」

「おいおい、危なくないか?流石に一人では来てないだろ?」

「私達が負けることはありません。」

 そりゃそうだけど……、とトステニロスは反抗的だ。

「スペリトトの像へ行く可能性がありますから放っておくわけにはいきません。近くを周回して下さい。」

「え?一晩中?」

「そうです。」

 そうか………。トステニロスは渋々また操縦室へ向かっていった。

 クオラジュはまた目を瞑る。
 思い出すのは月の光を浴びて浮き上がる無数の水滴に反射する銀色の光。
 小舟に立った小柄な青年の髪から、銀とも金とも言えぬ光の粉が舞い、それは幻想的な景色を作り出していた。
 クルリクルリと回る青年の長い前髪から覗く、琥珀色の滑らかな瞳には、強い意志が見え隠れして、クオラジュは何も出来ずに魅入られた。

 あの時から迷いっぱなしだ。


 あの時から、囚われている…………。







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