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第2章 仮初夫婦の攻防
19 旦那様の銀髪
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「旦那様……もしかしてとってもお疲れですか?」
「ん? 別に特にそんなことはないが……」
翌朝のこと。
ウォルターのはからいで夕食だけでなく朝食まで夫婦二人で頂くことになり、旦那様とテーブルに付いたのだが、旦那様の髪の色が目に入って驚いてしまった。
美しい亜麻色だった髪の毛に、大量の白髪ができていたからだ。
大量なんてものじゃない。髪の毛の三分の一くらいがまばらに白くなっている。極度のストレスで一晩で白髪になってしまう人がいるなんて聞いたことがあるけれど、もしかして旦那様も何か多大なストレスを感じているのだろうかと心配になった。
「旦那様! 見せてください!」
席を立って旦那様の方に駆け寄る。背後から髪の毛を観察して、少し髪を持ち上げてみてもやっぱり白髪だらけだ。いや、白髪というよりも……
「……銀色?」
「リゼット……ちょっと近い……」
「はっ! 申し訳ありません!」
しまった、驚きのあまり旦那様の頭に顔を近付け過ぎてしまった。パッと手を放して自分の椅子にすごすごと戻る。
「白髪かと思って見てみたのですが、銀髪ですね。お義父様かお義母様が銀髪でいらっしゃるのですか?」
「いや、そんなことはない。うちの家系に銀髪の者はいないと思うが……」
「ではやはりストレスでしょうか。本当に遠慮せず仰ってください、私は別にお食事をご一緒するのを無理強いするつもりはありませんし、もし王都に戻れと仰るのなら私はもちろん受け入れ……」
「いやいやいや! それは困る! 君にはここに居て欲しい……色んな意味で」
「色んな意味で」、ですか。
実は私も、本心を言えばここにずっといたいと思っている。
ヴァレリー家にいるグレースからの手紙で、お母様はきちんと診察を受けてこれまでどおり過ごしていると聞いている。離婚して王都に戻ったところでお父様になぜ離婚したのかと叱られるだけだし、もしかしたら私への腹いせでお母様にもひどいことをするかもしれない。
せっかくこうして旦那様やウォルターとも少しずつ打ち解けてきたところだから、このままここロンベルクでずっと過ごせたらいいなと思い始めたところだった。
でも、私の存在が旦那様のストレスになっているのだとしたら? 私がここに来てから、浮気相手さんのところに行きづらいなんて思っているのかもしれない。
旦那様のご迷惑になるくらいなら……ヴァレリー家に戻って、お父様からお母様を守りながら、今まで通り生きていくことだって選択肢の一つだ。
ウォルターが持ってきた鏡を持って、自分の頭を覗き込む旦那様の前には、朝食が既に並んでいる。そのお皿の横には……昨日摘んできたアルヴィラがまた飾られていた。
朝日を浴びて銀色に輝くアルヴィラの花に目をやる。
アルヴィラ、アルヴィラ…………染物の材料……もしかして!
