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5 超美青年でドン引きです!

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 騎士団の募集は定期的に行われている。だがその時期以外にも中途申し込みも受け付けていた。
 俺とソマルデさんはその中途申込をしたところ、早速面接が行われる事になった。
 昨年終結した戦争で騎士団の人員もかなり減ったらしく、その補填の為に随時募集されているのだとか。
 平時ならばそうそう簡単に入れないとソマルデさんは教えてくれた。
 
「えっと、うう~~ん。」
 
 責任者として対応してくれたのは黒銀騎士団副官ワトビ・ニナンだった。赤毛のそばかす顔が人懐っこそうで好感が持てるな、というのが第一印象だったけど、俺とソマルデさんの身分履歴書を見て、ワトビ副官は唸り出した。

「これは…でも一応騎士学校出たのかぁ。『複製』持ちのユネと、『剣人』待ちのお爺さん、じゃなくてソマルデねぇ。」

 『複製』は文官特有のスキルだし、ソマルデさんの『剣人』は騎士にピッタリだけどなに分歳をとっている。それに難色があるのだろうなぁと、ワトビ副官の様子を窺う。
 ワトビ副官は漫画でもちょいちょい出てきた人だ。
 人が良くてエジエルジーン騎士団長の親友ポジだった人。騎士学校で出会って仲良くなったというエピソードのある同じ年の人だ。
 チラッと目が合い俺はとりあえず愛想良く笑っとく。
 ソマルデさんが白銀騎士団では見返せないので、黒銀騎士団に行きましょうと言ったのでついて来たけど、この様子じゃ無理なのかなぁと額に汗が流れていた。
 出来ればチャチャっと騎士団入りして、主人公とのイチャイチャを見たいのにぃ~~と内心焦ってるけど、俺の顔は割と表情が読めないみたいなので笑っとくに限る。このネズミ顔も慣れれば愛嬌があって、前の狸顔よりいいかもしれない。






 黒銀騎士団副官ワトビは二人の提出資料を読みながら、うーんどうしようかな、と思案していた。
 このソマルデの履歴が引っかかっている。若い頃はファバーリア侯爵邸本邸で長く執事として勤めていたらしい。スキル『剣人』を持っているのにどこの有力者にも属さず独身を貫き、騎士としてではなく領地内や屋敷を取り纏める執事をやっていたという事は、護衛も兼ねた優秀な人物だったのではないだろうか?
 年数的にエジエルジーンが子供の頃もいたようだし、一旦合格出して黒銀騎士団に入団させておいた方がいいかもしれない。後で何で落としたとか言われても困る。
 後は一緒に来た孫というユネの方だ。
 文官スキルなのに何故か騎士を目指してるのは、この血は繋がらないが引き取ってくれたというソマルデの影響だろうか?でも一応ファバーリア侯爵家が経営している騎士学校を卒業している。
 斥候せっこう科なのは体型の所為だろう。
 騎士にしては細い。この身長でもいない事はないが、皆体格はズッシリとしてガタイが良い。
 先程実力を測るために模擬試合をした時の動きは良かった。敏捷性があり斥候向きだ。攻撃性は薄いけど騎士団には斥候が少ないので使い所がありそうだ。

「うん、二人とも合格かな。後日団長に挨拶するから荷物纏めて騎士団寮に移動してくれる?案内はつけるから。荷物は持ってきてる?」
 
「荷物は手荷物だけですので直ぐにお願いします。」

 直ぐ様ソマルデが返事をした。
 それに頷き案内役を当てがうと、二人は仲良さそうに話しながらついて行った。
 どっちも敬語なのは引き取ったソマルデの気性と、引き取られたユネの遠慮からだろうか?でも祖父と孫と言っても差し支えない程に仲良さそうではあるので、単なる二人の性格だろう。
 そう結論付けて、ワトビは上官へ新しい団員が入った事を報告すべく、騎士団長室へと向かった。







 ユンネはエジエルジーンの悪妻という身分を隠す事にした。
 ユンネの卒業証明書をよくよく見ると、名前がユネになっていて、何でかとソマルデさんに確認してもらうと、ユンネは平民のユネとして騎士学校に通っていたらしい事が分かった。
 どうやらソフィアーネは『複製』スキル持ちのユネという平民の存在を態々作ったようだ。スキル持ちは国に届けが必須な為そうしたのだろう。
 なので俺は平民のユネという身分を利用して、別人として黒銀騎士団に入る事にした。

