26 / 66
初めての反抗期
25
しおりを挟む
「あの、ヘルム様。わたくしたちはどこに向かっておりますの?」
「私の自宅です。ここでは人目についてしまうので」
「……」
ヘルムがカメリアの手を引いて連れてきたのは彼の仕事の間の仮住まいの家。異世界の文化を取り入れた「アパート」だった。
「そんなに緊張しないで椅子に座って下さい。使用人もいない家なので散らかっていますけど……」
小さな机と椅子が二脚。ベッドが一台。散らかっていると言われても物はほとんどない。
「ごめんなさい。そういうわけでは……」
自分が家を出て平民になってしまったことに後悔はない。ただ平民になったために婚約破棄をされる怖さはのこっていた。
今は二人っきりでヘルムの家の中にいる。そしてテーブルを挟んで二人で向かい合うと余計に緊張感が高まった。
「貴女からの手紙を読みました。祖母から結婚に反対されて、平民になってでも私といてくれる気持は嬉しいのですが……」
(フィルンさんがおっしゃっていた通り、貴族の身分を捨てたとなったら婚約を破棄されるのでしょうか)
「家を捨ててまで結婚をしたい相手は本当に私でいいのですか?平民になるということは自由が得られることじゃない。家族や友人と二度と会えなくなるんですよ」
両親や姉妹の顔と長い間、友達として傍にいた人形たちが一つずつ浮かんでは消えていく。
(あの子達とももう会えないのですね。ずっと支えてくれた私の心の中の友。お別れは寂しいですが、今の私にはクラウディアさんやダリア達がいます。)
「ヘルム様……。私は貴族の娘という生き方ではなく自分で選んだ道を進みたいと思ったから家を出ました。ですから、ヘルム様との結婚も私自身が望んだ道です」
お互いの視線が絡まりあい、カメリアは立ち上がってヘルムの前に歩み寄る。
「私はヘルム様が平民になってもあなたのお傍にいたいとお伝えしました。ヘルム様は私が平民になったら結婚してくださらないのですか」
そう言ってカメリアは目を閉じた。答えを聞くのが怖くて身体が震えてくる。
「家族や友人と離れるのは辛いことです。だから迷われるのであれば貴女の幸せのために家に戻っていただくつもりでした。そして遠く離れてもいつか必ず貴女を手に入れるために何だってして生きていくつもりでした。でも一緒にいてくれる選択をしてくれた。貴女のような素晴らしい女性を手放すはずがないでしょう。……愛していますよ」
ヘルムはカメリアを抱きしめて彼女の唇を奪った。
「わたくしもあなたをお慕いしております」
二人はしばらく抱き合ったまま離れなかった。
だが幸せな時間を壊すためにドアが乱暴な音をたてて破り開かれた。
「ヘルム・グランフォード!婦女子誘拐・監禁の容疑者として逮捕する!」
踏み込んできた自警団達の後ろに見えた祖母の姿。彼女は怒りの形相で杖を振りかざしていた。
「早く犯罪者を捕まえなさい!私の孫が傷物になったらどうするんだい!?」
「お願い!やめて!私は自分の意思でここにいるのよ!誘拐なんてされてないわ!」
「私は誘拐も監禁もしていない!彼女は私の恋人だ!」
自警団に引き離されてもお互いに手を伸ばし合い、叫び続けた。
「この期に及んでしらばっくれるつもりかい。お前が娘を無理やり自分の家に連れ込んで暴行しようとしたことはわかっているんだよ!」
「違うのよ!お願い!私の話しを聞いて!やめて!ヘルム様を連れて行かないで!」
「カメリア!待っていてくれ!真実の愛で必ず私が無実だと証明される!」
引きずられるように連れて行かれるヘルム。必死に手を伸ばすカメリア。
「カメリア!犯罪者に騙されてはいけないよ!」
伸ばした手を杖で叩かれ、カメリアは痛みに涙を浮かべた。
「痛いっ……どうしてこんな酷いことをなさるの?」
「カメリアは洗脳されているんだ。早く治療をしてあげないと」
祖母の言葉を聞いたカメリアは目を見開き、呆然とした表情で祖母を見た。
「私の自宅です。ここでは人目についてしまうので」
「……」
ヘルムがカメリアの手を引いて連れてきたのは彼の仕事の間の仮住まいの家。異世界の文化を取り入れた「アパート」だった。
「そんなに緊張しないで椅子に座って下さい。使用人もいない家なので散らかっていますけど……」
小さな机と椅子が二脚。ベッドが一台。散らかっていると言われても物はほとんどない。
「ごめんなさい。そういうわけでは……」
自分が家を出て平民になってしまったことに後悔はない。ただ平民になったために婚約破棄をされる怖さはのこっていた。
今は二人っきりでヘルムの家の中にいる。そしてテーブルを挟んで二人で向かい合うと余計に緊張感が高まった。
「貴女からの手紙を読みました。祖母から結婚に反対されて、平民になってでも私といてくれる気持は嬉しいのですが……」
(フィルンさんがおっしゃっていた通り、貴族の身分を捨てたとなったら婚約を破棄されるのでしょうか)
「家を捨ててまで結婚をしたい相手は本当に私でいいのですか?平民になるということは自由が得られることじゃない。家族や友人と二度と会えなくなるんですよ」
両親や姉妹の顔と長い間、友達として傍にいた人形たちが一つずつ浮かんでは消えていく。
