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2章 俺のイジワルな皇子様
73 ロルビィへの頼み事
しおりを挟む砦に戻ったロルビィはノジルナーレへ今後どうするかを尋ねた。
「俺はロルビィに手伝って欲しいことがある。出来れば話を聞いて欲しいが、今は時間がないだろう。先にソギラを黒龍ワグラの下へ運びたい。」
ロルビィは分かったと了承した。
水龍ソギラの回復は確かに確実にやらねばならない。リューダミロ王家の二属性の問題を解決出来る人物かもしれないのだ。
ノジルナーレは巨大な紅龍に変幻した。
ツルリと滑らかな鱗は白い光を反射し、赤銅色の鬣は雄々しく立派だ。
「チマチマ転移よりこっちが速い。」
「どうやってソギラを運ぶの?」
龍の手はあるけど掴んで飛んでいくのだろうかと思い尋ねると、大きな口がパカリと開いてソギラを咥えてしまった。
「お前は魔植でつかまっとけるだろ?」
閉じた口でどうやって喋っているのか分からないが、驚いたロルビィはコクコクと頷いてレンレンを呼び出した。
涎まみれにならないのかな?
等と見当違いな事を考えつつ、レンレンに身体を巻き付け固定してもらう。
前回は黒龍ワグラの背中に乗せてもらったが、大きさが全く違った。一回りは大きい。
紅玉の鱗一つ一つに自分の姿が写っていそうな程、綺麗な鱗が並んでいる。
「いくぞ。」
巨大な羽がバサリと羽ばたき、暴風が舞った。
龍の飛行は早い。一振りでスワイデル皇宮を眼下に納め、三振りでリューダミロ王宮を見下ろす。次に羽ばたいた時はフィガナ山脈の結界の入り口に辿り着いていた。
入り口に造られた神殿の前に降り立つと、管理者や集まっていた人々が大騒ぎになっていた。
神だ!龍だと平伏し出す。
ロルビィは胸に付けていた龍のブローチをレンレンに渡して、言霊を飛ばした。
『水龍ソギラを見つけた。紅龍ノジルナーレもいるから入れて下さい。』
この結界は許可がないと入れない。
『ノジルナーレ!?』
驚愕した言葉を言霊で飛ばしてくるなんて器用だなと思いながら、ロルビィは人型に戻ってソギラを抱っこしたノジルナーレを引き連れて緑のトンネルを潜った。
出口では黒龍ワグラが待ち構えていた。
「マジかーーー!ホントにいたわ!」
ノジルナーレは驚いた様な嬉しそうな声で叫んだが、ワグラは驚いて言葉が出ない様だ。
他の龍に会うのはあまり無い事なんだろうか?
「久しぶり、だな。………向こうに屋敷がある。ソギラを休ませよう……………。ソギラは何故濡れてるんだ?」
ペッと龍の口から吐き出されたソギラはドロドロだった。やっぱり涎まみれになるんだ。
「咥えてきた。直ぐにスワイデルにロルビィを連れてかなきゃならんから、手早く話そう。」
それは涎か?とやや嫌そうな顔をするワグラを見て、龍でも涎まみれは嫌なんだなと安心した。
部屋のソファに寝かせてワグラが涎を拭いてやろうとすると、ノジルナーレがそのままがいいと言った。龍気を吸い取られすぎた上に氷を出していたので衰弱間近になっているらしく、ノジルナーレの龍気を含んだ唾液がついて保護されていると説明される。
自分の唾液を付けて平気な人かと思っていたら、そんな意味があったのかと納得した。
ノジルナーレはワグラの顔をまじまじと見ていた。
「何で瞳が金になったんだ?」
質問されたワグラは、ハッとした顔をした。
「…これは………。」
「金だとおかしいの?」
ロルビィが最初に会った時から金眼だったので、そんなものかと思っていた。
「龍にとって金の瞳は力の象徴、王族みたいな龍気に溢れた者が持つ瞳だ。俺も王族ではあるが、俺は金眼じゃなかった。異母弟のハゼルナルナーデは金眼だったがな。ワグラは
黒眼だった筈だ。何でそんなに龍気があるんだ?」
ワグラは言いにくそうにしていたが教えてくれた。
過去に多くの龍が黒龍の下を訪ねてきた事。他龍の龍気を吸収出来る黒龍に、自分の龍気を吸わせて自死を図る龍が多くいた事を。ワグラは弱い龍だったが、どんなに龍気を身体に取り込んでも平気だった所為で、どんどん龍気が溜まり、瞳が金に変わってしまったのだという。
