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扉をあけて

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リンネが自宅のある地に帰り、カメリアの面会は誰も来なくなったがホッとしていた。ただ父や姉妹が手紙の一つも送ってくれないことは悲しかったが自分から縁を切った以上、それを悲しいと思うことは間違っていると自分に言い聞かせる。
リンネが来ないとカメリアは怒鳴ったりすることもないため自然と優良入院者として扱われ、危険人物にあてがう個室から共同病室に移された。
そこは四人部屋で自分の他に二人の女性が先に入院していた。


一人は茶髪のボブカットの女性で名前はアンジュ。もう一人は金髪ショートのサリサだった。アンジュは二歳年下でサリサは3歳年上だった。
年齢差のこともあり最初はお互いに距離を置いていた。

ある日のこと。病院内で集団腹痛が発生した。カメリアは軽い腹痛ですんだがアンジュや体力が弱った者は重症化して危険な状態になりつつあった。
カメリアは痛み止めの薬をもらいに行くついでに看護師に状況を尋ねてみた。するとどうも最近になって胃腸の調子が悪くなった患者が増えているらしい。原因ははっきりしていないと言われた。
医療が発展していないため食中毒が原因だと医者は知らず、悪魔が運ぶ病気としか説明できなかった。神に祈って病を祓えと言われても全ての入院者が原因不明の状態に不安を覚えていた。

「アンジュちゃん、お薬を持ってきましたよ」

カメリアがベッドで横になるアンジュに声をかけた。サリサはトイレに行っているのか姿が見えない。

「カメリアさん、ありがとうございます……でも、飲みたくない」

苦しそうに声を絞り出すように返事をするアンジュ。無理やり飲ませることもできず、カメリアは傍らの小さなテーブルに薬を置いた。

「お姉さま、アンジュのお腹を撫でてください……。昔、お母様がしてくれたの」

「え、あ、はい……」

お腹を触ると少し痩せている。彼女は母を亡くし、新しい母親や姉妹に反抗的で獣が取り付いたように暴れると言われて入院となった。そのためか入院前からあまり食事を取っていなかったようだ。

「アンジュちゃんが早く良くなりますように」

カメリアが優しくアンジュの腹を撫でてやると気持ち良さそうな顔をする。

(アンジュちゃんが暴れるなんて信じられませんわ。きっと私のように誤解をされたのでしょうね)

やがて寝息をたてて眠るアンジュ。同じ頃、サリサが青い顔をして戻ってきた。彼女は自分のベッドで横になるとすぐに丸くなった。

「カメリア、ワリーけど痛み止めをもらってきてくれねーか?」

「あ、それならここにありますよ」

アンジュのためにもってきたが、テーブルに置いた薬を手渡してやると彼女はそれを口に入れて噛んで飲み込んだ。

「この薬、噛んで飲まなきゃなんねーから不味いんだよな。もうちっとマシな味付けにしてくれりゃいいのによ」

文句を言いながらまた布団の中に潜ってしまった。

時間の経過とともにアンジュとサリサの腹痛は治るのだが、食事をしてしばらくするとまた腹痛を訴える。

「もしかしたらこの腹痛の原因は病院の食事?」

アンジュのお腹を撫でながらカメリアはある可能性を口にした。

「どういうことだ?」

痛む腹を両腕で押さえて背中を丸くしたままサリサが聞いた。

「えっと……昔、私のお母様がおっしゃっていたの。衛生の良くない場所は水でも危ないから火を通しなさいと。火を通しても危ないから本当は綺麗な場所が一番だけどねって。」

「水?あたいらが飲んでる水は今までの水と変わってねーぞ」

そう言いながらカメリアがもらってきた痛み止めの薬を齧る。

「そうよね。だけど水が気になるわ。私、厨房を見てこようと思うの」

「カメリアは大人しくて看護師達に気に入られてっから、薬をもらいに行くぐらいのちょっとしたことは目を閉じてもらえてくれてっけどよ。あたいみたいなのはちょっとでも部屋を出たら怒られるんだぞ。カメリアが薬をもらいに行けなくなったらあたいやアンジュが困んだから怒られるようなことは止めてくれよな」

サリサは注意するように言ったがカメリアは部屋を出ることを決心していた。
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