31 / 66
扉をあけて
29
しおりを挟む
夜中、こっそりとベッドから抜け出たカメリア。その気配でサリサもベッドから出てきた。
「やっぱりな。止めても行くとは思ったぜ。あたいもあれから気になってさ。どうせなら二人で行こうぜ」
「ありがとうございます。それじゃ行きましょう」
二人は静かに部屋を抜け出した。
******
深夜に病院内を歩く二人に夜番で待機場にいる看護師は気付かなかった。巡回をしているもう一人の看護師も時々聞こえる物音で室内を覗いたりしているがやる気がないようで隅々まで確認することはしなかった。
二人は見つかることなく鍵のされていない厨房のドアをあけて中に入ったが変な臭いがしてすぐに廊下に出た。
「鍵くらいしとけって言いたいけど鍵してたら入れないしな」
「刃物があるのに不用心ですね。出歩く人は睡眠薬で眠らされたり、鍵のかかる個室に入っておりますから心配ないのでしょうけど」
向き合わなければいけない現実が厨房にある。そして運良く鍵があいている。だが二人はもう一度厨房に入りたいとは思わなかった。
「ここで食事が作られているんですよね」
「飯が不味くなったよな」
ドアの窓から中を覗き込む二人。暗くて見えないが廊下の薄暗い電灯で見える範囲だけでも整頓がされているように見えない。
「ここって廃棄される食材を保管している場所なのでは?」
「あたいもそう思う。あたいが食ってた飯はどこから来たんだろ」
現実を見たくない二人はこの厨房を否定したいのだが、危険を冒して院内を一周しても厨房はここだけだった。
二人は揃ってここで作られた食事を食べたと思うと胃がねじれる思いがした。
「これは、この汚い状態が原因では……?廃棄される食材置き場のような、廃棄食材になってしまう食材置き場というか。
お母様が言っていたわ。『衛生の良くない場所は水でも危ない』って……」
「火を通したらダイジョブって続いてたよな?」
「……ここで火を通したもの、食べたいと思いません」
「それは言える」
食中毒のことなど知らない二人だが、厨房の臭いや状態から腹痛は病院の食事が原因だと感じた。
「とりあえず掃除すっか?」
「夜中ですけど……」
「あたいはやるからさ、カメリアも手伝ってくれよ」
そう言ってサリサは意を決して厨房のドアを開けた。
「ああ、気持が悪いわ」
二人は真っ先に窓を開けた。それからまずは流しの中や床に落ちていたゴミや拾い集め、ゴミ箱のゴミも全てまとめた。
それからバケツに水を汲んで雑巾を濡らすと固く絞る。
これで皆の腹痛がおさまるといいんだけどな。治ったと思ったらまた痛くなってさ。あたいは体力があるけどアンジュなんかフラフラだろ」
サリサが台所の作業台を力強くゴシゴシと拭いていく。カメリアも食器の洗いがきちんとできていないものを洗い直す。
「ええ。お薬も嫌がりますし、お腹を撫でてあげると眠ってくれますが辛そうでした」
「あたいさ、必ずココを抜け出してココのこと告発しようと思ってんだ。皆、病気じゃないのに病気って言われてるだろ」
「え?そうなのですか?」
内心ではドキリとした。カメリアは洗脳されていると診断されて病院に入れられている。病気ではないのはもちろんだが、他の人も同じようにここに閉じ込められたというならば、皆が飲まされている薬はなんだというのだろうか?
