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初めての反抗期
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***ヴィーナス・カウンセリングルー厶 ***
フィルンとクラウディアは自分達を頼って来たカメリアの事情を聞いて絶句していた。
「えっとさ、この国って普通は貴族同士が結婚するんだよね?いいの?その婚約者のヘルム様がカメリアが平民でも良いってO.Kしても、その家族がカメリアのおばあちゃんみたいに反対したらまずくない?」
クラウディアに指摘されて自分の短絡さに気がつくカメリア。
「確かにそうですね。その可能性を考えていませんでした。なんとかして婚約破棄を回避する方法はないかしら」
「そもそも前の婚約者から婚約破棄され、今の婚約も反対されているのに彼は悪くないと言い切れるのですか?お話を聞いている限り、ヘルムさんのお話しかカメリア様は聞かされておられませんよね。お婆様の考えも貴族社会で生き残るために必要なのは理解できます。元婚約者とその関係者を含め、それぞれの主張を直接聞いてからでないと結婚が正しいのかは判断が難しいですね」
カメリアの味方であるクラウディアやヘルムに夢中になっているカメリアに比べて冷静なフィルンが客観的な意見を口にすると、カメリアも納得せざるを得なかった。
「でも、ヘルム様が嘘を言うとは思えませんの」
「ええ。カメリア様がヘルムさんをとても想っている気持ちは分かります。でも、彼は年上の分、私達より駆け引きに慣れているはずです。それにヘルムさんの身分が子爵なら奥さんは貴族というカードは重要だと思います。それを手放してしまったのは短絡的で伯爵を継ぐ彼を支える女性に不向きと思われる可能性もありますよ」
「うーん。じゃあさ、カメリアがお祖父様のゲームに優勝して爵位をもらって結婚すれば良いんじゃないの?」
クラウディアが、前にカメリアから聞いたグリューンが開催しているゲームの優勝を目指すように言った。
「最終結果は三年後なので、それまでヘルム様が待ってくださるでしょうか……」
「それこそ直接会って聞くしかないよ。とにかく、まずはお手紙でお伝えしてみたら?」
「そうですわね。ヘルム様に会って頂きたい旨を書いたお手紙を出しましょう」
店のドアが勢いよく開く音が聞こえて三人がカウンセリングルームから顔をだした。出入り口のドアを開け放ち入ってきたのはダリアとツキカゲだった。
「カメリア様!なぜ私達に『ついて来なさい』とおっしゃらないのですか!?」
「ごめんなさい……。私が平民になったら私一人で生きていくのが精一杯ですし、ダリアはお父様に雇われて働いてくださっていましたから私のワガママに連れていくわけにはいかないのです。それにツキカゲもダリアになら任せられますし」
「そんなことを言っても私は納得できません。私はカメリア様のダイエットの見届け人ですし、ツキカゲはカメリア様の護衛です。カメリア様がお叱りになっても私とツキカゲはついて参ります」
ダリアの言葉をツキカゲも分かっているのか何度も真剣に頷いている。
「でも私、本当になにもできないのよ。クラウディアさんとフィルンさんに頼らなきゃ住む場所も探せないのに」
「いえ、カメリア様はダイエットに成功する希望と夢を実現させています。本に書かれたことは夢物語ではないとご自身の身体で証明なさっているではありませんか」
ダリアの言葉にカメリアの目が潤む。
「だけど」「私やクラウディアを含め、皆がいます。五人もいればどんなに扉が重くても開けるはずですよ」
否定の言葉を絞り出そうとするカメリアにフィルンが静かに制止をかけた。
「そうだよ!カメリアの恋、絶対成就させよう!住む場所が見つかるまで家に泊まったらいいから!」
双子の姉の言葉に真剣な表情で同意するクラウディア。
「私は両親と5人の兄弟がいますのでツキカゲは我が家に招きましょう。お世話になる皆様にあらぬ噂が立ってはなりませんので」
「……ありがとうございます。私、いつか必ずご恩はお返しします」