「これ以上は嫌だと断ってもやって来る龍達から、フィガナが結界を張って守ってくれてたんだ。この中に入れば見つからないし、この大陸にはあまり龍がいない。少しだけ出るなら見つからないから、ずっとこの中にいて、大陸から出ない様にしていた。」
緑龍フィガナは死んだ後も黒龍ワグラを守る為に結界を残したのだという。
「あ~あの緑龍ね………。ハゼルナルナーデも嫌そうにしてたな。」
「何故ハゼルナルナーデの名前がそこで出るんだ?ハゼルナルナーデは生きているのか?」
ワグラは不思議そうに尋ねている。
「あの、ハゼルナルナーデって下の大陸にある国の名前ですよね?リューダミロの様に龍の名前の国なんですか?」
ワグラとロルビィの立て続けの質問に、ノジルナーレは合わせて答えてくれる。
「ハゼルナルナーデは確かに国の名前になってるな。生きてはいるが、今は捕まってる。本当は後でロルビィに救出の手伝いを頼もうと思ってたんだが、ついでに今言っとく。ハゼルナルナーデは灰龍オスノルに捕えられてる。」
ノジルナーレ達は龍の世界が滅んだ後、ワグラと同じ様にこの世界に落とされた。
落とされて、龍の世界の管理者を殺める原因となったとして、継承候補者だった龍王の子供達は全員呪いを受けた。暫くの間大地の養分になる様にと龍気を世界に捧げる様に土地の各所に縫い留められた。
何も無い世界に大量に龍気を吸い取られたハゼルナルナーデとノジルナーレはその場に倒れた。二人はその時一緒にいたのだ。
ハゼルナルナーデは残された龍気を搾り出し、ノジルナーレを縫い留める時空の神の力を消滅させ、ノジルナーレだけは解放し逃した。
そこを灰龍オスノルはハゼルナルナーデを襲って自身の能力久灰の檻に閉じ込めた。
久灰の檻は中に閉じ込めた者を自由に出来る様になるが、灰龍オスノルより力の強い者なら中からでも外からでも攻撃をして出る事が出来る。
回復すればハゼルナルナーデなら出て来れるとノジルナーレは思った。
だがいつまで経っても出て来ない。
「ハゼルナルナーデの龍気は土地に流されていると直ぐに気付いたんだが………。」
ハゼルナルナーデは自己回復しては龍気を奪い取られ、常に衰弱した状態にされているのではと考えた。
そのお陰であの土地は潤い豊かない土地となっている。
「それならノジルナーレが外から壊せるのではないのか?」
ワグラは不思議そうに尋ねた。ノジルナーレも金の瞳では無いが龍王の子供。番の子では無いから金の瞳を持つ子ではなかったが、その力は他龍を上回る。
彼なら余裕で助けれた筈だ。
「ハゼルナルナーデには周りに纏わりつく奴らが多かっただろ?」
「………まさか!」
「そ、まさか。そいつら捕まって自由を奪われたハゼルナルナーデを囲い込んでやがる。」
「王族だぞ!?」
「もう、龍の世界は無いんだ。王族なんて関係ないだろ?」
久灰の檻に閉じ込められたハゼルナルナーデの周りには、まだ数十体の龍がいる。皆ハゼルナルナーデに近付きたい、その強大な龍気に触れたいと想いを寄せた者達だ。
流石にその数の龍を相手にするには部が悪かった。全力でやった時、かなりの数の龍が消える事になる。
ただでさえ管理者という厄介な役目がある。出来れば龍の数は残したいのに、お互い潰しあうしか方法が無かった。
「俺一人ではハゼルナルナーデを助けるまでにはならない。だから、ハゼルナルナーデを助けたいと思ってくれる奴を探してたんだ。この大陸に来た時、時空の神の力を感じた!憎たらしい神だが、もし力を貸してくれるならと思って頼みに来たんだ!」
もっと他の大陸にも行ったが、誰も手を出してくれない。貸してもお互い命を落とすくらいなら、王族一人の命の方が安いと言われた。
「ワグラも!お願いだ!手を貸して欲しい!」
紅玉の瞳は真剣だ。
ハゼルナルナーデとノジルナーレは特に兄弟の仲が良かった。同じ歳で学生時代もよく一緒に行動していた。
「しかし、私は体内に魔力を溜めてはいるが、黒龍という性でほぼ何も出来ない。灰龍の龍気を吸い取るにしても近付かないとならないし………。」
「それはやらなくていい!久灰の檻に辿り着いたら転移魔法で呼ぶから飛んできて欲しい。そして、ワグラの龍気をハゼルナルナーデに渡してくれれば助かる!」
