翡翠の魔法師と小鳥の願い

黄金 

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2章 俺のイジワルな皇子様

45 弟想いのアーリシュリン

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「ロルビィ、これ見て。」
 
 本を読んでいるとアーリシュリン兄が沢山の手紙を持ってやってきた。
 
「何ですか?この手紙の山。」

 机の上に結構な数の手紙がパサパサと置かれる。

「うん、ほらこの前お茶会に行って来ただろう?」
 
 あーそう言えば………。
 アーリシュリン兄はとても綺麗な顔をしている。波打つ金髪に真紅の瞳の美しい顔立ち。笑うと大輪の花が咲く様に輝く、綺麗な子供だ。しかも今から将来が楽しみな程魔力量が多い。まだ魔力が安定していないが、既にそこら辺の貴族の大人なら軽く追い越している。なので他家のお茶会に招待されて、品定めされているようなのだ。
 アーリシュリン兄程の顔面偏差値と魔力量があれば、引く手数多になるようだ。
 前回の人生ではこういったお誘いは着て行く服が無いから勿体無いといって行かなかったけど、今回は何度か顔を出していた。

「私が何処か有力貴族と婚姻を結べれば、援助してくれないかなっと思って………。父様から聞いたけど、ロルビィは眼鏡が欲しいんでしょ?」

 俺はパサリと持っていた手紙を落とした……。
 アーリシュリン兄は俺の眼鏡のために婚約者を探す気でいる。

「待って下さい。俺はアーリシュリン兄には好きな人と結婚してもらいたいです!」

 と言うかムルエリデ・ロクテーヌリオン公爵と!二人が折り重なって死んだ姿がまだ記憶に残っている。
 俺の眼鏡の為にアーリシュリン兄が違う人と結婚するのは、俺自身が許せない。
 俺はカサカサと手紙の宛先を見て回った。
 その中に他とは違うとても上質な手紙を見つける。

「この金の封蝋………!」

「あ、それさっき使用人が私宛だからって渡したやつ。」

 俺は許可無しに開けた。
 貴族の家で家長の許しなく未成年が開ければ罰されるが、へープレンド家にそんな厳格な規則は一切無い。
 内容をざっと読む。
 
「これに行きましょう!」

「え!?」

 一緒に読んでいたアーリシュリン兄が驚いた声を出す。それもそのはず、これは王家主催のお茶会と夜会の招待状だった。主に婚約者のいない未婚の人間で高魔力保持者を集めたものだった。
 内容にムルエリデ・ロクテーヌリオン公爵が筆頭主催者になっている。
 でも何で王家のお茶会で公爵家が主催者名に?

「父上に話を通します。」

「え!まって、ロルビィ!それ王都であるんだよ?王宮だよ?」

 アーリシュリン兄が何か言っているが無視して父の療院に走った。
 療院は屋敷のすぐ隣だ。平屋建ての長方形が二つ並んだ形をしている。真ん中に通路が通っていて、中庭で散歩する人達がゆっくりと散策出来るようになっている。
 落ちそうになる帽子を片手で抑えながら、ヨタヨタとトーリレステ父の診療室に辿り着いた。

 バーーーンと扉を開け放つと、トーリレステ父の膝の上にセリエリア母が跨っていた。
 ここまで走り切るのに貧弱なロルビィは、ゼイゼイと息を吐く。

「わぁ!?」

 アーリシュリン兄が両親の霰もないイチャつく姿に頬を染めて驚いているが、俺は気にせず中に入った。酸素不足でフラフラとする。
 まぁ、昨日帰って来たばかりの母に、仕事中の父が襲われてようと今はどうでも良い。
 話が終わってから魔力譲渡でも何でもしたら良いのだ。

「……ゼィ……ハァ……、これ!これに参加します!」
 
 俺が持って来た手紙をセリエリア母に渡した。領地に籠りっぱなしの父よりあちこち行く母の方が動いてくれそうな気がしたからだ。

「何だ?これは?」

 母は前面ボタンが三つ開いて胸元が見えてても構わずに手紙を読み出した。トーリレステ父がのんびりとボタンを閉めてあげている。

「何でこれに行きたいんだ?」

「アーリシュリン兄をロクテーヌリオン公爵に合わせる為です。」

「……………、ロルビィはこれがどう言った内容か分かってる?」

 覗き込んで読んでいた父が聞いてきた。

「それは分かりません。何で王家の手紙が公爵家のお茶会なんでしょう?」

 父はうーんと言いながら教えてくれた。
 王家と公爵家は親戚同士。最も近い血筋なのらしい。ロクテーヌリオン公爵は最近まで持病で殆どベットの上の住人だったのだが、最近スワイデル皇国が開発した魔工飴というもので体調が少し回復し、起き上がれるようになった。ならば既に両親が他界し、まだ動き回れない公爵の代わりに婚約者を探そうと、王家が後援をする事にしたという。