「あたいは昔っから短気で女なのに男より力も強くってさ。ちょっとうっかり物を壊したり人を吹き飛ばしたりしちまうんだよな。それで3度も仕事を辞めたんだけどよ。4回目についた仕事先でうっかり雇い主を殴り飛ばしちまって異常体質だってココに入れられたんだ」
(アンジュも義理のお母様達から暴れるからと入院させられたとおっしゃっていましたけど……)
カメリアは手を止めてサリサを見た。祖母が医者に渡していたナニか。カメリアが求めると医師に相談もせず痛み止めをくれる看護師。暴れたりする患者は鍵付きの個室行き。急に頭の中がハッキリしてカメリアのもつ病院のイメージとはかけ離れていることに気がつく。
「だからさ、きっとココの奴らは誰かの都合が悪い奴を閉じ込めているんだ。だったら、ここから逃げ出して皆にこのことを知らせれば助かるんじゃねぇかなって。なぁカメリア、あたいは間違ってるか?」
「そんなことありません。私も同じように感じています。」
カメリアは自分の意思を口に出した。そしてそれを口にした途端、家族が見舞いに来ないのも手紙すらきていないのもリンネが入院を隠しているのではないかと考え始めた。
「そうよ。サリサさんが言う通りだわ。元気そうな人がほとんどなのに数日の間、誰も退院した人がいないわ。ここは、ここは病院という名の監獄だわ。逃げなきゃ、私、大切な人が待っているんです。会いに行かなきゃ。私もサリサさんに協力します。だからどちらかが逃げ出すことができれば必ずココを告発しましょう」
「ありがとうな。あたいみたいなガサツな女の話なんて誰も話しを聞いてくれないかもしれないって思ってた。でも二人でならなんとかなる気がするぜ」
「えぇ。一緒に頑張りましょう」
二人は見つめ合い手を握り合った。その瞬間、二人の頭にピコーンっと音が鳴った。
「やっぱりな。止めても行くとは思ったぜ。あたいもあれから気になってさ。どうせなら二人で行こうぜ」
「ありがとうございます。それじゃ行きましょう」
二人は静かに部屋を抜け出した。
******
深夜に病院内を歩く二人に夜番で待機場にいる看護師は気付かなかった。巡回をしているもう一人の看護師も時々聞こえる物音で室内を覗いたりしているがやる気がないようで隅々まで確認することはしなかった。
二人は見つかることなく鍵のされていない厨房のドアをあけて中に入ったが変な臭いがしてすぐに廊下に出た。
「鍵くらいしとけって言いたいけど鍵してたら入れないしな」
「刃物があるのに不用心ですね。出歩く人は睡眠薬で眠らされたり、鍵のかかる個室に入っておりますから心配ないのでしょうけど」
向き合わなければいけない現実が厨房にある。そして運良く鍵があいている。だが二人はもう一度厨房に入りたいとは思わなかった。
「ここで食事が作られているんですよね」
「飯が不味くなったよな」
ドアの窓から中を覗き込む二人。暗くて見えないが廊下の薄暗い電灯で見える範囲だけでも整頓がされているように見えない。
「ここって廃棄される食材を保管している場所なのでは?」
「あたいもそう思う。あたいが食ってた飯はどこから来たんだろ」
現実を見たくない二人はこの厨房を否定したいのだが、危険を冒して院内を一周しても厨房はここだけだった。
二人は揃ってここで作られた食事を食べたと思うと胃がねじれる思いがした。
「これは、この汚い状態が原因では……?廃棄される食材置き場のような、廃棄食材になってしまう食材置き場というか。
お母様が言っていたわ。『衛生の良くない場所は水でも危ない』って……」
「火を通したらダイジョブって続いてたよな?」
「……ここで火を通したもの、食べたいと思いません」
「それは言える」
食中毒のことなど知らない二人だが、厨房の臭いや状態から腹痛は病院の食事が原因だと感じた。
「とりあえず掃除すっか?」
「夜中ですけど……」
「あたいはやるからさ、カメリアも手伝ってくれよ」
そう言ってサリサは意を決して厨房のドアを開けた。
「ああ、気持が悪いわ」
二人は真っ先に窓を開けた。それからまずは流しの中や床に落ちていたゴミや拾い集め、ゴミ箱のゴミも全てまとめた。
それからバケツに水を汲んで雑巾を濡らすと固く絞る。
これで皆の腹痛がおさまるといいんだけどな。治ったと思ったらまた痛くなってさ。あたいは体力があるけどアンジュなんかフラフラだろ」
サリサが台所の作業台を力強くゴシゴシと拭いていく。カメリアも食器の洗いがきちんとできていないものを洗い直す。
「ええ。お薬も嫌がりますし、お腹を撫でてあげると眠ってくれますが辛そうでした」
「あたいさ、必ずココを抜け出してココのこと告発しようと思ってんだ。皆、病気じゃないのに病気って言われてるだろ」
「え?そうなのですか?」
内心ではドキリとした。カメリアは洗脳されていると診断されて病院に入れられている。病気ではないのはもちろんだが、他の人も同じようにここに閉じ込められたというならば、皆が飲まされている薬はなんだというのだろうか?
