14 / 28
第一章 清純派聖女、脱出する
#14 セム、一肌脱ぐ。②
しおりを挟む
店主に教えられたその集落も、カレンと最初に迷い込んだ集落とさほど変わらなかった。違いといえば次第に薄暗くなってきた空とは対照的にそれぞれの建物に明かりが灯り始め、人の気配に満ちていることぐらいだ。
正直セムはここまでの道のり足が重くて仕方がなかったが、だからと言ってそこで踵を返して帰れる性分でもない。集落の入口付近で話しかけて来た女性にミアの居場所を聞いた。
「ミッ、あー……今はちょっと、あれかも」
女性が目を泳がせて言い淀んでいる間、セムはその露出の多い服を見て寒そうだなと思っていた。
「お兄さん、これも何かの縁だと思ってここは私にしとかないかい?」
冷やかしだと思われるのも面倒だ。セムがどう言ったものかと考えながら口を開きかけた瞬間近くの建物から大きな声が大きな声が上がった。
「遅い!!!!」
集落中の人々が一斉にそちらを向いた。開けっ放しの扉から一人の女性が、引き留める何人もの人をなぎ払うように出て来る。
それを見て今さっきまでセムと話をしていた女性が駆け寄って行った。
「ミア!! もう仕事の時間でしょうが!!」
「まだ来ないんだよあのガキたち!! みんな苦しんでんだ、薬が最優先に決まってるだろ!」
「ばか、そんなことばっかりしてると本当に客がつかなくなっちまうよ!!」
ミアと、確かにその騒いでる女性は呼ばれた。しかしセムは彼女の足に目線をやるが、記憶と同じくらい細くても変色はしていない。
セムは腕を組んで首を傾げる。声は、似ている気がする。でも確証は持てない。
「ほ、ほらミア。 あんた指名で客だよ」
「それどころじゃない!」
「それどころなんだよ! あんたは!!」
ミアがセムの目の前まで無理矢理押されて連れてこられる。ミアは顔をめいいっぱい歪ませてセムを睨むので、周りにいた女性がその頭を思いっきり叩いた。
「ああ」
セムがポンと手を打った。ミアはそのセムの不可解な行動に「なんだよ」とすごむ。
セムは話を聞きながら、別にこのミアがあの時見かけた女性でなくても別に構わないことにふと気が付いたのだった。とりあえず状況を把握しようと投げかける。
「薬って、伝染病のか?」
セムがさらっと言ったのでミアが身構える。それを肯定ととったセムはここでも伝染病が流行っていることを確信した。
口で何と言っても胡散臭いだろう。セムはきょろきょろと見まわして、身構えたミアの腕に痣があるのを見つけた。
「腕、借りる」
「はっ?」
そっとミアの腕を上げさせて、セムがそこに手をかざす。
ふわっと光が広がって女性たちが口元に手を当て言葉を失った。それくらい、優しい光だった。
彼が手をどけるとそこに痣はもう無い。
周りの女性たちが口々に言う。
「か、神様かい?」
「ばか、ありゃギフトって言うんだよ」
「ギフトギフト言う客もいたけんど、あんな綺麗な光じゃなかったさね」
ミアは自分の腕を驚いたように何度か擦って、また顔を険しくしてセムを見た。ミアにはセムの思惑が分からなかった。
その顔を見ればまだ疑われているのがよく分かるのでセムは言葉に頼る。
「外傷はなかなか難しい。 でも内側からの病なら治せる」
「何が望み」
食い気味にミアが言った。攻撃的な言い方だったけれどそこには覚悟がのっている。この集落ではもう既に何人もの重症者が出ていた。
セムは彼女の覚悟に答えるように目を合わせながら、しかし自嘲気味に言った。
「俺は医師免許がないから、見返りは受け取れない」
ミアはしばらくじっとセムを見つめていて、その様子を周りの女性たちが固唾をのんで見守っている。
折れたのはミアの方だった。
いつまでも全く動じないセムにミアは期待と少しの不安に大きく息を吸って、彼の腕を掴んだ。
「来て」
セムは集落の裏手の方へとミアに引っ張られていく。その二人の背中を、女性たちの黄色い声が見送った。
正直セムはここまでの道のり足が重くて仕方がなかったが、だからと言ってそこで踵を返して帰れる性分でもない。集落の入口付近で話しかけて来た女性にミアの居場所を聞いた。
「ミッ、あー……今はちょっと、あれかも」
女性が目を泳がせて言い淀んでいる間、セムはその露出の多い服を見て寒そうだなと思っていた。
「お兄さん、これも何かの縁だと思ってここは私にしとかないかい?」
冷やかしだと思われるのも面倒だ。セムがどう言ったものかと考えながら口を開きかけた瞬間近くの建物から大きな声が大きな声が上がった。
「遅い!!!!」
集落中の人々が一斉にそちらを向いた。開けっ放しの扉から一人の女性が、引き留める何人もの人をなぎ払うように出て来る。
それを見て今さっきまでセムと話をしていた女性が駆け寄って行った。
「ミア!! もう仕事の時間でしょうが!!」
「まだ来ないんだよあのガキたち!! みんな苦しんでんだ、薬が最優先に決まってるだろ!」
「ばか、そんなことばっかりしてると本当に客がつかなくなっちまうよ!!」
ミアと、確かにその騒いでる女性は呼ばれた。しかしセムは彼女の足に目線をやるが、記憶と同じくらい細くても変色はしていない。
セムは腕を組んで首を傾げる。声は、似ている気がする。でも確証は持てない。
「ほ、ほらミア。 あんた指名で客だよ」
「それどころじゃない!」
「それどころなんだよ! あんたは!!」
ミアがセムの目の前まで無理矢理押されて連れてこられる。ミアは顔をめいいっぱい歪ませてセムを睨むので、周りにいた女性がその頭を思いっきり叩いた。
「ああ」
セムがポンと手を打った。ミアはそのセムの不可解な行動に「なんだよ」とすごむ。
セムは話を聞きながら、別にこのミアがあの時見かけた女性でなくても別に構わないことにふと気が付いたのだった。とりあえず状況を把握しようと投げかける。
「薬って、伝染病のか?」
セムがさらっと言ったのでミアが身構える。それを肯定ととったセムはここでも伝染病が流行っていることを確信した。
口で何と言っても胡散臭いだろう。セムはきょろきょろと見まわして、身構えたミアの腕に痣があるのを見つけた。
「腕、借りる」
「はっ?」
そっとミアの腕を上げさせて、セムがそこに手をかざす。
ふわっと光が広がって女性たちが口元に手を当て言葉を失った。それくらい、優しい光だった。
彼が手をどけるとそこに痣はもう無い。
周りの女性たちが口々に言う。
「か、神様かい?」
「ばか、ありゃギフトって言うんだよ」
「ギフトギフト言う客もいたけんど、あんな綺麗な光じゃなかったさね」
ミアは自分の腕を驚いたように何度か擦って、また顔を険しくしてセムを見た。ミアにはセムの思惑が分からなかった。
その顔を見ればまだ疑われているのがよく分かるのでセムは言葉に頼る。
「外傷はなかなか難しい。 でも内側からの病なら治せる」
「何が望み」
食い気味にミアが言った。攻撃的な言い方だったけれどそこには覚悟がのっている。この集落ではもう既に何人もの重症者が出ていた。
セムは彼女の覚悟に答えるように目を合わせながら、しかし自嘲気味に言った。
「俺は医師免許がないから、見返りは受け取れない」
ミアはしばらくじっとセムを見つめていて、その様子を周りの女性たちが固唾をのんで見守っている。
折れたのはミアの方だった。
いつまでも全く動じないセムにミアは期待と少しの不安に大きく息を吸って、彼の腕を掴んだ。
「来て」
セムは集落の裏手の方へとミアに引っ張られていく。その二人の背中を、女性たちの黄色い声が見送った。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。
藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。
そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。
私がいなければ、あなたはおしまいです。
国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。
設定はゆるゆるです。
本編8話で完結になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる