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第4章 スミレの真実

43 スミレの真実

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 リカルド様と共に、王城の控室で待つ。

 ロンベルクまで逃げてきたソフィを、執事のウォルターが連れてくるという。あれだけ王都に戻るのを嫌がっていたソフィを連れて来られるのですか、とリカルド様に聞いた私がバカだった。ソフィに王都に戻る・戻らないを選択する権利などない。

 そう、私はここにくる前にリカルド様に真相を聞いてしまったのだ。


◇◇◇◇◇


 お母様が毒に倒れたのは数年前。
 高齢のために引退する主治医の代わりに、新しい主治医がヴァレリー家にやって来た。お父様が連れてきたお医者様と聞いていたけれど、実はお父様の愛妾シビルからの紹介で来た医者だった。

 その主治医、医者というのは真っ赤な嘘で、本当はドルン領にある染物屋の男。

 ロンベルクの森で採れるアルヴィラを使って染物業を営みながら、ドルン特有のドルンスミレの毒性を高めるための加工を重ねていた。その毒はこの後、ヴァレリー伯爵家を乗っ取る計画のために使われることになる。

 染物屋の男とシビルは、実は夫婦だった。そしてソフィ=ヴァレリーは、シビルとその男との子だった。私をどこかに嫁がせた後、ソフィがヴァレリー伯爵家を継ぐ算段を立てていたらしい。



 私が生まれる前にも、シビルは使用人としてヴァレリー伯爵家で勤めていた。お母様が私をお腹に宿して悪阻で寝込んでいた頃、シビルはお父様の愛妾となった。しかし彼女は、私が生まれた直後に突然ヴァレリー伯爵家を去る。

 そして十数年後、再び使用人としてヴァレリー家に勤め始めたシビルは、お母様のお茶にドルンスミレの毒を盛った。お母様が体調を崩し始めた頃に主治医が現れ、ドルンスミレの毒を点滴に混ぜたので、お母様が意識不明となった。

 お母様の意識がなくて反対できないのを見計らって、シビルはソフィをお父様の子だと主張する。


『退職した当時にヴァレリー伯爵の子を妊娠していたが、本妻の子と同じ屋敷の中では育てられないから妊娠を黙ったまま退職して実家に戻った』


と言うのが彼女の言い分。本来は黒髪だったソフィの髪を、アルヴィラを使って銀髪に染めて。

 そしてソフィはそのままヴァレリー家の正式な娘となった。菫色の髪を持つ私の存在と対照的だったから、皆が銀髪のソフィをお父様の子だと信じた。本当は退職した後に結婚したドルンの染物屋の男との子だった、というのが真相だ。


 その後もシビルはドルンにある自宅からアルヴィラとドルンスミレを定期的に取り寄せる。アルヴィラを飲んだソフィは銀髪で過ごすし、一緒に届いたドルンスミレの毒はお母様の点滴へ。

 ロンベルク辺境伯との縁談の話があがり、私を伯爵家から追い出した後、残る彼らの目的はソフィがヴァレリー伯爵家を継ぐことのみとなった。

 このタイミングが一番危なかった。お父様の目をも盗んで、お母様の殺害に及んでいたかもしれない。そうすれば、今は愛妾の立場であるシビルもとなれる。
 ロンベルクに出発する前に私がグレースに付きっ切りの看病を頼んだことで、何とかその危機は免れた。


 彼女たちの計画が狂ったのは、ロンベルクの森に再度現れた魔獣の影響だった。森へ入ることが禁止され、アルヴィラもドルンスミレも採取できなくなってしまい、ほどなくしてヴァレリー伯爵家へのアルヴィラとドルンスミレの納品が途絶える。
 ソフィは銀髪に染めることができなくなり、主治医はお母様が目を覚ますことを恐れた。事件発覚を恐れて主治医は逃げ、それに気付いたシビルとソフィも逃走を図った。

 お父様から見れば、急に主治医と愛妾、そして最愛の娘が消えたことになる。

 大切な人が突然目の前からいなくなったお父様はパニックとなり、お金をつぎ込んで自警団を山ほど雇って調査させている。


◇◇◇◇◇


 リカルド様から真相を聞いた時は、あまりのことに言葉も出なかった。

 ロンベルクへ嫁ぐようにお父様に言われた時、もしもグレースにお母様の看病を頼んでいなかったら……? 今頃お母様の命はなかったかもしれない。想像しただけで体がガタガタと震えて止まらなくなった。


「リゼット、さあどうする? この件は国王陛下にも報告してある。ウォルターに頼んで、ソフィを王城に連れてくるように手配済みだ。彼らの裁きの場に、君も立ち会う?」

「……もちろん、立ち合います」

「ヴァレリー伯爵もその場に呼んでいる。君を虐げた父親と再び顔を合わせることになるけど大丈夫?」

「はい……大丈夫です。お父様もソフィも、今は私の家族ですもの。きちんと見届けます」


 そんな会話を経て、私は今日を迎えた。

 いよいよ国王陛下の裁きが始まる。
 私とリカルド様は案内人に従って、国王陛下との謁見の間に向かった。




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