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5歳 カルペ・ディエムを繰り返して
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1つ、出来るだけゲーム本編と同じ行動を心がけること。
2つ、できる限り攻略対象達とは関わらないこと。
3つ、友人としてクリスと積極的に関わり、ローズルートを絶対に阻止すること。
そして最後に4つ、いずれ訪れる世界の危機を阻止すること。
レシュノルティア家での「例の事件」から数週間。身辺と身体の状態がようやく落ち着いたアイテールは、自室でもう1人の自分として思い出したことをまとめていた。
日本という国で会社員として働いていた27歳女性。男と男のラブロマンスが何よりも好きで、家族仲もプライベートも順調だった。所謂前世の記憶と言うものだろうか、記憶を思い出しただけでアイテール自身の性格や好みに影響はなく、相変わらず恋愛対象は女性だ。男と男の恋愛に興奮することもない。
それより頭を抱えるべきなのは、「マーガレットの剣」ゲーム本編の事だろう。国の名前や世界に蔓延る魔法、世界情勢……全てが今まで常識として学習していたものと同じだった。最早疑う余地もない。
「ここはゲームの中のせかいで、しゅじんこうはクリス。そして万が一クリスのステータスがしかんがっこうにゅうがくじにカンストしていたら、こうりゃくたいしょうの男たちは一斉にぼくをくどきにくる……」
地獄だ、と羽ペンを置いてアイテールは頭を抱えた。いっそ恋愛対象だけは例の27歳女性になってくれたら良かったのにと涙が出てくる。
「……ひゃっぽゆずって、男にくどかれるのはまだいい。もんだいはその先……」
――世界の危機を救わなくてはいけない、それも『真実の愛』で。
「どうするかなぁ……」
世界の危機。それを語るにはまず魔法についてまとめる必要があるだろう。
炎、水、風、光。全ての魔法は大まかにこの4つに分けることができる。この世界の人々は大小に関わらず得意な魔法が個人差で決まっており、生まれた時に鑑定をすることが国で定められている。ちなみにアイテールは光だ。
治癒に特化した光魔法は重宝されており、それと対になる魔法が闇である。人体の細胞や骨を修正したり、植物の成長を促す光魔法に対して、闇魔法は毒の生成や細胞の破壊を得意としている。その上闇魔法で作られた毒や瘴気は、光魔法でないと治すことも防ぐことも不可能だ。
およそ700年前、そのあまりにも巨大な力を恐れ畏怖していた当時の国王が、全ての闇魔法使いを1人残らず処刑した。そして現在、闇魔法は禁忌とされている。使用はもちろんのこと、少しでも適性があると判明した人物は一生国の監視下に置かれる。
そんな闇魔法でこの世界は危機を迎えるのだが、それを救うのがゲームのタイトルにもなっている「マーガレットの剣」だ。真実の愛によって光魔法の力を倍増させ、闇魔法の瘴気を討ち払うことができる剣。必要なものが真実の愛って、一体どういう理屈なんだ……とアイテールは頭を抱える。
「せめてラスボスがだれか、思い出せればいいんだけど……」
物語の大まかな話の流れは思い出せるが、物語の根幹に関わる重要な事や細かい出来事までは思い出すことができなかった。
「まあ、落ち込んでいてもしょうがないか……」
ステータスのカンストは本来ならば周回必須の高難易度だ。剣術は騎士団長と同等の腕、魔法はダンジョンの裏ボスを一撃死させるほどの威力が必要になる。ローズルートへ突入することはまずないだろう。回避ができたら、アイテールはクリスティアが無事にハッピーエンドへ向かってくれるのを側で支えるだけだ。平和になった世界で誰かと結ばれる彼女を笑顔で見送り、自分もかわいいお嫁さんを貰って領地の為に力を尽くしていきたい。
さらに言えば、通常ルートでもアイテール自身が最終バトルのパーティに入ることもある。全てはクリスティアの采配次第だが、万一のことを考えて自分もステータスをできる限り上げておいたほうがいいだろう。……国で定められており、魔法の実践は10歳にならないとできないが。
「よーし、けんじゅつも魔法もべんきょうも、今以上にがんばろう!」
やるぞ! と気合を入れる為にアイテールは勢いよく拳を振り上げた。
「……アイテール様、よろしいでしょうか」
コンコン、と部屋にノックの音が響く。慌てて乱雑に書き留めていた机の上の紙を暖炉の火に焚べ、はいと返事を返した。
「失礼致します。レシュノルティアお嬢様と剣の講師様が訓練場にいらっしゃっております」
「分かった、今いく」
結局、あれからクリスティアとはほぼ毎日と言っていい程会っていた。その内の何日かは剣の訓練があるからと断っていたのだが、強くお願いされ今は一緒に訓練を受けている。クリスティアとアイテールは本編でも仲が良い描写が多かったが、流石にべったり毎日一緒にいるほどではなかったはずだ。初めての友達に浮かれているのだろうか。領地が馬車で3刻ほどの近い距離にあるのもいけない。
彼女が剣術を鍛えていることで、ローズルートへ近づいているのだろう。だが、今まで歳の離れた兄姉とやっていた訓練も、同い年の2人で高め合うことでより身に入る……ような気もする。
……クリスも女の子だ、きっといつか剣術より、綺麗なドレスやお茶会など、煌びやかな物へ心惹かれていく事だろう。
そう考えると少し寂しいと感じるのは、もう既に絆されてしまっているのだろうか。アイテールは自分自身に溜息をついた。
2つ、できる限り攻略対象達とは関わらないこと。
3つ、友人としてクリスと積極的に関わり、ローズルートを絶対に阻止すること。
そして最後に4つ、いずれ訪れる世界の危機を阻止すること。
レシュノルティア家での「例の事件」から数週間。身辺と身体の状態がようやく落ち着いたアイテールは、自室でもう1人の自分として思い出したことをまとめていた。
日本という国で会社員として働いていた27歳女性。男と男のラブロマンスが何よりも好きで、家族仲もプライベートも順調だった。所謂前世の記憶と言うものだろうか、記憶を思い出しただけでアイテール自身の性格や好みに影響はなく、相変わらず恋愛対象は女性だ。男と男の恋愛に興奮することもない。
それより頭を抱えるべきなのは、「マーガレットの剣」ゲーム本編の事だろう。国の名前や世界に蔓延る魔法、世界情勢……全てが今まで常識として学習していたものと同じだった。最早疑う余地もない。
「ここはゲームの中のせかいで、しゅじんこうはクリス。そして万が一クリスのステータスがしかんがっこうにゅうがくじにカンストしていたら、こうりゃくたいしょうの男たちは一斉にぼくをくどきにくる……」
地獄だ、と羽ペンを置いてアイテールは頭を抱えた。いっそ恋愛対象だけは例の27歳女性になってくれたら良かったのにと涙が出てくる。
「……ひゃっぽゆずって、男にくどかれるのはまだいい。もんだいはその先……」
――世界の危機を救わなくてはいけない、それも『真実の愛』で。
「どうするかなぁ……」
世界の危機。それを語るにはまず魔法についてまとめる必要があるだろう。
炎、水、風、光。全ての魔法は大まかにこの4つに分けることができる。この世界の人々は大小に関わらず得意な魔法が個人差で決まっており、生まれた時に鑑定をすることが国で定められている。ちなみにアイテールは光だ。
治癒に特化した光魔法は重宝されており、それと対になる魔法が闇である。人体の細胞や骨を修正したり、植物の成長を促す光魔法に対して、闇魔法は毒の生成や細胞の破壊を得意としている。その上闇魔法で作られた毒や瘴気は、光魔法でないと治すことも防ぐことも不可能だ。
およそ700年前、そのあまりにも巨大な力を恐れ畏怖していた当時の国王が、全ての闇魔法使いを1人残らず処刑した。そして現在、闇魔法は禁忌とされている。使用はもちろんのこと、少しでも適性があると判明した人物は一生国の監視下に置かれる。
そんな闇魔法でこの世界は危機を迎えるのだが、それを救うのがゲームのタイトルにもなっている「マーガレットの剣」だ。真実の愛によって光魔法の力を倍増させ、闇魔法の瘴気を討ち払うことができる剣。必要なものが真実の愛って、一体どういう理屈なんだ……とアイテールは頭を抱える。
「せめてラスボスがだれか、思い出せればいいんだけど……」
物語の大まかな話の流れは思い出せるが、物語の根幹に関わる重要な事や細かい出来事までは思い出すことができなかった。
「まあ、落ち込んでいてもしょうがないか……」
ステータスのカンストは本来ならば周回必須の高難易度だ。剣術は騎士団長と同等の腕、魔法はダンジョンの裏ボスを一撃死させるほどの威力が必要になる。ローズルートへ突入することはまずないだろう。回避ができたら、アイテールはクリスティアが無事にハッピーエンドへ向かってくれるのを側で支えるだけだ。平和になった世界で誰かと結ばれる彼女を笑顔で見送り、自分もかわいいお嫁さんを貰って領地の為に力を尽くしていきたい。
さらに言えば、通常ルートでもアイテール自身が最終バトルのパーティに入ることもある。全てはクリスティアの采配次第だが、万一のことを考えて自分もステータスをできる限り上げておいたほうがいいだろう。……国で定められており、魔法の実践は10歳にならないとできないが。
「よーし、けんじゅつも魔法もべんきょうも、今以上にがんばろう!」
やるぞ! と気合を入れる為にアイテールは勢いよく拳を振り上げた。
「……アイテール様、よろしいでしょうか」
コンコン、と部屋にノックの音が響く。慌てて乱雑に書き留めていた机の上の紙を暖炉の火に焚べ、はいと返事を返した。
「失礼致します。レシュノルティアお嬢様と剣の講師様が訓練場にいらっしゃっております」
「分かった、今いく」
結局、あれからクリスティアとはほぼ毎日と言っていい程会っていた。その内の何日かは剣の訓練があるからと断っていたのだが、強くお願いされ今は一緒に訓練を受けている。クリスティアとアイテールは本編でも仲が良い描写が多かったが、流石にべったり毎日一緒にいるほどではなかったはずだ。初めての友達に浮かれているのだろうか。領地が馬車で3刻ほどの近い距離にあるのもいけない。
彼女が剣術を鍛えていることで、ローズルートへ近づいているのだろう。だが、今まで歳の離れた兄姉とやっていた訓練も、同い年の2人で高め合うことでより身に入る……ような気もする。
……クリスも女の子だ、きっといつか剣術より、綺麗なドレスやお茶会など、煌びやかな物へ心惹かれていく事だろう。
そう考えると少し寂しいと感じるのは、もう既に絆されてしまっているのだろうか。アイテールは自分自身に溜息をついた。
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