 ユンネは十五歳から十八歳までを騎士学校の寮で過ごしているので、今噂になっている散財家で悪妻の侯爵夫人がユンネというのはおかしいと思う。という事は、ユンネを学校の寮に突っ込み、ユンネのフリをして侯爵家の財産を食い潰した人物がいるという事で、それはソフィアーネなんだろうと思われる。
 侯爵夫人が学校にいるとお金が使えないから、ユンネは赤の他人として追い払われたのだ。
 ユンネはそれで嫌になって毒を飲んだんだろうけど、それに気付いてくれなかった旦那様にも怒りが湧く。
 ソマルデさんに頼んで、少し自分の旦那様がどんな人物なのかを見て見たいと頼むと、ソマルデさんは気の毒そうな顔をして了解してくれた。
 きっと俺が侯爵夫人ユンネだと名乗れば、悪妻扱いされて俺が心を痛めるのだと心配しているのだろう。
 実のところは悪妻ユンネとバレると騎士団には居づらくなって辞めなきゃかなと思っているので、暫くは身分を隠して王宮に居たいというのが本音だった。
 それは気兼ねなく漫画の世界を堪能したいからである。
 騎士団に入っておかないと王宮に入れないし、主人公のイチャイチャを見る事が出来ない。
 流石に王宮の最深部には入れないけど、割とあの漫画青姦多かった。外で見れるチャンスはあると思う!それに主人公ラビノアはメイドなので、俺でも入れる場所にいる可能性が高い。逆にそんな所に王太子が来たりする方がおかしいのだが、そこは漫画。そういうお話なのだ。
 ふふふ、と細い目をニマッと笑みの形に作りながら、先を歩くソマルデさんについて行った。
 ま、ある程度話が進んだら、そのうち旦那様がユンネに対して離婚を突きつけるはずなので、その前にこちらから離婚届を渡してどっか田舎に行こうかなと思っている。
 ソマルデさんに離婚後どうしたらいいか相談したら、田舎で城壁持ちのちょっと大きな街なら兵士を常に募集しているので、騎士団に暫くいたと言えば入れるだろうと教えてくれた。騎士団を退団した理由はお爺ちゃんの腰がヤバくなったと言えばいいと笑って言ってくれて、一緒に行ってくれると言われて嬉しくて抱き付いてしまった。
 ソマルデさんは照れてたけど。
 俺には強い味方がいるのでかなり安心だ。
 るんるんとソマルデさんの後をついて歩いていると、何故かソマルデさんに頭をヨシヨシと撫でられた。完全に孫扱いだ。








 後日、訓練参加中にソマルデさんと共に騎士団長室に呼ばれた。
 騎士団の中では俺とソマルデさんは常にペアで行動している。何となく俺達は普通の騎士とは違うようで、扱いが特殊だから二人で動いてと言われてしまった。
 俺はソマルデさんが頼りなので、その扱いには大いに感謝している。
 今後は『女装メイドは運命を選ぶ』の内容を思い出しながら、この状況を楽しみたい、という野望もある。ソマルデさんついてきてくれるかなぁ?

 そんな事を考えながらソマルデさんの後をついていくと、いつの間にか団長室に着いていた。
 あ、しまった道順覚えてないや。
 コンコンとノックすると、中からワトビ副官の「どうぞ。」という返事が返ってきた。
 ソマルデさんが扉を開いて入っていくので、俺も続いて中に入室する。

 そこにいたのはキラッキラの漫画の登場人物、エジエルジーン黒銀騎士団長様が執務机に座って俺達を待っていた。
 黒銀騎士団という肩書きにお似合いのサラッサラのシルバーアッシュの髪に宝石みたいな漆黒の瞳。睫毛もバシバシで肌も綺麗。え?この人本当に騎士なんですか?と思わせる美麗な顔のくせに、身体は長身で逞しい。そのアンバランスさもまたエジエルジーン団長の色香を増している気がする。
 なにしろ美しい。
 神々しい。
 綺麗すぎて怖い。
 ドン引きです!
 この人が俺の旦那様?いや~、一緒には暮らせんな!
 やっぱ、離婚でしょう。俺にはソマルデさんみたいなお爺ちゃんとの暮らしがお似合いだ。
 速攻で離婚を再決定した。

「ソマルデ、久しぶりだな。何故わざわざ騎士団に入ってきた。」

 立ち上がった旦那様が、ソマルデさんに近付いて話し掛けた。ソマルデさんは昔からファバーリア侯爵邸に勤めていたと言っていたので、旦那様とも顔見知りなのだと今更ながらに気付いた。
 
「お久しぶりで御座います、坊ちゃま。」

「坊ちゃまは止めろ。」

 ソマルデさんは態と言ったようだ。クスッと笑ってエジエルジーン様と訂正していた。ただの使用人と主人という以外にも、仲が良いように感じられた。

「退職後この子を引き取りまして、最近まで騎士学校に通っていたのですが卒業してちゃんと騎士として働いてみたいと申すもので、じゃあ馴染みのあるエジエルジーン様の下ならば安心して働かせれるかと思いやってきた次第です。」

 スラスラとソマルデさんは嘘をついた。全く淀み無く言うので真実っぽい。

「そうか、スキルを見れば文官用の学校が良かったんじゃないか?」

 それにはソマルデさんは笑顔でかわしてしまった。
 そう思うんならユンネが学校に通う時、旦那のお前がちゃんと貴族用の文官学校に通わせてやれよと思ったが、俺は安定の細目を笑みに変えてニコニコと後ろで聞いていた。
 後ろからソマルデさんの後ろで組まれた手がギュウ~と力強く握られるのを見て、どうやらソマルデさんも同じ気持ちのようで嬉しくなる。

「この子が私の孫になりますユネと申します。孤児だったところを私が引き取りました。」

「スキル持ちが孤児?」

「ええ、私の知人だった両親祖父母が相次いで他界しまして、同じスキル持ちの私ならばこの子を利用する事なく育ててくれるだろうと託されまして。」

 素晴らしいくらいに嘘つきだ。
 俺は笑顔で嘘つく人は苦手だったけど、ソマルデさんの嘘なら大絶賛する。かっこいいです。だって俺の為に嘘ついてくれてるんだもん。

 一気に家族を全て失った可哀想な子供になった俺は、ワトビ副官から同情の目を向けられた。
 旦那様は無表情だ。人の事情に同情する様な人ではないらしい。漫画でもそうだったし、ちゃんと漫画の設定通りの性格なんだなぁと感動する。


 一通り俺も挨拶を終え、二人で団長室を退室した。
 訓練中なのでいつもは騒がしい建物内も、今はとても静かだ。

「はぁ~緊張しました。」

「ふふふ、どうでしたか?エジエルジーン様は。」

 ある程度離れたところで息を吐いた俺に、ソマルデさんは旦那様の感想を聞いてきた。

「うーん、顔が良すぎてキラッキラしてて直視出来ませんでした。」

 俺の答えに、ソマルデさんがプッと吹き出す。

「成程、成程。顔が良すぎるのは嫌ですか。」

「へへ、俺にはソマルデさんが一番安心します!」

 ソマルデさんは嬉しそうに笑ってくれた。


 ソマルデは嬉しそうに笑いながらも、内心心を痛めていた。
 実はこれが長い夫婦生活の中で二回目の顔合わせなのだと、ユンネ様は気付いているのだろうか。
 十三歳で急に嫁ぎ十八歳の今、五年の中でたった二回しか会っていない。
 しかも二回目は夫婦として顔を合わせた訳ではない。赤の他人として、上司と部下として顔を合わせて挨拶しただけだ。本名ではなく偽名を平然と名乗れるのは、きっと記憶がない所為だろうと、記憶の無いユンネの代わりにソマルデは悲しくなる。
 生い先短い人生なのだし、どうせ自分は一人だ。
 この子が離婚後一人になってしまっても大丈夫な様に、自分がついていてやろう。
 
 出来れば、夫婦が共に歩めれば、それが一番良いのだが……。自分は平民だ。侯爵家の今の現状は把握しているが、当主自らが理解しなければこれは解決出来ない。
 エジエルジーン様が早くユンネ様に気付いてくれれば良いのだが…。
 気付いて、それでも改善しないのであれば、それまでだ。
 苦しみに毒を飲んでしまった哀れな当主夫人を、ソマルデは最後の主人と決めて生きようと決めていた。






  
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