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扉をあけて

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夜中、こっそりとベッドから抜け出たカメリア。その気配でサリサもベッドから出てきた。

「やっぱりな。止めても行くとは思ったぜ。あたいもあれから気になってさ。どうせなら二人で行こうぜ」

「ありがとうございます。それじゃ行きましょう」
二人は静かに部屋を抜け出した。
******

深夜に病院内を歩く二人に夜番で待機場にいる看護師は気付かなかった。巡回をしているもう一人の看護師も時々聞こえる物音で室内を覗いたりしているがやる気がないようで隅々まで確認することはしなかった。

二人は見つかることなく鍵のされていない厨房のドアをあけて中に入ったが変な臭いがしてすぐに廊下に出た。

「鍵くらいしとけって言いたいけど鍵してたら入れないしな」

「刃物があるのに不用心ですね。出歩く人は睡眠薬で眠らされたり、鍵のかかる個室に入っておりますから心配ないのでしょうけど」

向き合わなければいけない現実が厨房にある。そして運良く鍵があいている。だが二人はもう一度厨房に入りたいとは思わなかった。

「ここで食事が作られているんですよね」
「飯が不味くなったよな」

ドアの窓から中を覗き込む二人。暗くて見えないが廊下の薄暗い電灯で見える範囲だけでも整頓がされているように見えない。
「ここって廃棄される食材を保管している場所なのでは?」
「あたいもそう思う。あたいが食ってた飯はどこから来たんだろ」

現実を見たくない二人はこの厨房を否定したいのだが、危険を冒して院内を一周しても厨房はここだけだった。

二人は揃ってここで作られた食事を食べたと思うと胃がねじれる思いがした。

「これは、この汚い状態が原因では……?廃棄される食材置き場のような、廃棄食材になってしまう食材置き場というか。
お母様が言っていたわ。『衛生の良くない場所は水でも危ない』って……」

「火を通したらダイジョブって続いてたよな?」

「……ここで火を通したもの、食べたいと思いません」

「それは言える」

食中毒のことなど知らない二人だが、厨房の臭いや状態から腹痛は病院の食事が原因だと感じた。

「とりあえず掃除すっか?」

「夜中ですけど……」

「あたいはやるからさ、カメリアも手伝ってくれよ」

そう言ってサリサは意を決して厨房のドアを開けた。

「ああ、気持が悪いわ」

二人は真っ先に窓を開けた。それからまずは流しの中や床に落ちていたゴミや拾い集め、ゴミ箱のゴミも全てまとめた。

それからバケツに水を汲んで雑巾を濡らすと固く絞る。
これで皆の腹痛がおさまるといいんだけどな。治ったと思ったらまた痛くなってさ。あたいは体力があるけどアンジュなんかフラフラだろ」

サリサが台所の作業台を力強くゴシゴシと拭いていく。カメリアも食器の洗いがきちんとできていないものを洗い直す。

「ええ。お薬も嫌がりますし、お腹を撫でてあげると眠ってくれますが辛そうでした」

「あたいさ、必ずココを抜け出してココのこと告発しようと思ってんだ。皆、病気じゃないのに病気って言われてるだろ」

「え?そうなのですか?」

内心ではドキリとした。カメリアは洗脳されていると診断されて病院に入れられている。病気ではないのはもちろんだが、他の人も同じようにここに閉じ込められたというならば、皆が飲まされている薬はなんだというのだろうか?

「あたいは昔っから短気で女なのに男より力も強くってさ。ちょっとうっかり物を壊したり人を吹き飛ばしたりしちまうんだよな。それで3度も仕事を辞めたんだけどよ。4回目についた仕事先でうっかり雇い主を殴り飛ばしちまって異常体質だってココに入れられたんだ」

(アンジュも義理のお母様達から暴れるからと入院させられたとおっしゃっていましたけど……)

カメリアは手を止めてサリサを見た。祖母が医者に渡していたナニか。カメリアが求めると医師に相談もせず痛み止めをくれる看護師。暴れたりする患者は鍵付きの個室行き。急に頭の中がハッキリしてカメリアのもつ病院のイメージとはかけ離れていることに気がつく。

「だからさ、きっとココの奴らは誰かの都合が悪い奴を閉じ込めているんだ。だったら、ここから逃げ出して皆にこのことを知らせれば助かるんじゃねぇかなって。なぁカメリア、あたいは間違ってるか?」

「そんなことありません。私も同じように感じています。」

カメリアは自分の意思を口に出した。そしてそれを口にした途端、家族が見舞いに来ないのも手紙すらきていないのもリンネが入院を隠しているのではないかと考え始めた。

「そうよ。サリサさんが言う通りだわ。元気そうな人がほとんどなのに数日の間、誰も退院した人がいないわ。ここは、ここは病院という名の監獄だわ。逃げなきゃ、私、大切な人が待っているんです。会いに行かなきゃ。私もサリサさんに協力します。だからどちらかが逃げ出すことができれば必ずココを告発しましょう」

「ありがとうな。あたいみたいなガサツな女の話なんて誰も話しを聞いてくれないかもしれないって思ってた。でも二人でならなんとかなる気がするぜ」

「えぇ。一緒に頑張りましょう」

二人は見つめ合い手を握り合った。その瞬間、二人の頭にピコーンっと音が鳴った。
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