氷の騎士団長様の悪妻とかイヤなので離婚しようと思います

黄金 

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12 次のお話

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 さて漫画の中では、合同演習の後に国を揺るがす事件が発生する。
 この国には公爵家が二つ存在する。そのうちの一つがソフィアーネの生家ボブノーラ公爵家と、もう一つがスヴェリアン公爵家になる。
 そのスヴェリアン公爵家が謀反を企んだ。

 王家とボブノーラ公爵家、ファバーリア侯爵家、問題のスヴェリアン公爵家は親類筋にあたる。
 過去スキル無しで産まれた王家の子供達が、降下してそれぞれに嫁いだり婿養子になったりしている。元々王家だからといって必ずスキルを持って産まれるわけではない。今の王族も王の子供の中でスキルを持っていたのはルキルエル王太子殿下だけだった。
 最近の貴族社会は今迄上位貴族がスキル持ちを独占してきたが、上位貴族にスキルを持って産まれる子供が少なくなってきた。産まれたと思ったら強力なスキルを持つ者が産まれるが、圧倒的に数が少ない。
 ソフィアーネも旦那様もスキルを持たずに産まれている。
 だがそれは珍しい事ではないのだ。
 スキルを持つ人間の方が珍しい。
 だからこそあまりパッとしない『複製』持ちのユンネでも高位貴族のファバーリア侯爵家に嫁ぐ事が出来た。

 王族ではなくとも王家の血が濃いスヴェリアン公爵家は、自分達でも王族になり変われるのではと考えた。
 昨年終戦後に和平条約を結んだ隣国と手を組み、謀反を起こそうとする。
 隣国から武器を買い込み、見返りとしてスキルを持つ人間を集めて隣国に送っていた。
 フェスティバルで主人公ラビノアが襲われたのも、スキル持ちとして狙われた事が原因だった。
 あの時アジュソー団長が捕まえたゴロツキは、スヴェリアン公爵家に雇われた者達だった。
 ゴロツキ達は先回りしたスヴェリアン公爵家の者に始末されてしまった為、ただの人攫いとして処理されてしまう。

 スヴェリアン公爵は主人公ラビノアがスキル『回復』を持っている事を知っている。ルクレー男爵家の義理の母と姉が共謀して、ラビノアの身をスヴェリアン公爵に売ったからだ。
 『回復』というスキルはかなりレアで、誰もが欲しがるスキルでもある。
 勿論スヴェリアン公爵もそれを欲した。自分の手元に置くでもいいし、隣国に渡す駒として使うのでも良い。
 しかもラビノアのスキルは国に報告されていない上に、性別を偽って王宮で働くという後ろめたい存在でもある。
 攫って言う事を聞かせるには、ちょうど良い人物だった。

 そしてものの見事に主人公ラビノアは連れ去られてしまった。

 いや、知ってたんだけどさ?
 いつ連れ去られるとかは分からなかったんだよ。
 それとなくソマルデさんにはもう一度ラビノアは狙われるかもとは言ったんだけど、ソマルデさんが守るのは俺なので、ラビノアを警護するのは無理と断られたんだよね。
 でもねぇ、攫われたラビノアはちゃんと王太子達に救ってもらえるってのも知っている。
 旦那様とアジュソー団長は主人公に興味無さそうだけど、王太子はラビノアを自分の婚約者にしたいはずだ。
 何故ならルキルエル王太子殿下には現在婚約者がいない。
 本当はいたんだけど、過去五人のスキル持ち令嬢令息が命を落としている。誰かに暗殺されたのだ。これ以上犠牲者を増やせない、と言うよりも国内にちょうど年齢の釣り合うスキルを持った貴族の子供がいなくなってしまった。既に婚約したり結婚したりしている者を奪い取るわけにもいかず、最後の五人目が暗殺された時に婚約者探しを打ち止めにしていた。
 最悪未婚でも王家に連なる血筋の中から、スキルを持って産まれた者を養子にすると決めていた。
 そんな時現れたのがラビノアだ。
 年も丁度合うし、何より『回復』というレアなスキル。
 恋愛感情抜きで王太子はラビノアに迫った。
 そう、王太子には最初ラビノアに愛情が全く無かったのだ。
 だけどこのスヴェリアン公爵家の謀反という事件を経て、王太子はラビノアに対して好意を持つようになる。
 だからラビノアが連れ去られる事件は今後の為にも必要な事柄だった。

「ラビノア・ルクレー男爵令息が連れ去られた件について、騎士団総出で救出することになった。」
 
 王宮に呼び出された旦那様から、騎士団全員に対して号令が掛かった。
 そこから俺達は慌ただしく出兵準備を始めた。いつでも戦闘体制に入れるようにはなっているけど、人員の選別や新たな物資の調達などもある。
 
