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チャンスを掴み続ける勇気
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それから何度かデートを重ねてた二人。
始めてのデートではカメリアがひっついてきたので、年下の令嬢が無害そうな自分で恋愛ゲームをしているのだとヘルムは考えていた。
婚約破棄された男をからかって遊ぶつもりなら、からかい返してやろうと思った。もし脈があれば受け入れてくれるかもしれないとキスを迫れば元婚約者と同じようなことを言われてやっぱり遊びかと落ち込む。それを見てカメリアが一生懸命気持を伝えてきた。
だから人を振り回すのがうまいのかと思いきや予想に反してカメリアは大人しくて可愛らしい女の子だった。冷え込んだ心を温めるように、今はカメリアがいつも嬉しそうに笑って身を寄せてくるのが癒やしになっていた。
***スイーツ・カフェ『クッキーズ』***
今日は初めてのカフェデート。カメリアは目の前に置かれたケーキを見ただけで感動していた。
つやつやとしたチョコレートのコーティング。甘酸っぱいベリーのソース。断面のスポンジは見ただけでしっとりとしていて美味しいだろうとわかるほどだ。
ダイエット中に贈られてきてクラウディアのチェックに引っかかって食べられなかったあのケーキ。カットされているが紛うことなき有名店のケーキである。
「私の目の前に『スペシャルベーリーのシェフ自慢のチョコケーキ』が」
期間限定で『スペシャルべーリ』から取り寄せたケーキがこの「クッキーズ」で食べられると知りヘルムに頼んで連れてきてもらったのだ。
「すごいですわ! ホールケーキですら圧倒的存在感でしたのに、カットしたケーキがこの美しさだなんて!これはもう芸術品では?!」
カメリアが溢れそうな涎をハンカチを当てて押さえる姿も愛らしくヘルムは微笑ましく見守っている。
「いいのかしら?食べていいのかしら?」
ケーキから目が離せず、かといってもったいなくて食べれないとフォークとナイフを持ったまま動けない。
そんな彼女を見つつヘルムはナイフを手にすると自分のケーキを丁寧に切り分けていく。そして一口分をフォークに乗せるとそっとカメリアの口元に差し出した。
「はいどうぞ」
ヘルムがあまりにも自然な様子なのでカメリアの口が開いてそのままぱくりと食べた。
沈黙。
もっと「美味しい!嬉しい!」と大きく騒ぐと思っていたのに彼女は目を閉じ真剣な表情でケーキを味わっている。
(あれ?)
反応がない事に不安になるヘルム。
「お口に合いませんでしたか?」
「えっ……いえ、とても美味しゅうございますわ」
慌てて笑顔を取り繕うカメリアだがまだどこか上の空といった感じだ。
ヘルムは自分の分のケーキを切り分けると彼女に差し出す。
「はい、あーん」
また戸惑いなく口が開いてケーキが消えていった。今度も黙り込んだままだった。またケーキを食べさせてあげると今度は口を手で押さえたまま固まってしまった。
彼女の行動の意味がわからずヘルムは戸惑っていた。
(何か変なものでも入っていたのか?毒とかじゃないだろうな)
ヘルムは彼女が喜ぶと思って自分のケーキを分け与えただけなのだが、彼女の反応は今までみたことがないものだった。
「うぅ」
カメリアがとうとう涙まで流しはじめたのでヘルムは慌てる。
「ど、どうしました?不味かったですか?」
ヘルムの言葉を聞いてカメリアはふるふると首を横に振った。
「違います。違うんです。幸せすぎて胸が苦しいのです。こんな幸せな事があって良いのかしら……。ダイエット中、このケーキが食べられなかったことをどれほど後悔したか。それなのに今はヘルム様が私にご自分のケーキを食べさせてくださって……」
そこまで言って嗚咽と共に言葉が出なくなってしまったようだ。
ヘルムは困ってしまった。子犬のように喜ぶ姿が見たかっただけなのに自分が食べさせたケーキに対してここまで感激されると思わなかったからだ。しかも泣くほどとは予想外すぎる展開だ。
椅子ごと隣に移動して、とりあえず泣き止むように優しく抱きしめて背中をさすってやる。
しばらくすると落ち着いてきたようで顔を覗き込むと真っ赤になっている彼女と目があった。
「すみません。取り乱してしまいましたわ」
「いや、こちらこそ泣かせるつもりはなかったんだがすまない」
「いいえ。私が勝手に感極まって泣いてしまっただけですもの。気にしないでくださいませ」
お互いに謝りあってお互いの顔を見て笑いあった。二個目のケーキはお互いに食べさせ合いをした。ヘルムがやっと見れたカメリアの笑顔は赤いほっぺがつやつやと光って幸せそのものだった。
始めてのデートではカメリアがひっついてきたので、年下の令嬢が無害そうな自分で恋愛ゲームをしているのだとヘルムは考えていた。
婚約破棄された男をからかって遊ぶつもりなら、からかい返してやろうと思った。もし脈があれば受け入れてくれるかもしれないとキスを迫れば元婚約者と同じようなことを言われてやっぱり遊びかと落ち込む。それを見てカメリアが一生懸命気持を伝えてきた。
だから人を振り回すのがうまいのかと思いきや予想に反してカメリアは大人しくて可愛らしい女の子だった。冷え込んだ心を温めるように、今はカメリアがいつも嬉しそうに笑って身を寄せてくるのが癒やしになっていた。
***スイーツ・カフェ『クッキーズ』***
今日は初めてのカフェデート。カメリアは目の前に置かれたケーキを見ただけで感動していた。
つやつやとしたチョコレートのコーティング。甘酸っぱいベリーのソース。断面のスポンジは見ただけでしっとりとしていて美味しいだろうとわかるほどだ。
ダイエット中に贈られてきてクラウディアのチェックに引っかかって食べられなかったあのケーキ。カットされているが紛うことなき有名店のケーキである。
「私の目の前に『スペシャルベーリーのシェフ自慢のチョコケーキ』が」
期間限定で『スペシャルべーリ』から取り寄せたケーキがこの「クッキーズ」で食べられると知りヘルムに頼んで連れてきてもらったのだ。
「すごいですわ! ホールケーキですら圧倒的存在感でしたのに、カットしたケーキがこの美しさだなんて!これはもう芸術品では?!」
カメリアが溢れそうな涎をハンカチを当てて押さえる姿も愛らしくヘルムは微笑ましく見守っている。
「いいのかしら?食べていいのかしら?」
ケーキから目が離せず、かといってもったいなくて食べれないとフォークとナイフを持ったまま動けない。
そんな彼女を見つつヘルムはナイフを手にすると自分のケーキを丁寧に切り分けていく。そして一口分をフォークに乗せるとそっとカメリアの口元に差し出した。
「はいどうぞ」
ヘルムがあまりにも自然な様子なのでカメリアの口が開いてそのままぱくりと食べた。
沈黙。
もっと「美味しい!嬉しい!」と大きく騒ぐと思っていたのに彼女は目を閉じ真剣な表情でケーキを味わっている。
(あれ?)
反応がない事に不安になるヘルム。
「お口に合いませんでしたか?」
「えっ……いえ、とても美味しゅうございますわ」
慌てて笑顔を取り繕うカメリアだがまだどこか上の空といった感じだ。
ヘルムは自分の分のケーキを切り分けると彼女に差し出す。
「はい、あーん」
また戸惑いなく口が開いてケーキが消えていった。今度も黙り込んだままだった。またケーキを食べさせてあげると今度は口を手で押さえたまま固まってしまった。
彼女の行動の意味がわからずヘルムは戸惑っていた。
(何か変なものでも入っていたのか?毒とかじゃないだろうな)
ヘルムは彼女が喜ぶと思って自分のケーキを分け与えただけなのだが、彼女の反応は今までみたことがないものだった。
「うぅ」
カメリアがとうとう涙まで流しはじめたのでヘルムは慌てる。
「ど、どうしました?不味かったですか?」
ヘルムの言葉を聞いてカメリアはふるふると首を横に振った。
「違います。違うんです。幸せすぎて胸が苦しいのです。こんな幸せな事があって良いのかしら……。ダイエット中、このケーキが食べられなかったことをどれほど後悔したか。それなのに今はヘルム様が私にご自分のケーキを食べさせてくださって……」
そこまで言って嗚咽と共に言葉が出なくなってしまったようだ。
ヘルムは困ってしまった。子犬のように喜ぶ姿が見たかっただけなのに自分が食べさせたケーキに対してここまで感激されると思わなかったからだ。しかも泣くほどとは予想外すぎる展開だ。
椅子ごと隣に移動して、とりあえず泣き止むように優しく抱きしめて背中をさすってやる。
しばらくすると落ち着いてきたようで顔を覗き込むと真っ赤になっている彼女と目があった。
「すみません。取り乱してしまいましたわ」
「いや、こちらこそ泣かせるつもりはなかったんだがすまない」
「いいえ。私が勝手に感極まって泣いてしまっただけですもの。気にしないでくださいませ」
お互いに謝りあってお互いの顔を見て笑いあった。二個目のケーキはお互いに食べさせ合いをした。ヘルムがやっと見れたカメリアの笑顔は赤いほっぺがつやつやと光って幸せそのものだった。
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