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番外編

82 ドゥノーの優しい風③

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 ドゥノーは休日になるとニジファレル宰相閣下の執務室で臨時補佐官をするようになった。
 仕事内容は多岐にわたるけど、やりがいがあって面白い。将来的にも今から慣れておいた方がいいとも思うし、臨時収入もあるので喜んで来ている。

「それでその首輪をつけてるんだね。」

「はい。外し方も分からないし、お風呂もつけっぱなしですよ?」

 宰相閣下ならコレの外し方を知ってるかと思い尋ねたけど、特殊な留め具が皮の中に隠されていて、作った人間じゃないと取れない仕組みらしい。
 
「ま、ドゥノー君の身の安全の為にやったことだし、つけててあげて欲しいかな。それに弟が損得勘定なしで何かをやってあげるのなんて珍しい事だから、誇りに思ってよ。」

 宰相閣下は明るく言い放つ。

「でも……、この首輪目立つんですよ。何で首に……。」

 学院でもこの首輪を見た生徒達がヒソヒソと話しているのが聞こえるのだ。最悪なのが盗難したとかいう根も歯もない噂だ。盗んだ物を堂々とつけてるバカがいるとでも思っているのだろうか。
 
「それは指や腕だと身体から切り離された時意味がないからだ。首なら必ず生きている間はついてるだろう?」

 当然声がした。ニジファレル宰相閣下と二人でビクゥと肩が震える。

「な、なんて物騒なこというのさ!?」

「急に来たら驚くだろう!?」

 二人の文句にルキルエル王太子殿下は肩をすくめながら部屋に入って来た。
 殿下は『絶海』があるから出入り自由で気配がない。

「そろそろ退勤の時間だぞ。」

「え!?あれ、ほんとだ。じゃあまた次の週末来ます。」

「送ってやろうか?」

「えっ、いらない。絶対目立つとこに降ろすもん。」

 ドゥノーはそう捨て台詞を吐いてさっさと帰ってしまった。


「彼は裏表のない子だねぇ。」

「気に入ったのか?」

 ルキルエルの問い掛けにニジファレルは可笑しそうにクスリと笑った。

「気に入ってるのはルキの方だよね?躊躇ってるの?」

「…………………。」

 無視する弟を見てニジファレルは苦笑する。彼の人生を考えると簡単には人を信用しないだろう。身近にいる者達ですら損得なしには付き合えない。
 だからドゥノーを丸め込む形で支援だ投資だと言って学費援助をして学院に通わせる事にしたのだろう。
 そうしないと落ち着かないのだ。
 そうしないと近寄れない。
 そんなもの無しでも簡単に信頼を与えてくれる人間がいることを、この弟は信じることが出来ない。

 あんな高価な首輪までつけちゃってるのに。
 あの中央の石、大きさでも質でも国宝級レベル。絶対に入ってるスキルは『絶海』だけではないはずだ。

 あの日廊下に不審人物がいると聞いて駆けつけた時、廊下に座り込むドゥノー・イーエリデを見つけて閃いた。
 この子が最近北離宮に出入りしている人物の中の一人。
 ルキルエル王太子殿下の北離宮は、殿下に認められた者しか入れないと言われている。その中の一人がこの子か…。
 ルキルエルは特定の誰かと親しくなることはない。ドゥノー・イーエリデとも無意識に距離をとっているはずだ。
 まずはドゥノーの性格を見てみよう。可能性がありそうならば近付けてみればいい。
 
 臨時で仕事を任せてみたが、学歴がないにも関わらず仕事が早い。知識も豊富で計算処理も早く、判断能力にも長けている。父親の仕事を手伝っていたと言うが、これは天性のものだろう。

 これはいい!