成程、金の瞳に変わる程溜め込んだ私の龍気をハゼルナルナーデに譲渡すれば、龍気を取り戻したハゼルナルナーデは自力で久灰の檻を内部から壊せるのか。
「久灰の檻の内部が気になるが、譲渡するのは構わない。」
ぱぁとノジルナーレの顔が輝いた。
助かる!一人では辿り着いても力尽きる可能性が高く、無理そうだったんだ!と喜んだ。
「あ、もしかして既に俺は参加予定?」
なんか込み入った話だったので静かに傍聴していたが、この流れは話を聞いたからにはやらなければならない気がする。
「ダメか!?」
ノジルナーレは今度はショックを受けた様に青褪めた。
「すまない、見知った顔が苦労していると知って放っておけない。ましてやこの世界の創世から閉じ込められているなんて、あまりにも酷い。ロルビィの使命には関係ないとは思うが、出来れば魔女討伐後でもいいから力を貸してもらえれば………。」
ワグラも申し訳なさそうに頼んでくる。
ロルビィははぁと溜息を吐いた。
「うーん、分かったよ。流石に聞いてて気の毒な話だし、どこまで出来るか分かんないけど。」
ノジルナーレはホッとしている。
ここまで聞いていて知らんぷりも寝覚めが悪い。それに、海の向こうの国ハゼルナルナーデ国は白龍の龍気で土地が潤っている。力が有り余った分は国の侵略にも手が伸びる。
いつこの大陸に乗り込んでこようとするか分からないのだ。
そうしたらスワイデル国も戦争に出ることになる。
ならばハゼルナルナーデという龍を解放しておいた方がいいとロルビィは考えた。
「…………あの……。」
三人で話し込んでいてすっかり忘れていた。
ビクゥと肩を揺らしてソギラを見ると、ソファに寝かせていた水龍ソギラが目を開けて此方を見ていた。
「何だ!起きてたのか?」
慌ててノジルナーレが近寄って傍に座ると覗き込んでいる。
ソギラはゆっくりと頷いている。まだ青い顔をしているが、意識はハッキリしていそうだ。
「私も出来る事が有ればやる………。」
ノジルナーレは顔に掛かったソギラの水色の髪を掻き上げてやりながら、何言ってるんだと笑った。
「お前は暫く寝てた方がいい。ワグラに頼んどくから、ここから出ていくんじゃないぞ。お前は番がいただろう?どうしたんだ?」
ソギラはノジルナーレの顔を見つめて、困った様に目を伏せた。
答えは返って来なかったが、ノジルナーレは理解した様だった。
「そうか………。番を無くしたやつは沢山見てきた。辛かったら一人になるんじゃなくて、誰かといた方がいい。守る術もないところに一人で冬眠もするんじゃない。」
「そう、だな………。」
ノジルナーレと話をするソギラは静かだった。
ワグラだけはマルメが死んだ後のソギラを知っている。
深く落ち窪んだ目で、言葉を失い、朦朧としながらここにやって来たあの日、ソギラも狂ってしまったのだと思った。
拙い会話を捻り出し、何とか話せるまでに介抱したが、出て行くと言うソギラを引き止める術を持たなかった。
ワグラもソギラも引っ込み思案で我を出さない性格をしている。
だからこそ用心深く引き篭もって長く生き続けたともいう。
ノジルナーレの様に強く言ってくれる人の方がソギラには良いのだろうと、ワグラには感じた。
「帰ってきたら俺が一緒にいてやるからなっ!」
せっかく撫で付けた水色の髪がワチャワチャと掻き回される。
「ノジルナーレ、早く行こう!スワイデルの戦闘状況が気になる!」
龍の翼で送ってもらわないと困る。
急かすロルビィに引っ張られる様にしてノジルナーレは出て行った。
ソギラは一緒にいてくれると言ってくれる存在がマルメ以外にもいるのだと思い驚いていた。
「えーと、とりあえずノジルナーレの唾液を洗うか?もう目も覚ましたし、後は自己回復出来ると思うんだが………?」
ワグラは遠慮がちにソギラにお風呂を勧めた。
「え、なんかベタベタしてると思ったら、ノジルナーレの涎なのか?」
ワグラの提案にソギラはお風呂に入る事に、直ぐ様同意したのだった。
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