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ヒーラーの手

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翌日、朝にギルドへ行き指名の仕事は用事で受けられなくなることを伝え、報酬を受け取った。
四人は武器屋に行ってツキカゲ以外は新しい武器を買った。防具屋に行った時、カメリアはずっと気になっていた商品を手に取った。

「真っ黒い被り物だな。カメリアならこっちのピンクとかオレンジの方が似合うぞ」

隣で物色していたサリサがカメリアが手にした黒色のヘルメットを見て色違いを勧めた。

「これが良いんです。黒は残り一個ですし、きっとこれは運命ですわ」

「……」

カメリアが笑顔で言うものだからサリサはそれ以上は何も言えなかった。

(なんでヘルメットくらいであんな恋する乙女みたいに嬉しそうな顔をするんだ?カメリアってヘルメットマニアなんだろうなあ)

サリサは首をひねりながらも自分の防具は何にしようかと商品を一つずつ見ていった。ガストラは鉄でできた重鎧やモンスターの鱗や皮で出来た鎧を見て回っていた。

「これは珍しい。火鼠のマントだ」

価格は時価と書かれている火鼠のマント。これは火山地帯にすむ火鼠というモンスターの皮でできており、耐火性が高く魔法の火にも強い。火鼠は普通のネズミより一回り大きいくらいなのでマントサイズにするには沢山狩る必要がある。素早いためすぐに逃げられるので希少性が高いのだ。

「いつか着れるような人間になりたいな。今は、おれのレベルだとこれくらいがちょうどいいくらいだな」

ガストラは少し残念な気持ちになりながら火鼠のマントから離れ、予算内で買えるマントのコーナーを物色し始めた。

その後、全員の防具を買い替え、万屋で必要なものとシャベルを買った。そのまま木を植えるポイントになっている平原に向かった。そこは広大な平地で、この平原のどこかにある聖樹を植える場所をカメリアとサリサは感じ取らなければいけない。

「うーん、平原に来たけどまだ何にも感じねーな」

「そうですね。このまま真っ直ぐ平原を突き抜けると他の街にたどり着きますわ」

「せめて方角は感じられないのか?」

ガストラに聞かれ、巫女である二人は同時に同じ方角を指さした。

「あっちだな」
「あっちです」

「それではその方向に行ってみましょう。目的地に近づけばお二人には強く感じることでしょう」

「ツキカゲの言う通りだわ。まずは行ってみましょう」

こうしてカメリア達は歩きだし、途中で感じる方向を確認しあった。
日が暮れ始めてきた頃、二人同時に強く聖樹を求める箇所を見つけた。直感だが『聖樹をここに植えなくてはいけない』と二人の頭に思い浮かんだ。二人は目を合わせて頷いた。それからカメリアはツキカゲを見た。

「ツキカゲ。ここだわ。もう間違いありません。早くこの土を掘って植えてしましましょう」

「だが日が落ちると危ない。夜中に魔物がきて穴に落ちても大変だ。今から火を焚いて準備をしておいたほうがいい」

四人は適当な場所でキャンプを張り、夜を越すための焚き火を熾して野営の準備をした。そしてカメリアはアイテムボックスから大きな鍋を取り出した。
これは万屋で買ったものだ。

「カメリア、鍋で湯を沸かしてスープを作ってくれ。味付けできたらあたいが切った野菜を入れっからさ」

貰った野菜を切っているサリサに声をかけられカメリアの手が止まった。

「カメリア、どうした?」

街では食堂を利用し、野営料理は今までハイビビスがしていた。カメリアはその様子を眺めているだけで料理をするのは今回が初めてだった。

「どうしましょう。お料理は初めてですわ」

「大丈夫だって。水から干し肉をいれて塩を足したらスープになるから。それにあたいが刻んだ野菜をいれて柔らかく煮たら完成だ」

「そうですか。分かりました。やってみます」

カメリアが初めての調理している間、ガストラは火を囲み、ツキカゲは見張りをしていた。

「おれも料理できるようになりたかったな」

ポツリと呟くとツキカゲが振り向いた。

「森にいる間、一人であれば料理をされたのでは……?」

「おれはずっと草や木の実を食べてた。森を離れて調味料を買いにいけないからな」

「配慮の足りぬ発言をしてしまいました。申し訳ございません」

「謝ることじゃない。それよりツキカゲは変わってるな。カメリアもサリサも変わってるけど。男なのにいつもカメリアの決定に従ってる」

「カメリア様は私の主人です。男も女も秀でた者は尊重されるべきです。我が父はこの夢の地で家の再興をするため名を上げるつもりでしたが志半ばで命を落とし、私はその意志を継ぎました。カメリア様が地位を得た暁には家の再興に力を貸してくださると約束をしてくださり、私はあの方の武器となって戦うことを誓いました」

そう言った時のツキカゲの目は強い決意を感じさせた。ガストラは感心すると共に自分とは真逆の価値観を持つ彼を少し羨ましく思った。

「そっか。ツキカゲは立派だな」

「どああっ!カメリア、なんで鍋が焦げるんだよ」

サリサの悲鳴が聞こえカメリアの方を見ると鍋から煙が上がっていた。慌ててカメリアに近寄ると彼女は焦げ臭い鍋を持って涙目になっていた。

「ど、どうしてお鍋って焦げるのでしょう?」

中を見ると乾燥が早くなるよう細切りにされた干し肉が焦げて鍋底にへばりついている。

「カメリア様、鍋に水はいれましたか?」

「ええ、もちろんよ。でもお水がすぐなくなっちゃったわ」

「……」

三人とも絶句する。鍋に入れた水が少ないすぐに蒸発し、水を足さないため鍋にいれた干し肉が焼け焦げてしまったのだ。

「カメリア。スープをつくるときは鍋にいっぱい水をいれないと今みたいに焦げちまうんだぞ。あたいがちょっと見た方が良かったなあ……」

そう指摘されてカメリアは自分の失敗に気がつき顔が真っ赤になった。

「仕方ない。パンだけでも大丈夫だ。野菜は生でも食べれる」

森生活が長いガストラが笑った。

「すみません。私のせいで……」

「カメリア、気にすんな。気さくにあたいらと話してくれるけど貴族だもんな。料理する必要ないもんな、あたいも料理を初めたときは鍋や鉄板を焦がすからばあちゃんによく怒られたぞ。これはもう片付けて飯にしよう」

ツキカゲは静かに頷くだけで責めることもなく、三人に許されてもカメリアの心は晴れなかった。

(私は平民になって自分の力でヘルム様と生きていくと決めたのに、聖樹の巫女ということを理由にして国を越えることもできず、結局はこうしてみんなに迷惑をかけてばかり)

カメリアは自分の目元をハンカチでそっと拭いた。
その日の夜は保存の効く硬いパンとサリサがスープ用に切った野菜に塩をかけて食べた。

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