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チャンスを掴み続ける勇気
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ヘルムがカメリアと会うことを重ねて分かったのは、自分に自信がなくて人付き合いを避けたカメリアの、その実年齢より未熟で素直な恋心。
婚約破棄されたばかりで、プライドは砕かれていても彼女を想う気持ちはどんどん膨らんでいった。
(地元に帰ればあの婚約破棄事件で私の評判はあまり良くない。それに家を継ぐためには妻を迎える条件なのだが、父は醜聞が広まった私ではなく弟に継がせたがっているだろうな。それなら仕事で赴任したこの地でこのまま骨を埋めようか。だが、爵位が上がらないと今回はそれが理由で婚約破棄をされるかもしれない)
「ヘルム様?どうかなさいまして?」
綺麗な景色が見える店で、いつも色々な話しをしてくれるヘルム。今日は彼が静かなので体調が悪いのかと心配してカメリアが彼の顔を覗き込む。
「……カメリアさん。私が伯爵の地位を継げなくても平民になったとしても結婚してくださる意思はあるかな?」
「それはもちろんですわ。家のことなど関係なく、ヘルム様は私の大切な方ですもの。でもどうしてそのようなことを聞くのですか?」
「私の噂は耳に入っていると思うけど、私は辺境付近の町の出身でそこで婚約者がいた身だった」
「ええ、父からヘルム様は一度目の婚約は破談になっているとお聞きしましたわ。でもヘルム様は誠実なお人柄でしたし、前の婚約破棄の理由は詳しく聞かないことにしましたの」
「ありがとう。でも情けない話だけど貴女には知っていて欲しい。聞いてくれるかな」
「はい。ヘルム様のお望みならどんなお話でも聞きますわ」
カメリアがヘルムの手に自分の手を重ねて話しを促した。
「前の婚約は両家とも伯爵同士で交流があり、年齢も通う学校も同じで悪い婚約関係じゃなかった。と、私は思っていたんだけどね。
このまま結婚するものだと思っていたのだけど私の前の婚約者には想いを寄せる人がいたんた。その想い人も彼女を想っていた。
婚約解消で家同士の関係を悪くさせたくないって思いから彼女は想いを隠していたらしいけど、彼女が想いを打ち明けてくれれば婚約解消をして身を引くくらいには私にも男のプライドはあったのだけどね。
『真実の愛のために決闘を申し込む』と言われたんだ。そして負けた方は潔く身を引く約束でね。
貴女に会うパーティーの数日前のことだよ。町の流儀に乗っ取り殴り合う決闘をしたんだが、腕っぷしが強い彼に負けて婚約は破談になったんだ」
「まぁ!ヘルム様にそんなことを!」
あの日見た姿を思い出し、あのときに見た青あざや頬の腫れは確かに痛々しく、そんな傷を受けてしまう怖い場所に引きずり出された彼を思うと胸が痛くなる。そしてつけている眼鏡が無かった理由も察してカメリアは眉を寄せた。
「街ではそういった決闘はよくあることだったから、一つの婚約が破談したってことで終わるはずだったんだけどね。あまり思い出したくないけど彼女に罵倒されたよ。喧嘩は弱いし武術も達者じゃない。田舎育ちで勉強ができるだけのお粗末な男だ。義務的にデートをされているだけで好かれている実感がない。今まで家のためだと思って我慢していたけど結婚は嫌だったって」
(あら?ヘルム様と同じ学校を出られたというのでしたら田舎育ちは元婚約者の方も……いえ、そもそも育った地域で悪く言うこと自体がよくありませんわ)
「酷い……こんなにも優しく愛してくださる方にそんな事を言うなんて」
「うん。それで男として決闘に負けたし、婚約者にも冷たい男だと広まってしまって、僕は地元で陰険な悪人子爵の扱いをされて……それでこの地に転勤する同僚がいたんだけど彼や上司に無理を言って交代してもらったんだ。同僚は行きたくなかったから喜んでいたよ。上司は最低でも数年は帰って来れないって心配したんだが、もう地元を離れたいと決めていたからちょうど良かった」
ヘルムがカメリアの手をとった。
「地元に帰らなければ爵位が継げず、仕事も中途半端な出世しかできないが、貴女さえ良ければ私と結婚して欲しい。こんなにも愛おしく想う人は初めてなんだ」
「ヘルム様はもうわたくしの大切な殿方ですよ。これからもずっと一緒にいて下さいませ」
カメリアはヘルムから特別な好意を向けられていることが嬉しくてたまらなかった。デートの回数は両手の指にも満たないのだが、隣り合うだけで幸せな気持が溢れてくる。
