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飛び立つ時

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ツキカゲが刀を構え、サリサがカメリアを引っ張って後を追う。

「ちょっと!どこに行くんだよ!」

「聖樹の巫女に聖樹の木を渡す」

「どうして、こんなことしてんだ!」

「ハザから命令されたから」

「ハザって何者なんだよ!」

「分からない」

「分からないのに従うのかよ!」

「昔からの習わし。聖樹は生まれては死に、また生まれる循環が崩壊すれば世界が滅ぶ」

「……」

一つ目の巨人が襲ってこないと分かると途端に強気になったサリサ。ガンガン質問していたが巨人の言葉に絶句する。


そんな三人を見て一つ目の巨人は少し微笑むと話を続けた。

「昔、おれは人間だった。今は違うけどな。呪われたモンスターだ」

カメリアとサリサは信じられないといった表情をする。ツキカゲは自国で人間が怪物に変わった者を目の当たりにするのは初めてだが、そういった話しを真実として幾つか聞いたことはあり知っていた。

「信じて貰えないと思うけど、おれは元々人間だった。この森に宝があると聞いて、盗もうとして森に入ったから罰がくだったんだ」

三人とも何も言えなかった。彼が元は人間であることを嘘と言うのは簡単だが、嘘をついているようにも思えなかった。

「人間に戻りたい、ただそれだけを願って生きてきた。ハザに言われて聖樹の木を育ててきたが、人間の生活に戻って幸せになりたい」

一つ目の巨人が歩みを止め、振り向いた。その目は寂しげな目をしていた。

「そ、そういえばハザさんはどちらにおられるのですか?私達、あの方に言われてここに来ましたからご挨拶だけでもして行きたいですわ」

慰めの言葉をかけようにも経験も浅く狭い三人は何もいえない。困ったカメリアが話しを変えようとハザについてたずねると巨人は頭をかいた。

「おれに木を預けてどこかへ行ってしまった。おれは木を巫女に渡すのが仕事。でもそれと呪いは別だ。この姿で人のいる所に行けない。森で一人で生きるだけ」

一つ目の巨人はまた歩き出す。そして大きな木の前で止まった。その根本には五個の鉢に植えられた五本の植木が並んでいた。

「これが新しい聖樹だ」

聖樹の木が5本。春のような柔らかな緑色の葉が繁る小さな木が一つの鉢に一本ずつ植えられていた。

「へー、皆が聖樹は茶色の葉っぱって言ってたけどカメリアの髪の色みたいな緑だな」

サリサがヒョイと鉢を両手で持ち上げると「聖樹の鉢植えを入手しました」と頭に声が響いて鉢ごと木が消えてしまった。

「うわっ!?うわあ!大事な木がっ!」

サリサが慌てて周囲を探すが見つからない。

「待って。サリサ、『アイテム』だわ。『ステータス表のアイテム』を見て」

カメリアは頭の中でステータス表を開きアイテムに『聖樹の若木』があることを確認していた。

「これ、もしかしてサリサと共有なのかしら。『聖樹の鉢植え』を出して」

カメリアがそう言うと彼女の足元にサリサが消えたと思った聖樹の植木が出てきた。萎れたり枯れたりしていない。

「うわあ、すっげー!あたいらめちゃくちゃ便利な力があるな!木以外もできるなら手紙も荷物もあたいとカメリアの間は送り放題だ!」

現れた植木を見てサリサは不思議な事も疑うことなく受け入れて配達の手間が省けると喜んだ。

「本当に便利ですわ!あっ、では食べ物はどうなるのかしら?マッサージの仕事を再開したら美味しいものをいただくことが増えるのでサリサさんに送れますわ!」

「えっ、あたいにもご馳走様してくれるのか?カメリアは太っ腹だな~」

「えっ、私、お腹が太いですか?嫌だわ!ヘルム様にガッカリされちゃいます。お会いするまでにダイエットをまた頑張りますわ」

自分のお腹を気にして腕で隠すカメリアと「意味が違うって」と笑うサリサ。楽しそうな話だが目的から逸れている。

「カメリア様、まずは木の方を全て納めください」

「あっ、そうね。お母様達と合流して早く聖樹の木を植えてヘルム様に会いに行かなきゃ!」

「あたいも早くばあちゃんのとこ帰らなきゃな。さっさと植えて帰るとしようぜ」

ツキカゲに言われて二人は目的を思い出して木の回収の続きをした。
二人が植木を回収しているのを見つめて巨人がぽつんと呟いた。
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