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Drip.0
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去年の梅雨──
類は親代わりに自分を育ててくれた叔父の事が好きだという気持ちを抱きながらも、失恋と位置づけ、鎌倉に傷心旅行へ来た。
鎌倉に来て最初に訪れたのは、紫陽花で有名な某所。種類豊富で色とりどりの紫陽花が輝くベールを見に纏い、綺麗に咲き誇っていた。そんな紫陽花を堪能していると、ポツポツ……ポツリと雨雫が落ちてきた。生憎、傘を持参してなかったため、着ていた洋服のフードを頭に被り、屋根のある建物を探し歩いた。その時、後ろから声が聞こえ、傘を差し出してきた男が居た。
「天気予報は雨ではなかったのに、降ってきたな。フード被ったって……濡れるだろう?」
「あ、ホントに困るよ。傘もってなくてこれが最善だったんだ。……と、はじめまして」
「どうもはじめまして。俺の店がすぐ近くなんだ、雨宿りしていく?」
ふわりと微笑む優しい笑顔、声のトーンも低く渋めで、どことなく懐かしい面影に過去を写した。
あれ?……この人、どこかで……。そう、頭の中で問いながら差し出してくれた傘の下へ身を収めると、男は歩調を合わせエスコートしてくれた。
「そうだ、名乗りがまだだったね。俺は栗平藍介、すぐ近くの店で珈琲店をひっそりとやっている」
「藍介さん、って呼ぶよ。俺は宍倉類。珈琲店を1人で?」
これは偶然だろうか……?男の名前を聞いた時、頭の中で何かが弾けた。出ていった男と苗字が同じだったのだ。
年の差がありながら、男ふたりの相合傘は少々恥ずかしくもあったが、程なくして珈琲店へ行き着いた。
「適当に座っててくれ、珈琲を入れよう」
「ありがとう、藍介さん」
類はカウンター席へ腰を下ろし、珈琲をハンドドリップする藍介の姿を頬杖つきながら眺めた。店内には香ばしく深みのある珈琲の香りが漂い始めた。それを息を吸い込み嗅ぐと、これもまた覚えのある香りだった。
「お待たせしたね、ブラックコーヒーだ。砂糖とミルクはコレ、お好みでどうぞ」
ぼんやりと考え事をしていると、目の前にドリップで抽出したばかりのコーヒーが出された。
「ありがとう、ブラック……か。苦いのは飲めないから砂糖を少し……」
「ブラック微糖、だね。類は大人舌なのかな」
少し緊張した面持ちで、コーヒーに砂糖を少し入れてゆっくりと混ぜた。カップを持ち、口元まで持ってくると、唇を飲み口へ添え、1口、そして2口とコーヒーを啜り飲んだ。
「この香りとこの味……俺──」
「ん?ああ、香りと味、なかなかだろう?俺の自慢のブレンドだ」
年甲斐もなく歯をみせて嬉しそうに笑いながら、自分の分のコーヒーもカップへ注ぎ、類と同じ「ブラック微糖」にした。
「俺も、ブラックはダメなんだよ。同じくブラック微糖……これを飲む人が他にもいたなんて、驚いた」
「あはは、俺も……驚いた」
類は確信した。けれど、藍介は目の前にいるのが甥だとは全く気づいてない様子だった。類も秘密にしていようと心にしまい込んだ。
類は親代わりに自分を育ててくれた叔父の事が好きだという気持ちを抱きながらも、失恋と位置づけ、鎌倉に傷心旅行へ来た。
鎌倉に来て最初に訪れたのは、紫陽花で有名な某所。種類豊富で色とりどりの紫陽花が輝くベールを見に纏い、綺麗に咲き誇っていた。そんな紫陽花を堪能していると、ポツポツ……ポツリと雨雫が落ちてきた。生憎、傘を持参してなかったため、着ていた洋服のフードを頭に被り、屋根のある建物を探し歩いた。その時、後ろから声が聞こえ、傘を差し出してきた男が居た。
「天気予報は雨ではなかったのに、降ってきたな。フード被ったって……濡れるだろう?」
「あ、ホントに困るよ。傘もってなくてこれが最善だったんだ。……と、はじめまして」
「どうもはじめまして。俺の店がすぐ近くなんだ、雨宿りしていく?」
ふわりと微笑む優しい笑顔、声のトーンも低く渋めで、どことなく懐かしい面影に過去を写した。
あれ?……この人、どこかで……。そう、頭の中で問いながら差し出してくれた傘の下へ身を収めると、男は歩調を合わせエスコートしてくれた。
「そうだ、名乗りがまだだったね。俺は栗平藍介、すぐ近くの店で珈琲店をひっそりとやっている」
「藍介さん、って呼ぶよ。俺は宍倉類。珈琲店を1人で?」
これは偶然だろうか……?男の名前を聞いた時、頭の中で何かが弾けた。出ていった男と苗字が同じだったのだ。
年の差がありながら、男ふたりの相合傘は少々恥ずかしくもあったが、程なくして珈琲店へ行き着いた。
「適当に座っててくれ、珈琲を入れよう」
「ありがとう、藍介さん」
類はカウンター席へ腰を下ろし、珈琲をハンドドリップする藍介の姿を頬杖つきながら眺めた。店内には香ばしく深みのある珈琲の香りが漂い始めた。それを息を吸い込み嗅ぐと、これもまた覚えのある香りだった。
「お待たせしたね、ブラックコーヒーだ。砂糖とミルクはコレ、お好みでどうぞ」
ぼんやりと考え事をしていると、目の前にドリップで抽出したばかりのコーヒーが出された。
「ありがとう、ブラック……か。苦いのは飲めないから砂糖を少し……」
「ブラック微糖、だね。類は大人舌なのかな」
少し緊張した面持ちで、コーヒーに砂糖を少し入れてゆっくりと混ぜた。カップを持ち、口元まで持ってくると、唇を飲み口へ添え、1口、そして2口とコーヒーを啜り飲んだ。
「この香りとこの味……俺──」
「ん?ああ、香りと味、なかなかだろう?俺の自慢のブレンドだ」
年甲斐もなく歯をみせて嬉しそうに笑いながら、自分の分のコーヒーもカップへ注ぎ、類と同じ「ブラック微糖」にした。
「俺も、ブラックはダメなんだよ。同じくブラック微糖……これを飲む人が他にもいたなんて、驚いた」
「あはは、俺も……驚いた」
類は確信した。けれど、藍介は目の前にいるのが甥だとは全く気づいてない様子だった。類も秘密にしていようと心にしまい込んだ。
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