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27 最大出力ってこんななん?
しおりを挟む俺、ソマルデさん、ラビノア、ミゼミの四人、いつものお散歩庭園に集まっていた。
ミゼミの『隷属』とラビノアの『回復』に対する耐性をつける訓練をしようということになり、ソマルデさんの指示のもとやっていた訳だが……。
ソマルデさんが優秀で凄いという事実を再度実感しました。
普段からラビノアに『回復』を盛られているソマルデさん。元々スキル一つ分くらいなら跳ね除けられるくらい耐性を備えているそうだが、前は上位スキルの『隷属』を跳ね除けようとしたら、ラビノアの更に上のスキル『回復』のコンボで、倒れる俺をキャッチ出来なかった。
寝ている時にミゼミに眠らされていたのも許せなかったらしく、ここ数日ソマルデさん自身も訓練に参加していた。
『回復』をかけながら『隷属』もかけるとか、俺は動ける気がしませんよ?俺の場合『回復』かけたら倒れるから、今は『隷属』を強めにかけてもらってます。それでも動けなくなりました。
だけどソマルデさんはもう普通に動けるし、今は剣を振ってどれだけ動けるか確認している。真面目か。
「あの、ソマルデさん、どうぞ休憩して下さい!」
ラビノアの目がハートになってますよ。
その飲んでとばかりに用意したお茶にも『回復』が盛られているのでしょうか?
でもどこかソマルデさんは呆れたようにラビノアを見ているし、ラビノアは一生懸命感が半端ない。
何かあったの?気になるな…。
それにしても俺は動けないんですけど、どーしたらいいでしょう?
「ソマルデさぁん、俺動けないですよ!?」
なんでか俺は、口はしっかり動くんだよね~。
「動けるようになるまでそのままです。」
があーーーーん!!!スパルタ!?
旦那様の師匠してたくらいだし、教育は体育会系ですか!?
俺はウンウンと唸りながら一生懸命動こうとしていた。
ドスンッという音でピクッと指が動く。なるほど、衝撃があるといいのかも。
ところでさっきの音は何でしょう?
目だけ動かすと、何故か地面に転がるアジュソー団長がいた。
何だか傷だらけだ。
「え?アジュソー団長??何でここに?というかどうやって来ましたか?」
何で突然現れたの?
アジュソー団長は揃っている面々をグルリと確認して、また俺に視線が戻ってきた。
「何してるのかな?」
服についた砂埃をパタパタと払い落としながら、逆に尋ね返されてしまった。
間抜けな登場シーンを全く気にさせない、相変わらずの柔和で完璧な微笑みですね。
「特訓中です。」
どうやらラビノアとミゼミがいることで理解できたらしい。アジュソー団長はミゼミに会ったことあるのかな?
思い返してみれば、アジュソー団長に会うのは久しぶりだ。
ミゼミは突然現れたアジュソー団長を警戒してか、俺に引っ付いて隠れてしまった。
「そこに隠れたのがミゼミ・キトルゼン?」
「そうですよ。」
ミゼミを前に押しやる。アジュソー団長の登場により、ミゼミの『隷属』が解けてしまった。
「ふぅん。痩せてるな。そう聞いてはいたけど…。」
「ミゼミの素顔見たの初めてではないんですか?」
「いや、初めてだ。フード越しなら地下牢で見たけどね。腕がやけに細いなとは思っていた。」
あーー、確かにこの腕の細さは異常だよね。枯れ木だもん。それだけで分かったんだ。
「太るようにと思って運動と食事をさせてます。」
俺は兎に角ミゼミを太らせようと思っている。決して本当の顔がモブなのかイケメンなのかを確認したいわけではない。
アジュソー団長は何が気になるのかジーとミゼミを上から下まで見ていた。アジュソー団長に見られているミゼミは、ずっとビクビクしている。
「これだけ痩せていると骨や内臓にも影響があるんじゃないか?どうせならラビノアの『回復』をかけてみればどうだい?ミゼミの『隷属』は精神感応系だろうから、『回復』の依存性を自分自身で緩和出来るんじゃないか?」
これにはソマルデさんが感心していた。
「なるほど、そうですね。試す価値はあります。ついでに白銀騎士団長もその傷を回復されてはいかがでしょう?」
「いや、断る。」
「ですが王太子殿下の『絶海』でここに送られて来ましたよね?その傷を回復してこいという意図なのでは?」
ソマルデさんの追求に、アジュソー団長はウグっと息を詰まらせていた。そうなんだ。殿下って無理矢理人を違う場所に落とすことも出来ちゃうんだ?
俺なら逃げ道に使っちゃいそうだ。
「アジュソー団長も『回復』スキルの依存性に慣れた方が良くないですか?一緒に回復かけてもらって、ついでにミゼミに依存性を消してもらえば一石二鳥ですよ!」
うんうん、そうしたら本来はとっくの昔にラビノアの『回復』によって全身の傷痕が消えて綺麗な身体になっていたのを、俺とソマルデさんで邪魔してしまったという罪悪感もなくなるじゃないか!
なんて良い方法なんだ!
アジュソー団長の思いつきだけど。
「いや、いいんだ。僕はスキルなしだからあの『回復』はかなり堪える。」
凄く嫌そうだ。
そんな嫌そうにされると是非やってもらいたい。
綺麗な身体になって、俺の罪悪感を消滅して欲しい!
そしてソマルデさんも何故か乗り気だ。
アジュソー団長を背後から羽交締めにした。
「なっ…!」
「白銀騎士団長、上に立つものがスキル耐性を怠るなど言語道断。体ばかりでなく精神も鍛えましょうか。なぁに、一回ガッと『回復』して貰えばよろしいのですよ。慣れるまでの繰り返しでございます。」
うわー、何でかアジュソー団長もスパルタ教育を受けている。
「アジュソー団長!ガンバです!」
「えっ!?ちょっと、ま…!」
「イケッ!ラビノア!」
「あっ、はっ、はいっ!」
よく分からず眺めていたラビノアは、俺の号令で慌てて『回復』を発動した。
「最大出力だ!」
「はぁ!?」
「は、はい~~~~っ!」
ラビノアが思いっきり『回復』をかけた。
直撃を受ける前に、ソマルデさんは素早く横に身体をずらして回避する。
ラビノアとアジュソー団長がポワッと光り、止んだと思ったらアジュソー団長はフラリとよろけてバタンとひっくり返ってしまった。
「あ……。」
「流石に最大はよろしくないかと…。」
いや、なんかつい…。
回復されて泡吹くとか思わないじゃん!?
俺、泡吹いてる人間初めて見たかも。大丈夫かな?
俺達は慌ててアジュソー団長を介抱した。
重たい……………。
目を開けると自分の部屋で寝ていた。
と言ってもここ最近任務で不在にしていた仮の部屋だ。
傷の手当てを済ませて着替え、ルキルエル殿下に報告をしに行ったが、お前も『回復』の耐性をつけておけと言われ、無理矢理『絶海』で送られてしまった。
「くそっ………、あの年寄りめ……。」
背中の重傷を勘付かれていたのだろう。だからと言ってアレはないだろう。『回復』をかけられて意識が拡散され、目の前が真っ暗になった。
起きあがろうとして自分の上に誰かが乗っかっているのに漸く気付いた。
肩で切り揃えられた白髪が、自分の胸に広がっていた。ミゼミ・キトルゼンだった。
クーと寝息を立てて人の上で寝ている。完全に人のベットの上に乗り上がって寝ていた。
回復依存性を治療していてそのまま寝たのか?
