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ヒーラーの手

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***中年女性の家***

夫婦の家は農家らしく質素だが掃除が行き届いて清潔感があった。

「ここで降ろしてくれたらいいわ」

玄関の中で中年女性をおろした後も体をまるめて天井に頭をぶつけないようガストラは気をつけていた。

「大丈夫か?」

「ありがとうね。もうすっかり元気だよ」

「あの、腰を痛めておられるおじ様はどちらに?」

「……イテテ、声がすると思ったらどうしたんだ?」

別室に続くドアが開いて中年男性が顔をだした。彼は手に腰を当てて背中を丸めていた。

「ああ、父ちゃん、あんたから来てくれてこの人達の手間が省けたよ。この人達、父ちゃんの腰を治せるかもしれない人達だよ」

中年男性はカメリアとガストラを交互に見た。一人は少女でもう一人は一つ目巨人。医者には到底見えないコンビに彼は目を丸くした。

「おいおい、何を言ってんだ?おまえ」

「大丈夫だよ!あたしもこの人のヒールで助けてもらったんだよ。父ちゃんもやってもらいな!ほら、腰だして」

「よく分かんないが腰見せりゃあいいのか?」

中年男性は三人に背中を見せて服をまくりあげた。痛みが強いようで腰だけでなく背中にも湿布が貼ってある。

(わぁ、筋肉隆々ですわ)

自分の隣にいるガストラも筋肉隆々だが、中年男性もそれに負けず劣らずだった。

「では、やってみますね。ヒール」

(回復が早くなるよう新陳代謝もしておきましょう)

カメリアはこっそり新陳代謝もオマケでかけておいた。
半信半疑で回復魔法を受けていた中年男性だが体を包む光が消えるとゆっくりと腰を伸ばした。

「んん!?痛くないぞ!なんだこれっ!なんか膝も調子が良い気がするぞ」

彼は腰を回したり屈伸運動をしたりした。

「ああっ!腰痛が消えた!!」

「よかったですね」

カメリアは微笑みながら言った。

「ほら!父ちゃん、言った通りだろ!」

「いや、ありがとうございます。なんとお礼を言えばいいか……」

「困った時はお互い様ですよ」

ガストラがそう言うと、カメリアも「その通りです」とうなづいた。

「ところで、お二人のお名前は……?」

中年男性に聞かれて二人はまだ自分達が名乗っていないことを思い出した。

「あぁ、おれはガストラ」

「私はカメリアと申します」

「ガストラさんとカメリアさん。ありがてえことに腰の痛みは治ったのですが、俺たち、税金を払ったばっかで金がなくて……母ちゃんに頼まれて来てくださったんでしょうが、支払いは次の収穫が終わるまで待っていただけますか」

「いえ、私達が言い出したことなのでお金はとるなどできません。あ、でも草抜きの報酬だけはギルドから正式に斡旋されたお仕事なのでお支払いくださいね」

中年男性は法外な値段を要求されるのではと思っていたのに彼女達は草抜きの報酬だけで良いと言う。

「そんなのでいいんですか?」

「ええ、だって私達、ギルドで受けたお仕事は畑の草抜きだけですし、お医者さんではないですから」

「しかし、うちの母ちゃんが無理言って呼んだんじゃ……」

「本当にこの人達はあんたを助けに来てくださったんだよ。私がヘビに噛まれたのもすぐに治してくれたんだよ」

「なっ、おっ、それを早く言え!俺たち夫婦揃って助けてもらって呑気にありがてえって言ってちゃ失礼だろ!てえへんだ!家の金をかき集めてでも礼を渡さねーと」

「あ、あの、今度お食事をごちそうしていただければそれでいいので」

毒蛇に噛まれたかもしれないのに中年女性が税金を支払って病院代を渋っていたため生活に困っているかもしれないとカメリアは思った。変な男に絡まれたときに助けてくれたヘビ型モンスター使いのように格好良く去れれば良いのだが、これが精一杯の受け答えだった。

「そうそう。俺たち、もう二人仲間がいる。4人分の食事代が一回浮く。それで十分お礼になる。あぁ、二人を待たせてるの思い出したさあ、そろそろ二人のところに帰ろう」

これ以上、長居すると本当に中年男性がお金をかき集めそうなのでガストラが帰りを促した。

「そうですね。私達はこれで今日は失礼させていただきますね」

「うちの母ちゃんの飯で良ければいつでも食べにきてください!」

「ごちそうを作るから予定が開いてる日を教えてちょうだいね!」

カメリアとガストラは笑って手を振り、家の外に出て見送ってくれた中年夫婦の元を去った。
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