清純派聖女は死んだ!

奥田たすく

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第一章 清純派聖女、脱出する

#21 聖女、策を練る。②

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 カレンの中にはまだまだ発散しきれていない思いがあったけれど、メムを起こさまいと彼女はなんとか空気と一緒に飲み込んだ。
 ちょっとの間気持ち悪そうな顔をした後それをため息として長く吐きだしてから完全に顔を両手で覆うその様子をイッシュはまあ大丈夫そうかな、と思って見ていた。

「え、まじあんたたちなんの話してんの?」

 二人の会話がちんぷんかんぷんだったアルフが得体の知れないものでも見るかのようにカレンを見ながら言った。

 カレンは追われている身だ。おいそれと話せることではないのでどう誤魔化そうかとイッシュが考えている間に、ずっと黙っていたカフが口を開いた。

「ねえ、」

 口が半開きのイッシュの袖をクイッと引っ張って呼びかける。

「なに?」
「僕たちの家って、この地図だとどこ?」

 きらきらと目を輝かせて言うのでそれは今関係ないだとか言う気は起きなかった。イッシュは宿場町からの方向と距離感を思い起こして大体の目星をつけて指さしてやる。

「ってことは多分、そこの泉の水は一回地下に潜ってここの川に繋がってるんじゃないかな」

 イッシュが指を地図の上で動かしながら教えてあげるとカフがさらに身を乗り出すので、それを見てアルフが少し慌てたように言った。

「おい、お前また一人でどっか行くんじゃねえぞ!? 川がどこまでいくのか確かめるとか言って出てった時どんだけ皆でお前のこと探し回ったと思ってんだよ」

 引っ込み思案で泣き虫。のくせにカフはちょっと目を離した隙によくいなくなる。兄貴分たちにカフの面倒を任されているアルフの苦労は計り知れなかった。

 しかし残念ながらカフの耳にはおそらくその言葉は入っていってない。諦め混じりのアルフ達の溜め息とほぼ同時にカフがまたイッシュに問うた。

「ねえ、こんなにどこの町も川から遠いところにあってさ、お水汲みに行くの大変じゃない?」
「ん、あー、場所によっては王都から水路を引いてたりするよ」
「え、なんで? 川の近くに住めばいいじゃん」
「いや川とか水源の近くは――」

 ハッと、イッシュが気付く。カレンの方に顔を向ければ彼女の見開かれた目と目が合って、彼女がイッシュの言葉の続きを紡いだ。

「水辺は大物も含めてモンスターたちの頻出区域だ。 特に王都周りにモンスター避けの大型魔道具が設置されてからは被害が多く、条例で王都外の河川周辺は立ち入りを禁止した」
「アルフくんだっけ、ここに人が住み始めたのはいつから?」

 さっきまで騒いでいたカレンたちが急に真剣な顔をするのでその剣幕に押されてアルフは思わず後ろにのけ反る。でもカレンたちの話の内容はあんまり分からないなりに、大事なことなんだろうというのは察してアルフはなんとかバクバクとうるさい自分の心臓に負けないよう答えた。

「わ、分かんねえ、けど、ここに今住んでるやつらは皆気付いたらここにいたよ」
「十年以上はここに人が住んでるってことね。 その間モンスターが現れたり、襲われたりってことは?」
「な、何回か」
「それはここで?」
「いや、町に出るまでの間とか、仕事先、とか?」
「ここにモンスターが来たことは?」
「それは、な、」

 そういえば無いな。アルフも今気が付いたといった腑抜け具合で呟いた。な、とテットに同意を求めると大きな頷きが返って来る。

 これはなんとかなるかもしれないと、イッシュは唾を飲み込んで隣のカレンを見やった。既に彼女は祈るようにして手を組んでいて、その体はほのかに優しい光に包まれている。その瞳の色は彼女の中にある膨大な量の光の文字と同じ色をしていた。

「僕はこの辺に何かないか調べてくるよ」

 きっと聞えちゃいないだろうけれど一応イッシュは声をかけた。

 水辺、なのにモンスターが現れない。その原因が分かれば旅人の多く立ち寄る地域だ、大きな商売に繋がる可能性が高い。
 カレンは世界中の書物にアクセスして同じような事例や、モンスターを寄せ付けない術を片っ端から洗い出していた。

「誰か、一緒に来てくれる?」

 イッシュが少年たちに声をかける。アレフもテットもそのカレンの神々しくさえある様子に呆けていて、カフだけが元気よく返事をした。
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