カメリアの決意に満ちた言葉に全員が笑顔で応えた。
***チャノキ家・リビング/カール&リンネ***
リンネは自分の息子カールを睨んで椅子に座り、孫のカメリアが出て行ったことに怒り心頭だった。
「全く、なんであんな娘に育ててしまったの!?そもそも貴方がしっかり嫁の首輪を締めなかったからあんな娘に育ったのよ!!」
カメリアの母でありカールの妻は五年前から家を出ている。表向きは病気の療養と言ってはいるものの、実際は冒険の旅に出て五年も帰ってこない。彼女から来た連絡は三年前に来た手紙だけ。今では何をしているのかも分からない。
「俺だってこんなことになるとは思ってもいなかったんだよ。子供達が普通の幸せを持てればそれで良かったんだ。それにグランフォード子爵の評価は真面目に仕事をこなす男だ。博打も女遊びもしない。婿の条件はそれで十分だろう。お会いしたときには『結婚してもこの街で暮らして行きたい』とおっしゃっていたからカメリアも荒っぽい人の多い辺境周辺に嫁がず、うちの近くで暮らすだろうと思って……」
「子爵のことはもういいわ。それよりあの愚かな孫よ。子爵様がいくら真面目だからって、平民になった元貴族の女と結婚など周囲が反対して許されるわけがないと分かるはずでしょう!?それに婚約破棄される子爵などよりももっと良い縁を私が紹介すると言ったのですよ!普通は泣いて喜び頭を下げて礼をいうものでしょう!」
「それは……」
一時的な恋の熱かもしれないがカメリアは本気を示すため家を出てしまっている。たとえ王太子から求婚されても今のカメリアは受け入れないのではないだろうか。
内気で自分の殻にこもっているカメリアはいつも大人の言うことを聞いていた。それが今日、初めて祖母から自分の想いを守るために反抗して戦った。結果は誰が見ても敗走なのだろうが、自分の娘は迷いなく家を出ていった。世間を知らない娘特有の潔さなのだろうか。いや、そうではないと父親である自分は思う。きっとカメリアの心の中で何かが変わったのだ。それなら……
「神よ、私の娘を護りたまえ」
カールが祈るように呟くと、いつ帰ってきても喜んでもらえるようにと彼が植えた、妻の好きな花であるローズマリーが風に揺れていた。
フィルンとクラウディアは自分達を頼って来たカメリアの事情を聞いて絶句していた。
「えっとさ、この国って普通は貴族同士が結婚するんだよね?いいの?その婚約者のヘルム様がカメリアが平民でも良いってO.Kしても、その家族がカメリアのおばあちゃんみたいに反対したらまずくない?」
クラウディアに指摘されて自分の短絡さに気がつくカメリア。
「確かにそうですね。その可能性を考えていませんでした。なんとかして婚約破棄を回避する方法はないかしら」
「そもそも前の婚約者から婚約破棄され、今の婚約も反対されているのに彼は悪くないと言い切れるのですか?お話を聞いている限り、ヘルムさんのお話しかカメリア様は聞かされておられませんよね。お婆様の考えも貴族社会で生き残るために必要なのは理解できます。元婚約者とその関係者を含め、それぞれの主張を直接聞いてからでないと結婚が正しいのかは判断が難しいですね」
カメリアの味方であるクラウディアやヘルムに夢中になっているカメリアに比べて冷静なフィルンが客観的な意見を口にすると、カメリアも納得せざるを得なかった。
「でも、ヘルム様が嘘を言うとは思えませんの」
「ええ。カメリア様がヘルムさんをとても想っている気持ちは分かります。でも、彼は年上の分、私達より駆け引きに慣れているはずです。それにヘルムさんの身分が子爵なら奥さんは貴族というカードは重要だと思います。それを手放してしまったのは短絡的で伯爵を継ぐ彼を支える女性に不向きと思われる可能性もありますよ」
「うーん。じゃあさ、カメリアがお祖父様のゲームに優勝して爵位をもらって結婚すれば良いんじゃないの?」
クラウディアが、前にカメリアから聞いたグリューンが開催しているゲームの優勝を目指すように言った。
「最終結果は三年後なので、それまでヘルム様が待ってくださるでしょうか……」
