翡翠の魔法師と小鳥の願い

黄金 

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1章 俺のヘタレな皇子様

28 最後の夜

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 ティーゼレナウム港町の朝は早い。
 まだ陽が登る暗いうちから港には漁師が獲ってきた魚を木箱に次々と並べて運んでいく。直ぐに生で売り捌く物と、乾燥させて干物にしたり加工したりする用とで分けなければならない。
 下へ下へと白い道を降りて行くと、その様子が一望出来た。大きな掛け声と人の笑い声に、カーンドルテ国の被害が少なくて良かったと安堵した。
 壊された城壁と見張塔、城門はサクトワ軍にも土魔法師がいて修復されていた為、既に元通りになっていた。

 朝市で果物をカットした物と麺と魚肉が入ったスープを買ってユキト殿下と二人で食べた。ユキト殿下は朝市も屋台も初体験との事で、とても楽しそうにしていた。
 サクトワ共和国もスワイデル皇国と同じで魔法師が少ない。
 最近は魔石発掘が進み、魔石を使った装飾品が貴族の間で流行っていると聞いて、ユキト殿下と魔石装飾具を扱う店を探し出し入ってみた。

「魔法師が少ないから装飾具で加護を掛けてるんだね。スワイデルが魔導具ならサクトワは装飾具って感じか………。」

 指輪を一つ手に取って感心した様にユキト殿下は呟く。
 上流階級の匂いを嗅ぎつけた店員が、ユキト殿下の前に次々と魔石装飾具を並べていた。
 指輪、ネックレス、イヤリング、出されてくる装飾具には緑か紫の魔石が多い。明らかに店員が何かを狙っている。
 魔石の色は特に魔法属性には関係がない。緑だからといって緑属性や風属性がある訳でもなく、ただ何かしらの属性魔力が入っている石だ。ユキト殿下が今摘んでいる紫魔石の指輪も、入っているのは水属性。
 地球では宝石と言われていた物に魔力が宿っているといった感じだ。
 俺は宝石名はあまり知らない。元が男子高校生なのだ。詳しい方が珍しいはず。なのでユキト殿下と店員がダイヤモンド、翡翠、アメジストといった単語を出してるのは理解したが、すぴねる?え、サファイヤなのに紫?とダイヤも透明じゃないの?等と全く内容は理解出来なかった。分かったのは宝石名と魔石名が一緒なんだ。不思議、くらいである。もしかしたら俺の頭の中だけで勝手に日本語に翻訳されているのだろうか……。

「私の瞳の色はどの石だと思う?」

 ユキト殿下が答えれない質問をしてきた。

「………ごめん、俺、紫はアメジストしか知らない。」

 そっか、と言ってユキト殿下はまた装飾具を熱心に見だす。

「じゃあ、これを。」

 買い物をする様でよく分からない装飾具を手に持っていた。
 買い物が済んだ辺りで時間が来てしまった。急いで戻ってユキト殿下はまた軍服に着替えて調印式に出るという。
 ほぼサクトワ共和国とリューダミロ王国の契約が多いので、あんまりやる事ないんだけどね、と言いながら着替えていたので、それを手伝いながら髪も編み込んで横にゆったりと結えてやった。殿下の髪はホントふわふわで艶々である。

 調印式はサクトワ共和国の貴族というか元部族長達が見守る中粛々と行われ、たいした時間も掛からなかった。
 カーレサルデ殿下が珍しく髪をアップにしてるなぁくらいしか感じなかった。
 俺の視線に気付いたのか、カーレサルデ殿下が近寄ってきた。

「君は世話をする人間を間違ってないかい?」

 お前はリューダミロの人間だろうと笑顔なのに目が笑ってない顔で言われる。

「好きにして良いって言ったじゃないですか。」

 言い返すとフンっと鼻で笑われた。
 



 今夜も晴れた夜だった。月に照らされた灰青の雲はまばらに散らばり、海のさざ波がチラチラと輝いている。
 今日もベランダに出て潮風を楽しんでいると、ユキト殿下がまた部屋から出てきた。手には箱を一つ持っている。
 トン、トン、トンと軽快に銀の髪を靡かせながらベランダを飛び越えてきた。

「ティーゼレナウムの夜は静かだね。」

 スワイデル皇都の夜は明るい。街灯が建ち並び一晩中夜道を照らしているし、夜中まで営業する店があるので、休みなく兵士が巡回をしている。
 今、夜のティーゼレナウムは耳鳴りが起きそうな程静かだった。誰かが扉を閉めた音だけでも響いてくるのではと思える程の静けさ。
 話し声が響くだろうからと、今日もまたさり気無く室内に誘導されてしまった。

「明日でお別れになってしまいますね。」

 リューダミロに帰ったら直ぐに霊峰を探し出し黒龍に会おうと思っている。
 神の意思とは何か、自分は神の領域と言われる存在なのかを聞きたい。
 その為には家族からもユキト殿下からも離れてしまうが、今なら魔女サグミラもダメージを負っているのでカーンドルテ国から出て来ないだろうと考えている。

「そうだね。だから、君に必ず私の元へ戻ってきて欲しくて贈り物をと思ったんだ。」

 そう言って手に持っていた縦長の箱を渡してきた。

「開けていいですか?」

 ユキト殿下の許可を取って、括ってあった紐を解いて蓋を開ける。
 中には長方形の銀糸と白糸を編み込んだディカが入っていた。広さはハンカチより大きい程度。祝勝会の時着たディカよりも布地は薄く、一つの角に紫色の組紐が金具で付けてあった。反対角には同じ紫色の房飾りが付いている。組紐の先には銀色の鈴とアメジストが飾りで付いて揺らすと二つが揺れて鈴がチリチリという音が鳴る。

「これ朝の装飾具店で買ってたやつですか?なんの装飾でしょう?」

「これはサクトワ人が髪によく使っている装飾具だよ。」

 頭に………。そういえばお団子頭の人とか、髪が長くて伸ばしてる人は派手な色の布でお団子を巻いたり、垂らした髪を布で包んで一本に纏め垂らしたりしてた。これを使ってるのか。

「是非ロルビィには髪を伸ばして使って欲しいなと思って………。あと、アメジストで火属性魔石だったのがこれだけだったんだよね。」

 申し訳なさそうにそう言われるけど、俺の方が恐縮してしまう。
 俺は何も用意してない。俺用をあの時選んでたと知ってたら何か買ったのに………いや、持ち合わせないな……。貧乏人。

「すみません、いつか必ずお返しの贈り物します。」

「気にしないでね。今回ロルビィには凄く助けられたから、そのお礼だからね?」

 ほらほら、明日も早いから寝よう。
 そう言って今日も手を引かれて同じ布団に入った。なんで自分の部屋で寝ないんだろう?まぁ、いいけど。
 二人で布団に転がる。
 手にはまだディカの装飾具を持っていたので元戻り箱に戻して紐で括って亜空間に収納した。

「収納魔法?レンレンはもしかしてそこにいるの?」

「あ、はい。流石に地面に待機させるにはレンレンは大き過ぎますから。でも中の荷物を壊したりとかしませんから、安心して下さい。」

「ロルビィは緑の魔法師だけど空間魔法まで使うのか………。属性は青と言われているけど、滅多にいない属性だね。しかも二属性持ち。」

 ついユキト殿下の前で使ってしまったけど、収納魔法は家族しか知らない。もしかしたらリューダミロ王家には報告されているかもしれないけど、二属性持ちは存在しない事になっている。
 緑属性が本来この肉体が持っていた属性で、空間と時が時空の神から貰った属性なんだろうと思う。時に関しては時間遡行にしか使えないので誰にも言っていない。

「内緒ですよ。」

 ユキト殿下を信じているから目の前で使ってしまった。

「じゃあ、約束にキスをしよう。」

 ロルビィは目を見開いた。

「今魔力譲渡したら超過して具合悪くなりますよ?」

 ユキト殿下はアメジストの瞳を細めて笑った。寝転がっているので銀の髪が広がっている。

「ただのキスだよ。秘密にするのと、ちゃんと私の元へ来てくれる約束のキスをしよう。」

 手を伸ばしてきたので求められるままにユキト殿下の横に寄り添う。
 ちゅ、と軽く唇を合わせた。
 ユキト殿下の唇は柔らかくて、身体からいい匂いがする。綺麗な顔が嬉しそうに笑って、もう一度と近付いてきた。
 覆い被さる様に殿下は唇を重ねて、何度も下唇を吸ったり舐めたりしてくる。

「……はぁ………。」

 ほんの少し離れた隙に息を吐くと、開いた口の間から舌を入れてきた。クチュクチュと音を鳴らして口の中を熱い舌が舐めていく。
 思わず殿下の舌を舌で擦ると、気持ちが良く、何度も確かめる様にお互いの口の中を、唾液を垂らしながら確認し合う。

「…くちゅ……、んん、ふぅっっ!」

 俺の舌が殿下の口に入った瞬間、ジュウと吸われ、ビクビクと震えてしまった。

「ロルビィ、勃ってるね。」

 股間を触られすりすりとなぞられる。
 
「殿下も勃ってる……。」

 寝巻きのズボンを下ろされ、下着も脱がされる。ユキト殿下も脱いでしまった。すりすりと陰茎同士を擦り合わされ、お互いの先走りが滑って気持ちがいい。

「………んむ、……殿下の熱い。」

「………ふふ……ロルビィのも熱いよ。」

 含み笑いしながら、キスを続けた。
 ユキト殿下の顔が上気して色気が凄い。アメジストの瞳は輝きを増し、いつもより真剣な瞳にドキリとする。

「ロルビィ、私は、君の事が好きみたいだ。はぁ……、初めてなんだよ………。こんなに誰かを思うのは……。」

 こ、告白………!?
 この状況で告白とか胸も陰茎もドクドクと波打ち興奮が高まってしまう。

「……あ、あ、………今そな事言われたら………あぁ……ん、んん~~~!」

 出てしまった。
 白濁はユキト殿下が受け止めたが、それを自分の陰茎に塗り付け、力が抜けていく俺の陰茎と共に手に纏めて握り、上下に擦られる。

「………!?はぅ!……出たばっかり………だめっ。」

 出した後は敏感なのに、そんなに扱かれては耐えられない。
 思わず逃げ腰になると、ユキト殿下はキスを落とし首筋や鎖骨を舐めながら胸元まで下がっていく。
 上着をたくし上げられ、乳首をコロリと舐めて、ちゅうと強く吸われた。
 ビリリと電流が走り、先程吸われた舌がまるで繋がっているかの様にピリピリとする。
 ユキト殿下の手が陰茎から更に奥にある後孔へと伸びてきた、
 穴の周りを確かめると様に触ってくるが、なんかおかしいなと感じる。
 ぬ……濡れてる?
 そうか、この世界は男性妊娠も有る。
 俺は前世も今世も童貞で女性経験は無い。話には聞いてるけど、女性のアソコを見たこともない。
 こ、これは、普通?
 濡れるとは聞いていたけど、実体験をすると恥ずかしくて顔に熱が集まる。

「……少しだけ、いいかな?指だけ……。」

 興奮で心臓がドクドクと鳴っている。はっはっと息を吸うが上手く吸えている気がしない。
 ユキト殿下の瞳が深く透明な紫色に変わり、欲を孕んで頷く様に問い掛けてくる。

「す、少し、だけなら……。」

 だって興味はある。しかも相手はユキト殿下だ。
 ツプリと中指が入ってきた。

「はぅ……!」

 言いようのない違和感。
 指が穴を広げる様にグルリと回る。

「……ん、……んあっ……!」

 何かを探す様に浅く深く回しながら這いずり回る指に、緊張で力が入ってくる。
 腹側に何かを見つけ、確認する様に指がソレをなぞった。
 グリッと押されてビクンと跳ねる。

「ひゃっ、あ、!」

 コリコリ擦られて、萎えた陰茎がまた刺激で立ち上がりだす。堪らなくて手を伸ばすが、ユキト殿下の手によって阻まれる。

「あ、や、ぅ~~……!」

「ふふ、……もう少し、ロルビィの姿を目に焼き付けておきたいから、待って?………。」

 いつもの優しいユキト殿下の顔は鳴りを潜め、欲を孕んだ男臭い表情に心臓がバクバクと鳴り響く。

「ロルビィ、約束して。必ず私の元へ戻ってくると。好きなんだ。本当は連れて帰りたいくらいなんだよ………。」

 後孔に入った指がいつの間にか二本になり、コリっとした一点を執拗に愛撫する。

「………は…ん、ぁぁ………。」

「約束して。」

 や、く、そく?
 ユキト殿下の愛撫に何を言われているのか理解出来ずにいた。
 二本の指がいやらしく動き回り、グチュグチュと音を立てて興奮を煽る。
 あぁ、出したい……。イキタイ………!

「ね?来るよね?ちゃんと………。約束だよ?」

「う……ん、くる……、やく、そくぅ~~っ……あぁ……!」

 ユキト殿下は起き上がって、立ち上がった二本の陰茎を一緒に握り込んだ。先走りと白濁で滑り、カリを引っ掻く様に扱かれて高まっていく。

「……ふは、はぁ、これ気持ちいいね?この先はもっと気持ち良いのかな?」

「んぁぁぁ!!」

 グリグリと先っぽを押され我慢できずにもう一度出してしまう。
 ユキト殿下も同じように白濁を飛ばしたが、俺のより多い。大きさによって量も違うのかな?と、ぼんやりしながら眺めていた。
 風呂上がりに使ったタオルを近くに置いていたが、ユキト殿下がそれを取って汚れた身体を拭いていった。

「……殿下、それ洗ってきます。」

 漸く起き上がってタオルを受け取った。フラフラと起き上がると、ユキト殿下が洗ってくるよと言って洗面台に洗いに行ってくれた。
 前回魔力譲渡した時は勝手にやってしまった感があったけど、自分の力加減でやれたのでここまで脱力はしていなかった。
 人にして貰うのは全く快感度合いが違う。容赦ない射精に腰が立たない。さっきこの先とか言ってたけど、入れちゃうのかな………?指入れられたし………。
 恥ずかしくて布団に潜り込むと、ユキト殿下が戻ってきた。

「すみません。」

 ユキト殿下はニコッと笑った。もういつもの柔和なユキト殿下だ。

「良いよ。私だってなんだって出来るんだよ。」

 そう言って隣に潜り込んできた。
 ねぇ、ロルビィ聞いてくれる?
 ユキト殿下はアメジスト瞳を曇らせて話しかけてくる。私が十歳の時の話だよ、と。







 約束を繰り返して、贈り物をして、過去の話をする。
 ロルビィは悲しそうな顔をして、辛かったねって私の頭を抱き締める。
 辛くて苦しくて、人に話した事なんて無かった。あの時父に説明した時だけだ。それも搾り出す様に、端的に。
 こんなに詳しく話したのはロルビィだけ。
 なんで話したかって?
 ロルビィに知ってて欲しかったから。そして私に同情でも何でもいいから、ロルビィの心を私で埋めて欲しかったから。
 辛くて誰にも言えないと思ってたのに、すんなりと語るのは大人になったからか、時間の経過と共に薄れたからか。それとも同情を買うと言う打算の為か………。
 
 そして私の隣に来て欲しい。
 
 そんな浅ましい考えの下に、私を抱き締めるロルビィに抱き付いた。
 あんなに私を苦しめる記憶はロルビィによって塗り替えられていく。
 どんな手を使ってでも手に入れたい。
 でも権力を使うのは駄目だと判断する。ロルビィが自分で決めて来てくれないと、彼は直ぐに離れてしまう。そんな気がする。
 人に恋する事も、人に恋して貰おうと努力した事もないから、どうしたらいいのか分からない。
 だから約束をいっぱいしよう。
 可哀想な私に同情を引こう。
 我ながら考え無しのせこい手だ。
 魔女サグミラに会う前の私より稚拙かもしれない。

「黒龍に会えても会えなくても、絶対来てね?」

「はい、必ずです。約束します。」

 抱き締めて穏やかに返事をするロルビィを逃さない様に抱き締める。

「……うん。」

 本当は黒龍に会うのなんか止めて、直ぐに来てと言いたい。でも、そんな我儘は嫌われたくないから言わない。

 ほんの少しだけ空いた窓から、潮風が吹き込んでカーテンを揺らしている。心地よい風の中、私達は抱き合って眠りについた。






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