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1章 俺のヘタレな皇子様
25 合流
しおりを挟む翌日 ティーゼレナウム港町から半日魔導車で走った場所で、カーレサルデ殿下とロクテーヌリオン公爵、アーリシュリン兄と合流した。到着して驚いたのは母であるセリエリア・へープレンドもいた事だ。秘密裏にやって来た為、リューダミロ王国魔法師団の中でも超少数精鋭で移動したらしく、総勢百程度の人数だった。
「母上、いたんですね。」
アーリシュリンはセリエリアそっくりだ。金の髪に真紅の瞳、膨大な火属性の魔法師だ。アーリシュリンは幼少期から母の技術を教え込まれ、指先に高熱圧の火力を凝縮して撃つ方法は、母仕込みである。
「ロルビィ!ようやく来たか!」
女性の魔法師なのに、魔法師用のローブではなく動きやすい兵服に簡単な胸当てや小手などを着けたこざっぱりとした五十歳とは思えない若々しい母だ。
金髪は後ろで無造作に結び、化粧気はないのに、派手な顔面と真紅の瞳が目立つ美人顔である。
一緒に来たユキト殿下、ショウマ将軍、シゼ、パル、テレセスタの順に紹介する。
「お前、一国の皇太子をお友達みたいに紹介するんじゃないっ!」
怒られた。
一つのテントに案内され待つ様に言われる。
暫くしてやってきたのはカーレサルデ・リューダミロ殿下だった。
もう一度同じ様に紹介すると、母上からゲンコツされた。痛い。
「リューダミロ王家第二王子カーレサルデと申します。このような所まで御足労頂き申し訳ない。」
「スワイデル皇国皇太子ユキト・スワイデルだ。他国の事情に干渉するような行為かとは思ったのだが、同行させてもらった。」
美しい所作で挨拶をしている。
お互い硬いなぁと思って眺めていたら、母上から少しは見習えと言われてしまった。いや、貴族のマナーとか習ってないしね?
だいたいお金ないとか言って家庭教師つけてなかったのは母上達だ。
こんな砂漠の中なのにちゃんと冷たい飲み物が出てくる。王族凄い。
いや、ユキト殿下も皇族、というか皇太子なのにそこらへん平民と同じだったなぁと考えさせられる。テントを個別に使えて布団が少しふかふかだったくらいだ。
昼間の暑い中も一緒に汗を流してたので、こっそり氷花を出して涼ませていたくらいで、誰も世話を焼くこともなかった。
せっかく収納魔法持ってるんだから、今度からちゃんと俺が用意しとこう。亜空間はレンレンの棲家としてしか機能していない。
暫くするとシゼの案内でアーリシュリン兄とロクテーヌリオン公爵が入ってきた。
スワイデル側の人間へ挨拶をしているが、意外と元気なアーリシュリン兄に比べてロクテーヌリオン公爵はぼうっとした顔をして元気がない。
「アーリシュリン、私は休むようにと言ったはずだが?」
「何で分かるんだ!?」
よく分からないけどアーリシュリン兄はカーレサルデ殿下に怒られていた。公爵は熱が出たらしく、カーレサルデ殿下が治癒魔法を掛けていた。
アーリシュリン兄も母上からゲンコツを食らっていた。
正気に戻って早々、何怒られるようなことやってるんだろう?アーリシュリン兄は相変わらず自由人だ。
テレセスタはシゼの無事な姿を確認し、笑顔で側に寄って行っていた。すっかりテレセスタはシゼになついている。
「身内での話になるなら私達は席を外しましょうか?」
遠慮しようとしたユキト殿下にカーレサルデ殿下は一緒に聞いて欲しいと頼んでいた。
リューダミロ王国は有事でも他国に人を派遣することが少ない。三国間平和同盟ですら魔法師を一人二人派遣して終わりである。その一人の魔法師の攻撃力が半端ないので許されているようなもので、普通だったらおかしいよなと思う。
それが態々王族であるカーレサルデ第二王子殿下とロクテーヌリオン公爵が百人程度連れて出てきたのだ。この百人は転送魔法を使う為の人数で、護衛は母上一人しかいないようなものらしいけど。
よっぽどの理由があるばす……。
アーリシュリン兄の無事を確認する為と、何故彼等が来たのかを知る為に俺は此処まで来た。
全員が揃ったところで、カーレサルデ殿下は食事を用意させ話し合いの場を作った。給仕は内密な話になる為、全員下がらせたと言うので、シゼ、パル、テレセスタがやると申し出たのでお願いした。一緒に食べるよう言われていたが、主人と同じ席には付けないと拒否していた。
「此処まで来たのはアーリシュリンがソルトジで作った魔導具についてのレポートを見たからだ。」
どうやらサクトワ共和国に出発する前に、リューダミロに送り返したアーリシュリン兄の荷物を検めている時、そのレポートを読んだらしい。
アーリシュリン兄のレポートは主に魔工飴の研究に付いてだったが、副産物として魔力吸収を行う魔導具を開発していた。しかも属性を選んで吸収出来るという。それは闇魔法の魔力吸収と同じ効果になるのだとか。アーリシュリン兄はその抽出された魔力を魔工飴に加工して属性毎の魔工飴を作れるようにしたが、カーレサルデ殿下曰く属性毎の魔力吸収を行う魔導具が必要なのらしい。
「だがレポート通りとなると性能をもっと上げて欲しい。今の吸収容量では足りないので、開発者のアーリシュリンに頼みたいのと、魔導具の先駆者であるユキト皇太子殿下にも助力を頼みたい。」
ユキト殿下にいて欲しい理由はこの開発を一緒に手掛けて欲しいからかと納得した。
「私に頼むという事は国を挟んでの話になってしまう。技術者の派遣では駄目なのだろうか?」
開発にどの程度の時間が掛かるか分からないのに、他国の皇太子であるユキト殿下が直接関わるには色んな問題が出てくるだろう。
カーレサルデ殿下は顎に手を当てて考えたのち、意を決したようにユキト殿下を見つめた。
「これは個人的な頼み事に近い。国際間の取り決めに従ってやり取りを行っていては時間が無い。態々ここ迄来たのも、アーリシュリンを素早く帰国させる為と、ユキト殿下が同行しているとの報告が上がった為、直接頼みたくて来たからだ。……私はロワイデルデ兄上を助けたい。」
リューダミロ王国には二人の王子が後継として存在している。現在ロワイデルデ・リューダミロ第一王子が王太子となっているが、身体が弱く人前にはここ数年姿を現した事がない。このまま治る見込みがなければ繰り上がってカーレサルデ殿下が王になるのではと、平民でも知っている噂だった。しかしロワイデルデ殿下が何の病に罹っているのかはあまり知られていなかった。
「何か魔力障害に関する病に罹られているのか?」
カーレサルデ殿下は病では無いと首を振った。
「これはリューダミロ王家とロクテーヌリオン公爵家、後は一部の古参貴族しか知らない事だが、ロワイデルデ兄上は聖属性と闇属性の二種類の魔力を持っている。リューダミロ王族は代々二種類の魔力を持つ者が産まれる家系なのだが、二種類の属性を身の内に持つのは禁忌とされ、闇魔法師の家系であるロクテーヌリオン公爵家に闇属性のみを吸収してもらっていたんだ。だが、今のロクテーヌリオン公爵家に王族の闇属性のみを吸収出来る闇魔法師がいない。」
「え?じゃあ、公爵は闇魔法師じゃ無いんですか?」
俺の素朴な質問に母上からもう少し遠慮しろと小突かれた。だって公爵は今目の前にいるけど闇魔法師特有の黒髪黒眼なのだ。これで闇属性じゃ無いと言われたら不思議でしか無い。
「それは私が答えるが、私は闇魔法師で間違いない。但し、生まれつき自力での魔力生成が出来ない弊害で属性を指定して魔力を吸収出来ないんだ。魔力容量は大きいのにいつも魔力が空っぽなせいで、魔力吸収を行うと全ての魔力を吸い出してしまう。それではロワイデルデ殿下の闇属性のみを吸う事が出来ずに、殿下は未だに聖と闇の二つを抱えていらっしゃる。」
カーレサルデ殿下が後から続くように補足説明した。
ロワイデルデ殿下の様に聖と闇を持って産まれた人間はかなり大きい魔力容量を持って産まれるらしく、その大きさはカーレサルデ殿下や公爵、アーリシュリン兄よりも遥かに大きいらしい。
だが相反する聖と闇は相殺しあって殆どの魔力行使が出来ない。それを解消する為には聖か闇どちらか一属性にしなければならない。勿論王族という事で聖属性にしてきた。その方法として闇魔法家系のロクテーヌリオン公爵家が存在しているのだという。
リューダミロ王家とロクテーヌリオン公爵家は血の繋がりがある。それは聖属性を王家へ闇属性を公爵家へ振り分けている為で、お互い嫁いだり降嫁したり、血が濃くならない様他家から嫁がせたりと調整して保っていたらしい。
だが今回に限って運悪くロクテーヌリオン公爵家にはムルエリデ公爵一人しか子供がおらず、しかも属性指定をして魔力を吸収出来ない身体だった。王家も聖と闇を抱えた第一王子と聖属性のみのカーレサルデ第二王子のみ。第一王子の身の内にある大量の闇属性を吸収出来る闇魔法師がいない状況になってしまった。
「子供のうちは特に魔力行使が出来ないという問題があるだけで普通だったんだが、十代半ば辺りから成長が止まってしまったんだ。」
魔力が安定するのは十歳から十五歳あたりで安定して来る。ロワイデルデ殿下は魔力容量も大きいので十代半ばで安定したが、大きく膨れ上がった闇属性は触れた人間の魔力を吸収してしまった。
闇魔法師の魔力吸収は肉体に影響する。身体が醜く崩れる代わりに頑丈で強い身体へ変化する。老化が無くなり、吸収し続ければ不死に近付くのらしいが、魔物の様な姿に変貌してしまう。それを治せるのが聖魔法師の治癒になるのだが、治癒と同時に不老不死も解除される。その考え方から行くとロワイデルデ殿下は魔力吸収で不老になったとしても聖魔法で治癒したので元の姿に戻るはずなのに、何故か肉体の年齢が止まってしまったらしい。
膨大な魔力が吸収、不老、治癒を自然に繰り返しているのではと予測しているが、このままではロワイデルデ殿下は死ぬまで十代の身体だし、死が訪れるのかさえ分からない。
何とか闇属性のみ身体から取り出したいという事だった。
不老不死を夢見る魔法師には喉から手が出るほどの研究材料になるだろうが、リューダミロ王家はそれを良しとはしなかった。人は老いて死ぬもの。禁忌の理由は明らかになっていないそうだが、ロワイデルデ殿下の状態からこの所為ではと考えている。
「しかし、闇だけの属性を取り出す魔導具ではありませんよ?あくまで吸収する属性は選べても元から持っている属性を消す事は不可能です。」
アーリシュリンの魔導具はただ魔力容量の中にある魔力を吸うだけなのだ。魔力を吸えば、元から持つ属性の魔力が自然と回復するだけなので、ロワイデルデ殿下の闇属性魔力を吸収したとしても、また闇属性が回復するのではと思い、アーリシュリンは質問した。
「それは闇魔法師の吸収にも言える事だが、コップの入れ物の中に半分聖属性、半分闇属性が入っていて、半分の闇属性が無くなった時を考えて欲しい。聖と闇は同量ずつ回復するんだが、空になった場所には同量の聖と闇が増える。回復した時入っているのは元からあったコップ半分の聖魔力と四分の一ずつの聖と闇だ。これを繰り返していく。限りなくゼロに近い闇属性が残った時、闇属性は消滅する。」
それまでは下手に魔力を使ってしまうと元に戻るので闇属性が無くなるまで魔力は使えないけどね、と補足した。
「成程、最後の僅かな闇属性は確実に消滅するんですか?」
ユキト殿下も魔導具研究者なので興味津々のようだ。
「そこは間違いなく、過去の例から消える。過去の王族が残した書物に聖属性に飲み込まれたかの様に消え去ると記されている。」
カーレサルデ殿下がアーリシュリン兄のレポートを取り出して広げると、ユキト殿下とアーリシュリン兄は二人で改良点を話し出した。
ユキト殿下の興味を引いた事を確信したのか、カーレサルデ殿下はホッと一息ついている。
俺には魔導具の仕組みはさっぱり分からない。魔導具はスワイデル皇国の技術なので、リューダミロ王国には馴染みがないし学業にも無い分野なので全く理解出来なかった。
ただ地球の科学に近いのかなとは感じる。燃料になるものが魔石になるだけで、仕組みは似た様なものかもしれない。
そのうちユキト殿下はもっと凄いものを作っていくのだろうか。
今回カーレサルデ殿下が来た方法である転送魔法も、魔導具で作り出すのかもしれない。
リューダミロ王国では上位貴族しか持たない魔導具が、普通の人々にも使える家電の様な物になっていくのかもしれない。
隣でアメジストの瞳を輝かせながら話すユキト殿下は、この世界になくてはならない人なのだ。
ーーユキト殿下を護らなければーー
この気持ちは確かにユキト殿下に対する好意からきているのだが、世界の真理の様に感じる。
俺はピィに幸せになるからと約束して、この世界に生まれ変わった。
それは間違いないのに、この感覚は何なのだろう………。
あの時の時空の神とやらに何かされたか?
神の領域は使命を持っている。
俺に何か使命が有るとでも?
確認する方法はない。あの場所に戻る時は死んで名前を返す時だ。
俺の幸せは家族の幸せな姿を見る事。
それは変わらないのに、ユキト殿下の存在が大きくなっていく。
この感情は自分のものなのか、神の意思なのか………。
ロルビィは理解出来ない感情を持て余していた。
そんなロルビィをカーレサルデも静かに観察していた。
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