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チャンスの扉を開いたら

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中に入っていたのは……

「これって……」

「私のは剣?」

カメリアには銀色に光る鞘に収まった一振りの細身の剣。ネシスの方は同じく銀に輝きながら細い杖が収められていた。

「おお、これは……面白いことになった。カメリアが『刀』を得たか」

祖父の言葉でまた室内がざわめいた。

「かたな、ですか?」

初めて聞く名前に首を傾げるカメリア。

「そう、『刀』だ。私が広い海で事故にあい、流れ着いた異国で偶然にも手に入れたものでね。非常に珍しい武器だよ。しかし、これを扱える者はなかなかいない。だが安心したまえ。この刀はどんなに離れた場所にいようと必ず使い主を呼び寄せる」

祖父の言葉にますます混乱してしまう。

「お祖父様、私はこの『かたな』という武器を使ったことはありません。ですので持ち主ではないと思うのですが……」

「ん~、説明が難しいのだが……。お前は刀の使い主の『主人』だ。刀を使う者の御主人様と言ってもいい。刀は使い主を呼ぶ。そして使い主が刀を振るうための理由は主人のためだ。だから主人がいなくてはこの刀の力を発揮できない。主人はカメリア。そして使い主はすでにここにいる。カメリアから使い主に刀を下賜かしするんだ。それで主従が決まる」

「あの、意味がよくわかりません」

祖父の言葉に眉をひそめるカメリア。

「つまりだ。君には一人、刀を使う腕の立つ従者が最初からいるということだよ。ただし、その従者の協力や力を引き出せるかは『主人』次第ということだと忘れないように。それと、皆にいっておこう。ゲームのルールを決めるのはこちらだ。ゲームの途中で追加ルールを伝えるが異論はないね?」

祖父の言葉にうなずくしかない一同。

「では、さっそく基本ルールの説明だ。まず、君たち全員に30万ゴールドを配る。その30万ゴールドを元手にお金を増やしてもらう。増やす方法はなんでも構わない。金貨、銀貨、銅貨どれでもだ。増やしたらそれをさらに投資してもいいし、商売でもなんでもして儲けを出せばいい。期限は3年間だ!3年後の今日、30万ゴールドから一番儲けを出したモノの勝ちだ!」

祖父の言葉を聞き、何人かが目配せをする。

(お祖父様が考えることを予め予測されて、事前に協力し合う相談をしていたんでしょうね)

「もし途中で資金が尽きても大丈夫。返せとは言わないよ。可愛い孫への3年分のお小遣いみたいなものさ。逆に儲け分はキミたちのお金だ。3年後のことも見据えて頑張りなさい」

祖父の言葉に全員がうなずく。

「ああ、もちろん、ゲーム中に命を落とすようなことがあっても責任は取らない。それでも良い者だけ私の書斎に来て30万ゴールドを受け取りに来なさい。ゲームに不参加、もしくは今後、棄権するときはこの部屋に魔道具を置いて家に帰りなさい。魔道具を無くした場合も失格だ。これはゲームの参加証だからね。私からは以上だ」

祖父はそれだけ言うと部屋から出て行った。

「どうする?」

「失敗してもお金は返さなくっていいって言っていたし…」

「でも死ぬ危険もあるみたいに言ってたから」

室内はざわめきながらもどうするか迷っている様子だった。一方、カメリアは祖父のいた席の後ろに立つ青年の視線が突き刺さりすぎて(砂になりたい)と思っていた。

そしてとうとう決断を決めたものがいた。

「マリーお姉さまはどうされます?」

「私は参加するつもりよ。ここで辞退するのは負け犬と同じだし」

「お姉さま、カッコいい!」

「え?あ、ありがとう」

「じゃあ、私はお姉さまと一緒にいますね」

マリーとアンナが参戦の声をあげたのを皮切りにほとんどのいとこ達が祖父の書斎へと競うように向かって行った。

「ネシス、あなたは行かないの?」

「お姉さまは参加なされないのですか?」

「それよりもあのお方の視線が気になってまして」

「ああ、あの方は刀の持ち主でしょうね。お姉さまは『刀の持ち主の主人』ですから何か意志表示をしてあげませんと彼もどうすればいいのか分かりませんことよ」

「そ、そうね」

カメリアは席を立って彼の前に歩みよる。小柄な青年だと思ったが横に並ぶと同じくらいか少し小さいような気がする。だが張り詰めた空気をまとう彼に怯えるカメリア。

「あの、はじめまして。私、カメリアと申します」

自己紹介をしたものの青年は切れ長の目を動かさずにカメリアの顔をジッと見ていた。

(ムリですわ。お下品ですが私は緊張で吐きそうになってますもの)

「そこの貴方、何かおっしゃっるべきだと思いますけども」

見かねたネシスも声をかけたが、視線を彼女に向けるだけで彼は何も言わない。

沈黙が室内に広がる。

「……カメリア様、彼の主人として刀を渡してみてはいかがですか」

ずっと待機していたダリアがカメリアに進言する。

「あ、そうね。お祖父様もそんなことを言っていたわ」

席に戻っても箱の刀は変わらず銀の輝きを放っていた。彼女が刀を手にすると光がくすんだ気がした。

「あ、あの、あなたにこの刀を贈ります」

テーブルをグルリとまわって青年の前に立つカメリア。緊張しながら刀を差し出すと彼は両手を伸ばして受け取った。そこで初めて片頬が少し動いた。彼の表情らしきものをみたがカメリアには彼の感情が全く分からなかった。

「……お姉様、これから先はライバルです。私、先に行っております」

二人を見守っていたネシスは自分の杖を握ってチャノキ家の自分の従者を連れて部屋を出て行った。

『刀と従者』の確認なのか残っていた数名も部屋を出て行った。

残されたカメリアとダリア。そして刀の従者。

「カメリア様、私達も参りましょう」

「ええ、そうね」

話しかけても返事がないことに困りながら祖父の待つ書斎に向かった。

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