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チャンスの扉を開いたら

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しかし足つぼマッサージになると状況が一変した。

「ぎゃあああ!痛い!痛い!なにこれ痛い!前より痛い!」

「このツボは肝臓です。疲れている証拠ですよ」

「痛い!あぐぅ!!いたた!!」

(なんなのよこれは!?痛すぎるわ!無理よぉ!!!)

カメリアは涙目になって悲鳴を上げる。細い指がしっかりツボを抑えるのでクラウディアのマッサージ以上に痛い。

「きゃああっ!!もうだめぇえ!!」

ドカッ ドカッ ガチャアアン!!

カーテンを閉じられた窓からガラスを叩いて割れる音がした。次いでカーテンがゆらめき盛り上がったと思えば目を釣り上げたツキカゲが音もなく現れ刀を抜いて歩み寄る。

「……なぜここに武士が」

殺気立つツキカゲに動ずる様子もなく呟いたフィルン。一方、体型に自信なしだからこそ見られたくないカメリアは金切り声をあげていた。

「待って!待って!待ちなさい!お待ちなさい!お待ち下さい、お願いします!」

そして唯一、彼に通じる言葉「ここでお待ち下さい」を伝えようと叫んでいた。

『お待ち下さい』に反応してその場でピタリと止まるツキカゲ。

「出ていって!ああ、駄目だわ!ツキカゲには言葉が通じないのよ!」

「カメリア様。落ち着いてください。彼の名前はツキカゲですね?」

「そうです!そうですけど!言葉が通じないんです!」

カメリアは涙目でフィルンに訴えるが、彼女は冷静な表情のままだった。

「ツキカゲ――、――――――」

突然、フィルンがツキカゲの名を呼んで何かを言い出す。
それに反応して彼は刀を銀の鞘に収めた。

「いったい何が……?」

その姿を見てカメリアは目を丸くした。

「カメリア様、今日の施術は中断しましょう。次回、改めて行なわせていただきます。それと着替えて頂いた後に窓ガラスの弁償のお話もしなければなりませんから」

「あ……」

フィルンの言葉にカーテンに隠れた窓に目を向けた。窓の状態は分からないが、床には割れたガラス片が散乱している。
やっぱり外に出ず大人しく家にこもっていれば良かったとカメリアは後悔した。

***ヴィーナス カウンセリングルーム****

着替えを終え、窓ガラスの弁償代について話すため四人が集まった。

「では、窓の弁償代は後日、カメリア様宛に請求書を送りますので」

「はい……あの、本当にすみませんでした」

話がまとまりカメリアは平身低頭にフィルンとクラウディアに謝る。横でツキカゲも深々と土下座をしていた。
窓ガラスに弁償代についての話し合いはカメリアが全面的に受け入れてあっさり終わる。

「仕方ないよ。ツキカゲさんはカメリアさんを助けようとしただけだし。皆に怪我がなくて良かったね」

「そうですね。忠義心の強い護衛がいて羨ましいことです」

(二人共、優しく許してくださるけどもうお店に行けない……)

誰にも迷惑をかけないことだけが取り柄だった彼女は迷惑をかけたことにショックを受けてダイエットのために通うという決意はすでに崩壊している。

「ところでツキカゲさんについてですが」

フィルンの言葉にカメリアはおもわず身構えた。

「はいっ」

「彼と少し話しをしたのですが、カメリアさんは彼とともに親族間で土地と爵位を得る争いを行っているとお聞きしました」

「あっ、えっと……お祖父様のゲーム好きが高じて実際のマネーゲームを開催されまして、積極的に上位を目指すつもりはあまりないのですけど」

フィルンが顎に細い指を添えて考え込む仕草をした。クラウディアがその隣で彼女の顔を覗き込む。

「なるほど。それで彼は」「なになに?なんて言ってたの?」

クラウディアが今日のおかずは何か聞くかのようにたずねる。

「カメリア様、彼は貴女とそのマネーゲームで優勝し土地を得た暁には、貴女がその地で彼の家を復興をさせると約束したとおっしゃっておりますがそれは本当ですか?」

「えっ!?そんなこと一言も聞いてないわ!私、一応、男爵の娘ですが、家を継ぐ方はすでにおりますし、政略結婚はできるかわかりませんけどそうなれば従うつもりです。でも土地を得ても運営する力なんて。それに誰より多くお金を稼ぐ方法も知りませんし」

慌てるカメリアを見てクラウディアがキョロキョロと二人の顔と未だに土下座を解かないツキカゲの頭を見回す。

「どういうこと?二人の考えが違うよ」

「そうですね。彼はカメリア様のお祖父様がそう言ったとおっしゃっていますから、彼が参加に積極的になるよう甘い言葉で仕向けたようですね」

「でも、一番になったとしたらカメリアさんとツキカゲさんでもらった土地を半分ずつ所有するということ?」

「武士の家の復興がこの国での貴族の復興に当たるのならそうかもしれませんね。土地の大きさなどによりますが」

「あ、ああ……えっと……」

カメリアは言葉が出ずに口をパクパクさせている。

(どうしてこんなことになったの?)

カメリアは今日一番の悩み事に包まれていた。そもそもツキカゲは刀の持ち主の自分の護衛をしているだけだとずっと信じていたし、祖父もそう言っていたのだ。

「カメリア様、お答えできなければ結構ですが。彼はご自身の家と再興のためご自身の命と引き換えにカメリア様の刀となったと言っております。そのためゲームの間、彼は貴女を守り続けるでしょう。貴女はその御覚悟をお持ちなのですか?」

(どういうことなの?そんな話を聞いていたら断っていましたわ。今からでもお祖父様のところへ行ってお断りした方がいいかしら。でも、私が断ったせいで、今度は彼を奴隷扱いする人の手に刀が渡って利用されるだけされて捨てられてしまうのも申し訳ないわ。どうしたらいいの……)

「あ、あの!その!」

「なんでしょうか?」

「わ、私は……」


沈黙が室内を包む。それでもフィルンもクラウディアも迷いなくまっすぐにカメリアを見つめる。

「……私は自分の容姿を変えてもらいたくて、このお店のドアを開いてここにいるだけなんです。だからお祖父様のゲームに参加しても終わるまで大人しくしようと思っておりました。ツキカゲの家のことは何一つ存じてなかったんです」

(何も知らずに巻き込まれてしまったのです。お二人なら私の考えを分かっていただけますよね)

「変えて欲しいのは見た目だけなんですか?違いますよね?綺麗になって自信をつけて輝きたいって思ってるはずですよ。誰かに笑われたくないからそうやって無難に振る舞って取り繕っているだけでしょう?」

「!!」

クラウディアの言葉は隠していた本音を暴く。カメリアの膝が小刻みに震えた。

(そうです。って言いたいけど私のような容姿の女は無理だときっと笑われてしまうわ)

「そう思っているのですよね!?そうならカメリア様の容姿、必ずクラウディアが変えてみせましょう!この店の『ヴィーナス』の扉は美しくなりたいと思った女性のために開かれます!そして私を信じてください。カメリア様を必ず美しく変えて見せます」

クラウディアの言葉は魔法のように彼女の心に入り込む。

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