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1章 俺のヘタレな皇子様
2 へープレンド辺境伯爵家の三男
しおりを挟む生まれ変わった俺はロルビィ・へープレンドという、辺境伯爵家の三男だった。産まれた瞬間に名前は閃いたらしい。
父の名はトーリレステ・へープレンド。へープレンド家の当主で亜麻色の髪に翡翠の瞳を持つスッキリとした平凡な顔立ち。回復魔法の権威で領地で療院を作って医師として働いている。
母の名はセリエリア・へープレンド。金髪に真紅の瞳の派手な美人。火の魔法師で戦いが好き。領地に魔獣が現れれば飛んでいき討伐する日々を送るという奔放な性格をしている。
両親は二人とも貴族の出ではあるが、どちらも嫡子では無い為、若い頃は国の軍に所属していた。
この国の名はリューダミロ王国。王様、貴族がいる昔のヨーロッパという感じ。30年前迄は北の国と国土を巡る戦争を行っていたが、勝利して今は冷戦状態だ。
その北の国との戦争で活躍したのがウチの両親らしく、終戦時に褒賞として伯爵位と領地を賜った。
しかし!その領地はなかなかの曲者だった。
まず、リューダミロ王国は西に位置するスワイデル皇国と南に位置するサクトワ共和国との三国間平和同盟を締結しているのだが、その三国が合わさる場所がウチの領地だ。
三国間平和同盟。もう少し良い名前つけろよと思うが、名前の通り平和の為の同盟。
リューダミロ王国は北の国が攻めて来たら、スワイデル皇国は同じく北の国と国土の更に西にあるカーンドルテ国が攻めて来たら、サクトワ共和国は西北にあるカーンドルテ国と海の向こうの大陸にある国が攻めて来たら、お互い助け合いましょうという同盟だ。他にも貿易とか色々細かい条項はあるが、ざっくり言うとそういう同盟。
隣国に何かあればウチの親は走らねばならない。たぶん母上は喜んで走ってるとは思うが、そんな重要な領地を活かす術をウチの両親は知らなかった。
まず自領の防衛の為にもへープレンド辺境伯爵家独自の兵を持つことが出来るのに、そんなもの作れる程ウチの両親は知識が無かった。
なんせ勉強もそこそこに軍隊に入って戦争で戦ってたのだ。
戦ってなんぼの人達に突然爵位と領地あげるから、軍隊作れと言われても無理だった。
そもそも領地運営も無理だった。
父は報奨金を療院建設費に当ててしまうし、母は自分について来た兵達と共に魔獣討伐に明け暮れた。
なんとか国が付けてくれた家令が頑張ってくれていたが、あっという間に火の車。
しかもこんな面倒な領地欲しがる人間もいないので、誰も詐欺してでも手に入れようとしない代わりに誰も助けてくれようともしない。
一番上の兄がなんとか王立学院ピツレイで経営学を学び、領主代行をやり出した。家令は泣いて喜んだ。
一番上の兄の名はトビレウス・へープレンド現在二十八歳。亜麻色の髪に深緑の瞳。平凡な父と派手な美人の母とを半々にした様な、綺麗だが派手さの無い人だ。魔力の豊富な親に似ず、生活魔法が使える程度の魔力しかない。
奔放な父と母を見て育ったせいか、真面目で貧乏伯爵家をなんとか立て直そうと頑張っている。忙しすぎて未だに結婚も婚約もしていない。
次兄の名はアーリシュリン・へープレンド現在二十二歳。母にそっくりで金髪に真紅の目、派手な美人顔をしている。見た目通り母と同じで火の魔法師。派手な大技が大好きだ。
次兄は今隣国スワイデル皇国ソルトジ学院へ留学している。卒院したら婚約者のロクテーヌリオン公爵家当主ムルエリデ・ロクテーヌリオンと結婚する予定だ。
そして三男の俺になる。
ロルビィ・へープレンド二十歳。
亜麻色の髪に翡翠の瞳の父似で平凡な見た目だ。髪は耳のところで揃えて、後ろは邪魔だから短く切っている。
父と同じ緑の魔法師だったが、回復魔法は使えない。豊富な魔力量の割には特に使える魔法もなく、五歳の頃に拾った魔植をペット替わりに育て、ほぼ魔力はペットに与えていると言っても過言では無い。
魔植とは魔獣の植物バージョンだ。魔獣を使役する魔獣使いはいても、魔植を使役する魔植使いは珍しい。
何でって?基本火に弱く直ぐに倒されてしまうほど弱っちい魔物だからだ。
別に俺はそれで構わない。
五歳の手のひらに乗った魔植はとても小さくて、細い緑色のウネウネが絡み合ってて、楽しくなって拾って帰ってしまった。
家族と家令と使用人は皆んな悲鳴をあげた。
気持ち悪い、直ぐに燃やそうと言われたが、なんとか説得してペットにする事を許可してもらった。
名前はレンレン。あれから15年経ち、レンレンは緑の小さなウネウネの塊から、立派な蔓を持つ蔦状植物に育った。普段は亜空間の中に入ってしまって、人がいない時は肩に一部分だけ出て来て頭に擦り付いてくる。結構大きく育ったと思うが、全体像を最後に見たのはいつだろう?
俺も次兄も長男同様ピツレイ学院に通ったが、俺はレンレンが直ぐに見つかってしまい普通科から使役科へ移されてしまった。使役科は皆んな魔獣、要は動物性の魔物ばかり使役している中、植物を使役する俺は馬鹿にされた。座学は優秀だったのに、実戦ではほぼ出してもらえず、そちら方面のテストはほぼ零点。
お陰で成績優秀者とは見てもらえず、貴族で成績の良いものは武官や文官としてお声が掛かるのに、一切それも無かった。
まぁ、二歳年上の派手で美人な兄と比べられるのも嫌で、家名を敢えて言わず、平民然としていたのも悪かったかもしれない。
だって入学して直ぐに襲われたのだ。
次兄のアーリシュリンは男だけど大層美人で男好き。入学して知ったがビッチか?というくらい遊んでいてびっくりした。その弟だから、お前もやってるんだろうくらいの勢いで襲われそうになり、レンレンが蔦を使って締め上げ事なきを得た。
そいつは裸にひん剥いて放り出しておいた。誰かは知らない。
襲われた時に出した魔植レンレンが見つかってしまい、使役科へ転科。名簿にはへープレンドの家名付きでも人に挨拶する時はただのロルビィで通した。
平凡な顔立ちの所為か誰も貴族と思ってくれなかった。
そんなに平民ぽいだろうか?
前世がただの高校生だったからだろうか。
美人な次兄は公爵家という大物を釣り上げたので、お前も頑張れよと長男トビレウスから言われたが、無理は言わないで欲しい。
そんなものは一人も釣れなかった。
俺は十八歳で何事もなく卒業し、領地に帰った。
トビレウス兄は自分も婚約者いないし、仕方ないよなと言って、補佐をするように言ってくれた。
三男なんて追い出されてもおかしく無いのに、兄は一緒に頑張って領地を盛り立てて行こうと言ってくれた。
なので、俺は魔植レンレンを使って領地の土壌開発を頑張ることにした。
この領土は乾燥地帯。
降水量が少ないので、水の確保が重要だ。
レンレンを使って井戸を掘り、たまに降る雨で流される土を固める為に掘りや塀を作った。
土が乾燥していてもちゃんと芽が出る小麦を植えているのに、出たり出なかったりすると言われて、少し深めに植えさせた。深くて芽が地表に出れるか心配だったが、なんとか芽を出し育ち出して、領民と大喜び。あんまり浅く植えると種が乾燥し過ぎていた様で、湿気がある深い場所に植えたのだ。
なんとか二年で先が見え出した時、事件が起こる。
トビレウス兄の執務室に呼ばれて、言われた言葉に顔を引き攣らせた。
「アーリシュリンがまた逃げたんだ。」
「………え?」
兄は一度結婚から逃げている。
本当はピツレイ学院を卒業後十八歳でムルエリデ・ロクテーヌリオン公爵と結婚する予定だった。
しかし兄は何を思ったか、公爵にこう言った。
「私はムルエリデ様の為に更なる知識をつけて公爵夫人として役に立ちたいのです。ですからスワイデル皇国のソルトジ学院へ留学させて下さい。」
と宣った。
感激した公爵は留学費用全額負担を申し出て送り出した。
考え無しな両親は、え?そうなの?いってらっしゃーいと簡単に送り出したが、トビレウス兄と俺は青褪めた。
これは逃げたなと………。
公爵は馬鹿なんじゃないかと。
恋は盲目とはこういう事なのかと、恋もした事のない俺は思ったものだ。
あれから四年、そのソルトジ学院を卒業した暁には漸く自国へ戻り結婚するのだろうと思っていたら、アーリシュリンがいなくなったとの報告が上がった。ロクテーヌリオン公爵家から。
「やはり迎えに行くべきだったのか………。」
ウチは貧乏だ。
アーリシュリン兄の学費とついでに俺の学費、それからへープレンド辺境伯爵家領地の経営援助をロクテーヌリオン公爵家がやってくれている。
とてもじゃないが返せる額ではない。
アーリシュリン兄が結婚してくれないと、婚約破棄代等払えない。逆に慰謝料請求されかねない。
ガクガクと震えるトビレウス兄に、安心させるように肩を叩いた。
「俺が行ってくるよ。まずロクテーヌリオン公爵に謝って、それからスワイデル皇国に詳しい事を聞きに行ってくるからさ。」
トビレウス兄は申し訳無さそうな顔をした。兄はロクテーヌリオン公爵が苦手なのだ。長身で暗い雰囲気なのが近寄り難いのだとか。
こうして俺の旅は始まった。
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