48 / 54
第4章 スミレの真実
46 ユーリとリカルド
しおりを挟む
国王陛下との謁見の後。
お父様はショックのあまりその場で倒れてしまい、王城の客間で休ませてもらっている。
リカルド様と私、そしてロンベルクからソフィと共に王都にやって来たユーリ様は、王城の中の一室へと通された。リカルド様の叔母様にあたる王妃様のはからいで、リカルド様が失踪後に生活していたお部屋だということだ。
失踪後、ちゃっかり王城で生活しながら国王陛下と交渉していたリカルド様に対しては、あきれて言葉も出て来ない。
ユーリ様とリカルド様は一言も言葉を交わさないままテーブルに付いた。私は先ほどユーリ様の胸を借りて泣いてしまった気恥ずかしさから、ユーリ様の顔を直視できずにいる。
「じゃあ改めて。ユーリ、久しぶり! 急にいなくなっちゃってごめんね!」
「…………」
ユーリ様は口元を引きつらせながらリカルド様をじっと睨む。
「ええっと……ユーリ、もしかしてすごい怒ってる?」
「…………怒っているという言葉で表せるほど軽い感情じゃないんだが」
隣にリカルド様、斜向かいにユーリ様。
全く悪びれないリカルド様に対して、ユーリ様は静かに怒っている。リカルド様の突然の失踪のせいで、ユーリ様は仕事も仮初の妻の相手も全て任されてしまったのだ。そして今度は急に王都に呼びだされたかと思えば、平然と姿を現して飄々としている。
二人の間の何とも言えない緊迫感に包まれて、私の色んな心配ごとは頭の隅に追いやられてしまった。
正直に言わせてもらえば、私だってつい先ほど妹が目の前で裁かれ、お父様が倒れ、自分のことだけでも精一杯な状況だ。この二人のケンカの仲裁をしている場合ではない。
どうせリカルド様とは離婚するし、ユーリ様とはお別れする予定だったし。
私、一旦帰ってもいいでしょうか? あとはお二人でどうぞ……っていうのは許されますか?
「いやあ、色々とごめんね。僕の身代わりになってくれてたって聞いたよ。でも僕も今回こそはちゃんと反省した。これからはちゃんとやるよ。だから許して」
「しらばっくれるな。ウォルターとずっと連絡を取っていたんだろう? それに、何をちゃんとやるんだ? お前が一回でも何かをちゃんとやったことがあったか?! お前がいない間、森に魔獣がまた出たんだ、ロンベルクの街に被害が出たらどうするつもりだったんだよ! それにリゼットのことは……彼女のことを傷つけていいとでも思ったのか! ふざけるな!」
ユーリ様は立ち上がり、リカルド様につかみかかる。襟元をつかんで睨まれたリカルド様は、慌ててこちらに目で助けを求めた。えっ……ちょっと私は、助けられないのですが。
「だって俺たち、ソフィ=ヴァレリーの方が嫁いで来るって思ってたよな? まさかお前の大切な最愛のリゼット嬢が来るなんて、初めは知らなかったし」
リカルド様の言葉を聞いて、ユーリ様の手が緩んだ。リカルド様はそのまま床にドスンと尻もちをつく。
「最愛の……リゼッ……ト嬢とか……お前が言うな!」
「なんだよ、この間抜け! いまだにリゼットに告白もしてないくせに! 二十五にもなって何でそんな奥手なんだよ!」
「あの、お二人ともちょっと落ち着いてください……! リカルド様、ユーリ様は私ではなくカレン様のことをお好きなようですので……」
私の言葉を聞いて、真っ赤な顔をしたユーリ様が今度はぎょっとした顔をする。
「リゼット……なんで俺がカレンを……何かの間違いだ」
「そうだそうだ、ユーリはカレンのことなんて何とも思ってないぞ! コイツは君に、それはそれは恥ずかしいラブレターを一晩中悩みながら書い……」
床に座り込むリカルド様の首に、ユーリ様が後ろから腕をかける。
「お前、なんで手紙のこと知ってるんだよ……!」
「いや、ユーリが王都に行くって言うから僕も付いて来て、こっそり盗み見を……」
ユーリ様の腕に力が入り、リカルド様が苦しそうに足をバタバタとしながら暴れる。
「……ごめんなさい、私ちょっとよく分からなくて。とりあえず、私も今日は結構大変な状況ですので、あとはお二人でごゆっくりケンカなさってください。このまま失礼させていただいてよろしいでしょうか?」
「リゼット、帰るのか?! ちょっと待ってくれ、話したいことがあるんだ……」
「あの、今日は色々あり過ぎて、私も頭を整理したいのでまた後日」
何だかお二人は仲良く言い合いしているけど、私の心はそれどころではない。お母様のところに早く戻って、どうしてもこれまでのことを報告して謝りたい。それに倒れたお父様も何とかしなければいけないし、ソフィのことだって話し合わなければいけない。
……それに、一体何なの?