ガリガリに痩せた身体は軽いとは思うが、頭は頭蓋骨があるのでそれなりの重さだ。
一緒に乗せられた腕は二の腕でさえ指が回ってしまうくらいに細く、力を入れたら折れそうだ。
「…………おい。」
揺さぶって起こす。何度か声を掛けていると、漸くモゾモゾと頭を上げた。
「…………ん、む~~~……、寝てた………。」
ぼーーーとした顔で目を擦っている。
「他の奴らは?」
「ん、ご飯、持ってくるって、でてった……。」
言葉が途切れ途切れだな。
「君もちゃんと『回復』はかけてもらったのかい?」
ミゼミはコクンと頷く。
「ミゼ、したよ。依存も治した、はず。治った?」
言われてみれば、前回地下牢で『回復』を受けた後のような辛さは無くなっていた。
ラビノアの『回復』は毒だ。
確かに一瞬でミゼミの『隷属』を跳ね除けて、その時戦闘中に出来た新しい傷は全て回復してしまったが、その後の身体の疼きを解消するのに時間がかかった。
ラビノアを欲する欲求と、自分の身体の火照りが頭の中を占領してしまい、これが『回復』スキルの所為だと理解していても、何度ラビノアの下に行きそうになったか。
団長としてここを離れるわけにもいかず、訓練や残党討伐で欲求を発散していたが、エジエルジーン団長のようにケロッとはいかなかった。
しかも漸く落ち着いてきて平気になったかと思えばユネに裸を触られて欲情してしまい、これはダメだと思って殿下に城を一旦離れたい旨を伝えた。
そうしたらちょうど良いから隣国を探ってこいと命令されて今まで行っていたわけだが、戻って早々耐性つけろと送られてしまった。
何度かラビノアに『回復』をかけてもらい、ミゼミに依存性を消して貰えば慣れるのだろうか?
同時に『隷属』に対しても耐性が出てくるかもしれない。
ソマルデではないが、確かに試す価値はある。
スキル無しの中ではアジュソーはスキルに対する耐性は強い方だ。だからこそ騎士団長に就いているとも言える。
もし戦闘で何かしらのスキルを受け動けなくなったとしても、耐性があれば有利に働く。
「多分治った。」
はぁ、と溜め息を吐くと、ミゼミが心配そうに見上げていた。
肉がついていないから目が大きく見える。
瞳の色は灰色か。肌も青白く、全体的に白く華奢なので、儚い印象を受けた。
身体を起こしてふと気づく。
腕と腿にあった鞭の痕が無くなっていた。
背中に手を回して感触を探ると、新しい傷も、古いデコボコとしていた鞭痕も、綺麗さっぱり無くなっている。
「………………。」
「ど、ど、どーしたの?どこか、悪いの、あるの?」
ユネに治すよう言い付けられたことを順従に守りたいのか、ミゼミは必死だ。
布団に座ったまま固まっているアジュソーに縋りつき、どうしようと慌てている。
チュッ、と頬にキスを落とした。
ミゼミがキョトンとする。
「へ……?…え?」
「大丈夫だよ。すごぶる気分がいい。ありがとう。」
ミゼミは呆然と目を見開いてコクコクと頷いていた。
どんな『回復』持ちでも治せなかった傷痕が無い。
前回ラビノアが地下牢で『回復』を使った時でもこの傷痕は消えなかったので、もう無理なんだろうと諦めていたのだが……。最大出力が効いたのか?
こんな人生が回ってくるとは思いもしなかった。
ニッコリ笑ってミゼミの頬から顎にかけて撫でる。
「お前が太れるよう僕も協力してやるよ。そのうちバターも生クリームも平気になったら一緒に食べに行こう。」
「生クリーム……。」
ミゼミが呟いた。
生クリーム、ケーキ、お菓子。
まだダメって言われているやつだ。胃が受け付けないだろうからと、甘いものは果物しか食べれない。
この人が食べさせてくれるのかな?
でもその前に太らなきゃかな?
ミゼミの脳内では、アジュソーは優しく触ってくれて、甘い物をくれる人に決定していた。
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