 ラビノアはメイドのラビィではなく、男爵令息として救出する事になった。義姉の命令で王宮に働きに来たわけなんだけど、ルクレー男爵家にラビィという娘はいない。
 王太子にはしっかり身元を調べられてたんだな、と感心する。
 身元が不明なただのメイドを大っぴらに探す事は出来ないので、男爵家の息子として公表する必要があったのだろう。

 問題はアジュソー団長があまり乗り気じゃない事だ。
 漫画では三人で力を合わせて救出に向かったのにね。
 旦那様はラビノアのスキルが珍しい回復系だと知っているらしく、スキル持ちを保護するという感覚しかないようだ。

「おかしいよねぇ。」

「何がおかしいのでしょうか?」

 俺の呟きにソマルデさんは聞き返してきた。
 最近は俺が突然呟いても動揺しなくなったソマルデさん。

「旦那様がラビィに好き好きしないんだよ。」

「好き好きしたらダメですよね?」

 ソマルデさんの目が語っている。アレはお前の旦那だぞ、と。
 でもほら、そのうち離婚するしね?俺的には旦那様の顔はいいなぁとは思うけど、好きかと聞かれるとよく分からない。ユンネはもしかしたら好きだったのかな?とは思ったけど、でもユンネも旦那様とは一回しか会った事ないんなら、好きとか嫌いとか無かったのではと思ってしまう。
 なので旦那様には自由に恋愛してもらってもいいのではと思ってしまうのだ。
 主人公ラビノアが最後誰を選んだか知らないけど、このままソフィアーネと結婚はして欲しくない。
 ソフィアーネは犯罪を犯してるけど、旦那様が望めば結婚出来てしまう。というか領地で好き放題してるのがソフィアーネと気付いていないしね。

 ボブノーラ公爵家は元々ソフィアーネの一人娘だったけど、スキルが無いので外に出すつもりで旦那様が婚約者になっていた。
 その後下に子供も出来ず、スキル持ちの子供を養子として貰ってきたらしい。その子が次期公爵として今は育てられている。
 次期公爵の名前はサノビィス・ボブノーラ。十二歳で白銀の髪に茶色の瞳の子供だ。この子は漫画でも同様に登場してきた。
 態々銀髪の子供を探してきたのは、銀髪が王家の色だからだ。孤児だったけど、銀の髪とスキル持ちというだけでサノビィスは公爵家に引き取られた。
 サノビィスは『危険察知』というスキルを持っていた。自分に降りかかる危険を事前に察知出来るスキルで、このおかげでスキル持ちの孤児でも生き延びてこれた。
 命を狙われる事はないが、拉致誘拐は当たり前だったらしい。

 今回このサノビィス・ボブノーラがルキルエル王太子殿下にスヴェリアン公爵の謀反を報告している。
 公爵家はお互いを監視し合う存在でもあるので、スヴェリアン公爵家が隣国と通じて武器を集めている事を察知していた。
 今までは尻尾を掴ませなかったが、ラビノアを拉致した一部始終を影で護衛していた者が見ていた。
 一度フェスティバルで攫われそうになった際、アジュソー団長が救出に入ったので無事に済んだが、もう一度狙われるのではとルキルエル王太子殿下は考えたらしい。そこでスヴェリアン公爵を調査していたサノビィス・ボブノーラに声が掛かり見張っていた。
 そのまま連れ去られたラビノアはスヴェリアン公爵領に連れて行かれ、サノビィスはそれをルキルエル王太子殿下に報告したわけだ。
 
 サノビィス・ボブノーラは十二歳という子供ながら頭がいい。現ボブノーラ公爵もサノビィスには期待している。
 そう考えると、ソフィアーネが公爵家になかなか帰らないのもサノビィスがいるからだろうか?
 ここら辺は漫画の裏設定っぽいし、憶測でしか考えられない。

 俺達は今、黒銀騎士団としてスヴェリアン公爵領に来ていた。
 公爵領は広く、領の半分は森林地帯。林業が盛んなのだと聞いている。
 王都からスヴェリアン公爵領を挟んで反対側に今回問題になっている隣国が存在している。
 ルキルエル王太子殿下が直ぐに出兵した為、スヴェリアン公爵も兵を集めて応戦する構えになっていた。
 王都には他にも騎士団が存在するので、今回は王太子殿下直属の黒銀と白銀騎士団が殿下に追随している。