『カレン様のことを好きというのは間違いだ』とか、『ユーリ様が私へのラブレターを一晩中悩みながら書いていた』とか。これ以上の情報が私の頭の中に入ってきたら、頭が爆発してしまいそうだ。きっと今、私の顔はユーリ様と同じように真っ赤なんだと思う。
私にユーリ様の気持ちを期待させるようなことを言わないで! この火照る顔を見られる前に、早くここから出て家に帰りたい。
「リゼット、頼む! 少しだけでいいから話を」
ユーリ様が、部屋を出ようとした私の手をつかむ。私は、ユーリ様の手のあまりの熱さに驚いた。
「ユーリ様、手がすごく熱いです! 熱があるのではないですか?」
私が言葉を言い終わる前に、ユーリ様は眉をしかめながらゆっくりと目を閉じた。倒れてきたユーリ様を思わず正面から受け止めて、一緒に床に座り込む。
ユーリ様の背中に回した手に、ぬるっとした感触。これは……
(……血?)
「リカルド様! ユーリ様の背中、ケガをなさってませんか?」
「ユーリ! まさか魔獣との戦いのケガか?! 傷が開いたのかもしれない。人を呼ぼう!」
お父様はショックのあまりその場で倒れてしまい、王城の客間で休ませてもらっている。
リカルド様と私、そしてロンベルクからソフィと共に王都にやって来たユーリ様は、王城の中の一室へと通された。リカルド様の叔母様にあたる王妃様のはからいで、リカルド様が失踪後に生活していたお部屋だということだ。
失踪後、ちゃっかり王城で生活しながら国王陛下と交渉していたリカルド様に対しては、あきれて言葉も出て来ない。
ユーリ様とリカルド様は一言も言葉を交わさないままテーブルに付いた。私は先ほどユーリ様の胸を借りて泣いてしまった気恥ずかしさから、ユーリ様の顔を直視できずにいる。
「じゃあ改めて。ユーリ、久しぶり! 急にいなくなっちゃってごめんね!」
「…………」
ユーリ様は口元を引きつらせながらリカルド様をじっと睨む。
「ええっと……ユーリ、もしかしてすごい怒ってる?」
「…………怒っているという言葉で表せるほど軽い感情じゃないんだが」
隣にリカルド様、斜向かいにユーリ様。
全く悪びれないリカルド様に対して、ユーリ様は静かに怒っている。リカルド様の突然の失踪のせいで、ユーリ様は仕事も仮初の妻の相手も全て任されてしまったのだ。そして今度は急に王都に呼びだされたかと思えば、平然と姿を現して飄々としている。
二人の間の何とも言えない緊迫感に包まれて、私の色んな心配ごとは頭の隅に追いやられてしまった。
正直に言わせてもらえば、私だってつい先ほど妹が目の前で裁かれ、お父様が倒れ、自分のことだけでも精一杯な状況だ。この二人のケンカの仲裁をしている場合ではない。
どうせリカルド様とは離婚するし、ユーリ様とはお別れする予定だったし。
私、一旦帰ってもいいでしょうか? あとはお二人でどうぞ……っていうのは許されますか?
「いやあ、色々とごめんね。僕の身代わりになってくれてたって聞いたよ。でも僕も今回こそはちゃんと反省した。これからはちゃんとやるよ。だから許して」
「しらばっくれるな。ウォルターとずっと連絡を取っていたんだろう? それに、何をちゃんとやるんだ? お前が一回でも何かをちゃんとやったことがあったか?! お前がいない間、森に魔獣がまた出たんだ、ロンベルクの街に被害が出たらどうするつもりだったんだよ! それにリゼットのことは……彼女のことを傷つけていいとでも思ったのか! ふざけるな!」
ユーリ様は立ち上がり、リカルド様につかみかかる。襟元をつかんで睨まれたリカルド様は、慌ててこちらに目で助けを求めた。えっ……ちょっと私は、助けられないのですが。
「だって俺たち、ソフィ=ヴァレリーの方が嫁いで来るって思ってたよな? まさかお前の大切な最愛のリゼット嬢が来るなんて、初めは知らなかったし」
リカルド様の言葉を聞いて、ユーリ様の手が緩んだ。リカルド様はそのまま床にドスンと尻もちをつく。
「最愛の……リゼッ……ト嬢とか……お前が言うな!」
「なんだよ、この間抜け! いまだにリゼットに告白もしてないくせに! 二十五にもなって何でそんな奥手なんだよ!」
「あの、お二人ともちょっと落ち着いてください……! リカルド様、ユーリ様は私ではなくカレン様のことをお好きなようですので……」
私の言葉を聞いて、真っ赤な顔をしたユーリ様が今度はぎょっとした顔をする。
「リゼット……なんで俺がカレンを……何かの間違いだ」
「そうだそうだ、ユーリはカレンのことなんて何とも思ってないぞ! コイツは君に、それはそれは恥ずかしいラブレターを一晩中悩みながら書い……」
床に座り込むリカルド様の首に、ユーリ様が後ろから腕をかける。
「お前、なんで手紙のこと知ってるんだよ……!」
「いや、ユーリが王都に行くって言うから僕も付いて来て、こっそり盗み見を……」
ユーリ様の腕に力が入り、リカルド様が苦しそうに足をバタバタとしながら暴れる。
「……ごめんなさい、私ちょっとよく分からなくて。とりあえず、私も今日は結構大変な状況ですので、あとはお二人でごゆっくりケンカなさってください。このまま失礼させていただいてよろしいでしょうか?」
「リゼット、帰るのか?! ちょっと待ってくれ、話したいことがあるんだ……」
「あの、今日は色々あり過ぎて、私も頭を整理したいのでまた後日」
何だかお二人は仲良く言い合いしているけど、私の心はそれどころではない。お母様のところに早く戻って、どうしてもこれまでのことを報告して謝りたい。それに倒れたお父様も何とかしなければいけないし、ソフィのことだって話し合わなければいけない。
……それに、一体何なの?
『カレン様のことを好きというのは間違いだ』とか、『ユーリ様が私へのラブレターを一晩中悩みながら書いていた』とか。これ以上の情報が私の頭の中に入ってきたら、頭が爆発してしまいそうだ。きっと今、私の顔はユーリ様と同じように真っ赤なんだと思う。
私にユーリ様の気持ちを期待させるようなことを言わないで! この火照る顔を見られる前に、早くここから出て家に帰りたい。
「リゼット、頼む! 少しだけでいいから話を」
ユーリ様が、部屋を出ようとした私の手をつかむ。私は、ユーリ様の手のあまりの熱さに驚いた。
「ユーリ様、手がすごく熱いです! 熱があるのではないですか?」
私が言葉を言い終わる前に、ユーリ様は眉をしかめながらゆっくりと目を閉じた。倒れてきたユーリ様を思わず正面から受け止めて、一緒に床に座り込む。
ユーリ様の背中に回した手に、ぬるっとした感触。これは……
(……血?)
「リカルド様! ユーリ様の背中、ケガをなさってませんか?」
「ユーリ! まさか魔獣との戦いのケガか?! 傷が開いたのかもしれない。人を呼ぼう!」
10
お気に入りに追加
1,640
あなたにおすすめの小説
国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。
ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。
即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。
そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。
国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。
⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎
※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!
『えっ! 私が貴方の番?! そんなの無理ですっ! 私、動物アレルギーなんですっ!』
伊織愁
恋愛
人族であるリジィーは、幼い頃、狼獣人の国であるシェラン国へ両親に連れられて来た。 家が没落したため、リジィーを育てられなくなった両親は、泣いてすがるリジィーを修道院へ預ける事にしたのだ。
実は動物アレルギーのあるリジィ―には、シェラン国で暮らす事が日に日に辛くなって来ていた。 子供だった頃とは違い、成人すれば自由に国を出ていける。 15になり成人を迎える年、リジィーはシェラン国から出ていく事を決心する。 しかし、シェラン国から出ていく矢先に事件に巻き込まれ、シェラン国の近衛騎士に助けられる。
二人が出会った瞬間、頭上から光の粒が降り注ぎ、番の刻印が刻まれた。 狼獣人の近衛騎士に『私の番っ』と熱い眼差しを受け、リジィ―は内心で叫んだ。 『私、動物アレルギーなんですけどっ! そんなのありーっ?!』
【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。
海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】
クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。
しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。
失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが――
これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。
※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました!
※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。
公爵令嬢 メアリの逆襲 ~魔の森に作った湯船が 王子 で溢れて困ってます~
薄味メロン
恋愛
HOTランキング 1位 (2019.9.18)
お気に入り4000人突破しました。
次世代の王妃と言われていたメアリは、その日、すべての地位を奪われた。
だが、誰も知らなかった。
「荷物よし。魔力よし。決意、よし!」
「出発するわ! 目指すは源泉掛け流し!」
メアリが、追放の準備を整えていたことに。
悪役令嬢はお断りです
あみにあ
恋愛
あの日、初めて王子を見た瞬間、私は全てを思い出した。
この世界が前世で大好きだった小説と類似している事実を————。
その小説は王子と侍女との切ない恋物語。
そして私はというと……小説に登場する悪役令嬢だった。
侍女に執拗な虐めを繰り返し、最後は断罪されてしまう哀れな令嬢。
このまま進めば断罪コースは確定。
寒い牢屋で孤独に過ごすなんて、そんなの嫌だ。
何とかしないと。
でもせっかく大好きだった小説のストーリー……王子から離れ見られないのは悲しい。
そう思い飛び出した言葉が、王子の護衛騎士へ志願することだった。
剣も持ったことのない温室育ちの令嬢が
女の騎士がいないこの世界で、初の女騎士になるべく奮闘していきます。
そんな小説の世界に転生した令嬢の恋物語。
●表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_)
●毎日21時更新(サクサク進みます)
●全四部構成:133話完結+おまけ(2021年4月2日 21時完結)
(第一章16話完結/第二章44話完結/第三章78話完結/第四章133話で完結)。
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
地味に転生できました♪~少女は世界の危機を救う!
きゃる
恋愛
イジメられッ子が異世界に転生。
誰もが羨む美貌とスタイルの持ち主であった私。
逆ハー、贔屓、告られるのは当たり前。そのせいでひどいイジメにあっていた。
でも、それは前世での話。
公爵令嬢という華麗な肩書きにも負けず、「何コレ、どこのモブキャラ?」
というくらい地味に転生してしまった。
でも、でも、すっごく嬉しい!
だって、これでようやく同性の友達ができるもの!
女友達との友情を育み、事件、困難、不幸を乗り越え主人公アレキサンドラが日々成長していきます。
地味だと思っていたのは本人のみ。
実は、可愛らしい容姿と性格の良さでモテていた。不幸をバネに明るく楽しく生きている、そんな女の子の恋と冒険のお話。
*小説家になろうで掲載中のものを大幅に修正する予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる