氷の騎士団長様の悪妻とかイヤなので離婚しようと思います

黄金 

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18 とりあえずアジュソー団長を調べよう

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 俺が倒れて四日目。
 ソマルデさんに頼み込んでお散歩許可を貰った。
 ソマルデさんも旦那様も何故か過保護に部屋で休んでおく事を強要してきて大変だった。
 後頭部の傷ってそんなに寝て過ごさなきゃだったけ?
 
「それでどこに向かいたいのですか?」
 
 ソマルデさんは何かを察知していた。
 
「俺はお風呂に入りたいです。」
 
「何故ここに浴場があることをご存知で?」

 この漫画の世界にはちゃんとお風呂もトイレもある。でも金銭面と技術力から設置出来る数というものがある。
 漫画の中ではそう言ったところを掘り下げてなかったので、普通にあるものだと思いながら読んでいたけど、現実はもっとシビアだった。
 王宮ならば余程下っ端使用人でない限りトイレも風呂もついてるけど、あとは共用が基本だし、お風呂に至っては普段は身体を拭くだけが多い。
 騎士団が使っている兵舎は共同が基本だった。あるだけマシ。
 主人公、王太子、両団長は勿論毎日綺麗にしていただろうけど、普通はそんな贅沢は許されないのだ。
 爵位持ちも当主と家族で、財産に余裕があれば取り付けている。
 平民でも大富豪ならばある。
 その他の民衆にあるわけがない。
 基本は布を濡らして身体を拭くか、井戸とか水場に行って身体を拭きながら水を被ることになる。
 冬は思いっきり寒い。
 
「えーと…。」

 まぁ普通疑問に思うよね。
 地下牢で倒れて頭打ってから、ずっと部屋にいたのに何故知ってるのかって思うよね。
 俺が今使っている部屋にはトイレはあるけどお風呂がなかった。
 それとなく向かおうとしていた場所が使用人用の共同風呂だったので、ソマルデさんは怪訝に思ったのだろう。

 
「ここで何してるんだい?」

 微妙に浴場の方向に向かっていたのだけど、アジュソー団長が歩いてきた。

「白銀騎士団長、お疲れ様です。」

「お疲れ様です。お見舞いいつもありがとうございます。」

 旦那様同様、何故かアジュソー団長も毎日一回はお見舞いに来ていた。
 甘いモノ同盟が結ばれているのだろうか。
 とりあえずソマルデさんの疑問はアジュソー団長の登場で流れたようで良かった。

 最近はソマルデさんがいても睨みつけることはないけど、ソマルデさんはいないものとして俺にしか話し掛けて来ないので、質問に答えるのは俺になる。
 
「お風呂に入りたいなぁと思ってソマルデさんに聞いてみてたんです。」

「ああ、頭の傷は良いのか?」

 あ、そっか、俺頭に傷ありました。身体を温めるのはダメかな?俺がハッとした顔をしたので、アジュソー団長が可笑しそうに笑っていた。

「今から僕が入る予定で空けてあるんだ。来るか?誰かと入った方が出血が出た時いいだろう。」

「え?いいんですか?」

 実はお風呂には入りたかった。
 元日本人として毎日入れない状況って結構辛い。
 構わないと快く受け入れてくれるアジュソー団長に、俺は雛鳥の如くついて行った。
 お風呂に入れる喜びから、目的の事はすっかり忘れていた。






 アジュソー団長が服を脱いでから思い出した。
 白い背中にはビッシリと古い傷跡が残っていた。
 背中だけでなく腕にも太腿にも多い。
 流石のソマルデさんもギョッとしている。

「なに?珍しい?」

 こちらが凝視しているのに気付いたのか、アジュソー団長は顔だけ振り返ってフンッと笑った。
 その笑顔が天使のように無垢で美しいだけに、身体の傷が浮き上がって見えた。

「捕虜になったという話は聞きませんでしたが。」

 一瞬驚いたけどソマルデさんは直ぐにいつもの通りの表情になった。

「これは両親がつけたあとだ。貴族のバカな教育の賜物だよ。」

 漫画では服で隠して見せないようにしていたけど、今は平気で脱いでしまっていた。
 ソマルデさんも少し同情的だ。
 この虐待の痕って秘密じゃなかったのかな?
 
「なんだい?」

「えっ、いやぁ意外と隠さないんだなと思って。」

 あぁ、とアジュソー団長は頷いた。

「お前達は騎士だろうが。」

 んん?騎士なら見られてもいいってこと?

「戦場や訓練ではそんなこと言ってられませんしね。」

 ソマルデさんには理解出来るらしい。むぅ、悔しいな。どー言うことだろ?

「生死の境を彷徨うことに比べればこんな身体の傷なんかどうでもいいんだよ。でも貴族のご令嬢ご子息には見せられない。綺麗な身体って訳でもないしね。」
 
 何となく分かるかなぁ。戦場みたいな汚れた部分を知らない、綺麗なものだけを見てきた人には隠してるって感じ?