 漫画では戦闘シーンなんかも綺麗に描かれていた。絵の上手い作家さんだった。その漫画しか読んでないけど。だってBL作家さんだったんだもん。
 
「それでね、皆んなラビノアに好き好きしてたらもっと萌える展開になってたんだよ?」

「……左様ですか。」

 俺の漫画話は妄想として聞いて貰っていた。だって誰かに吐き出したい!
 ソマルデさんの反応が呆れ気味だ。

 だってね、三人が競うようにラビノアに向かっていくんだよ!?
 なんとかその展開にならないかな?
 だいたいなんでアジュソー団長の反応がゼロになってしまったのかな?
 旦那様もそうだけど。

 目の前にあるスヴェリアン公爵領のお城を眺めながら、俺達はそんな事を話していた。
 城まではまだまだ遠いので会話してても誰かに聞かれる事はない。
 斥候として今こそ本領発揮だよ、とワトビ副官に言われて出てきた訳だけど、城には特に変化もなく時間だけが過ぎていた。
 兵と物資を集めているので、たまにくる伝令にメモを渡し、引き続き監視する。
 交代要員が来たので俺達は引き返して一旦休憩する事になった。
 緊張状態が続いているので疲れる。
 そろそろお城を横目で見ようかという位置で、目の前に見知った人影が現れた。
 普段は白の騎士服を着ているけど、戦闘時は灰色になる白銀騎士団の団長、アジュソー・リマリネだ。
 既に夕闇も過ぎて森は暗闇に溶けている。
 ミルクティーベージュの髪に若葉色の瞳は柔らかい印象を与えるし、その表情も天使の微笑みなのに、なんか怖い。
 ソマルデさんが俺を庇う様に前に出た。

「お疲れ様。」

「お疲れ様です。」

 気さくに話しかけてくるアジュソー団長に、ソマルデさんは丁寧に返すけどそっけない。
 基本誰にでもそうだけど。

「君達に話があって待ってたんだ。呼び出しになかなか応じてくれないからね。」

 呼び出されてたんだ。知らなかったけど、いつも俺の側にいるから分かる。行った事ないよね?無視してたの?
 アジュソー団長は以前ラビノアを襲っている時にソマルデさんに取り押さえられてから、ずっと根に持っているようだった。
 粘着質だよね。

「僕はスキル持ちが嫌いなんだ。………、だけど、少し話をしてみたい。」

 唐突に話し出すアジュソー団長。
 俺もソマルデさんもスキル持ちだ。何の話をしたいんだろう?

 アジュソー団長がスキル持ちを嫌いなのは知っていた。両親がスキル至上主義者で、子供にスキルを求めたけどスキル無しだった。ならば結婚相手はスキル持ちとしなければならないと、小さな頃から言い聞かせられていたが、スキル持ちは少なく高位貴族に取られがち。
 リマリネ伯爵家は決して弱小貴族ではなかったが、上手くスキル持ちの婚約者を見つける事が出来なかった。
 それを子供のアジュソー団長の所為にして、いつも折檻を受けていた過去があり、アジュソー団長は両親もスキル持ちも嫌いになったのだ。
 今は服でわからないけど、アジュソー団長の身体には子供の頃に受けた虐待の痕が沢山ある。
 本来なら主人公ラビノアが『回復』でその傷痕を綺麗に治してしまい、アジュソー団長の心の傷も癒していくのだが、今回は俺達が邪魔してしまった為、ラビノアとの接触が無くなり漫画通りのシナリオが進んでいない。
 
 本当なら今頃は顔に似合う綺麗な身体になっていただろうに…。申し訳ありませんと心の中で謝っておく。

 アジュソー団長はラビノアに傷痕を治してもらうまでは、人前で服を全く脱がない人だった。
 以前ラビノアを襲っていた時も着崩れてはいたけどほぼ脱いでいない。
 だけど今回の戦闘ではラビノアを救出した後、ラビノアといい雰囲気になり脱いでしまうのに!
 色白ツルツルピカピカの素肌なのに、脱いだら意外と逞しいアジュソー団長。ラビノアはその姿に真っ赤になって恥ずかしがるのだが、アジュソー団長はそこには気付かないというちょっとした鈍さを発揮して、コメントにそこがいいと書かれていた。
 因みに俺は男なのでよく分かりませんでした。
 でも今直ぐそこに実物がいる。
 ちょっと想像してみよう。
 キラッキラのアジュソー団長がマッパになっている姿を!

「………………。」

「おい、そこのガキは何を考えてるの?おかしな顔をするな。」

 え!?全然鈍くない!俺の妄想を勘付かれた!?

「ユネに絡まないで下さい。」

 ソマルデさんが間に立ち隠されてしまった。流石に現物が目の前にいないと想像出来ない。
 ………する必要もあんまりないか。


 馬鹿な妄想を繰り広げている時、森全体にピィーーーーーーという細い笛の音が鳴り響いた。

 











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