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「聖樹の巫女は二人で一つだからさ。いろいろと教えてやりたいが、時間がない。この空間も直に崩れる。いいかい。よくお聞き。この国の聖樹は最後の一本を保護する名目で王都が管理しているが無理やり力を引き出し乱用するせいで力を使い果たそうとしている。だから各地に新しい聖樹を植えて新しい封印をしなくちゃならない。そこでお前さん達にやってもらいたいことがあるんだよ。この国の中央、王都よりずっと北に妖精の森という場所がある。森では次の世代交代のため聖樹の若木が育てられているからそれを5箇所に植えるんだ。地図に植えるポイントをつけてあるからソコへ行けば巫女のお前さん達はすぐに植える場所が分かるよ」
ハザは二人に一枚の世界地図を渡した。それをサリサが受け取った。二人で一緒に見てみると古い紙だが少し力をいれたくらいでは破れないような硬さがあった。
「ばあちゃん、なんで聖樹が5本もいるんだよ。王都に一本あったらいいんじゃないのか?」
「バカモン!本来聖樹は5本あることで封印の結界が完全なものになるんだよ!聖樹を大切にしない人間達のおこす戦争で燃え消えたり魔獣の襲撃で聖樹が傷ついて枯れちまったんだよ!このままじゃ最後の一本も時間の問題だ。世界を守るために早く新しい5本の苗木を見つけ出して五芒星の形に埋めるんだよ」
「あの、どうして毎日聖樹に祈るんですか?」
「オオバカモン!聖樹には弱いが意思があって、その意思を巫女が正しい方向に硬めてやる必要があるからだよ!聖樹が聖樹の自覚を持たなければただの魔力を貯めた木になるくらい知っておきな!」
その時、ぐらりと地面が揺れた。
「地震!?」
「カメリア!」
サリサが咄嗟にカメリアに多い被さる。
「もうお前さん達を戻す時間だ。いいかい!必ず妖精の森で五本の聖樹の若木を見つけるんだ。世界の未来はお前さん達にかかっているよ」
老婆が両手を合わせて呪文を唱えると床の魔法陣が光り出す。まばゆい光で目を閉じると次に目を開けた時にはそこは自分達の病室だった。
カメリアはサリサに覆いかぶされたまま自分のベッドの上に座っていた。サリサがカメリアの身体を離して隣に座った。
「今のは夢だったのかしら?」
「うーん。夢じゃないみたいだ。あの地図があたいの手にある」
サリサの手には老婆ハザからもらった地図が握られていた。二人はそろって地図を覗き込む。
「なんで赤い光が点滅してるんだ?どういう仕組だ?」
「分からないわ。でもこれがハザおばあ様の魔法の力なのかも。きっと赤い光の場所が妖精の森よ」
二人は顔を見合わせた。目的を達成するためにはいち早く病院から抜け出さなくてはならないと二人は考えた。時間を確認すると夕飯の時間で看護師達は自分で食事が出来ない患者の世話や食堂の準備で忙しい時間だ。
「よし、行こうぜ。脱走ルートの下見だ。入っちゃ行けない場所も今ならちょっとくらいなら確認できるといいんだけどな」
「えぇ」
二人は音を立てないように慎重に部屋を出て行った。
そして廊下を走り出した瞬間、ガシャンッと大きな音がした。
二人が音の鳴る方を見るとそこには白衣を着た髪のない若い男性が立っていた。手には食器の乗ったトレーを持っている。
「カメリア様?」
「へ?」
聞き覚えのある声。よくよく彼の顔を見てみると髪を全て剃り落としたツキカゲだった。
「どうして!?どういうこと!?」
「院内ではお静かに。カメリア様」
流暢に言葉を喋っているがツキカゲである。
「だって髪がっ!」
混乱して変な髪型が髪一本無い状態になっているのを指摘してしまう。
「医者は髪を剃り落とすものです」
ツキカゲがハッキリと堂々と言った。あんなに髷の髪型にこだわっていたツキカゲが髪を剃り落としたのだ。なぜだか分からないがカメリアは喪失感を感じてフニャフニャと床に座り込んでしまった。
「夜を担当する医者として来ています。仕事に慣れるため昼も来ているだけです。どうか問題を起こさないでください」
そう言うとツキカゲは二人に背を向けて歩いて行ってしまった。
「し、知り合いなのか?」
カメリアの動揺を見て不安になるサリサ。脱走の話しを彼に聞かれているかもしれないと思うと心配になる。
「ええ、私の護衛をしてくれた方です」
(ツキカゲは助けに来てくれたのですか?でも医者の姿で、すぐにどこかへ行ってしまいましたし。侍とは護衛もする医者なのでしょうか?)
「サリサ、ごめんなさい。一緒に確認に行けないわ。私、まずは彼と話してみようと思います」
「そっか。じゃああたいだけでも」
「そこの二人、なにをしているの?早く食堂に行ってちょうだい。厨房のスタッフがいないから片付けは私達の仕事なのよ。早く食べて食器を下げてよ」
二人を見つけた新人の看護師がイライラしながら注意する。二人ともが後ろめたさで息を詰まらせるが彼女は「早くしなさい」とせっつくだけだった。
二人は「はいっ」と返事をして食堂に向かい、丸いパン二個と大きさが不揃いの野菜スープの夕食を摂るしかなかった。
カメリアは自室で一人ベッドに横たわり考え事をしていた。しかしそれは脱走のことではなく、ツキカゲのことだった。
彼は自分を救いに来てくれたのではないかと思っていたが、何か理由があって髪まで剃り落として別人になりすましている可能性もある。
すぐにでも話してみたかったが、看護師がいないときはないかと様子を伺って見ていると本当に医者なのか患者達の症状を聞いて後で薬を渡していた。
そして彼が忙しく働いているのが分かると話しかけるタイミングが掴めず、結局カメリアはツキカゲに話しかけることができなかった。
ハザは二人に一枚の世界地図を渡した。それをサリサが受け取った。二人で一緒に見てみると古い紙だが少し力をいれたくらいでは破れないような硬さがあった。
「ばあちゃん、なんで聖樹が5本もいるんだよ。王都に一本あったらいいんじゃないのか?」
「バカモン!本来聖樹は5本あることで封印の結界が完全なものになるんだよ!聖樹を大切にしない人間達のおこす戦争で燃え消えたり魔獣の襲撃で聖樹が傷ついて枯れちまったんだよ!このままじゃ最後の一本も時間の問題だ。世界を守るために早く新しい5本の苗木を見つけ出して五芒星の形に埋めるんだよ」
「あの、どうして毎日聖樹に祈るんですか?」
「オオバカモン!聖樹には弱いが意思があって、その意思を巫女が正しい方向に硬めてやる必要があるからだよ!聖樹が聖樹の自覚を持たなければただの魔力を貯めた木になるくらい知っておきな!」
その時、ぐらりと地面が揺れた。
「地震!?」
「カメリア!」
サリサが咄嗟にカメリアに多い被さる。
「もうお前さん達を戻す時間だ。いいかい!必ず妖精の森で五本の聖樹の若木を見つけるんだ。世界の未来はお前さん達にかかっているよ」
老婆が両手を合わせて呪文を唱えると床の魔法陣が光り出す。まばゆい光で目を閉じると次に目を開けた時にはそこは自分達の病室だった。
カメリアはサリサに覆いかぶされたまま自分のベッドの上に座っていた。サリサがカメリアの身体を離して隣に座った。
「今のは夢だったのかしら?」
「うーん。夢じゃないみたいだ。あの地図があたいの手にある」
サリサの手には老婆ハザからもらった地図が握られていた。二人はそろって地図を覗き込む。
「なんで赤い光が点滅してるんだ?どういう仕組だ?」
「分からないわ。でもこれがハザおばあ様の魔法の力なのかも。きっと赤い光の場所が妖精の森よ」
二人は顔を見合わせた。目的を達成するためにはいち早く病院から抜け出さなくてはならないと二人は考えた。時間を確認すると夕飯の時間で看護師達は自分で食事が出来ない患者の世話や食堂の準備で忙しい時間だ。
「よし、行こうぜ。脱走ルートの下見だ。入っちゃ行けない場所も今ならちょっとくらいなら確認できるといいんだけどな」
「えぇ」
二人は音を立てないように慎重に部屋を出て行った。
そして廊下を走り出した瞬間、ガシャンッと大きな音がした。
二人が音の鳴る方を見るとそこには白衣を着た髪のない若い男性が立っていた。手には食器の乗ったトレーを持っている。
「カメリア様?」
「へ?」
聞き覚えのある声。よくよく彼の顔を見てみると髪を全て剃り落としたツキカゲだった。
「どうして!?どういうこと!?」
「院内ではお静かに。カメリア様」
流暢に言葉を喋っているがツキカゲである。
「だって髪がっ!」
混乱して変な髪型が髪一本無い状態になっているのを指摘してしまう。
「医者は髪を剃り落とすものです」
ツキカゲがハッキリと堂々と言った。あんなに髷の髪型にこだわっていたツキカゲが髪を剃り落としたのだ。なぜだか分からないがカメリアは喪失感を感じてフニャフニャと床に座り込んでしまった。
「夜を担当する医者として来ています。仕事に慣れるため昼も来ているだけです。どうか問題を起こさないでください」
そう言うとツキカゲは二人に背を向けて歩いて行ってしまった。
「し、知り合いなのか?」
カメリアの動揺を見て不安になるサリサ。脱走の話しを彼に聞かれているかもしれないと思うと心配になる。
「ええ、私の護衛をしてくれた方です」
(ツキカゲは助けに来てくれたのですか?でも医者の姿で、すぐにどこかへ行ってしまいましたし。侍とは護衛もする医者なのでしょうか?)
「サリサ、ごめんなさい。一緒に確認に行けないわ。私、まずは彼と話してみようと思います」
「そっか。じゃああたいだけでも」
「そこの二人、なにをしているの?早く食堂に行ってちょうだい。厨房のスタッフがいないから片付けは私達の仕事なのよ。早く食べて食器を下げてよ」
二人を見つけた新人の看護師がイライラしながら注意する。二人ともが後ろめたさで息を詰まらせるが彼女は「早くしなさい」とせっつくだけだった。
二人は「はいっ」と返事をして食堂に向かい、丸いパン二個と大きさが不揃いの野菜スープの夕食を摂るしかなかった。
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彼は自分を救いに来てくれたのではないかと思っていたが、何か理由があって髪まで剃り落として別人になりすましている可能性もある。
すぐにでも話してみたかったが、看護師がいないときはないかと様子を伺って見ていると本当に医者なのか患者達の症状を聞いて後で薬を渡していた。
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