「そうなんだ…。せっかく綺麗な身体してるのにね。」
 
 ついつい目の前にあったアジュソー団長の逞しい背中をペトンと触ってしまった。
 若葉色の瞳が大きく見開かれる。
 本当ならこの時期には主人公ラビノアに治してもらって綺麗になってるのに…。これ見たくて実は浴場行くと言ったのを思い出した。お風呂に入れると思って、すっかり目的が飛んでしまっていた。
 あれ?でもラビノア来てないな?
 この浴場で二人パチャパチャと絡み合うはずが!?ウルウル青い目、ピンク色に染まる白い肌が!?
 あれー?日付間違えた?

 傷がないアジュソー団長を知っているだけに、なんか勿体無くてついつい傷痕を撫でていると、ソマルデさんに止められてしまった。
 
「ダメですよ。」

 真剣な顔のソマルデさん。
 ん?
 視線を感じて見上げると、なんかよく分からない顔のアジュソー団長。
 普段は柔らかな微笑みを浮かべている美しい顔が、ジィと俺を見ていた。表情は笑ってるんだけど、ギラギラしてる?若葉色の瞳がなんて言うか……、なんて言うか?
 獣っぽい?
 怖いですね?

「ユネは人を焚き付けるのが上手いんだね。」

「ん?」

 本日のお風呂はソマルデさんによって中止させられました。







「むぅ、久しぶりにお風呂に入れると思ったのに。」

「何をおっしゃいますか。あんな不用意な行動はつつしむべきです。」

 むぐっ。いや、背中の傷撫でただけなのに…。
 でもあの視線は怖かったね。

「あれ怒ってたのかな?」

「ぐふっ、ゴボッ……。そう思えるユンネ様だからこそ要らない人間が寄り付くんですね。」

「えぇ?」

「よろしいですか?アジュソー団長のあの傷は御両親による教鞭の跡です。かなりいき過ぎたもので、団長自身もあまり見せたくはないでしょうが、長い騎士生活で他人の目を克服されたと思います。それでもやはり傷痕は残っていますし心の傷もあるでしょう。………それを、あのように優しく撫でるなど、アジュソー団長に気があるなら兎も角、無いのなら無視するか敢えて話題に乗せて軽く流すかした方が良いのです。」

「え、えぇ?気がある?」

 何の気がある?えーと、えーと……。
 ハッとする。ここはBL漫画の世界でした!主人公ラビノアが美少女過ぎて忘れがちだけど、男と男がイチャラブしてる漫画の中!
 
「…ん?いやいや、仮に俺がアジュソー団長を好きなんだとしても、アジュソー団長は俺の事なんて相手にしませんってぇ!」

 それに優しく触ってたつもりもないし。ただ本当は綺麗な白い肌なのに勿体無いなぁって思っただけだしね。

「はぁ、何ということでしょう。心配です。」

 これは私がお守りせねば、とブツブツ呟いているソマルデさん。
 気にし過ぎだと思うけどなぁ?
 
 そんな事よりさっき思い出したラビノアの行方を追わなければ!
 思い出したのだ。
 そもそもアジュソー団長と浴場に行くに至ったシナリオがあったのだ。
 それはスキル『回復』を持つ者として保護された主人公ラビノアが、この城で請われて怪我人の治療を行う日々の中での一幕ひとまく

「そんなことより急ぎましょう!」

 突然ソマルデさんの手を握って走り出す俺に、ソマルデさんは驚きながらも一緒に走り出す。
 
「どこに行かれるのですか!?」

 そんなの決まってる!

「ちょっと近くのボロい小屋まで!」

「はぁ!?」

 場所は主人公ラビノアが連れ込まれる小屋!
 今から行われるのはモブ姦だ!




 そして俺は忘れてました。
 ソマルデさんが仁義のある人だということを。
 目の色変えた騎士崩れが主人公ラビノアを複数人で襲ってたら、そりゃあ助けに行くよねぇ。
 いやね、ラビノアはお友達になっちゃったし、襲われるの見たら俺もどうしよう~ってなるよね?
 でもね、見たかったんよ…。
 青い目から涙をハラハラ落としながら、上からも下からも犯される主人公ラビノアを。
 もう入れるとこは無しでもいいから、とりあえず押し倒されるとこくらいだけでも見たかった。
 流石に俺も最後まではもう無理かなぁって思ってたし。相手はどーでもいいモブだしね?

 小屋の中でゴロゴロと生き倒れるモブ達。
 俺は走りました。近くの訓練場まで。
 まぁ、ちょっとノロノロと?
 だってラビノアがソマルデさんに縋り付いて泣いてたし、ソマルデさんも同情してなぐさめてたし。
 ラビノアは単に散歩してただけで襲われたらしいよ。
 その役アジュソー団長だったんだけど。

 漫画では土埃といろんなモノで汚れた主人公ラビノアを、アジュソー団長が優しく慰めながら浴場に連れて行って、二人で良い雰囲気になりお清めセックスになだれ込む……、という流れだった。
 何故使用人用の浴場かというと、近いからだと思う。本当ならラビノアの服はビリビリに破かれてるからね。
 それにしても!
 アジュソー団長連れてこなきゃでした!
 失敗したぁ~~~~~!

 訓練場には旦那様がいて対応してくれました。
 因みにラビノアの部屋にはちゃんとお風呂が付いていて、縋りつかれたソマルデさんが世話することになってしまいました。とさ。













 
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