「旦那様! もしかして、昨日食べたアルヴィラが原因ということはないでしょうか」
「アルヴィラが?」
「はい。アルヴィラは染物の材料になる花です。布を染めるのに使うくらいですから、髪の毛を染めることも……いいえ、そんなわけがないですね」
花をすりつぶして外側から髪を染めるならいざ知らず、花を食べたら髪の毛が染まるなんて。突拍子もない考えをしてしまった。そんなことがあるわけがない。
「……カレンだ。カレンに聞いてみよう」
「カレン様は何かご存じなのですか?」
「カレンは、騎士は騎士でも薬草などを扱う専門要員なんだ。だからこの前の視察にも連れて行った。湖の水質調査をするのに、知識がある者が必要だったから」
「なるほど。アルヴィラの成分や効用も、調べて頂けるかもしれませんね」
アルヴィラの花を包むように、旦那様がウォルターに指示をした。
もし本当にアルヴィラで髪の毛が銀色に染まるのなら。
私の髪を銀色に変えることもできたかもしれない。そうすれば、お母様もお父様からあんなひどい言葉を投げかけられずに済んだかも。
旦那様との朝食は嬉しかったはずなのに、お母様のことを思い出して少し気持ちが塞いだ。
「ん? 別に特にそんなことはないが……」
翌朝のこと。
ウォルターのはからいで夕食だけでなく朝食まで夫婦二人で頂くことになり、旦那様とテーブルに付いたのだが、旦那様の髪の色が目に入って驚いてしまった。
美しい亜麻色だった髪の毛に、大量の白髪ができていたからだ。
大量なんてものじゃない。髪の毛の三分の一くらいがまばらに白くなっている。極度のストレスで一晩で白髪になってしまう人がいるなんて聞いたことがあるけれど、もしかして旦那様も何か多大なストレスを感じているのだろうかと心配になった。
「旦那様! 見せてください!」
席を立って旦那様の方に駆け寄る。背後から髪の毛を観察して、少し髪を持ち上げてみてもやっぱり白髪だらけだ。いや、白髪というよりも……
「……銀色?」
「リゼット……ちょっと近い……」
「はっ! 申し訳ありません!」
しまった、驚きのあまり旦那様の頭に顔を近付け過ぎてしまった。パッと手を放して自分の椅子にすごすごと戻る。
「白髪かと思って見てみたのですが、銀髪ですね。お義父様かお義母様が銀髪でいらっしゃるのですか?」
「いや、そんなことはない。うちの家系に銀髪の者はいないと思うが……」
「ではやはりストレスでしょうか。本当に遠慮せず仰ってください、私は別にお食事をご一緒するのを無理強いするつもりはありませんし、もし王都に戻れと仰るのなら私はもちろん受け入れ……」
「いやいやいや! それは困る! 君にはここに居て欲しい……色んな意味で」
「色んな意味で」、ですか。
実は私も、本心を言えばここにずっといたいと思っている。
ヴァレリー家にいるグレースからの手紙で、お母様はきちんと診察を受けてこれまでどおり過ごしていると聞いている。離婚して王都に戻ったところでお父様になぜ離婚したのかと叱られるだけだし、もしかしたら私への腹いせでお母様にもひどいことをするかもしれない。
せっかくこうして旦那様やウォルターとも少しずつ打ち解けてきたところだから、このままここロンベルクでずっと過ごせたらいいなと思い始めたところだった。
でも、私の存在が旦那様のストレスになっているのだとしたら? 私がここに来てから、浮気相手さんのところに行きづらいなんて思っているのかもしれない。
旦那様のご迷惑になるくらいなら……ヴァレリー家に戻って、お父様からお母様を守りながら、今まで通り生きていくことだって選択肢の一つだ。
ウォルターが持ってきた鏡を持って、自分の頭を覗き込む旦那様の前には、朝食が既に並んでいる。そのお皿の横には……昨日摘んできたアルヴィラがまた飾られていた。
朝日を浴びて銀色に輝くアルヴィラの花に目をやる。
アルヴィラ、アルヴィラ…………染物の材料……もしかして!
「旦那様! もしかして、昨日食べたアルヴィラが原因ということはないでしょうか」
「アルヴィラが?」
「はい。アルヴィラは染物の材料になる花です。布を染めるのに使うくらいですから、髪の毛を染めることも……いいえ、そんなわけがないですね」
花をすりつぶして外側から髪を染めるならいざ知らず、花を食べたら髪の毛が染まるなんて。突拍子もない考えをしてしまった。そんなことがあるわけがない。
「……カレンだ。カレンに聞いてみよう」
「カレン様は何かご存じなのですか?」
「カレンは、騎士は騎士でも薬草などを扱う専門要員なんだ。だからこの前の視察にも連れて行った。湖の水質調査をするのに、知識がある者が必要だったから」
「なるほど。アルヴィラの成分や効用も、調べて頂けるかもしれませんね」
アルヴィラの花を包むように、旦那様がウォルターに指示をした。
もし本当にアルヴィラで髪の毛が銀色に染まるのなら。
私の髪を銀色に変えることもできたかもしれない。そうすれば、お母様もお父様からあんなひどい言葉を投げかけられずに済んだかも。
旦那様との朝食は嬉しかったはずなのに、お母様のことを思い出して少し気持ちが塞いだ。
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