 貴族、スキル持ち、婚約者無し!ニジファレルは動いた。と言っても、ルキルエルは宰相の執務室に頻繁に来るので自然と会う様になり、話す回数を増やしただけだ。
 ルキルエルは優秀な人間を好む。
 
 問題はドゥノー君だなぁ。この子はこの子で無意識にルキルエルを友達枠に置いている。元婚約者のせいかな?
 なんとかしないと。これでは後継が誕生しない。
 ニジファレルは継承問題に巻き込まれたくないので独身主義を貫く予定だ。ルキルエルには頑張って正妃を娶って貰い後継を作って貰わなければならないのだ。

「………おかしなことをすれば、いくら兄上でもただではすまないぞ。」

「え?私はこの国の未来を憂いているだけだよ?」

 ニジファレルは一計を講じることにした。






 計略達者なルキルエル相手に一人では無理!
 人選は吟味に吟味を重ねた。
 という事で呼んだのはつい最近黒銀騎士団長に任命されたソマルデ・ローティエル伯爵だ。
 今理由は分からないが、ルキルエルは『絶海』が使えない状態らしい。このチャンスを逃すわけにはいかない。
 この人いきなり若返って今王侯貴族から絶賛注目を集めている。でも誰も黒銀騎士団長に尋ねる勇気がない。聞こうものなら笑顔で「スキルを極めたらこうなりました。」と言う返答しか貰えないし、それ以上聞こうものなら殺気を浴びるらしい。
 ニジファレルも余計なことは聞かないつもりだ。
 要件は一つ。
 ルキルエルとドゥノーをどうやって近付けるかだ!

「私の申し出は理解して貰えただろうか?」

 目の前のソマルデ騎士団長は和かに微笑んだ。
 わー、弟と張り合えるくらい胡散臭いな!

「ええ、大変有難いご指名です。私も常々王太子殿下のお相手は早く見つけるべきだと思っておりました。」

 ソマルデ騎士団長は胸に手を当て真摯に応える。
 その姿に一瞬何か企みでもあるんだろうかといぶかしんだが、その表情からは何も読み取れない。
 ニジファレル一人ではルキルエルを騙すことは無理なのでと思い呼んだのだが、別の人間が良かっただろうか?しかしファバーリア侯爵はどちらかと言うと武人タイプで騙すより騙される方、アジュソー白銀騎士団長は絶対にルキルエルの不利になることはしない。ニジファレルが声を掛けても逆に落とし穴に嵌められる。だったら平気で相手が王太子殿下であろうと罠に嵌めてきそうなソマルデ騎士団長にしてみたのだが……。
 でももう頼んじゃったしな。内容言っちゃったし。

「信じて頼んでも大丈夫か、な…?」

「お任せ下さい。」

 とてもいい笑顔で返事が返ってきた。






 
 王都にあるローティエル伯爵の屋敷は貴族街の中心部に位置する。規模的には中規模のお屋敷だが、古くとも手入れの行き届いた趣のある建物だ。使用人は当主が揃えた人選なので、口は固く忠義に厚い。
 そんな屋敷の中で守られながらラビノアは伯爵夫人の仕事を覚えるべく頑張っているのだが、基本夫のソマルデが何でもやってしまうのでやる事は少ない。屋敷の管理を少ししているだけだ。
 
「忙しいなら私も少しお仕事したいです。」

 そうラビノアは普段から言っているのだが、ソマルデは笑ってそれを拒否してしまう。

「これくらいの量で忙しいなどとは笑ってしまいますね。」

 ラビノアは頬をぷーと膨らませた。
 テーブルで何か書き物をしている夫を労うべくお茶を持ってきたわけだが、本当は夫が淹れたお茶の方が美味しいことは知っている。

「今やってるのはお仕事じゃないんですか?」
 
「違いますよ。さぁ、こちらへ。」

 椅子に座るソマルデに手招きされ、ラビノアは茶器を乗せたお盆を持って近付いた。そのお盆もヒョイと片手で奪われてしまう。
 もう片方の手を出されたので、無意識に手を乗せたのだが、掴まれて引き寄せられ、ラビノアは自然とソマルデの膝の上に乗せられてしまった。
 膝の上に乗せられ先程までソマルデが書いていた紙を手渡される。
 内容を読んでラビノアは首を傾げた。

「これは???」

「実は王太子殿下とイーエリデ子息の仲を取り持ってほしいと頼まれました。」

「ドゥノー君と殿下を!?………あれ?仲は進展していないんですか?」

「ええ、残念ながら。ですのでそれを憂慮した方からご依頼を頂きました。」

 誰だろう?と思いつつも、ラビノアもあの二人は気になっていた。あんなに貴族達の前で堂々とダンスを何回も披露しておきながら、王太子殿下がドゥノー君を婚約者にする気配がない。どーいうつもり!?とそのうち問いただしたい気分でいっぱいだったのだ。

「ソマルデさんが作った作戦通りにいくんですか?」

「不確定要素が大きいのですが、もしそれが予想通りでなかったとしても、イーエリデ子息ならば問題なく動くかと。」

「言われてみれば、確かに…。」

 ラビノアは熱心に計画書を読み込んでいた。この通りならばラビノアは北離宮に行かねばならない。

「あの、私がハンニウルシエ王子の所に………て、え?あの……………あ、えぇ!?ここでは、あんっ!」

 忍び込んできた手がラビノアの胸を弄り、乳首をピンッと弾いた。

「ええ、そこはお任せしようかと思い見せたのですよ…………。な?…もう使用人達は使用人棟に下がっただろ?」

 ここの使用人達は時間に正確だ。時計を見ると全員引き払っているだろう。

「あ、でも……、じゃあベットに…。」

 誰もいないとはいえこんな場所でとラビノアは顔を赤らめる。
 夫のソマルデのスイッチがいつ入るのか、未だにラビノアは把握出来ていなかった。
 二人とも後は寝るだけだったので簡素な上下の寝衣しんいを着ている。腰を上げられラビノアのズボンと下着が中途半端に降ろされた。

「きゃっ!」

 赤くなって小さく叫ぶと、ラビノアの大好きな人が楽しそうに笑っていた。
 お尻に手を当てられ割れ目に指を這わせてクチュリと指を埋め込んできた。

「…………用意してたんだ?」

 ラビノアはかかーーと赤くなり、両手で顔を隠す。手に持っていた紙の束をバサバサと落としてしまった。

「きょ、今日はお帰りになるって聞いてました……。わ、わ、私だって、男の子ですもんっ!」

 ぷっ、とソマルデが笑う。

「そうだなぁ~。ちゃんと付いてる。」

 スルゥとあまり大きくはないラビノアの陰茎を撫でられ、ラビノアは腰を震わせた。
 
「そ、ソマルデさんのせいで、こんなところで勃ってしまっちゃったじゃないですかぁ!」

「俺のも勃ってる。」

「はうぁっ!ほ、ホントですっ!」

 ラビノアは悶えた。でもしっかり見ている。
 
「ラビィ、出して。」

 え!?とラビノアは驚いた。わ、私が!?ソマルデさんのを!?
 切長の瞳がジッと見つめてくる。
 ラビノアはゴクっと喉を鳴らし、プルプルと手を震わせてソマルデのズボンを握った。

「ふ、ふ、ふ、震えて無理ですぅ~~~~!!」
 
 深い緑色の瞳が愉しげに笑う。
 テーブルに置かれたお盆を片手に持ち、ラビノアのお尻を片腕に乗せ立ち上がった。
 ラビノアの剥き出しの陰茎がソマルデの腹にスリッと擦られ、ラビノアはビクッと震える。

「スケベ。」

「そ、そ、そ、ソマルデさんの方がっ!」

 だいたい誰のせいでお尻が出てると思うのかと叫びたい。でもラビノアはこのハンサムで逞しい人が大好き過ぎてふにゃふにゃと力が抜けてしまった。

「……んむぅっ……!」

 べろぉと温かな舌で首筋を舐められ、ラビノアは声を漏らした。
 
「期待してたのか?」

「してましたょ……。帰りが早いって知ってましたもん。」

 ラビノアを抱き上げる人は喉の奥で笑った。
 ああ、好きっ!かっこいい!
 ソマルデの足が寝室に向かい出したので、ラビノアはギュウとしがみついた。スリスリと擦り寄る。
 話の続きは明日にしよう………、そう呟かれて、ラビノアの青い瞳はソマルデを捕らえて包み込んだ。

 

 












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