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番外編

72 ホトナルは自分の心が分からない③

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 自分の下で喘ぐ姿にホトナルは興奮していた。
 欲情した紫の瞳も、喘ぐ声も、震える身体も、痙攣する体内も、ホトナルは初めてだった。

「…………はっ、すごい………気持ちいいものですね。」

 ズル~と抜いて勢いよく押し込むと、意外と奥まで入ってしまって驚いてしまう。
 包み込む暖かい肉が気持ち良かった。痙攣して蠢いてホトナルを包み込んでいる。

「ぁ、あ゛、あ゛、あぁ………んぐ、ふ、ぅあ…。」

 中を擦り揺するたびに短く喘ぎ、奥を勢いよく突くとビクンと震える。
 流れる涙も滝のように出る汗も、全部ホトナルのものにしてしまわないと!
 ハンニウルシエ王子の足を持ち上げ、上半身の両横に倒した。お腹が圧迫され息苦しいのか、王子がホトナルを縋るように見上げてくる。
 ググッと体重を乗せて押し込むと、もっと奥に入って気持ちが良かった。

「ーーあーーーーーーっっ!」

 声にならない叫び声と共に、またハンニウルシエ王子は射精した。

「ふふ、早いですね。」

 ビクンビクンと痙攣する体内が、ホトナルの陰茎を刺激してくる。
 何だかもっと奥に入りそうな気もするが、どうなのだろう?
 ホトナルは初めてだからよく分からない。
 分からないが快楽を求めてドスドスと抽送した。

「だ、だめ、も、や、ぁ、ああ、さわっ触るなっ止めてっ!も、」

 ホトナルは何度も射精するハンニウルシエ王子の陰茎を握っていた。後孔に自分を押し込みながら、王子の陰茎を扱く。

「こうすると気持ちいい?」

「やだっ、つらい、やっあっ、あ、ああ!」

「なんだ、つらいの?よく分からないな。じゃあ、どうしたらいいです?」

 ホトナルは上気した顔でハンニウルシエ王子に尋ねた。
 その間もずっと動き続けている。

射精してっ、だしていいっ………!」

「うーーーん、じゃあ出したら王子は私のものになりますか?」

 王子はコクコクと頷いた。
 ホトナルの動きが早くなる。お互い低く呻きながら、ホトナルはハンニウルシエ王子の中に出した。
 ハンニウルシエ王子もビクビクと震えているが、王子の陰茎からは出ていない。それでもホトナルの陰茎を握った手に痙攣の振動が伝わった。

「……はぁ、はっ、王子、約束ですよ?分かってますね?」
 
 貴方は私のもの。
 そうオレンジ色の瞳がハンニウルシエを縛り付けた。
 ブルブルと震えながら頷く。
 
 頷いて意識が遠のいていく。ハンニウルシエは下半身から抜けていく熱を感じながら眠りに落ちていった。











 大変、大変、そう言いながらホトナルはルキルエル王太子殿下の部屋に飛び込む。
 既に朝日が登り出し、空が白く明るい時間になっていた。
 朝食は宮殿の方で食べる為、ルキルエル王太子殿下の朝は早い。
 既に着替えを済ませていた。
 もうこんな時間になっていたのかとホトナルは驚く。ハンニウルシエ王子の部屋は地下にある為、時間感覚が狂っていた。

「どうした?」

 ホトナルの行動が突飛なのはいつものことなので、そう驚かずにルキルエル王太子殿下は尋ねてきた。


「熱がっ、吐いて、」

 オレンジの髪はボサボサで、同色の瞳を見開いて何かを訴えているホトナルを、ルキルエルは案じる様に肩を叩いた。

「ちょっと落ち着け。王子のことか?何かわかったのか?昨夜出てからのことを順立てて話せ。」

 ルキルエルの方が年下なのだが、ホトナルの性格は年齢ではないので、落ち着かせて話させた。



 バキッーーーーーッッ!!!


 説明を聞いたルキルエルはホトナルの左頬を思いっきり殴り付けた。
 使用人を呼んで医師を手配する。
 ハンニウルシエ王子は熱が出やすい。心因性があるとは聞いていたので何かあるのだろうと思っていたが、調べてくるのはいいとして手を出すとは。
 しかも自分のものにしようとした!?
 それも『黒い手』が欲しくて!?
 
