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3章 俺の愛しい皇子様
94 兄ちゃん大好き
しおりを挟むヨジュエスはリューダミロ王国のロクテーヌリオン公爵家の長男だ。産みの親アーリシュリンと父ムルエリデとの間に出来た子供だが、前世の記憶が残っている。
中学生の頃強盗に殺された兄、真白を追ってここまで来た。
虹色の髪の人がここに生まれ変わらせてくれたのは分かるが、詳しくは知らない。
真白兄ちゃんは今、スワイデル皇国の皇太子妃としてスワイデル皇宮に住んでいる。
なので日向ことヨジュエス・ロクテーヌリオンはスワイデル皇国ソルトジ学院へ留学して来た。
今十六歳。
早いものでここに生まれ変わってもう十六年も経っていた。
「くっそおぉぉ~!」
スワイデル皇国皇都に複数ある広大な公園の一角でヨジュエスは叫んだ。
真白兄ちゃんことロルビィ・スワイデルに会いに度々皇宮へ行くのだが、ついてくるユキトが鬱陶しい。
二人とも特に明言してはいないが、ユキトは一瑶だ。
日向は一瑶が大嫌いだった。
優しくて面倒見のいい真白兄ちゃんを、いつも掻っ攫って行くのだ。
周りの大人達は俺が一瑶と一緒にいたくてついて行きたがっていると勘違いされていたが、全然違う。俺は真白兄ちゃんと遊びたかったのだ。
生まれ変わっても何故か側にアイツがいて、俺を見下ろして鼻で笑うのだ。
一瑶は上手く大人達を騙して真白兄ちゃんの勉強を見ているフリをしていたが、本当は違う事に日向は気付いていた。
一瑶の方が真白兄ちゃんに付き纏っているのだ。
真白兄ちゃんが他の誰かに行ってしまわないように、監視してがんじがらめにしようとしている。
日向は子供ながらにそう思っていた。
一瑶が死んだ時の真白兄ちゃんの嘆きようは可哀想だったが、日向は真白の側にいて一生懸命慰めたものだ。
そんな大事な兄も数年後には亡くなり、日向は一気に暗くなりとりあえず生きていた。
他の誰かが大事に思える日が来るかもしれないと、真面目に生きていて病気になり、あっさりと若くして死んでしまった。
別に自分が死んだのはどうでもいい。
なんならこうやって真白兄ちゃんの側に生まれ変わる事が出来て嬉しい。
しかし、あの一瑶もいる事に、ヨジュエスは腹が立つばかりである。
「なんだい?また父上に邪魔されたの?懲りないねぇ。」
話しかけてきたのは二つ歳下のスバル・スワイデル。ロルビィとユキトの間にできた一人目の子供だ。
長男で優秀なスバルは次期皇太子と言われている。
そろそろスワイデル皇国の皇帝の座はユキトへ引き継がれる予定だ。そんな早く皇帝とかなりたくないというユキトの我儘により、祖父のスグルがずっと皇帝をしていた。
ユキトは魔導回路の研究とロルビィを可愛がりたいという思考しかないので、十年程したら直ぐにスバルへ皇帝の座を引き渡してきそうで、スバルも嫌がっていた。
「折角秘密裏にロルビィ様とカフェに行ったのに、なんでかアイツが来たんだよ!」
「父上をアイツ呼ばわりして首が飛ばないの、ヨジュエスくらいだからね?」
ヨジュエスの怒りをスバルはやんわりと嗜めた。
ヨジュエスは産みの父であるアーリシュリン似で金髪に真紅の瞳の小柄な見た目をしている。
対してスバルは姿形はユキトに似ているが、亜麻色の髪と翡翠の瞳がロルビィ似だ。
だからかまだ下にいる弟、妹たちが銀髪だったり、紫の瞳だったりする子達よりも、ヨジュエスは一番仲が良かったりする。
ヨジュエスはしょんぼりと肩を落とした。
「今度こそいっぱい一緒にいれると思ったのに…………。」
ぽんぽんと背中を摩りながら、スバルはヨジュエスを慰めた。
「ほらほら、僕が一緒に遊ぶから、今日はどこ行こうか?行くって言ってた新しいアイスクリーム屋さんは行けたの?」
真紅の瞳がスバルを見上げで首を振る。
じゃ、行こっか、と言って手を引くと大人しくヨジュエスはついてきた。
二つ下の筈なのに、スバルはヨジュエスより既に大きいし、落ち着いているので同じ歳にしか見えない。
なんなら飛び級制度で二人は同じ学年である。
ヨジュエスはすっかり歳上という事も忘れてスバルに甘える毎日だった。
スバルはこの二つ上のヨジュエスの世話係になっていた。
最初は二つも上なのに手が掛かるヨジュエスを面倒臭く思っていたのだが、慣れとは恐ろしいもので、板についてしまった。
二人で並んで買ったアイスクリームを食べながら、ヨジュエスの頬についたアイスをハンカチで拭いてやる。
「ん、ありがと。」
せっせと小さい舌で舐めとるヨジュエスの横顔を眺めながら、スバルは大口でアイスを食べ切った。
「もう食べたのか?早いな。」
「ヨジュエスが欲張って三段にするからだよ。」
二人はアイスクリーム屋から程近いベンチに座って食べていた。
今日は天気もいいのでアイスが溶けるのも早い。
無心に食べるヨジュエスは人目を引く美人だ。まだあどけない顔は可愛らしくもある。
通り過ぎる人達がチラチラと見ているが、本人は全く気にしていない。
見目も整い体格もいいスバルが隣にいるから安全なだけで、隙があり過ぎていつ貞操の危機に陥るかスバルとしては心配でならない。
「スバルはあんな男になるなよ!」
チラリと横目で真紅の瞳がスバルを見た。
舐めていた舌を見ていたスバルと視線が合うが、全く恥ずかしそうにもしない。
ヨジュエスにとってはスバルは弟のような親友のような存在で、まさか邪な視線を向けられているなど露ほども考えていないのだろうとスバルは思っている。
「ああ、うん。大丈夫。おかしな性癖は持ってないと思うよ。」
性癖?とヨジュエスは首を傾げたが、大丈夫と言われたので納得したようだ。
スバルは中身ユキトに似ている方だ。
魔導具開発も好きだし、頭の回転も早い。
魔力も豊富で戦闘能力も高い。
ただ父親の執着心は怖いなとは思っている。
好きな人には自由に楽しくして欲しいと思っている。
でも最近思うのだ。
もしヨジュエスに好きな人が出来たら?
今はロルビィ父様一筋だから問題ないが、そのうち違う人を追いかけるようになったら?
スバルの存在を疎ましいと思うようになったら?
それは、許せないんじゃないだろうか。
それが父親の行動の一端となっているのなら、自分も同じ行動を取りそうで怖いなと思っている。
「うーん、頑張るよ。」
スバルの念を押すような返事に、ヨジュエスは首を傾げた。
「うん、頑張れ?あ、アイス溶けるの早いから手伝って。」
渡された食いかけのアイスをハイハイと言いながら受け取り、スバルはヨジュエスの食べ掛けだと思いながらアイスを食べ切った。
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