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初めての反抗期
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自警団 拘束室
「ヘルム・グランフォード!貴様の処遇が決まったぞ!」
胸元に自警団のリーダーを示すバッジをつけた男がヘルムがいる牢の前に来て告げる。
「はい」
「お前の爵位剥奪、および国外追放だ。そして、この国への永久的入国を禁じる」
「……」
(賄賂どころか保釈金すら払って貰えなかったな。一度目の婚約破棄ですでに見捨てられていたと思ってはいたが家など……あっけないものだ。ただカメリアさんと出会えたことだけが幸せだった)
「分かりました。それでいつこの国から出立すればよろしいですか?」
「明日の早朝、国を出る馬車を用意してある。国を出るまで見張りがついているから家に帰ったら逃げようなんて思うなよ。荷物をまとめてすぐに出発するんだ」
「はい。お世話になりました」
「連れて行け」
「ふん!二度と戻ってくるんじゃねえ!行くぞ!!」
リーダーの言葉に従い、他の団員達がヘルムを立たせて連行していく
。
「最後に一つだけ聞かせてくれ」
「何だ?」
「カメリアさんは無事なのか?」
「さあな。俺達は悪人を捕まえるのが仕事だ。婆さんと帰った後のことなど把握していない。貴族の娘なら後家にあてがう縁談が結ばれるんじゃないか?」
「そうか……。教えてくれてありがとう……」
ヘルムはそのまま何も言わずに歩き出す。もう話すことなどないからだ。
しかし、団長だけはその背中に声をかけた。
「おい!お前、あの娘に惚れているのか?」
「ああ、愛している。彼女以外は誰も好きにならないと決めたんだ」
「……やけを起こしてまた事件だけは起こすなよ。次は死刑になっちまうぞ」
「分かっている。これ以上、彼女の笑顔を曇らせないようにする……」
******
******
出国の日。ヘルムは身支度を整えて荷物を持って仮の自宅の玄関にいた。国を出るまでの見張りの男は頼りなさそうな外見だった。明るい茶色の髪と丸い眼鏡。年は自分と同じくらい。自警団のバッジと流れ星のバッジを胸元につけていた。
「馬車に乗ったらもう二度と帰れませんよ。忘れ物はないですか?」
「ここに住んだばかりなので荷物はこれが全てです。行きましょう」
二人は馬車に乗り込むと御者が運転をはじめた。しばらく二人は無言だったが見張りが急に話しかけはじめる。
「とりあえず今日の予定なんですけどこのまま隣国の国境線の辺りまで行きます。そこからはまた説明しますから。」
「分かりました。ところで私は貴方の事を何と呼べばいいのでしょうか?これから国境まで行く間の関係ですので偽名でもいいのですが」
「僕はタイソン。君はヘルムだろ?年も近いし敬語なんてヤメようよ。同じ眼鏡男子だし」
「……タイソン、でいいのか?聞きたいことがあるんだが」
「うん、ナニ?僕の答えられる範囲ならいいよ」
「私が捕まったときに一緒にいたカメリアという女性についてなにか知らないか?」
「残念だけど……」
質問を耳にしたタイソンはそっと目を伏せた。
「そうか、すまない」
「あ、朝早かったからお腹空いてない?りんごくらいしかないけど食べる?」
タイソンが自分のカバンからりんごを出そうとゴソゴソと漁りはじめた。
「ありがとう。だが気を使わなくていい。今は食欲がないんだ」
「そう言うなよ。腹が減ってたら動けないぞ。それにこの林檎を一口食べたら元気になるよ」
ニコッと笑って紙に包んだりんごをヘルムに渡した。その紙にはグリューンというサインが小さく書かれてあった。グリューンはカメリアの母側の家名だ。不思議に思ったヘルムが中のりんごを取り出す要領でそっと広げて見る。紙の内側にはサインの人物によって自分に宛てた文が書かれていた。
(『私の孫のカメリアを見初めたヘルム氏へ
この手紙を読む頃、無駄にすごい行動力と伝手を使ったチャノキのリンネババアのせいで追放されて国境へ向かっていることだろう。しかし安心して欲しい。隣国のエイルル帝国に着けば私の協力者が迎える手筈になっている。カメリアのことは心配だろうが、信じて待っていて欲しい。私も孫娘を救うチャンスを伺っている。追伸:カメリアに惚れる気持ちは分かるがカメリアは君よりも強い。だから彼女を想うのであれば自分を鍛えてからにしたまえ。ちなみにだが彼女はレベル999なので君の100倍強いと思うぞ。
ギョクロン・グリューンより』)
「なっ!?」
顔をあげてタイソンを見ると彼は目を半開きにしてなんともいえない顔で笑っていた。手紙には書いていないが、これを渡してきたということは彼もグリューンの手の者ということだろうとヘルムは判断した。
「ほら、りんごを食べたら元気になっただろ?」
「ああ、タイソン。りんごのおかげで元気になったよ」
ヘルムの顔を見て満足気に微笑むタイソン。
御者は休暇を潰されてきただけの自警団の団員なので会話で気づかれないようにしたタイソンとギョクロン・グリューンの作戦にヘルムは乗っかった。
「そうだよね。僕が渡したりんごが美味しかったからだね。話は変わるけどもうすぐ国境の関所につくよ。僕は関所までしか送っていけないけど向こうで頑張ってね。言葉は同じだし、元は一つの国がエイルル帝国と僕らのサアガ王国の二つの国になったから違いはあっても住みやすいとは思うよ」
「分かった。色々とすまなかったな。」
ヘルムはりんごを皮ごと丸齧りして感謝を伝えた。
***関所***
「じゃ、ここでお別れだね。バイバ~イ!」
「タイソン、ありがとう。またどこかで会おう」
ヘルムが荷物を持って馬車を降りるとヘルムの代わりに手続きの代行を済ませたタイソンを乗せた馬車はそのまま来た道を走り去っていった。
関所を通れば二度と帰れなくなる。それでもヘルムは振り向くことなくカメリアとの再会を信じて歩き出した。
「ヘルム・グランフォード!貴様の処遇が決まったぞ!」
胸元に自警団のリーダーを示すバッジをつけた男がヘルムがいる牢の前に来て告げる。
「はい」
「お前の爵位剥奪、および国外追放だ。そして、この国への永久的入国を禁じる」
「……」
(賄賂どころか保釈金すら払って貰えなかったな。一度目の婚約破棄ですでに見捨てられていたと思ってはいたが家など……あっけないものだ。ただカメリアさんと出会えたことだけが幸せだった)
「分かりました。それでいつこの国から出立すればよろしいですか?」
「明日の早朝、国を出る馬車を用意してある。国を出るまで見張りがついているから家に帰ったら逃げようなんて思うなよ。荷物をまとめてすぐに出発するんだ」
「はい。お世話になりました」
「連れて行け」
「ふん!二度と戻ってくるんじゃねえ!行くぞ!!」
リーダーの言葉に従い、他の団員達がヘルムを立たせて連行していく
。
「最後に一つだけ聞かせてくれ」
「何だ?」
「カメリアさんは無事なのか?」
「さあな。俺達は悪人を捕まえるのが仕事だ。婆さんと帰った後のことなど把握していない。貴族の娘なら後家にあてがう縁談が結ばれるんじゃないか?」
「そうか……。教えてくれてありがとう……」
ヘルムはそのまま何も言わずに歩き出す。もう話すことなどないからだ。
しかし、団長だけはその背中に声をかけた。
「おい!お前、あの娘に惚れているのか?」
「ああ、愛している。彼女以外は誰も好きにならないと決めたんだ」
「……やけを起こしてまた事件だけは起こすなよ。次は死刑になっちまうぞ」
「分かっている。これ以上、彼女の笑顔を曇らせないようにする……」
******
******
出国の日。ヘルムは身支度を整えて荷物を持って仮の自宅の玄関にいた。国を出るまでの見張りの男は頼りなさそうな外見だった。明るい茶色の髪と丸い眼鏡。年は自分と同じくらい。自警団のバッジと流れ星のバッジを胸元につけていた。
「馬車に乗ったらもう二度と帰れませんよ。忘れ物はないですか?」
「ここに住んだばかりなので荷物はこれが全てです。行きましょう」
二人は馬車に乗り込むと御者が運転をはじめた。しばらく二人は無言だったが見張りが急に話しかけはじめる。
「とりあえず今日の予定なんですけどこのまま隣国の国境線の辺りまで行きます。そこからはまた説明しますから。」
「分かりました。ところで私は貴方の事を何と呼べばいいのでしょうか?これから国境まで行く間の関係ですので偽名でもいいのですが」
「僕はタイソン。君はヘルムだろ?年も近いし敬語なんてヤメようよ。同じ眼鏡男子だし」
「……タイソン、でいいのか?聞きたいことがあるんだが」
「うん、ナニ?僕の答えられる範囲ならいいよ」
「私が捕まったときに一緒にいたカメリアという女性についてなにか知らないか?」
「残念だけど……」
質問を耳にしたタイソンはそっと目を伏せた。
「そうか、すまない」
「あ、朝早かったからお腹空いてない?りんごくらいしかないけど食べる?」
タイソンが自分のカバンからりんごを出そうとゴソゴソと漁りはじめた。
「ありがとう。だが気を使わなくていい。今は食欲がないんだ」
「そう言うなよ。腹が減ってたら動けないぞ。それにこの林檎を一口食べたら元気になるよ」
ニコッと笑って紙に包んだりんごをヘルムに渡した。その紙にはグリューンというサインが小さく書かれてあった。グリューンはカメリアの母側の家名だ。不思議に思ったヘルムが中のりんごを取り出す要領でそっと広げて見る。紙の内側にはサインの人物によって自分に宛てた文が書かれていた。
(『私の孫のカメリアを見初めたヘルム氏へ
この手紙を読む頃、無駄にすごい行動力と伝手を使ったチャノキのリンネババアのせいで追放されて国境へ向かっていることだろう。しかし安心して欲しい。隣国のエイルル帝国に着けば私の協力者が迎える手筈になっている。カメリアのことは心配だろうが、信じて待っていて欲しい。私も孫娘を救うチャンスを伺っている。追伸:カメリアに惚れる気持ちは分かるがカメリアは君よりも強い。だから彼女を想うのであれば自分を鍛えてからにしたまえ。ちなみにだが彼女はレベル999なので君の100倍強いと思うぞ。
ギョクロン・グリューンより』)
「なっ!?」
顔をあげてタイソンを見ると彼は目を半開きにしてなんともいえない顔で笑っていた。手紙には書いていないが、これを渡してきたということは彼もグリューンの手の者ということだろうとヘルムは判断した。
「ほら、りんごを食べたら元気になっただろ?」
「ああ、タイソン。りんごのおかげで元気になったよ」
ヘルムの顔を見て満足気に微笑むタイソン。
御者は休暇を潰されてきただけの自警団の団員なので会話で気づかれないようにしたタイソンとギョクロン・グリューンの作戦にヘルムは乗っかった。
「そうだよね。僕が渡したりんごが美味しかったからだね。話は変わるけどもうすぐ国境の関所につくよ。僕は関所までしか送っていけないけど向こうで頑張ってね。言葉は同じだし、元は一つの国がエイルル帝国と僕らのサアガ王国の二つの国になったから違いはあっても住みやすいとは思うよ」
「分かった。色々とすまなかったな。」
ヘルムはりんごを皮ごと丸齧りして感謝を伝えた。
***関所***
「じゃ、ここでお別れだね。バイバ~イ!」
「タイソン、ありがとう。またどこかで会おう」
ヘルムが荷物を持って馬車を降りるとヘルムの代わりに手続きの代行を済ませたタイソンを乗せた馬車はそのまま来た道を走り去っていった。
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