 頭のおかしい奴だとは思いつつも、スキルに関する知識は豊富で、それに伴う判断力にも優れているのでここに置いたが、人間性はすごぶる悪い。
 ズキズキと痛む頭を抑えて一旦この男を監視しなければと考えを改める。
 そしてハンニウルシエ王子の体調を戻す必要がある。
 コイツは洗脳された人間を更に同じ方法で洗脳しようとしたのか?
 何故そうなったと頭が痛い。







 朝食は諦めて医師と共にハンニウルシエ王子の診察に立ち会った後、やって来たアジュソー団長とミゼミに尋ねた。
 今の状態のハンニウルシエ王子をミゼミの『隷属』で精神的にケア出来るかをだ。

「出来るけど怖い。王子様の傷が大きかったら、ダメかも。」

「その状態の王子には会わせられません。」

 ミゼミは躊躇っていた。嫌とかではなく、自信が無さそうだ。
 アジュソー団長を見ると、団長も同じ考えの様だ。
 ラビノアが与える依存性を消すのとは訳が違う。心の傷はそのままミゼミの中にも入ってくる。
 普段はハンニウルシエ王子が押さえ込んでいる心情は、今の状態ではダダ漏れでミゼミには受け止めきれないかもしれないと言った。消そうと思って逆に飲み込まれたらどうすることも出来ない。

「そうか。すまなかったな朝から。」

「でも、かわいそだよ。」

「治療は長期になりますか?」

 二人はハンニウルシエ王子に同情的だ。

「そうだな。治療はしよう。それも問題だが、問題を起こしたホトナルをどうするか。」

 そうですね……。とアジュソーも思案する。アジュソー自身も幼少期に虐待にはあっているが、ハンニウルシエ王子のものとは性質が違う。
 それにハンニウルシエ王子は使いようによっては危険なスキル持ちだ。ルキルエル王太子殿下が主従契約をしているから大丈夫だとは思うが、もし誰かにその契約を奪われて、同じように洗脳してしまえば立派な暗殺者が出来上がる。

「生かしておくのですよね?」

「出来ればな。」

「なら…………。」

 アジュソー団長は二人の処遇を進言した。








 ホトナルの処遇は黒銀騎士団預かりとなった。
 まずホトナルは亡命希望でこの国に来た。国もスキルを持つ人間は歓迎するので、国籍を与えて当面の生活を支援するのが普通だ。
 ハンニウルシエ王子は無理だが、ホトナルは一貴族の三男にすぎない。しかも今は平民だという。
 平民でいいので国籍を取得したいと言うので、ルキルエル王太子殿下はホトナルに平民の国籍を与えた。
 そして黒銀騎士団に突っ込んだ。

「一度人生をやり直してこい。」

「え?」

 この会話でホトナルは騎士団の宿舎に引き摺られていった。
 
 黒銀騎士団は現在エジエルジーン・ファバーリア侯爵から、新たに貴族籍に入ったソマルデ・ローティエル伯爵へと任命されている。
 ファバーリア侯爵家家門は今半分になったので、空きがいっぱいあった。ソマルデはどこがいい?と聞かれて、一番王都に近い場所を選んでいる。
 
 黒銀騎士団にはエジエルジーンの妻ユンネも来ていた。ホトナルが来ると聞いて様子を見に来たらしい。
 軽くことの顛末を聞いて、ユンネは顔を顰めた。

「ホトナルはもう少し人に優しくならないと。俺の時もハンニウルシエ王子に血判の上書き勧めといて、俺が苦しんでたら喜んでメモってたよね?王子にもそれやったら怒るよ!」
 
 ユンネのセリフにエジエルジーンとソマルデの顔に青筋が立った。
 ユンネは優しいので肩を切られ足を折られた過去があろうとも、そんな過去を持つハンニウルシエ王子に同情的だ。なんとなく自分がヒュウゼに受けた時のことを思い出してもいる。

「ほう、そうなのか。初耳だ。」

「これは……、鍛えがいがありそうですね。」

「ひっ………!」

 あまりハンニウルシエ王子に好印象を持っていなかった二人だが、一気にホトナルにその怒りが向いた。
 その日からホトナルは休みなく黒銀騎士団で仕事をする日々になった。








 ホトナルは逃げ出すかと思いきや、意外と頑張っていた。
 二日おきに帰れる北離宮では、ルキルエル王太子殿下とスキルについて考察を重ね、たまに検証しつつ、時間が余り許可が出ればハンニウルシエ王子に会いにいっていた。
 相変わらず窓のない地下室。
 
「たまには外に出てますか?」

 尋ねるとゆっくり頷く。

「出ている。」

 尋ねれば返事をする。これはホトナルのもの。以前は主従関係で立場は逆だったが、今はホトナルに順従だ。
 王太子殿下はそれを本当のハンニウルシエ王子だと思うなと言うけど、じゃあどんな王子が王子だというのだろう?
 
「王子はずっと私といて下さいね。」

「……………分かった。」

 ホトナルは条件を出されている。
 一つ、黒銀騎士団に所属すること。
 一つ、隣国を滅ぼす力を身につけること。
 一つ、ハンニウルシエ王子を大切にすること。
 
 王太子殿下とハンニウルシエ王子の主従契約を解いてほしいと言って、出された条件だ。
 ルキルエル王太子殿下、ファバーリア侯爵、ソマルデ黒銀騎士団長三人から出され、三人の許可が降りないと主従契約を解いてくれないことになっている。
 
 ホトナルがこれを達成するのはそれから三年後。
 平民の下級騎士から這い上がり、黒銀騎士団の副団長にまで上り詰めて、隣国の王城を制圧した時だ。

 始まりは刺客が放った一つの矢からだった。
 ヒュン、という風切音と共に、ハンニウルシエ王子の頬にパッと熱が走った。
 矢が飛んできたのだ。
 ハンニウルシエを庇おうとした兵士には矢が二本刺さってしまった。

「誰が傷をつけていいと言いましたか?」

 唐突に声が上から降ってくる。
 ここは王宮の外。ホトナルが用意した屋敷に帰る途中だった。今二人は王宮からほど近い場所に住んでいる。
 北離宮からの帰り道だった。
 馬車が止められ降りたところを矢が降り注いだ。
 
 ホトナルはハンニウルシエの頬に手を伸ばす。
 黒い手袋に血がついたのではないだろうかと、ハンニウルシエは場違いなことを考えた。
 ハンニウルシエもスキルで応戦できる。だが、そんなことをする必要もなく戦闘はあっという間に終わるのだ。

「そろそろ鬱陶しいので消してきます。」

 オレンジ色の髪と黒いマントを風に靡かせながら、ホトナルはちょっと行ってくるという気軽さで姿を消した。

「申し訳ありません。」

 刺さった矢に苦痛の表情を浮かべながらも、庇ってくれた兵士は謝った。

「いや、かすり傷だ。お前のおかげでこれくらいで済んだんだ。それより手当を先にしよう。」

 ホトナルが帰ってきたらこの者を弁護しないと。
 以前もこうやって狙われた時、その場の警護をしていた騎士や兵士達がホトナルによって半殺しにされた。
 今襲ってきた賊も、ホトナルが現れたと同時に切り捨てられている。辺りには十人を超える死体が転がり血の匂いが充満していた。

 直ぐにホトナルが戻ってくる。
 ドサっと落ちる男の体に、ハンニウルシエはピクリと震えた。同じ黒髪、紫色の瞳。

「見覚えありますか?」

 …………ある。子供の頃からハンニウルシエを痛めつけていた兄のうちの一人だ。

「弟よっ!助けてくれっ!お前なら、、、!!?」

 ハンニウルシエの前で兄は腹を切られた。醜い悲鳴が辺りに響く。ホトナルは態と苦しむ様に即死させなかったのだ。

「とりあえず一人。乗り込んで全ての首をここに持ってくるのは簡単ですが、大義名分とそれなりの軍隊が必要ですね。」

 黒い騎士服は血の跡を消してくれる。
 ホトナルは決して殺生を好むわけではないが、出来ないわけでもない。
 やる必要がある場合は躊躇わない。
 人の命にそこまで重きを置いていなかった。
 ホトナルの口元に血がついた様子はないが、合わさる口の中からは血の味がするようだった。


 

 










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