何があっても彼となら乗り越えられるとカメリアは信じることができた。
婚約破棄されたばかりで、プライドは砕かれていても彼女を想う気持ちはどんどん膨らんでいった。
(地元に帰ればあの婚約破棄事件で私の評判はあまり良くない。それに家を継ぐためには妻を迎える条件なのだが、父は醜聞が広まった私ではなく弟に継がせたがっているだろうな。それなら仕事で赴任したこの地でこのまま骨を埋めようか。だが、爵位が上がらないと今回はそれが理由で婚約破棄をされるかもしれない)
「ヘルム様?どうかなさいまして?」
綺麗な景色が見える店で、いつも色々な話しをしてくれるヘルム。今日は彼が静かなので体調が悪いのかと心配してカメリアが彼の顔を覗き込む。
「……カメリアさん。私が伯爵の地位を継げなくても平民になったとしても結婚してくださる意思はあるかな?」
「それはもちろんですわ。家のことなど関係なく、ヘルム様は私の大切な方ですもの。でもどうしてそのようなことを聞くのですか?」
「私の噂は耳に入っていると思うけど、私は辺境付近の町の出身でそこで婚約者がいた身だった」
「ええ、父からヘルム様は一度目の婚約は破談になっているとお聞きしましたわ。でもヘルム様は誠実なお人柄でしたし、前の婚約破棄の理由は詳しく聞かないことにしましたの」
「ありがとう。でも情けない話だけど貴女には知っていて欲しい。聞いてくれるかな」
「はい。ヘルム様のお望みならどんなお話でも聞きますわ」
カメリアがヘルムの手に自分の手を重ねて話しを促した。
「前の婚約は両家とも伯爵同士で交流があり、年齢も通う学校も同じで悪い婚約関係じゃなかった。と、私は思っていたんだけどね。
このまま結婚するものだと思っていたのだけど私の前の婚約者には想いを寄せる人がいたんた。その想い人も彼女を想っていた。
婚約解消で家同士の関係を悪くさせたくないって思いから彼女は想いを隠していたらしいけど、彼女が想いを打ち明けてくれれば婚約解消をして身を引くくらいには私にも男のプライドはあったのだけどね。
『真実の愛のために決闘を申し込む』と言われたんだ。そして負けた方は潔く身を引く約束でね。
貴女に会うパーティーの数日前のことだよ。町の流儀に乗っ取り殴り合う決闘をしたんだが、腕っぷしが強い彼に負けて婚約は破談になったんだ」
「まぁ!ヘルム様にそんなことを!」
あの日見た姿を思い出し、あのときに見た青あざや頬の腫れは確かに痛々しく、そんな傷を受けてしまう怖い場所に引きずり出された彼を思うと胸が痛くなる。そしてつけている眼鏡が無かった理由も察してカメリアは眉を寄せた。
「街ではそういった決闘はよくあることだったから、一つの婚約が破談したってことで終わるはずだったんだけどね。あまり思い出したくないけど彼女に罵倒されたよ。喧嘩は弱いし武術も達者じゃない。田舎育ちで勉強ができるだけのお粗末な男だ。義務的にデートをされているだけで好かれている実感がない。今まで家のためだと思って我慢していたけど結婚は嫌だったって」
(あら?ヘルム様と同じ学校を出られたというのでしたら田舎育ちは元婚約者の方も……いえ、そもそも育った地域で悪く言うこと自体がよくありませんわ)
「酷い……こんなにも優しく愛してくださる方にそんな事を言うなんて」
「うん。それで男として決闘に負けたし、婚約者にも冷たい男だと広まってしまって、僕は地元で陰険な悪人子爵の扱いをされて……それでこの地に転勤する同僚がいたんだけど彼や上司に無理を言って交代してもらったんだ。同僚は行きたくなかったから喜んでいたよ。上司は最低でも数年は帰って来れないって心配したんだが、もう地元を離れたいと決めていたからちょうど良かった」
ヘルムがカメリアの手をとった。
「地元に帰らなければ爵位が継げず、仕事も中途半端な出世しかできないが、貴女さえ良ければ私と結婚して欲しい。こんなにも愛おしく想う人は初めてなんだ」
「ヘルム様はもうわたくしの大切な殿方ですよ。これからもずっと一緒にいて下さいませ」
カメリアはヘルムから特別な好意を向けられていることが嬉しくてたまらなかった。デートの回数は両手の指にも満たないのだが、隣り合うだけで幸せな気持が溢れてくる。
何があっても彼となら乗り越えられるとカメリアは信じることができた。
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