「あたいは昔っから短気で女なのに男より力も強くってさ。ちょっとうっかり物を壊したり人を吹き飛ばしたりしちまうんだよな。それで3度も仕事を辞めたんだけどよ。4回目についた仕事先でうっかり雇い主を殴り飛ばしちまって異常体質だってココに入れられたんだ」
(アンジュも義理のお母様達から暴れるからと入院させられたとおっしゃっていましたけど……)
カメリアは手を止めてサリサを見た。祖母が医者に渡していたナニか。カメリアが求めると医師に相談もせず痛み止めをくれる看護師。暴れたりする患者は鍵付きの個室行き。急に頭の中がハッキリしてカメリアのもつ病院のイメージとはかけ離れていることに気がつく。
「だからさ、きっとココの奴らは誰かの都合が悪い奴を閉じ込めているんだ。だったら、ここから逃げ出して皆にこのことを知らせれば助かるんじゃねぇかなって。なぁカメリア、あたいは間違ってるか?」
「そんなことありません。私も同じように感じています。」
カメリアは自分の意思を口に出した。そしてそれを口にした途端、家族が見舞いに来ないのも手紙すらきていないのもリンネが入院を隠しているのではないかと考え始めた。
「そうよ。サリサさんが言う通りだわ。元気そうな人がほとんどなのに数日の間、誰も退院した人がいないわ。ここは、ここは病院という名の監獄だわ。逃げなきゃ、私、大切な人が待っているんです。会いに行かなきゃ。私もサリサさんに協力します。だからどちらかが逃げ出すことができれば必ずココを告発しましょう」
「ありがとうな。あたいみたいなガサツな女の話なんて誰も話しを聞いてくれないかもしれないって思ってた。でも二人でならなんとかなる気がするぜ」
「えぇ。一緒に頑張りましょう」
二人は見つめ合い手を握り合った。その瞬間、二人の頭にピコーンっと音が鳴った。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
下げ渡された婚約者
相生紗季
ファンタジー
マグナリード王家第三王子のアルフレッドは、優秀な兄と姉のおかげで、政務に干渉することなく気ままに過ごしていた。
しかしある日、第一王子である兄が言った。
「ルイーザとの婚約を破棄する」
愛する人を見つけた兄は、政治のために決められた許嫁との婚約を破棄したいらしい。
「あのルイーザが受け入れたのか?」
「代わりの婿を用意するならという条件付きで」
「代わり?」
「お前だ、アルフレッド!」
おさがりの婚約者なんて聞いてない!
しかもルイーザは誰もが畏れる冷酷な侯爵令嬢。
アルフレッドが怯えながらもルイーザのもとへと訪ねると、彼女は氷のような瞳から――涙をこぼした。
「あいつは、僕たちのことなんかどうでもいいんだ」
「ふたりで見返そう――あいつから王位を奪うんだ」
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました
toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。
残酷シーンが多く含まれます。
誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。
両親に
「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」
と宣言した彼女は有言実行をするのだった。
一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。
4/5 21時完結予定。
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる