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チャンスの扉を開いたら
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施術後のサービスで出してくれるお茶を飲みながら本格コース一回の施術代と5回セット、10回セットの料金の説明を受けて目玉が飛び出しそうになった。
「あの、私お金あんまりないんで、今回はお試しだけで。また、次に来たら考えます」
お試し価格で受けた施術の正式な値段は一回15,000ゴールド。セットになると割引されるものの決して安いとは言えない金額。
支払いを済ませて二人に見送られながら店を出た。頭の中で二人の言葉とお金がグルグルと回る。
自転車を漕いで家に着いたころには夢から冷めて(お金をかけて私が綺麗になったところで……)という暗い気持ちがのしかかって来た。
それから数日の間、学校に通いながらカメリアは姉や妹がしていた食事制限と運動をはじめていた。しかし、太りはしないもののお菓子を摘んだり、やストレスによる暴食で一向に痩せることもなかった。
***カメリアの自室***
「今日のお祖父様のお呼び出し、一体なんの話だと思う?」
メイド服姿で紫色の髪と同じ色の瞳が印象的なダリアに髪の手入れをしてもらいながら問うカメリア。
「妹のネシス様もお呼び出しを受けておられるそうですね。ネシス様が『いとこ達も来るらしいのよ』と憂鬱そうに言われておりました」
「お姉さまは呼ばれていないのかしら」
「ええ、そのようです」
淡々と返事をする侍女のダリア。チャノキ家の侍女として彼女は常に側に控えている。
「お祖父様のお遊びごとでなければいいのだけれど……」
自転車をくれた親戚もだが、母方の家系は個性的で面白いことを好む者がいる。
彼女達を呼び出したギョクロン・グリューンは嫁に嫁いだ娘もその娘が産んだカメリア達も大事にしてくれたが賭け事好きで自分でもゲームを開く賭け狂いと言われる人だった。
準備を済ませると妹のネシスと一緒に馬車に乗り、祖父の家へと向かうのだった。
祖父の自宅は小さなモノで、代わりに別棟に立てられた倉庫兼作業場は倍以上の広さをもっている。
使用人に案内されて作業場に入るとすでにいとこ達が10人と祖父がテーブルについていた。祖父の後ろに立つ見慣れない前合わせの服とスカートのようなものを着る黒髪の小柄な青年が気になって仕方ない。
(あの髪型はどんな思想を表しているのかしら?おでこから頭の上の髪が綺麗になくて横の髪を油で固めて。しかもまとめ髪)
異国のヘアスタイルとは知らぬ者達に奇異の目を向けられても微動もせず、切れ長の目はなんの感情も受かべていない。彼の立つ姿は一本の老木のように思えた。
「ようこそ!カメリア、ネシス。さあ、さっそくだが座りたまえ」
歳よりもはつらつとした声で二人の着席を促す祖父のギョクロン。彼は戦中、海難事故にあい未開の地を発見した。後々も自分の部下を連れてその航路確立に一役買い、その功績から男爵の身分を与えられた。
当時、士気をあげるために爵位や領土は王国の軍人達に与えられ、ギョクロンは戦中でなければもっと高い爵位が与えられただろうと人々は不遇な男を哀れんだ。本人はそんな評価にとらわれることなく博打と商売に励み大いに人生を楽しんでいた。
「今日、君たちを呼んだ理由は他でもない。私の多くもつ土地から幾つか分けてやろうと思ったからだ。土地を引き継ぐにふさわしい者を選ぶゲームをしようと思い立ったのだよ」
ガツンッと横から鈍い音が響く。
「そんなの許せるわけがないでしょう!?本来なら跡継ぎの私が全て継ぐべき土地だというのに!」
テーブルを叩いて立ち上がったのはカメリアの母の兄アベル。
「まあまあ、落ち着きなさい。お前が言うことはもっともだ。だが、可愛い息子のお前に私のわがままの見届人になってもらうためにここに呼んだんだ。話しを遮らないでもらおう。それでだ。ここに可愛い孫たちを集めたのは若く優秀な者にこそ未来を託すべきだからだ」
(それじゃあまるでアベルオジサマが優秀じゃないみたいに聞こえるわ)
実態を知らぬカメリアは憤りを感じたが、何人かは祖父と同じように思っているのか嘲笑のような息が漏れる音が聞こえた。
「カメリア、ネシス。まずはお前たちはこの箱の中から一つ選んでくれ。他のみんなは先に選んだが、嘆いてはいけない。時間とは行動早きモノに幸運を与えることもある」
そう言って祖父は木箱を二つ取り出してカメリアとネシスの前に置く。どちらも同じ大きさ。色もほぼ同じ。
「中身はなんだかわかるかい?分かったらすごいけどね!これはね、箱も魔道具の一種なのだが、開けるまでわからない仕組みになっているんだよ」
「でも、おじいさまが用意したものですもの。きっと中もすごい物なんでしょう?」
カメリアの言葉に満足げにうなずく祖父。
「そうだとも!これから行うゲームでこの魔道具は重要だ!勝った者には私の土地と爵位もあげよう!なぜ長女や長男がいないのか分かっただろ?私は可愛い孫たちにチャンスをあげたいんだ!」
途端にざわめく室内。言われてみると姉のアッサミカや他のいとこの長女や長男がいない。
「さあ、カメリア、ネシス。どちらからでもいいよ。箱を選んでごらん?」
姉妹は互いに顔を見合わせる。
「お姉さま、先にどうぞ」
「いえ、ネシスからでいいわよ」
「じゃあ、せーので指を指して同じならジャンケンをしましょう」
「そうね。そうしましょう」
「じゃあ「せーのっ」」
二人は同時に指を指した。カメリアは右端の箱、ネシスは左端の箱だった。
「あら、お姉さまと違う方でした」
「そうね。ジャンケンは弱いから別々で良かったわ」
そう言い合って二人はお互いに笑顔を向けた。
「さあ、開けてごらん?ワクワクするね!」
祖父に促されて二人は自分の箱を両手で持つ箱の大きさが変わり、音もなく開いた。
「あの、私お金あんまりないんで、今回はお試しだけで。また、次に来たら考えます」
お試し価格で受けた施術の正式な値段は一回15,000ゴールド。セットになると割引されるものの決して安いとは言えない金額。
支払いを済ませて二人に見送られながら店を出た。頭の中で二人の言葉とお金がグルグルと回る。
自転車を漕いで家に着いたころには夢から冷めて(お金をかけて私が綺麗になったところで……)という暗い気持ちがのしかかって来た。
それから数日の間、学校に通いながらカメリアは姉や妹がしていた食事制限と運動をはじめていた。しかし、太りはしないもののお菓子を摘んだり、やストレスによる暴食で一向に痩せることもなかった。
***カメリアの自室***
「今日のお祖父様のお呼び出し、一体なんの話だと思う?」
メイド服姿で紫色の髪と同じ色の瞳が印象的なダリアに髪の手入れをしてもらいながら問うカメリア。
「妹のネシス様もお呼び出しを受けておられるそうですね。ネシス様が『いとこ達も来るらしいのよ』と憂鬱そうに言われておりました」
「お姉さまは呼ばれていないのかしら」
「ええ、そのようです」
淡々と返事をする侍女のダリア。チャノキ家の侍女として彼女は常に側に控えている。
「お祖父様のお遊びごとでなければいいのだけれど……」
自転車をくれた親戚もだが、母方の家系は個性的で面白いことを好む者がいる。
彼女達を呼び出したギョクロン・グリューンは嫁に嫁いだ娘もその娘が産んだカメリア達も大事にしてくれたが賭け事好きで自分でもゲームを開く賭け狂いと言われる人だった。
準備を済ませると妹のネシスと一緒に馬車に乗り、祖父の家へと向かうのだった。
祖父の自宅は小さなモノで、代わりに別棟に立てられた倉庫兼作業場は倍以上の広さをもっている。
使用人に案内されて作業場に入るとすでにいとこ達が10人と祖父がテーブルについていた。祖父の後ろに立つ見慣れない前合わせの服とスカートのようなものを着る黒髪の小柄な青年が気になって仕方ない。
(あの髪型はどんな思想を表しているのかしら?おでこから頭の上の髪が綺麗になくて横の髪を油で固めて。しかもまとめ髪)
異国のヘアスタイルとは知らぬ者達に奇異の目を向けられても微動もせず、切れ長の目はなんの感情も受かべていない。彼の立つ姿は一本の老木のように思えた。
「ようこそ!カメリア、ネシス。さあ、さっそくだが座りたまえ」
歳よりもはつらつとした声で二人の着席を促す祖父のギョクロン。彼は戦中、海難事故にあい未開の地を発見した。後々も自分の部下を連れてその航路確立に一役買い、その功績から男爵の身分を与えられた。
当時、士気をあげるために爵位や領土は王国の軍人達に与えられ、ギョクロンは戦中でなければもっと高い爵位が与えられただろうと人々は不遇な男を哀れんだ。本人はそんな評価にとらわれることなく博打と商売に励み大いに人生を楽しんでいた。
「今日、君たちを呼んだ理由は他でもない。私の多くもつ土地から幾つか分けてやろうと思ったからだ。土地を引き継ぐにふさわしい者を選ぶゲームをしようと思い立ったのだよ」
ガツンッと横から鈍い音が響く。
「そんなの許せるわけがないでしょう!?本来なら跡継ぎの私が全て継ぐべき土地だというのに!」
テーブルを叩いて立ち上がったのはカメリアの母の兄アベル。
「まあまあ、落ち着きなさい。お前が言うことはもっともだ。だが、可愛い息子のお前に私のわがままの見届人になってもらうためにここに呼んだんだ。話しを遮らないでもらおう。それでだ。ここに可愛い孫たちを集めたのは若く優秀な者にこそ未来を託すべきだからだ」
(それじゃあまるでアベルオジサマが優秀じゃないみたいに聞こえるわ)
実態を知らぬカメリアは憤りを感じたが、何人かは祖父と同じように思っているのか嘲笑のような息が漏れる音が聞こえた。
「カメリア、ネシス。まずはお前たちはこの箱の中から一つ選んでくれ。他のみんなは先に選んだが、嘆いてはいけない。時間とは行動早きモノに幸運を与えることもある」
そう言って祖父は木箱を二つ取り出してカメリアとネシスの前に置く。どちらも同じ大きさ。色もほぼ同じ。
「中身はなんだかわかるかい?分かったらすごいけどね!これはね、箱も魔道具の一種なのだが、開けるまでわからない仕組みになっているんだよ」
「でも、おじいさまが用意したものですもの。きっと中もすごい物なんでしょう?」
カメリアの言葉に満足げにうなずく祖父。
「そうだとも!これから行うゲームでこの魔道具は重要だ!勝った者には私の土地と爵位もあげよう!なぜ長女や長男がいないのか分かっただろ?私は可愛い孫たちにチャンスをあげたいんだ!」
途端にざわめく室内。言われてみると姉のアッサミカや他のいとこの長女や長男がいない。
「さあ、カメリア、ネシス。どちらからでもいいよ。箱を選んでごらん?」
姉妹は互いに顔を見合わせる。
「お姉さま、先にどうぞ」
「いえ、ネシスからでいいわよ」
「じゃあ、せーので指を指して同じならジャンケンをしましょう」
「そうね。そうしましょう」
「じゃあ「せーのっ」」
二人は同時に指を指した。カメリアは右端の箱、ネシスは左端の箱だった。
「あら、お姉さまと違う方でした」
「そうね。ジャンケンは弱いから別々で良かったわ」
そう言い合って二人はお互いに笑顔を向けた。
「さあ、開けてごらん?ワクワクするね!」
祖父に促されて二人は自分の箱を両手で持つ箱の大きさが変わり、音もなく開いた。
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