「ロクテーヌリオン公爵は寝たきりだったんですか?」
 
 それは知らなかった。もしかしたら前の人生でも寝たきりだったのだろうか?だから婚約者がずっといない状態だったのかもしれない。

「そうだよ。父様も呼ばれて診察したけど、公爵の病気は生まれつきだからねぇ。魔力容量が凄く大きいのに魔力生成が全く出来ないんだ。それなのに闇属性だから魔力譲渡で他人から魔力を貰おうとしても、その人の魔力を根こそぎ取っちゃうから下手に魔力譲渡も出来なくてね。それでスワイデルの魔工飴を勧めたんだよ。」

 あれなら闇魔法関係なく魔力が増えるから、闇魔法師が魔力吸収する時の弊害も出ないしね。
 弊害とは身体が不老になる代わりに醜く崩れると言っていたやつだろう。
 魔工飴を勧めたのはトーリレステ父だったのか。
 思わぬ繋がりに驚いた。

「このお茶会と夜会は公爵の婚約者探しだよ?アーリシュリンの魔力容量は王家の名簿に登録されてるから手紙が来たんだろうねぇ。」

「じゃあ、ちょうど良いので行きましょう!」

「え?何でちょうどいいの?」

 アーリシュリン兄はとても不思議そうだ。
 まだ今世で会った事ないしな。
 年の差十二歳………。
 アーリシュリン兄は六歳。ロクテーヌリオン公爵は十八歳………。ちょっとアレか?
 いや、アーリシュリン兄が十六歳の時に手を出した公爵ならいけるはず!多分!

「いやいや、ロルビィは何を考えてる?」

 セリエリアは訝しげだ。
 ロルビィは神の領域。ロルビィが言い出す事に神の意思が入るのか、セリエリアは見極めなくてはならない。
 我が子として可愛がってはいるし、子供の幸せは願っているが、ロルビィがやる事には注意が必要だと思っていた。

「それは必要な事なのか?」

 ロルビィの目を見てセリエリアは重ねて問い掛けた。
 それは未来に繋がる何かなのかと。
 右目が深い緑、左目が翡翠色の瞳をした我が子は、ゆっくりと頷いた。
 セリエリアは、はぁと溜息をついて分かったと言った。

「では衣装を用意するぞ。付き添いは私が行く。」
 
 せっかくトーリレステとゆっくりしようと思ってたのにと、ブツブツ文句を言いながらも動き出した。

「私はどうしたら良いの?」

 不安そうなアーリシュリンにロルビィは言った。

「ロクテーヌリオン公爵を落として下さい!」

 元気いっぱいに言い切る四歳児に、トーリレステとセリエリアは苦笑いをした。

「あ、俺もリューダミロ王都行きたいです。」

 セリエリアは苦い顔をした。

「それも必要な事か?出来ればピツレイ学院に入学する迄は領地にいて貰おうと思ってたんだが。」

 おそらく前回は神の領域である俺がリューダミロの王家や他の貴族に干渉されないよう、両親は隠してくれたのだろう。
 お陰で俺は自由に育った。
 王国とか貴族とか関係なく、領地でのびのびと育って、それからピツレイ学院に行きカーレサルデ殿下に見つかった。
 王家も他貴族も俺には一切干渉してこなかった。
 リューダミロは神の領域を信じる国。
 あの時の俺はレンレンが大きく育ち、誰も俺に勝てる人間がいなかった。
 圧倒的な力量差で無意識に捩じ伏せていたのだろうと今なら思う。
 今の身体は四歳でレンレンの増殖を急いでいるが、まだ半分程度だ。
 だが十六歳まで待っていてはスワイデル皇国に行くことが出来ない。
 
「俺が神の領域だと名乗り出たら、リューダミロ王家はどう出ますか?」

 トーリレステとセリエリアは息を呑んだ。
 理解していたのかと。
 前回は全く分かっていなかった。
 十六歳で死んだ真白の心のままロルビィとして転生して、大人びた子供になることもなく、田舎貴族の子供らしく育った。
 何も知らず幸せな子供時代だったのだ。
 それはこの二人のおかげだ。
 でも今回は急ぐ。ユキト殿下が十歳になる前にスワイデル皇国の皇族に近付きたい。
 皇族には王族を。
 平和同盟があるのだから繋がりもある。
 無理矢理にでも伝手を作ってスワイデル皇族の近くに行かないと、こんな貧乏辺境伯爵家の自分では近付く事すら出来ない。

「おそらく真偽にかけられる。間違いなく本物だから問題ないが、王族と古参貴族が入って話し合うので時間が掛かる。無駄な話し合いが延々続く。アホらしい。」

 なんだか王家に批判的だな。
 もしかしてピツレイ学院にいた時の三年間、特に何も接触が無かったのは、ずっと真偽とやらの話し合いをしてたから?だから確認にカーレサルデ殿下一人が動いた?あの人はさっさと自分で見極める為に動きそうな気がする。

「じゃあ、真偽する必要もないくらいの真実を見せたら良いんだ。」

 ペロリと舌を出して言い切った俺に、何をするつもりだ?と両親は顔を引き攣らせる。
 
「とりあえず俺も行くので、神の領域がお伺いしますって追記してて下さい。あ、アーリシュリン兄はちゃんと公爵に会わなきゃですよ?」

 そこ絶対なの?と不思議そうにアーリシュリンは首を傾げた。
 セリエリアはあー衣装代が飛ぶ~と嘆いていたが、そこは頑張って欲しい。




 夜になり就寝に就こうとベットに潜り込むと、ドアがノックされた。
 ノック後直ぐに入るのはセリエリア母だけだ。ガチャリと音がし、見事な金髪を靡かせて母が入ってきた。母も寝る前だったのか就寝着のまま来たようだ。とても綺麗な人なのにやる事は粗野で、淑女とは程遠い。
 
「忘れるところだったぞ。ほら、頼まれていた風の魔石だ。」

 真紅の眼を細めて無造作にブローチを渡してきた。
 俺がお礼を言って受け取り喜ぶと、嬉しそうに微笑んでくれた。セリエリア母が自分を心配しているのは理解している。喜ぶと自分も嬉しそうにいつも笑ってくれる人だ。

「これは何の宝石ですか?」

 ブローチは三センチ程度の小さい物だが、薄いピンク色で龍の形に彫られていた。目にキラキラと輝く赤い宝石がはまっており、この宝石が魔石の様だった。

「全体は珊瑚で、龍の目はルビーだ。なかなか赤の宝石で風属性の物がなくて探し回ったぞ。」

 特に宝石の指定はしてなかったのに、赤色を探したらしい。

「ありがとうございます。母上の目とお揃いで嬉しいです。」

 再度お礼を言えば、俺のポヤポヤ産毛の頭を優しく撫でてくれた。

「風の魔石で何をするつもりなんだ?」

 尋ねられ、うーんと悩む。まだ構想段階だったが、成功してから見せようと思っていた。
 でも失敗すればやり方を習う事も出来るしと考え直す。
 ベットから降りようと脚を降ろすと、抱っこして降ろしてくれた。普通の四歳児よりも小さい俺はベットの高さすら足が届かない。
 窓に近寄り少しだけ開ける。
 
「レンレン。」

 ロルビィの手のひらから魔植レンレンがニュルリと出てきた。小さな蔦に幾つかの葉っぱと桃色の花をつけている。伸びた蔦はブローチを受け取り魔力を帯び出した。
 
『近々リューダミロ王城に呼びます。必ず来て下さい。』
 
  言葉は言霊となり風魔法が運んで行った。

「風魔法の言霊か!成程、魔植に自分の魔力を流して魔植自身に魔法を使わせたのか。魔力譲渡の要領とは言え、かなりの魔力を消費するな。ロルビィは魔力が尋常じゃなく多いからいいが、そうそう出来る事でもない。しかも使役する魔植だからこそ思い通りに魔法行使出来る。ふむふむ、体力は無く魔力はあるロルビィならではだな。」

 俺がやった事を見て早々と考察し出している。ほんと戦闘関連に関してだけは大好きなんだな。計算は嫌いだけど。
 で?誰に言霊を送ったのだ?と漸く気になり出したようだ。

「関係性でいけば同士かな?王城に行ったら呼ぶのでその時紹介します。」

 俺がそう言いながら窓を閉めると、セリエリア母としては言霊を受け取る人間より、魔植の魔力についての方が関心が大きいらしい。他には何の属性を持つ魔植を持っているのか聞いてきた。
 俺が今持っているのは風属性と水属性しかない。魔植の多くはこの二つが基本なので、それ以外の属性を持つ魔植は是非欲しい。

「ふむ、私も他属性の魔植について調べておこう。」

 そう言い残してセリエリア母はおやすみと言って出て行った。
 レンレンを通して風魔法が使えるので、水魔法も使えるだろう。
 水魔法の投影魔法を使いたかったから考え出した事だった。スワイデル皇国にいるユキト殿下を見たいが為だったが、あそこの皇宮は防衛魔法が強固に掛けられている。
 投影魔法は弱い魔法なので突破出来ないと考え直した。
 しかし身体が上手く動かない今回は、この方法を活用出来るのではと思ったのだ。
 そして強くなってユキト殿下を守る。
 ユキト殿下は俺の事は忘れてしまっただろうけど、なんとか皇宮に入ってユキト殿下を守れる位置につきたかった。
 この小さな身体がもどかしい。
 失敗は出来ない。
 ロルビィは小さな手のひらに収まるブローチを、ぎゅっと握りしめた。



















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