「それこそ直接会って聞くしかないよ。とにかく、まずはお手紙でお伝えしてみたら?」
「そうですわね。ヘルム様に会って頂きたい旨を書いたお手紙を出しましょう」
店のドアが勢いよく開く音が聞こえて三人がカウンセリングルームから顔をだした。出入り口のドアを開け放ち入ってきたのはダリアとツキカゲだった。
「カメリア様!なぜ私達に『ついて来なさい』とおっしゃらないのですか!?」
「ごめんなさい……。私が平民になったら私一人で生きていくのが精一杯ですし、ダリアはお父様に雇われて働いてくださっていましたから私のワガママに連れていくわけにはいかないのです。それにツキカゲもダリアになら任せられますし」
「そんなことを言っても私は納得できません。私はカメリア様のダイエットの見届け人ですし、ツキカゲはカメリア様の護衛です。カメリア様がお叱りになっても私とツキカゲはついて参ります」
ダリアの言葉をツキカゲも分かっているのか何度も真剣に頷いている。
「でも私、本当になにもできないのよ。クラウディアさんとフィルンさんに頼らなきゃ住む場所も探せないのに」
「いえ、カメリア様はダイエットに成功する希望と夢を実現させています。本に書かれたことは夢物語ではないとご自身の身体で証明なさっているではありませんか」
ダリアの言葉にカメリアの目が潤む。
「だけど」「私やクラウディアを含め、皆がいます。五人もいればどんなに扉が重くても開けるはずですよ」
否定の言葉を絞り出そうとするカメリアにフィルンが静かに制止をかけた。
「そうだよ!カメリアの恋、絶対成就させよう!住む場所が見つかるまで家に泊まったらいいから!」
双子の姉の言葉に真剣な表情で同意するクラウディア。
「私は両親と5人の兄弟がいますのでツキカゲは我が家に招きましょう。お世話になる皆様にあらぬ噂が立ってはなりませんので」
「……ありがとうございます。私、いつか必ずご恩はお返しします」
カメリアの決意に満ちた言葉に全員が笑顔で応えた。
***チャノキ家・リビング/カール&リンネ***
リンネは自分の息子カールを睨んで椅子に座り、孫のカメリアが出て行ったことに怒り心頭だった。
「全く、なんであんな娘に育ててしまったの!?そもそも貴方がしっかり嫁の首輪を締めなかったからあんな娘に育ったのよ!!」
カメリアの母でありカールの妻は五年前から家を出ている。表向きは病気の療養と言ってはいるものの、実際は冒険の旅に出て五年も帰ってこない。彼女から来た連絡は三年前に来た手紙だけ。今では何をしているのかも分からない。
「俺だってこんなことになるとは思ってもいなかったんだよ。子供達が普通の幸せを持てればそれで良かったんだ。それにグランフォード子爵の評価は真面目に仕事をこなす男だ。博打も女遊びもしない。婿の条件はそれで十分だろう。お会いしたときには『結婚してもこの街で暮らして行きたい』とおっしゃっていたからカメリアも荒っぽい人の多い辺境周辺に嫁がず、うちの近くで暮らすだろうと思って……」
「子爵のことはもういいわ。それよりあの愚かな孫よ。子爵様がいくら真面目だからって、平民になった元貴族の女と結婚など周囲が反対して許されるわけがないと分かるはずでしょう!?それに婚約破棄される子爵などよりももっと良い縁を私が紹介すると言ったのですよ!普通は泣いて喜び頭を下げて礼をいうものでしょう!」
「それは……」
一時的な恋の熱かもしれないがカメリアは本気を示すため家を出てしまっている。たとえ王太子から求婚されても今のカメリアは受け入れないのではないだろうか。
内気で自分の殻にこもっているカメリアはいつも大人の言うことを聞いていた。それが今日、初めて祖母から自分の想いを守るために反抗して戦った。結果は誰が見ても敗走なのだろうが、自分の娘は迷いなく家を出ていった。世間を知らない娘特有の潔さなのだろうか。いや、そうではないと父親である自分は思う。きっとカメリアの心の中で何かが変わったのだ。それなら……
「神よ、私の娘を護りたまえ」
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