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変怪

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四人の旅は続き、野盗などとの実戦を重ねていくにつれて攻撃のタイミングや連携も上手くなりつつあった。

目的地は「こうもりの森」と言われる巨大な洞窟。ガストラが唯一知っている出入り口の大扉に一歩足を踏み入れると暗く、不気味な場所だ。しかし、ここは洞窟の地形を生かした集落だった。

そんな場所でサリサとガストラはきょろきょろしながら歩いていた。その後ろからカメリアが顔をしかめ、ツキカゲは眉間にシワを寄せていた。

「ここってこんな感じなのか?ガストラと言ってた様子と違うぞ」

「俺が人間だった頃はわざと明かりをつけてなかったが、活気はあったんだ……頭領が変わったのか?」

活気がなく、薄暗い雰囲気を漂わせている。道端にはゴミが落ちていて悪臭を放っているところもあった。

「臭いがひどいな」

鼻を抑えながら呟くガストラ。

「これは耐え難い匂いですわ」

後ろを歩くカメリアとツキカゲの二人は鼻を抑えるだけでなく口で呼吸をしていた。

「あの、この辺りで宿を取りたいのですがどこかありませんか?」

カメリアが近くを通りかかった男性に声をかけた。

「悪いね、この街じゃ宿屋なんてやってないよ。あんた達、さっさと帰ったほうがいいよ」

男性はそれだけ言うとそそくさと行ってしまった。

「どういうことだ?」

首を傾げるサリサの隣ではガストラが難しい顔をしながら考え込んでいた。

「俺たちみたいな余所者を歓迎しなくなったみたいだ」

そう言い切るとガストラは歩き出す。

「こういうときはどうしましょうか。」

聖樹を植える二本目の場所はこの町を抜けた先なのだが、洞窟を抜ける道は町の住人か一部の商人や旅人しか知らない。
カメリアとサリサの意見は町を抜けた場所だと一致しているのだが肝心の洞窟を抜けてそこへ行く道筋だけはわからなかった。

「まずは情報収集をすべきかと思います」

「なら酒場に行こう。歓迎されていなくともどんな奴でも1杯奢れば話しくらいはしてくれる」

カメリアの問いかけにツキカゲが答え、さらにガストラの提案に全員が賛成した。

******

酒場は大通りに面した建物にあり、店内に入ると客は少なく静かだった。カウンターの奥にいるバーテンダーらしき男に4人は近づいた。

「いらっしゃいま……」

4人の姿を見ると男は言葉を止めて怪しげな目つきで見つめてきた。

「酒を飲みに来たわけじゃない。少し話を聞きたくて来たんだが」

「あんたら自殺志願者かい?」

怪物のガストラの姿に驚く様子もなくバーテンダーは問いかけた。

「冒険者だ。四人で旅をしてる」

「わざわざ危険に首をツッコミに来たら誰でも自殺志願者だ。まあ、いいさ。何をききたいんだい?」

「ここから一番近い出口を教えて欲しい。あと今晩の宿を探してる」

「それを知ってどうする?」

「一晩宿に泊まって休んでから外に出るのさ」

「…………じゃあ、ココから東に進んだところに宿の看板がある。一晩泊まったら洞窟を入ってきたとこから出ていけばいい。簡単だろ?」

「ああ、だがおれ達は別の出口を探してるんだ。ここに向かいたいんだ」

ガストラが地図を見せるとバーテンダーは肩をすくめた。

「しばらくは無理だ。最近、産卵時期で魔物達が活発になっててな。完全に通行止めだ。近いうちに新しい道ができるらしいから今は諦めてくれ」

「いつ頃からなんだ?」

「3日前くらいかな。突然、大挙して押し寄せてきてよ。あんたらが探している出口付近から中の方に向かって卵を産み落としていきやがる。それからずっとだ。ゴミを撒き散らさなきゃ魔物が来るし、観光客が来てもこんな悪臭がするところなんかにいれないから帰っちまう。おかげで商売あがったりだしで大変だよ」

「どうしてゴミを撒き散らすんだよ?」

「そりゃゴミまみれのところじゃ産まないからだよ。お前さん達だって同じだろ?産まれてくる子供のために清潔な場所を選ぶ。ジメジメの洞窟の中が清潔だと思う魔物もどうかと思うがよ」

サリサが聞くとまたもや彼は肩をすくめながら答えた。

「その魔物ってなんですか?」

カメリアが質問するとバーテンダーは一瞬だけ驚いたような表情を見せたがすぐに元に戻った。

「……この辺でよく見かける奴でな。名前までは知らん。とにかくデカくて気持ちの悪い奴らだ。あいつらの体液を浴びたら病気になるし、最悪死ぬ。だから近寄らずに帰ったほうが良い。きれいなお顔が溶けちまうぞ」

「……ありがとうございます」

「それと、お嬢ちゃんたち。洞窟の奥は行かない方がいい。明日になったら早く出ていきな」

「……わかったよ」

「ご忠告感謝します」

「お気遣いに感謝いたします」

ガストラが情報料代わりのチップを払い、三人は頭を下げて礼を言うとカウンターを離れた。

******

「どう思う?」

酒場を出るとガストラはサリサに聞いてみた。

「あのおっさんが言ってることが正しいのかもしれないけど、あたしいは違う気がする。感だけどよ」

「私も同じ意見ですわ。ゴミを撒いただけで魔物が近寄らなくなるという話し、聞いたことがありませんもの」

それにカメリアが同意した。

「嘘と決めつけるのはどうかとおもいます。わたしの国になかったものがこの国にはあります。魔物の一部にゴミを嫌う者がいても不自然ではないかとおもいます」

「ん、そう言われるとそう思えてくるな」

サリサは簡単にツキカゲの意見に納得を示した。
カメリアの言葉に全員の足が止まった。

「でも魔物が卵を産んでるのに洞窟内が静かですね。私ならすぐに魔物退治を強い人に頼みますけどまだ到着していないんでしょうか?」

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