(あの子達とももう会えないのですね。ずっと支えてくれた私の心の中の友。お別れは寂しいですが、今の私にはクラウディアさんやダリア達がいます。)
「ヘルム様……。私は貴族の娘という生き方ではなく自分で選んだ道を進みたいと思ったから家を出ました。ですから、ヘルム様との結婚も私自身が望んだ道です」
お互いの視線が絡まりあい、カメリアは立ち上がってヘルムの前に歩み寄る。
「私はヘルム様が平民になってもあなたのお傍にいたいとお伝えしました。ヘルム様は私が平民になったら結婚してくださらないのですか」
そう言ってカメリアは目を閉じた。答えを聞くのが怖くて身体が震えてくる。
「家族や友人と離れるのは辛いことです。だから迷われるのであれば貴女の幸せのために家に戻っていただくつもりでした。そして遠く離れてもいつか必ず貴女を手に入れるために何だってして生きていくつもりでした。でも一緒にいてくれる選択をしてくれた。貴女のような素晴らしい女性を手放すはずがないでしょう。……愛していますよ」
ヘルムはカメリアを抱きしめて彼女の唇を奪った。
「わたくしもあなたをお慕いしております」
二人はしばらく抱き合ったまま離れなかった。
だが幸せな時間を壊すためにドアが乱暴な音をたてて破り開かれた。
「ヘルム・グランフォード!婦女子誘拐・監禁の容疑者として逮捕する!」
踏み込んできた自警団達の後ろに見えた祖母の姿。彼女は怒りの形相で杖を振りかざしていた。
「早く犯罪者を捕まえなさい!私の孫が傷物になったらどうするんだい!?」
「お願い!やめて!私は自分の意思でここにいるのよ!誘拐なんてされてないわ!」
「私は誘拐も監禁もしていない!彼女は私の恋人だ!」
自警団に引き離されてもお互いに手を伸ばし合い、叫び続けた。
「この期に及んでしらばっくれるつもりかい。お前が娘を無理やり自分の家に連れ込んで暴行しようとしたことはわかっているんだよ!」
「違うのよ!お願い!私の話しを聞いて!やめて!ヘルム様を連れて行かないで!」
「カメリア!待っていてくれ!真実の愛で必ず私が無実だと証明される!」
引きずられるように連れて行かれるヘルム。必死に手を伸ばすカメリア。
「カメリア!犯罪者に騙されてはいけないよ!」
伸ばした手を杖で叩かれ、カメリアは痛みに涙を浮かべた。
「痛いっ……どうしてこんな酷いことをなさるの?」
「カメリアは洗脳されているんだ。早く治療をしてあげないと」
祖母の言葉を聞いたカメリアは目を見開き、呆然とした表情で祖母を見た。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
下げ渡された婚約者
相生紗季
ファンタジー
マグナリード王家第三王子のアルフレッドは、優秀な兄と姉のおかげで、政務に干渉することなく気ままに過ごしていた。
しかしある日、第一王子である兄が言った。
「ルイーザとの婚約を破棄する」
愛する人を見つけた兄は、政治のために決められた許嫁との婚約を破棄したいらしい。
「あのルイーザが受け入れたのか?」
「代わりの婿を用意するならという条件付きで」
「代わり?」
「お前だ、アルフレッド!」
おさがりの婚約者なんて聞いてない!
しかもルイーザは誰もが畏れる冷酷な侯爵令嬢。
アルフレッドが怯えながらもルイーザのもとへと訪ねると、彼女は氷のような瞳から――涙をこぼした。
「あいつは、僕たちのことなんかどうでもいいんだ」
「ふたりで見返そう――あいつから王位を奪うんだ」
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ
曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。
婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。
美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。
そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……?
――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。
絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました
toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。
残酷シーンが多く含まれます。
誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。
両親に
「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」
と宣言した彼女は有言実行をするのだった。
一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。
4/5 21時完結予定。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる