翡翠の魔法師と小鳥の願い

黄金 

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2章 俺のイジワルな皇子様

80 ユキトの貞操

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 唇を柔らかなものが触れている。
 子供の唇だと分かるが、想い焦がれるロルビィではない。それよりも小さい幼いものだ。

「ふふ、あまぁ~い。」

 幼い少女の声がした。
 チロチロと舐められて不快だが瞼が開かない。
 何故か身体が熱く発汗しているのだと思うが、服を着ている感覚が無かった。
 下半身に熱が集まり、自分の陰茎が温かなものに包まれる感覚。
 魔力がグルリと腹を回り、吸い出される様な脱力感が起こる。

「……あ、はぁ!いい!何て気持ちいいの!」

 別の女の声もする。自分の陰茎がこの女の中に入り、魔力を取られているのだと理解した。上に上がりグチュリと音を立てて下り根元まで包まれると、女の魔力が押し出される様に流れてくる。
 気持ち悪い………。
 ドロドロとした泥水の様だ。

「………ぐ……っ、……う゛ぅっ!」

 無意識に自分の口から苦しげな声が吐き出される。

「はは、お前達は気持ちよさそうだが、ユキト・スワイデルはそうでも無さそうだぞ?」

 今度は楽しげな男の声が聞こえた。
 全員知らない声だ。
 重い瞼を何とか開けると、そこは閉め切って薄暗い部屋に男性と半裸の女性と少女が裸のユキトを取り囲んでいた。
 ユキトの着ていた服は床に無造作に散らばり、腰に下げていた袋も落とされている。

「あら、目を開けたわ?何て綺麗な紫の瞳かしらぁ!」

 喜色満面に少女が覗き込んだので、ユキトはギッと睨み付けた。コイツが先程唇を舐めていた奴だろう。
 下半身に女が跨り腰をくねらせている。
 別に女が抱けないわけではない。魔力譲渡で異性も相手にしていたので慣れてもいるが、意識が無いうちに勝手に使われるのはかなり不快だ。

「………………此処はどこだ?」

 ユキトは低い地を這うような声で尋ねた。
 ユキトの記憶では顔の上で自分を覗き込む少女は、突然大量のカーンドルテ兵を引き連れユキトの前にやって来た。
 こんな戦場には似つかわしくない真っ白なドレス姿の少女に、流石のユキトも対応が遅れた。
 敵か味方か、攻撃か保護か迷ったのだ。
 意識が前にいる少女に向いていた隙をつかれ、後頭部に不快な激痛が走り昏倒した。
 そして今に繋がる。
 自分は捉えられたのだろうと思うが、此処が何処だか分からなかった。
 
「此処はハゼルナルナーデ国の王城。私が預かる城の一角だ。私の名はリッゼレン・ハゼルナルナーデ。この国の第二継承者だ。」

 リッゼレンは敢えて第四王子である事を言わない。既にもう二番目も三番目も死んだのだ。今までこの四番目という位置に苦渋を舐めさせられたが、今の自分が二番目であり、ゆくゆくは王太子となり王となるつもりだった。

 ユキトはまずい所に自分がいる事を理解した。
 海を超えた国の王城等、助けを期待する事は難しい。無理矢理攫って連れて来られたとは言え、どうやって此処まで来るのか、誰が来れるのか……………。

 ーーーユキト殿下を助けますーーー

 翡翠の瞳をキラキラと輝かせたロルビィの顔が浮かんだ。
 自分よりも幼く小さな少年は、何度も何度もそう言うのだ。
 その為に生きていると言わんばかりに、下手したら妄執では無いかと思うくらいに助けるのだと言う。
 何故そこまで自分が想われているのか、ユキトは今もずっと不思議に思っている。
 神の領域と言われるロルビィは、此処に来るだろうか………。
 来て欲しいと思う気持ちが身体の底から湧き上がる自分に、何を幼児のように弱気になっているのだと叱咤した。
 まずはこの現状を自力で打開しなくては。

「攫って来た挙句にこの扱いは如何なものだ?」

 未だに女の中に陰茎が収まっているが、ユキトはそれを無視してリッゼレン王子を強く非難した。

「やだ、私は気持ち良く無いのかしら?失礼しちゃうわ。折角媚薬を飲ませたのに!」

 女が誰かは知らないが、またゆるゆると揺さぶり出した。
 タップリと濡れた穴はユキトの陰茎を気持ち良く締め付けてくる。

「………………っ。」

「実は萎えてるのでは無いか?どれ、手伝ってやろう。」

 リッゼレン王子がユキトの投げ出された両足を無造作に掴んで上に持ち上げ開いた。

「あんっ!抜けちゃうじゃ無い!」

 女の抗議を無視して持ち上がったユキトの腰下にリッゼレン王子の片足が突っ込まれ、ユキトはお尻を上げる羞恥に塗れた体勢を取らされた。
 ユキトはスワイデル皇国の皇太子であり、こんな恥ずかしい扱いなど受けた事はない。
 ショックで頭が真っ白になった。
 
「うふふふ、すっごく目ぇ見開いて驚いちゃってる!あたしも早く大人の身体になりたいわぁ~。あたしが成長する迄ユキトちゃん壊さないでね?」

 少女は楽しげに青い瞳でユキトの目を覗き込んで、その瞳がスウと黒に変わる。
 黒い渦を巻くような深淵の瞳が、ユキトの脳裏に入って来た。
 
 さあ、良い子だからあたし達のお人形になりましょう?

 そう優しく語りかける声。
 
「成程、それが聖女、いや魔女の魅了魔法の力か?魔力を吸い取り心を弱らせ、入り込んで魅了する。なかなか良い力だ。」

 もっともっと可愛がって我等の奴隷にしようと楽し気に言って、リッゼレン王子は何処から取り出したのか、小瓶からトロリと液体を掬い取った。
 液体はユキトのお尻に垂れ流され、空になった小瓶はポイと遠くへ捨てられる。
 カツーンという音に、ユキトは飲まれそうになる意識を取り戻した。
 だがその時はリッゼレン王子の指が窄まった穴をグリグリと撫でているところだった。

「……あっ、ぐぅぅーー、やっめろ!!」

 ユキトは出ない声で必死に抵抗する。
 何故こんなに力が入らない、何故こんなに声が出ない。
 意識を集中すると、昏倒する前に起きた激痛の素に辿り着く。
 頭の中に何かがある。
 魔法式を組もうとするのに、思考がそれに中断され、上手く組めない事に気付いた。
 何だ?何が頭の中で邪魔をする?
 思考が纏まらず、ジワジワと起こされる身体の不快に邪魔をされて、障害物を探れない。
 ユキトは一旦身体と意識を切り離した。
 貞操を捨て頭の中の障害物を探すのに集中する。
 ツプリとお尻の穴に指が侵入し、吐き気が起こるが無視をした。
 リッゼレン王子の指がゆっくりと挿入を繰り返す。ピリピリと魔力が刺激を与えてくるのは雷属性という珍しい魔法かもしれないが、それが中を刺激して快感を与えようとしてくる。

「…………………っ!」

「あんっ!中がピリピリして気持ち良い!」

 女が気持ち良さそうに喘ぎながら、自分の膣穴を使って上下に扱いてくる。

「向こうの大陸の男性は妊娠出来るから濡れやすいんじゃ無かったのか?」

「人によるわぁ。受ける側の子は濡れやすいけど、明らかに入れる側しか意識してない子は濡れないわよ?」

 リッゼレン王子と少女がユキトの身体を弄りながら楽しげに後ろの穴を割り開こうと、まるでおもちゃで遊ぶ子供のようにお喋りをしている。
 そんな会話も吐き気が増すが、思考の纏まらない頭の中を丁寧に探った。
 
 見つけた。

 小さな魔石のようなものが入っている。
 こんな所に、何故、とは思うが上手く纏まらない思考で魔法式を丹念に編み上げていった。いつも息を吸う様に自然に計算するのに、今は何百倍も時間が掛かっていた。
 魔石の魔力を押さえ込む。
 緻密に頭の中に有る魔石を魔法式で包み込む。

「……………………ふっ。」

 ユキトは気合いとも笑いとも付かない息を小さく吐いた。
 頭の中で魔石は魔法式で隔絶された。
 まだ頭の中にあって邪魔だが、身体に力が入り出す。
 ユキトは動かないと判断され手足は繋がれる事なく自由にされていた。
 右足を上げ思い切りリッゼレン王子を蹴り上げる。その勢いで跨ったままユキトに覆い被さっていた女も落とし、少女を腕で払い投げた。
 まさか動けると思っていなかった三人は、不意を突かれて投げ飛ばされ、咄嗟に動けなかった。
 ユキトは素早くベットから降り、駆け抜けざまに自分の服と荷物を拾い上げ扉から転がり出た。
 人払いがされていたのか護衛らしき者もいない。
 ユキトは身を隠す場所を探し走った。
 この城の人間に見つかるわけにはいかない。しかもまだ自分は裸だ。
 小部屋らしい部屋に一旦入り、上着とズボンに手足を通した。腰に袋を下げ直したが、ボタンをつけている暇はない。
 部屋から出ると一人のやたらゴテゴテとした鉄の鎧を着た兵が歩いて来たので、ユキトは魔法式を飛ばして跳ね飛ばした。
 スワイデルではこんな鉄の鎧なんて着る者はいない。身体強化した身体には不要だし、重いばかりで動きにくいから急所を包むくらいしかしないのだ。後は魔法師が着る防御魔法たっぷりの戦闘服を着るかになる。
 昏倒して意識を無くした兵士から剣を盗んだ。
 
「驚いた。まさかララディエルの封魔石を抑え込める人間がいるとは思わなかった。」

 ハッと驚いて振り返ると、リッゼレン王子が追い付いていた。
 剣を構え対峙する。
 魔法式を組もうとするが、身体は動く様になったが集中しないと式が組めない。
 魔法式は数多の魔法と数式を演算して繋ぎ合わせる。ユキトの強みはその頭脳にある。どんなに複雑な計算も頭の中のみで暗算する事が出来るからこそ、魔法式がリボンの様に繋ぎ合わされ幾重にも宙を踊る様に舞うのだ。
 今は計算に集中する事が出来ないでいた。
 封魔石という物が集中力を途切れさせている。
 リッゼレン王子が剣で切り込んで来た。
 ガギインという甲高い音が廊下に響く。
 鉄の鎧を着た兵達がゾロゾロと集まり出した。

「この男を捕まえろ!多少傷付けても構わん!だが殺すな!」

 リッゼレン王子の命令に兵達がそれぞれ剣を抜いてユキトに襲いかかってきた。
 普段のユキトならこの程度造作も無かった。
 弾いても倒しても次々と湧くように集まる兵達に、ユキトの体力が減っていく。
 身体強化も上手く使えないでいた。

「………………くっ!」

 この頭の中の封魔石さえ無くなれば!
 手に持っていた剣が耐え切れずにとうとう折れた。
 体術を駆使して振り下ろされた剣を避け、足払いで重い鎧を付けた兵士を倒れさせる。少なくとも転がせば重い鎧を纏った兵士は直ぐには起き上がれない。
 
「兄上!」

 リッゼレン王子の反対側から聞き慣れた声が聞こえた。
 吹き飛ばす勢いで長剣を振り回すハルトが目に入る。
 
「何故此処にいる!?」

 同じ銀色の髪を汗ばませてハルトはユキトの側までやって来た。

「一緒に飛び込みましたっ!」

 なんて無茶をするとは思ったが、ユキトは弟の力強い返事に力が湧いた。
 ハルトは兄を庇う様に立ち回った。
 ユキトも武器をと思い、足元に転がる兵から剣を取ろうとして腰に下がる袋の存在に気付いた。
 そう、これも武器なのだ。
 ユキトは袋に手を掛け、魔銃を取り出した。
 重たくて邪魔なだけに感じたが、何故かずっと肌身離さず持ち歩いていた。
 これを持つといつも声が響く。

 ーーーーー撃て!ーーーー

 こんな時なのに、羽がフワリフワリと落ちて来た。
 怒声と剣の交錯する音。血が飛び、肉片が散る醜悪な中、オレンジと白い羽は一片も汚れる事なく降り積もり出した。
 死体の山の上だろうが、戦うハルト達の前だろうが降って視界を遮るのに、誰も何も言わない。
 これはユキトだけが見る魔力の幻覚。
「兄上!?」
 急に動きを止めたユキトに、ハルトは異変を感じて叫んだ。
 
 ーーーーー撃て!ーーーー

 そして、

 ーーーーあ・れ・を!ーーーー

 リッゼレン王子の背後には、先程魅了魔法を使おうとした少女がいた。

 ーーーーあれを、打て!ーーーー

 ユキトは操られた様に胸元のペンダントから紫緑銀色の弾丸を外した。
 アレは敵。
 私の、俺の………大事な、大事な子が、アレの所為で泣く。
 ユキトの保護魔法によって護られていた弾丸はカチンと音を立ててユキトの手のひらに転がる。
 魔銃に二つの弾丸を装着した。
 私は何の為に願ったのか。
 あの神に………。
 虹色の髪が脳裏に浮かび上がる。
 


 ーーーー撃て、撃て!撃てっ!ーーーー



「兄上!?」

 ハルトの静止の叫びも無視して、ユキトは魔銃を両手で構えて、自身の額に弾丸を撃ち込んだ!


 ガアアアァンーーー!!!

 誰もがその轟音に一瞬手を止めた。








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