清純派聖女は死んだ!

奥田たすく

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第一章 清純派聖女、脱出する

#14 セム、一肌脱ぐ。②

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 店主に教えられたその集落も、カレンと最初に迷い込んだ集落とさほど変わらなかった。違いといえば次第に薄暗くなってきた空とは対照的にそれぞれの建物に明かりが灯り始め、人の気配に満ちていることぐらいだ。

 正直セムはここまでの道のり足が重くて仕方がなかったが、だからと言ってそこで踵を返して帰れる性分でもない。集落の入口付近で話しかけて来た女性にミアの居場所を聞いた。

「ミッ、あー……今はちょっと、あれかも」

 女性が目を泳がせて言い淀んでいる間、セムはその露出の多い服を見て寒そうだなと思っていた。

「お兄さん、これも何かの縁だと思ってここは私にしとかないかい?」

 冷やかしだと思われるのも面倒だ。セムがどう言ったものかと考えながら口を開きかけた瞬間近くの建物から大きな声が大きな声が上がった。

「遅い!!!!」

 集落中の人々が一斉にそちらを向いた。開けっ放しの扉から一人の女性が、引き留める何人もの人をなぎ払うように出て来る。
 それを見て今さっきまでセムと話をしていた女性が駆け寄って行った。

「ミア!! もう仕事の時間でしょうが!!」
「まだ来ないんだよあのガキたち!! みんな苦しんでんだ、薬が最優先に決まってるだろ!」
「ばか、そんなことばっかりしてると本当に客がつかなくなっちまうよ!!」

 ミアと、確かにその騒いでる女性は呼ばれた。しかしセムは彼女の足に目線をやるが、記憶と同じくらい細くても変色はしていない。

 セムは腕を組んで首を傾げる。声は、似ている気がする。でも確証は持てない。

「ほ、ほらミア。 あんた指名で客だよ」
「それどころじゃない!」
「それどころなんだよ! あんたは!!」

 ミアがセムの目の前まで無理矢理押されて連れてこられる。ミアは顔をめいいっぱい歪ませてセムを睨むので、周りにいた女性がその頭を思いっきり叩いた。


「ああ」

 セムがポンと手を打った。ミアはそのセムの不可解な行動に「なんだよ」とすごむ。

 セムは話を聞きながら、別にこのミアがあの時見かけた女性でなくても別に構わないことにふと気が付いたのだった。とりあえず状況を把握しようと投げかける。

「薬って、伝染病のか?」

 セムがさらっと言ったのでミアが身構える。それを肯定ととったセムはここでも伝染病が流行っていることを確信した。

 口で何と言っても胡散臭いだろう。セムはきょろきょろと見まわして、身構えたミアの腕に痣があるのを見つけた。

「腕、借りる」
「はっ?」

 そっとミアの腕を上げさせて、セムがそこに手をかざす。
 ふわっと光が広がって女性たちが口元に手を当て言葉を失った。それくらい、優しい光だった。

 彼が手をどけるとそこに痣はもう無い。
 周りの女性たちが口々に言う。

「か、神様かい?」
「ばか、ありゃギフトって言うんだよ」
「ギフトギフト言う客もいたけんど、あんな綺麗な光じゃなかったさね」

 ミアは自分の腕を驚いたように何度か擦って、また顔を険しくしてセムを見た。ミアにはセムの思惑が分からなかった。

 その顔を見ればまだ疑われているのがよく分かるのでセムは言葉に頼る。

「外傷はなかなか難しい。 でも内側からの病なら治せる」
「何が望み」

 食い気味にミアが言った。攻撃的な言い方だったけれどそこには覚悟がのっている。この集落ではもう既に何人もの重症者が出ていた。

 セムは彼女の覚悟に答えるように目を合わせながら、しかし自嘲気味に言った。

「俺は医師免許がないから、見返りは受け取れない」

 ミアはしばらくじっとセムを見つめていて、その様子を周りの女性たちが固唾をのんで見守っている。

 折れたのはミアの方だった。
 いつまでも全く動じないセムにミアは期待と少しの不安に大きく息を吸って、彼の腕を掴んだ。

「来て」

 セムは集落の裏手の方へとミアに引っ張られていく。その二人の背中を、女性たちの黄色い声が見送った。
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